第12話 ドワーフ族のアラン

 俺は帰る準備の前に倒したハンティングベアをギルドの依頼書に沿って解体する事にした。

 こいつは討伐依頼なので目と耳が討伐採取の対象となる。但し、個数が書いていなかったが俺は両方の目と耳をはぎ取りカインへと渡した。残りの部位はどうするかカインに聞いた所『好きなようにしろと』言われたので、俺は初めての空間収納への収納をチャッレンジする事にした。


 とりあえず金になりそうな魔石だけは先に取り出した。ハンティングベアの魔石はほんのり水色に光っていてクマの見た目と違い美しかった。

 そして俺はクマの胴体にそっと手をあて『収納』と念じる。その瞬間にハンティングベアの胴体はその場から消え俺の脳内にアイテムボックスのリストに表示された。


 成功だ。

 何となくこうやれば”良い”と言う感覚が俺の中に流れて来たのでそのまま実行した結果だ。

 だがこのアイテムボックス内では魔物の肉の腐敗は進むのだろうか?確か街に肉を専門とする店もあったのでそこで確認する事にし俺達は野営地へと戻り撤収を始めた。


 「よし、じゃあ街へ向けて軽く走るか」

 カインの言葉により俺達3人は7日間過ごした場所を後にし、行きと同様に足早に駆けだした。


 行きとは違い体は疲れているが走るのがそれほど苦痛には感じられなかったので、俺はカインに質問をした。


 「カインさん、先ほど言っていた大森林だいしんりんって名前が本当の森の名前なんですか?」

 カインは走りながら俺の方へと顔を向け答えてくれた。


 「ああ、大森林だいしんりんってのはこのグラン大陸の東西に渡り続いている森の事を言うんだ。そしてこの大森林だいしんりんに接している国を西からグラン王国、そしてタツヤが居たグラン王国内のキールの街、シンバーン国、ライラ国、あと細々とした国がこの森と面していて又同様に魔物の脅威とも面しているんだ」


 なるほど国をまたぐ程の森なんだ。それと俺が居たのはグラン王国内だったのか。

 まだまだ知りたい事が山のようにあるがあまりカインに聞きまくるのはどうかと思い、俺は質問するのを辞めたがカインが自ら話し出した。


 「ミーニャ、この大森林だいしんりんは久しぶりだったよな。あの頃が懐かしい」

 「そうね、前来たのはもう20…いや、30年位前かな、フフフ」

 ミーニャが話ながら思い出し笑いをしていた。


 「そう言えばあいつ…なって名前だったけ?」

 「アランよ」

 「そうそう、泣き虫アラン。あいつ鍛えるのに俺達死にそうになったからな」

 「そうね、あの頃を思えば今回は楽だったわね」

 二人の会話で人の名前が出て来たので聞く事にしたが、30年前って…カインとミーニャはいったい何歳なんだ?そんな疑問を覚えたが下手な地雷は踏まないことにした。


 「それで、そのアランって人はどんな人なんですか?」

 「アランはタツヤと同じ異なる世界から来たドワーフ族の男だよ」

 「俺と同じ異世界人だったんですか?」

 「ああ、だから今回と同様にアライアス神様から鍛えるように依頼されたんだ。だけどなそのアランってやつは、全然!才能のかけらが無くてな30日の予定の内直ぐに10日が消えたんだ。それで俺達はこのままではヤバイって思って必殺の作戦を立てたのよ、なずけて日にち倍増計画ってなっ」


 「カイン!」

 その瞬間にミーニャが声を荒げて叫んだ。

 カインはハッと思ったのか両手で口を押えた。

 そして俺は瞬時に聞き返した。


 「それでその『日にち倍増計画』ってのを詳しく・・・教えてくれませんか?カインさん」

 俺がカインに聞くと横でミーニャがため息をついていた。

 そして話しやすくする為なのか3人の走るスピードは段々と落ち最後は本当の歩き状態になった。

   

 「日にち倍増計画ってのはその名の通りに夜を昼としてとらえて活動時間を倍にすることだ」

 カインが俺に答えた事で俺は何となく察してしまった。

 俺のこの疲れ具合、服の汚れ具合などなど。


 「俺にもその計画は実行されたんですね」

 俺は冷めた目でカインを見る。


 「すっすまんタツヤ!どうしても神からの依頼を成功させなければいけなかったんだ。じゃないと神から報酬が…」

 カインがまたもや話ながら自分の手で自分の口を押えた。

 

 俺はやっぱりと思った。しかしこのカインは本当に口が軽い間抜けな人じゃないかと俺の中で評価が急落したが、横からミーニャが謝罪をしてきた。


 「ゴメンねタツヤ。決して悪気はないのよ。あなたを鍛えないとこの地域で苦しむ人が減らないからそれで…」

 ミーニャは最後は言葉を濁すように呟いた。


 「いいえ、お二人とも謝らなくていいですよ。確かにキツクて苦しかったですけど、おかげで力と知識を得る事が出来ました。逆にお礼を言わせてください。付き合ってくれてありがとうございました」

 俺は右手をカイン、左てをミーニャに差し出した。

 カインとミーニャは俺の手グッと握り握手をしてくれた。

 

 それからカインとミーニャから以前鍛えたアランと言う男の訓練…いや、笑い話を聞きながら俺達は街へと足を進めた。


◇◇◇


 場所は変わりタツヤのいる大陸より遥か南に位置する小さな島、サウスパーク。

 その首都であるサウスパーク国の軍のトップに君臨するのがドワーフ族の男アラン。

 身長は150センチ程度しかなく体形は丸みを帯びているが、その体は筋肉で覆われいて頑丈さを物語っている。

 そして顔はと言うと髭や口髭に覆われていて眼光は鋭くとても近寄りがたい人物として恐れられている。

 しかし本心は異なりアランはかなりの臆病者で何とか戦いから逃げる方法を常に模索しているが、それを表に出すわけにはいかないのでいつも俺は不機嫌だ近寄るなオーラを発している。


 アランはいつもの通りに軍部の自室で今後の魔物討伐計画を立てている所に一人の兵士が入出してきた。


 「失礼しますアラン様。至急ご報告したい事があります」

 この時アランは嫌な予感が体の中を走るのを感じたが当然表に出さずに椅子にり帰り返答をする。


 「うむ、話せ」

 「はっ以前より捜索していた『トカゲ』が発見されました」 

 うっ嫌な予感が的中してしまった。

 だいたいあいつは何処から湧いて出て来るんだ?この前討伐したのは確か2か月程前だったような気がするが。それにしてもなんでこの地に住む魔物はあんなにデカいんだ?トカゲなんて呼ばれているがどう見ても20メートルはあるだろう。まあとりあえず情報を聞こう。


 「で、属性とかの情報はあるのか?」

 「はい、目撃情報によりますと水溜まりが確認されているので水属性ではないかと推測されます」

 火トカゲの次は水トカゲか。

 俺は心の中でため息をつきながら兵士に返答を伝える。


 「わかった。直ぐに出陣の準備をしろ。作戦は前回同様に兵士でトカゲを追い立て俺がつ」

 「はっ!直ちに準備に取り掛かります」

 兵士は敬礼し部屋を後にした。


 アランは兵士が出て行った後机に置いてあったコップを手に取る。だが、その手は震えていてコップの中に入っていた水が机に飛び散る。大丈夫だアランお前は強いきっと大丈夫だ。自問自答を繰り返すアランだった。


 *


 トカゲ討伐最前線基地。

 基地と言っても布のテントが張ってあり机と椅子が置いてある簡素なものだ。

 そしてそのテントの最奥の椅子にどっかりと座るのがアランである。

 アランは目と閉じ腕を組み静かにその時を待つ。

 心を静め落ち着こうとしているが体はそれとは正反対に落ち着こうとはしない。

 足は震えまるで貧乏ゆすりのようにカタカタと音を鳴らす。

 すると周りの兵士達がヒソヒソ話を始める。


 「おっ始まったみたいだな」

 「軍団長の事か?」

 「ああ」

 「もしかして軍団長怖くて震えているのか?」

 「違う違う。以前兵士が軍団長に聞いたんだ。どうして足を鳴らすのかと」

 「それで、軍団長はどう答えたんだ?」

 「早くトカゲを討伐したくて武者震むしゃぶるいが止まらないらしいぞ」

 「やっぱりあそこまでの強者になるとそうなるのかな」

 兵士のヒソヒソ噂話は続く。


 怖い、怖い、怖いよぉ~。

 考えれば考える程トカゲの顔など見たくない。

 でも、この討伐が終われば久しぶりに自宅に帰れる。そうすれば猫のラッコと羊のラブリーとモフモフ生活が又送れる。ふふふふふ。考えれば考える程笑いが込み上げて来る。


 「おい、今度は軍団長が笑い出したぞ」

 「武者震むしゃぶるいの次は笑いか」

 「よくわからんな。そんな事よりそろそろ先行した部隊が帰って来る頃だ」

 「おっ噂をすれば来たぞ」


 テントの中に兵士が入って来た。


 「失礼します。水トカゲが発見されました。今トカゲの周りを徐々に包囲に入りました」

 「よし、出るぞ!」

 「はっ!」

 アランは重い腰をゆっくりと上げ兵士の後に続いた。


 トカゲは種類を問わずに肌は黒いうろこで覆われていて並みの剣や兵士では傷ひとつ付ける事が難しい相手。その魔物をアランは数多くほおむって来たまさにこちらも化け物だ。

 トカゲ討伐はトカゲを周りから追い立て森から引きつり出し、戦いやすい平地にて打ち取るのが基本となる。今までも数々のトカゲをこの方法で彼らは打ち取って来た。そして今回も同様に追い立てが始まった。


 エイエイ!ヤー!

 兵士達はヤリをたずさえトカゲを包囲しヤリで地面を叩く音と掛け声で森からの追い出しに成功した。

 トカゲはあまりの人数差により周りから追い立てられ渋々森からの脱出を余儀なくされた。

 そしてトカゲの前に一人の小柄な男が立ち塞がる。

 トカゲは好機とばかりに少し足早にアランの方向へ足を進める。


 うわぁ!出たよ!いかん!フッ震えが…にっ逃げちゃダメだ!任務を遂行しモフモフの生活に舞い戻るんだ!

 あっなんだか力がみなぎって来たぞ。

 よし、討伐開始だ!


 魔力解放、身体強化レベル6発動!

 アランの体の周りからは魔力の揺らぎが見て取れる程解放されていく。


 「すっ凄い魔力だ!あれがアラン軍団長の新の姿か!」

 「いや、まだまだだ。この前火トカゲを倒した時はもっとやばかったぞ」

 兵士達がトカゲを囲みながら話していると小隊長から声が上がる。


 「おまえらアラン軍団長の戦いを一瞬たりとも見逃すな!」

 「はっ!」


 そしてアランはアイテムボックスより一本の斧を取り出す。

 斧の全長は3メートルと長くそして両刃となった先端は鎌のようにせり出している特注品だ。

 兵士からはデス・アックスと呼ばれている斧武器だ。当然本人は長い斧としか思っていない。

 

 デス・アックスを両手で持ち大きく振りかぶる態勢で斧に魔力を流す。

 アランが流す魔力は闇。

 斧に闇の黒いモヤがまとわりつく。

 通常闇の力では切れ味がプラスされる事はないが、この斧はその魔力を吸収し切れ味を上げると言うかなり変わった仕様になっている。アランの膨大な魔力があるからこそ使える魔力武器だ。


 「いくよ」

 アランは小さな自分だけが聞き取れる声で始める。


 両足で大地を蹴り込むその瞬間に両足があった地面は若干陥没しその威力を物語る。そして目にも止まらない速さでトカゲとの距離を詰める。

 トカゲも突っ込んで来る男に対して口を大きく開け水のブレス生み出す。

 だが、水のブレスは低い体勢のアランの頭上を通り過ぎる。

 アランは攻撃をかいくぐった瞬間に大地を下から上に蹴り上げる。

 身体強化レベル7!

 アランの爆発的な跳躍そしてその勢いのまま下から上へデス・アックスを振り上げる!

 

 真っ黒の刃の残像が天へと駆け上がる。それはまるで黒龍が空へ昇っているように。

 それはこの戦いの終わりを同時告げる事となる。


 水トカゲはゆっくりと体を地面へと倒れ込ませる。水トカゲが地面へと倒れた瞬間に首が胴から離れ、その切り口より黒炎が噴き出す。黒炎はまるで切り口から血が出るのを防ぐように切り口を焼きそして、何事もなかったようにその炎は静かに鎮火した。


 兵士からは歓声が上がる。圧倒的なアランの強さとトカゲ討伐の嬉しさから。

 アランはトカゲの死体の陰で一人震えていた。

 怖かったよぉ~もう少しで水玉に当たって死ぬところだった。あの水玉の大きさからするとレベル5いや6はあったんじゃないかな。あんなの当たった瞬間に俺の体に大穴があいちゃうよ。

 あっやべっ兵士が来た平常心を保たなくては。


 「アラン軍団長お疲れ様です」

 「うむ」

 「トカゲの処理は我々で行いますので、先に伝令と共に王都にご帰還下さい」

 「任せた」

 震える足をなんとか抑えゆっくりと戦場を後にしたのだった。

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