第11話 大森林での特訓

 俺達3人はそのまま森を前進した。

 魔物との遭遇は期待していたがキラードック1体だけだった。

 そして陽が落ちて来た事もあり俺達は食事と野宿する事にした。

 

 最初に食事の用意をする為に火を起こす事にした。

 火を起こすと言っても枯れ枝を集めてそこにミーニャの火魔法で火を付けると言う簡単な物だ。

 そこから魔物の肉の調理に入るのだが、皮をはぎぶつ切りにした肉を鍋に放り込み野菜と一緒に煮るといった料理で、簡単に言うと肉入りスープ料理だ。


 「いただきます」

 俺達3人で鍋を囲み魔物の肉入りスープの食事を始めた。

 味は宿屋で食べたスープに魔物の肉が入っているだけでスープ自体はまあまあだ。

 肉はうーん…この肉は焼いた方が上手いような気がするが、料理道具が増えるだけなのでここは我慢だ。


 「うん、美味しいですね」

 俺はあまり心にない言葉を一応掛けておいた。

 流石にあまり美味しくないとはいえないからだ。

 食事中はカインとミーニャの冒険話をいろいろ聞きながらの食事となった。

 食事が一段落した時に俺は気になる事を聞いた。


 「今日はどうやって寝るのですか?」

 俺の記憶が確かならカイン達はテントなどの泊まり道具を持っていなかったからだ。


 「ああ、数時間置きに俺とミーニャで見張りをするから、タツヤはこの焚火の前に魔物の皮をひくのでそこで寝てくれ」

 カインがそう言いながら魔法の鞄から魔物の皮を丸めた物を俺に渡してきた。

 

 「俺は見張りをしなくてもいいんですか?」

 俺は魔物の皮をカインから受け取りながら聞いた。


 「ああ、問題ない。俺達はいつもこんな感じで旅をしているからな」

 「そうですか。わかりました」

 俺は正直助かったと思った。

 かなり魔力も使って疲れていたからだ。


 「そろそろ陽もくれたからタツヤは先に横になってくれ」

 俺はカインの言葉に甘えて焚火の前に魔物の皮をひいて横になった。

 そして3分もしない内に強烈な眠気によって俺は眠りに落ちた。


 *


 「ミーニャ、寝たか?」

 「ええ、バッチリ寝たわよ」

 「しかし相変わらずミーニャの睡眠魔法は凄いな」

 「そんな事はないわよ。だってカインにはあまり効かないじゃない」

 「そりゃそうだ。俺は状態異常の腕輪を常にしているからな」

 「それじゃぁ今度その腕輪を取って魔法掛けさせてよ」

 「はあ?そんな事したら俺の大事な体が何されるかわからないだろ?」

 「へっ変な事はしないわよ!やらしい想像はやめてよ」

 「なんだ残念」

 「もっもう!魔法は冗談だからね」

 「はいはい」

 「・・・・」


 それから二人の冗談を交えた会話は続く。そして二人のくだらない冗談みたいな会話が突然終わり、二人の雰囲気が真剣な物へと変わる。


 「話は変わるが俺が昼間タツヤに渡した魔力量わかったか?」

 「ええ、私はカインがタツヤに渡そうとしている魔力量を見て直ぐに止めようとしたわよ。普通の人間なら間違になく魔力回路が焼き切れて、二度と魔力が使えなくなってもおかしくない量だったでしょ」

 「ああ、ミーニャの言う通りだ。最初俺もまずいかなと思ったがタツヤの潜在能力を感じた時に、たぶん大丈夫と言う直感からやっちまったんだ」

 「あなたのやり方はめちゃくちゃだけど、今まで間違った事はないからね」

 「まあ、いつも行き当たりばったりだけだよ」

 「そう言えば忘れていたけど昼間魔物にやられた左手の傷見せなさいよ直してあげるから」

 「いいよ~もうそんなに痛くないし」

 「我慢はしないの!見せなさい」

 「しゃーねぇーなぁ~ほらよ、目つむっているからパパっと直してくれよ」

 カインがミーニャに左手を出すとそこにミーニャの回復魔法が掛かる。

 その瞬間にカインの左手が光り元通りに復元された。


 「ありがとうなミーニャ」

 「どういたしまして」

 「さてと、タツヤが寝てからどれくらいの時間がたったか?」

 「そうね、2時間に届かないって所かな」


 「ミーニャ、そろそろやるか鍛錬の続きってやつを」

 「そうね、それじゃあタツヤに昼夜逆転の幻惑魔法を掛けるわ」

 「頼む」

 ミーニャは立ち上がりタツヤの元へと近寄るそして幻惑魔法を発動させる。

 タツヤの頭が光に包まれ光が収まると同時にタツヤが目覚めた。

 

 「あっあれ?もう朝ですか?」

 俺は横になったまま目をこすりながら近くに居たミーニャを見る。


 「ええ、よくねていたわ。もうすぐ1つ目の鐘がなる時間よ。起きて顔を洗いなさい。木桶に水を出しておいたから」

 「ありがとう」

 俺は起き上がり木桶で顔を洗う。

 顔を洗った後布で顔を拭きながら周りを見る。

 『朝』なのになんだろう少し暗い感じがするんだが森の中だからそう感じるのだろうか。

 しかし、なんだろう疲れが全然とれていないんだが。


 「タツヤ準備は出来たか」

 カインが装備を確認しながら聞いてきた。

 

 「ええ、直ぐに準備出来ます」

 俺は脱いでいた胸当てを装備し腰に剣を刺し準備をした。


 「準備出来ました」

 「よし今日からタツヤにも戦いに参戦してもらうが、俺の指示があるまで剣に魔力を乗せる事は禁止する」

 俺は意味がわからなかった。


 「それはどうしてですか?」

 「倒すだけが訓練ではない。攻撃をかわす事も重要な訓練だからだ」

 「わかりました」

 反論もあるが今はカインとミーニャの指示に従うのが正解だと思い了解した。

 だがそれはまさに地獄の始まりだった。


 俺が魔物と遭遇したのは訓練を開始して直ぐの事だった。

 相手はカインの手を貫いたキラードックだ。

 だがカインにケガを負わしたほど大きくはなく、少しいやだいぶ小柄な魔物だ。

 俺は身体強化の魔法を自分に掛け小柄なキラードックの魔物と対峙した。

 

 キラードックの攻撃スピードはなんとか俺の身体強化で回避できるが問題は攻撃だ。

 剣に魔力を乗せていないので俺の剣は魔物の皮膚で弾かれてしまうのだ。

 そう、俺は避ける以外の方法がない戦士となっていたのだ。

 時間が経つ事に精神疲労が増してくる。

 身体強化はそれほど多くの魔力を消費しないが0ではない。

 そしてキラードックと対峙して30分程が経った時にとうとう俺の魔力が限界にきて俺は地面に膝を着いてしまった。

 そこへキラードックが襲い掛かるが後ろで見ていたカインがカバーに入りキラードックを剣で切り伏せた。

 

 「よし、まあまあな動きが出来るようになったな。だが、いつも全身に身体強化をしているようでは魔力がもたないぞ。いいかタツヤ必要な部位に必要なだけ身体強化の魔法を分配していくんだ。次はそれを考えならがやってみろ」

 「はい、わかりました」

 こんな感じで1匹終わるたびにカインから指摘が入り、その後休憩し魔力回復薬を飲み次はミーニャの魔法特訓へと続いて行く。


 *


 あれから…いや、出発してから何日たったのだうか?いつ寝ていつ起きていつ戦っているか脳で理解出来ない程俺はやつれていた。とうぜんだが服も血や汗でドロドロだ。

 しかし、魔物が来たら倒す事だけは思考が停止していても無意識に出来るようになった。そして、苦しい苦しい特訓が今日をもって終了する日がやっと、やっとやってきた。


 「今日が最終日だ。そして今日がタツヤの特訓の成果を示す日でもある」

 カインが言いながら懐から1枚の紙を出した。


 「これはギルドから受けた討伐の依頼書だ。討伐対象はハンティングベア。ギルド推奨ランクは6だ。これをタツヤに狩ってもらう」

 「わかりました。全力でやります」

 俺はカインより依頼書を受け取り生息する場所を確認する。

 そして装備一式を再度確認する。


 「行きます」

 俺は身体強化のレベル1を発動し足へと負荷を掛ける。

 そして勢いよく地面を蹴りスタートする。

 俺は目的地へ向かい森を疾走する。チラリと後ろを見ると少し後方にカインとミーニャの二人も俺の後を付いて来ている。彼らは俺の師匠兼保護者でもあるがそろそろいい処を見せないと見下されそうだと思い、俺はいつも以上にこの狩りを真剣にやる事にした。


 俺は依頼書の付近に到着したが当然敵のクマさんがいるわけじゃない。

 俺はミーニャから教わった黒魔法の『サーチ』を掛ける。

 反応あり。

 前方150メートルの草むらに赤い反応が出た。

 俺は一気に距離を詰め敵が草で見えないがそこへ向かって火矢の『ファイヤーアロー』を1発投げ込む。

 すると本日の主役のハンティングベアが草むらから出て来た。

 

 体調はおよそ3メート弱。漆黒の体毛に覆われており日本のクマと違うのは、額の中央に魔石が付いている事と手が非常に長く立っていれば地面まで着くような長さだ。

 

 俺は先手必勝とばかりに一気に大地を蹴り距離を詰める。

 当然直ぐにハンティングベアは俺に対して攻撃態勢をとる。

 俺はクマの攻撃を予想し一度クマの直前でスピードを落とし攻撃を誘うが、クマの攻撃が来ないので再度間合いに入る。俺は間合いに入ると腰から黒刀こくとうを抜き放ちクマの胴へ向かい一閃いっせんする。

 しかし当然ながらクマの胴は切れる事なく全くダメージがない。それも当然だ。刃に魔力を乗せていないでそれでは魔物を切る事は出来ない。ハンマーのような硬い物で殴るなら魔力なしでダメージを与える事ができるが、魔物の体を切るのであれば魔力は必須である。

 そして切っていい場合はカインから指示が入る。それまで切れない武器で相手を切り防御しなくてはいけないのだ。この行為がどれだけ地獄なのか時間が経過すればわかると思うが、敵は自分がやられないと確信すると防御を捨て攻撃のみとなるのだ。その棒弱武人ぼうじゃくぶじんの様は血の気が一瞬で引くほどだ。


 俺はクマを切りクマの横を抜けた後直ぐに防御の体制をとる。

 予想通りクマは振り向きざまに鋭い爪付きの長い手で俺を横殴りに攻撃をしてくる。

 俺はそれを正面からだなく斜めに爪を受け受け流す。俺の力では正面から受けた瞬間に体が数メートルは確実に飛ばされてしまうからだ。


 受け流した俺は直ぐにクマに飛び込み下から攻撃して来た腕を切り上げる。クマは懐に入られる事を嫌がり一度後ろへ後退する。俺はそこで一度心臓の鼓動が早まっていたので深呼吸する。

 そしてクマが行動しようとした瞬間にカインから声が掛かる。


 「やれ!タツヤ!」

 俺は待ちに待ったと思い最終試験らしい事を決めていた事を実行する。

 クマは4本の足で大地を蹴り俺に覆いかぶさるような攻撃をしてくる。俺は身体強化レベル3を発動させクマへと大地を蹴る。俺は覆いかぶさるクマの足元を俊足で駆け抜けクマの背後へと出る。そしてクマが2足で立ち上がり俺の方を向いた瞬間、一閃いっせん

 俺はクマの背後へと抜けた瞬間にクマの顔の位置まで大地を蹴り飛び上がっていた。

 そしてクマが振り向いた瞬間に黒刀こくとうに風の魔力を乗せクマの首を右から左へと切断したのだった。


 俺が地面へ着地した瞬間に『ゴトリ』と言う音ともにクマの頭部が地面へと落ちる。首を失ったクマの動体はまるで公園の噴水を見ているかの如く血を天へと噴出していた。そして頭部を失ったクマはゆっくりと背中ら地面へと倒れるのだった。


 俺はクマが地面へと倒れると同じく地面へと片膝を着いていた。俺の体力そして魔力の限界が来たのだ。俺が荒い息をしていると後ろから『パチパチパチ』と手を打つ音が聞こえる。

 俺はゆっくりとその方向を見るとカインとミーニャが笑顔で俺をみて拍手をしていた。


 「見事だタツヤ!これで最終試験を終わる。合格おめでとう!」

 カインの声が俺の心にみ込んで来る。

 ああ、やっと終わったと。俺はそのまま大の字で地面へと寝転んだ。

 そこへカインとミーニャがやってきた。


 「さあ、タツヤこれで大森林だいしんりんでの訓練は終了だ。街へ帰ろう」

 カインが俺に手を差し出してきた。

 俺はその手を掴みゆっくりと体を起こした。

 しかし俺は『森』だと思っていたがカインは『大森林だいしんりん』と言っていた。

 俺は気になったがとりあえず帰える準備をする事にした。

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