第13話 自主訓練

 俺達3人は他愛無たあいない話をしながらキールの街へと戻って来た。


 「それじゃあ俺とミーニャはここで失礼しようと思う」

 街の入り口の門をくぐった所でカインが俺に話してきた。


 「もう、お別れですか」

 「ああ、タツヤも一人前になったし俺らも町の防衛の仕事がまだあるからな」

 「そうですか…」

 俺は少し残念に思っていた。

 カインは一人前と言ってくれたが俺はまだまだだと自負しているからだ。

 そして俺は左腕を見てカインから借りていた魔力吸収の魔石を取り外した。

 

 「これ、お返しします」

 「ああ、確かに受け取った」

 しばしの沈黙が流れたがそんな時にミーニャが話をしてきた。


 「私達は西の大陸『ラーザニア』の中央に位置する街ポイドンで主に活動しているわ。もし何かトラブルがあった時は遠慮せずに訪ねてね」

 俺はカインの場所をどう聞こうか考えている時にミーニャからの言葉は嬉しかった。


 「ありがとうございます。ミーニャさん。トラブル時は訪問しますね」

 「ええ、そうしてね」

 「おいおい、タツヤ。後ろ盾があるからって変な所に首を突っ込むなよ」

 カインが俺に突っ込んできた。

 ムッとした俺はカインに嫌味を言ってやった。


 「俺はカインさんと違って冷静なのでそんな問題は起きませんよ」

 カインはしてやられたような引きつった顔をしていたが、俺が笑顔を見せる事でその場は収まった。


 「それじゃあ元気で」

 俺は二人と硬い握手をしカインとミーニャと別れた。


 カイン達と別れた後俺はまず自分の身なりを確認していた。

 服はボロボロで体からは嫌な臭いが漂っていた。

 このまま宿屋や行っては迷惑を掛けると思い、俺は体を洗う場所を探す事にした。

 だが当然だが当てがある訳ではないので思い切って門近くにいる兵士に聞く事にした。


 *


 結果から言えば簡単に教えて貰えた。

 西の街(貧民街ひんみんがい)の方にその店はあった。

 仕組みは簡単で頭の上に大きめな木箱が置いてあり、その中に水が入れてあり下からヒモを引くと穴から水が出て来るのだ。難しく言ったが水のシャワーだ。金額は銅貨3枚で1回分だ。俺は汚れが酷かったので2回分を頼み体と防具をゴシゴシと洗った。ある程度人前に出れると俺は判断し宿屋へと足を運んだ。当然宿屋はお馴染みの『ライラの宿屋』だ。


 その日俺は久しぶりに人間らしい食事をし安全な空間でぐっすりと寝た。


 翌日俺は朝食を食べながら今後の事を考えていた。まず街でやらなくてはいけない事は肉屋へ行きアイテムボックス内の肉が腐っているか確認する事と、魔石屋へ行き魔石の価値と作り方を聞き出す事だ。

 魔石については急ぎではないので店を見つけたらでいいと思った。


 朝食後俺は宿屋の女将に肉屋の場所を教えて貰い向かう事にした。

 肉屋は商業ギルドの近くにあった。

 商業ギルドとは食料や薬などを取り扱っているギルドだ。俺は最初商業ギルドに売り込もうと思ったが、せっかく女将に教えて貰ったので迷わず肉屋の店に入った。


 店に入った瞬間にむわっとする血の匂いが俺の鼻をくすぐるが、俺は迷いなく店のカウンターへと足を運んだ。


 「すいません、肉の買い取りをお願いしたいんですけど」

 俺はカウンターにいるかなり体格のいい女性に声を掛けた。


 「物はたくさんあるのかい?」

 「いいえ、ハンティングベア一頭だけです」

 「それじゃあ、横にある台の上に置いてくれるかい?」

 俺は案内された大人が4人ほど寝転べる台の上に、ハンティングベアをアイテムボックスから取り出した。

 俺は少しドキドキしていた。肉が腐っていないかの不安があったからだ。

 カウンターの女性が肉の査定をする為に、奥から割腹かっぷくのいい男性を呼んで来た。

 査定には少し時間が掛かるとの事で俺は椅子に座って待つことにした。


 *


 時間が掛かると言う事だったがそれほど待たされる事なく俺はカウンターへと呼ばれた。

 結果から言えばハンティングベアの状態は非常にいいとの事だった。俺は安堵した。俺の理想通りアイテムボックス内の時間は流れないという裏付けになったからだ。ただ、一日でハンティングベアの肉が腐るのかは不明なので、この件は引き続きいろんな所で検証する事にした。

 そしてハンティングベアの売却代金金貨15枚(15万ジール)を受け取り店を後にした。


 *


 タツヤが去った後の肉屋では女性店員と査定を行った男性店員が話合っていた。

 

 「あんた、あんな安い査定額を出して問題ならないのかい?」

 女性店員はこの肉屋を営む男性店員の女房である。

 そんな彼女が旦那の査定での一幕を心配していた。


 「だってよぉ~いきなり何もない所からハンティングベアが出て来たんだぞ?少し変だと思ったんだよ。それにあの客文句も言わずに代金を受け取ってたし大丈夫じゃねぇか?」

 「それでもさ、ハンティングベア丸まる1体で15万ジールなんて暴利りもほどがあるんじゃないかい?商業ギルドに捨てねで売っても30万ジールいやもっと取れるかもしれないよ」

 旦那は女房に言われ少しやり過ぎたかとソワソワしだした。だが既にやってしまったんだから後戻りは出来ない。

 そんな旦那の様子を見て女房が案を出してきた。


 「なああんた、今度あの客が売りに来たらこの店の会員になるって話を付けて金額を上げたらどうだい?」

 「会員?そんなの内にないだろ?」

 「そんなの今から作ればいいじゃないか。木の板にギルド会員書と同じように名前だけ入れればいいだけだよ」

 「おめぇ~頭いいなぁ~それなら、前回は会員じゃなかったって事で済ませられるな」

 「そうだよ。それに他の客にもそうやってやれば少しは売り上げが上がるんじゃないかい?」

 「よし、それで決まりだ。今から会員書作ってくれ。おれはハンティングベアを解体しちまうからよ」

 「あいよ。今夜は二人で乾杯しようね、あんた」

 「ああ、とびっきりの酒で楽しもうな」

 その夜は肉屋の夫婦の熱い夜となるのであった。


 *


 俺は冒険者ギルドへと歩きながら昨日から考えていた事をまとめる事にした。

 現状、魔物の強さにもよるが3頭程度までなら問題なく戦闘が出来ると思っている。但し、1対1に持ち込む必要性はある。これは俺が複数を攻撃できる魔法が発動出来ないからだ。ミーニャさんからはかなり頑張って訓練しないと、広範囲魔法の発動…いや、強い攻撃は難しいとの事だった。俺が居た地球には魔法なんてないから言葉で言われたって中々出来るものではないと言う事だ。よって魔法は練習してからの実戦にする事にした。


 次に対魔物への戦い方だ。

 カイン達の戦い方を見て学んだが必ずカイン達が先手を取っているのが分かった。

 これはミーニャの索敵が優れていてそれにカインが合わせるといった形だ。まあ、要するに喧嘩は先手必勝ってわけだ。攻撃される前に倒せってのが基本らしい。そこで俺は索敵の『サーチ』を鍛える事にした。敵をいち早く発見しそして倒す。そうすれば命のやり取りをしなくて済むっていうのが答えだ。ただし、森で魔物相手にやるには少しリスクがあるような気がした。俺はそこで考えた。魔物にも『サーチ』が効くならほかの動物にも『サーチ』が効くんじゃないかと。

 俺は早速実践してみることにした。


 俺は建物の陰に入り黒魔法の『サーチ』を掛ける。そして悪意ある人をイメージして赤色を連想する。

 反応はなし。

 俺は魔法をミスしたのではないかと考えたが周りの風景を見て場所を変える事にした。

 俺のサーチ範囲は現在頑張って100メートルくらいしか届かないので、俺は貧民街へと足を運び再度魔法を実行した。

 結果は成功だ。これを練習すれば範囲と正確さが鍛えれると思った。鍛える事で俺はある事を思い出した。

 確かギルドの掲示板にペットの捜索の依頼が出してあるのを思い出した。人間ではなく動物の『サーチ』が出来ればサーチの訓練と動物を捕まえると言う身体強化の訓練が同時に出来るのではないかと。

 俺は動物へのサーチの練習へと入った。


 そしてかなりの試行錯誤はあったがなんとか動物のサーチには成功した。そして俺は本番を行う為にギルドへと足を運んだ。


 冒険者ギルド『ライド・ドール』の掲示板の前までやってきた。

 俺の希望する依頼、ペット捜索の依頼は15枚程張ってあった。正直こんなに出ているのかと驚いた。俺はその中で比較的楽そうな依頼書1枚を取り受付へと向かった。

 受付には宿屋の女将さんの姉の子供のリンカさんがいたので俺は依頼書を出した。


 「あのこれ受けたいんですけど」

 リンカは依頼書を受け取り俺の顔を見て呟いた。


 「本当に受けて頂けるのですか?」

 俺は予想外の言葉が帰ってきたので頷いて返事をした。


 「うれしいです。こんな依頼誰も受けてくれなくて困っていたんです。保証金はないけど報酬は銅貨30枚とご飯食べたら吹き飛んじゃう位の安い金額で、ペットを探すだけでどれだけこの街を歩かなければならないか考えただけで鳥肌が立つ依頼なんですから」

 おいおいリンカさん、それ言っちゃダメなやつだろ。俺は少し引き気味に愛想あいそ笑いをし答えた。


 「まだ冒険者になりたてなのでこの辺から始めようとしただけですよ」

 「それでも、ありがとうございます。成功をお祈りしています」

 そして俺はリンカさんに依頼書を受理してもらいギルドの外へ出た。

 

 *


 その日から俺のペット探しの冒険者人生がスタートした。俺は最初目標を決めた。こうゆう事は何事も目標が大事だと思ったからだ。目標は掲示板から依頼書が無くなるまでとした。受けて掲示板に残りが無くなるまでだ。

 

 俺は死に物狂いで街を掛けずり回った。壁を蹴り屋根にのぼったり、ペットを捕まえる為に木に登ったりと激しく身体を酷使した。当然だがペットを探すにあたっては魔法の『サーチ』を最大限に利用した。

 この依頼のおかげと言うべきなのか『サーチ』の索敵範囲は300メートルまで使えるようになり、身体強化での俊敏性しゅんびんせいが驚くべき向上を見せた。

 そしてペット探しの依頼を初めて20日目とうとう依頼がゼロになり俺はペット探しからの引退を宣言した。

 ギルドのリンカさんに最初に講習を行ってくれた副ギルド長のウルドさんからは感謝の言葉をたくさん頂いた。ただ、俺の貰った報酬はすずめの涙ほどしかなかった事は誰もが知る事実であった。

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