第10話 魔物

 カインは魔力の話が終わると同時に魔物への話へと変わった。


 「タツヤは魔物を見た事はあるか?」

 魔物と言われれば俺の最初で最大の印象は黒アリだ。

 まさにいきなり死ぬかと思った相手だ。


 「はい、この世界に来て最初に見たのが黒アリです」

 「ほう、と言う事は奴に手を出さなかったと言う事か」

 カインは少し目を細めながら俺を見つめる。


 「手を出すも何も逃げましたよ」

 「それは正解だ。アリ系統に手を出した奴は大体生きて帰って来れない。逆に言えば手を出さなければ奴らは襲って来ないってのがこの世界の常識だ」

 俺が襲われなかったのがそうゆう訳だったか。


 「魔物に魔石が付いている事は知っているか?」

 「はい、知っています。冒険者ギルドで習いました」

 「魔物の第2の心臓と言われているのが魔石だが、実際に魔石を破壊しても死なない魔物がほとんどだ。弱い低レベルの魔物ほど魔石と心臓の位置が近く、魔石を破壊した時に心臓も破壊されていたので勘違いから言わているだけだ」

 なるほどね。恐らくはカインみたいに知っている人も多いがその正確な情報が伝わっていないのではと思う。


 「そしてここからが本題だが魔物の肉は食える。ただしだ、死んだ魔物の魔石が黒い魔物は食えない。毒で犯されているからだ」

 これは初耳だ。

 だいたい魔物の肉が食えるなんて俺は全く思っていなかった。

 魔物は人々を苦しめる害虫だと思っていたからだ。

 そして俺は気になっていた事を聞く事にした。


 「魔物の肉は旨いんですか?」

 「ああ、旨い奴もいるしマズイ奴もいる。今夜の食事も魔物の肉を用意する予定だ。そこで食べた感想を聞かせてくれ」

 「それは楽しみにしています」

 俺は夜ご飯にワクワクしながらカインの話の続きを促す。


 「次に魔物が持っいる魔石についてだ。魔石は今タツヤの腕に巻き付けてある物も含めていろんな種類が存在する。種類の見分け方は色が大きく左右する。タツヤに着けてある無職透明の魔石は無属性の魔石と呼ばれる。要するに魔法適正と同じような感じで分類されている。まあこれについては自分で研究するなりこの訓練の間に勉強すればいいと思う」

 カインは話が終わると同時に魔法の鞄に手を入れ手のひらサイズの小さな陶器の瓶を出してきた。


 「これは一時的に魔力を回復する薬だ。多様すると体に害を生じるが1日1本ならば害ではなく力になる物だ。それを飲んだら出発するので飲んでくれ」

 カインはそう言うと俺に小さな小瓶を渡してきた。

 俺はカインから小瓶を渡されて口元を覆っていたヒモを取り蓋を空けた。

 やらしいが俺はまず鼻を近づけ匂いを嗅いだ。

 匂いは特にはしない。

 カインとミーニャが俺を見つめているので俺は思い切って口元へ運び一気飲みした。

 味もない水と言ってもわからないぐらいだ。

 どうしても味を言えと言われれば昔公園に生えているツバキの花をちぎりその密を飲んだ時の味に似ている。

 そうほんのり甘い感じだ。

 だが味とは別に俺の体に直ぐに異変が起きた。

 さっきまでけだるかった感じは消え力がみなぎって来たからだ。


 「すっ凄いです。力が湧いてきました」

 「よし、問題ないな」

 その言葉で俺とカインそしてミーニャは立ち上がり森へ向けて再度走り出した。

 

 *


 異変は直ぐに起きた。

 それは森へ入って直ぐの事だった。

 

 「カイン!」

 ミーニャがカインの名前叫ぶと同時に『止まれ』の合図が発せら、俺は直ぐに指示に従い止まった。

 すると森の奥からゆっくりと歩み寄る魔物が1頭現れた。


 「キラードックか」

 カインが魔物の名前を呟きながら目を細める。

 見た目は大型の黒犬だが鼻の先から細長い鋭い角が生えているのが特徴だ。


 「今夜の食事が決定したな」

 カインがミーニャを見ながらそんな事を話す。


 「そうね、味はそれほど美味しくないけどここら辺ならまあまあの魔物じゃないかしら」

 カインとミーニャはまるで目の前に美味しいお肉がいるような気軽さで話している。

 その間もキラードックは段々と俺達の間を詰めている。

 そしてその瞬間は音連れた。

 俺達と魔物の距離が5メートル程となった時に魔物が凄いスピードで跳躍し俺達に迫った。


 「危ないカインさん!」

 俺は魔物が先頭にいたカインに襲い掛かったのを見て叫んだ。

 カインは横を向いてミーニャと話していたからだ。

 だが俺の叫びもむなしくキラードックの飛び込みスピードは速く、その角は受け身を取ったカインの左手の平を貫通し鮮血が飛び散った。

 俺はその瞬間に声を出せず、体を動かす事も出来ずにただ見つめる事しか出来なかった。


 そして異変はさらに続く。

 カインの左手の平を貫いたキラードックは何故かその場から動かない。

 

 「カッカインさん大丈夫ですか!?」

 俺はその場で立ち止まったままカインに叫ぶ。


 「ああ、大丈夫だ。こんなのは冒険者にとってかすり傷だ」

 カインは俺に振り向き笑顔で声答える。

 俺はこの世界の冒険者は手を貫通させる程度はかすり傷だと認識した。

 実際はかすり傷な訳ではないが、タツヤの勘違いはこの先当分続く事となる。


 カインは答えた後右手で俺に来いと指示をしてきたので俺は駆け足で駆け寄った。

 俺はカインに近寄りその光景を近くで見た。


 俺の見た通り左手からキラードックの角が突き出していて血がポタポタと垂れていた。

 そして驚くべき事があった。

 キラードックの足が地面と共に凍っているからだ。


 「タツヤ、かすり傷と言っても大事な事がある」

 俺は周りの状況よりカインの声を掛けられ我に返る。


 「いいか傷でも失っていけない物がある。それは血だ。血を失えば体力が落ち判断力が鈍くなる」

 カインは左手をキラードックの角から引き抜く。

 すると先ほど以上に手から血が噴き出す。


 「今から応急処置をする」

 カインは右手を左手にそっと当てる。

 すると白い光が左手を包む。

 光が収まった時には左手の平は薄皮程度だが覆われ血が止まっていた。


 「凄い、回復魔法」

 俺がそう言うがカインが否定した。


 「違う、これはただの治癒魔法だ。薄皮を張っただけで回復はしていないんだ。あとでミーニャに正式な回復魔法は掛けてもらう」

 回復と治癒の違いか…言葉だとなんとなく同じに思えるが治癒は応急処置と言うのがいいのか?

 この世界の言語を変換しているので少しばかりズレがあるのではないかと少し感じた。

 カインは右手で魔法の鞄を探り短いショートソードを取り出した。


 「今からキラードックにとどめを指す見ておけ」

 カインは剣を持った右手を少し持ち上げるそして剣が光ったと思った瞬間には、キラードックの頭部が胴体から切り離され地面へと転がった。

 それと同時にキラードックの動体から大量の赤黒い血が溢れ、そして足が地面へと縫い付けられていた氷も砕け散り動体も『ドサリ』の音と共に倒れた。

 俺はその瞬間を一瞬も見逃さずに目を開いて見ていた。

 そして俺は思った事を口に出した。


 「魔力を剣に乗せたんですね」

 「大正解だ。タツヤ」

 カインがニコリとした笑顔で俺を褒めてくれた。 

 

 その後カインから簡単だが魔石の外し方とキラードックの解体の仕方を習った。

 キラードックの解体はかなりグロかったが、吐き気を抑えながら俺なりに頑張った。キラードックの魔石の色はほんの少し赤みが掛かった色をしていた。

 解体が終わり一息ついた所で俺はミーニャに質問をぶつけた。


 「ミーニャさんどうして魔物の接近に気づいたのですか?」

 「あら、よくそこに気づいたわね」

 俺の問いにニコリとした笑顔で答えた。


 「ええ、最初に声を掛けたのはミーニャさんでしたから」

 「そうね、いいわ。気づいたご褒美に探知の魔法を教えてあげる」

 俺は歓喜したこんな有用な魔法を教えて貰えるなんてと。


 「探知の魔法は黒魔法よ。まあ、あなたにとって黒だろうがなんだろうがあまり関係はない様に思えるけど、一応頭には入れておいて損はないわ」

 「はい、記憶します」

 「よろしい。探知は魔力を薄く広く範囲を広げて使う魔法よ」

 俺はここで一つの質問をした。


 「あの、魔法の名称を叫んだりはしないのですか?」

 異世界ラノベとかだと『サーチ』なんて言うからだ。


 「別に言っても言わなくてもいいと言うより名前なんて付けた事ないからわからないわ。まあ、これは私に限った事ではないけど、人はそれ程多くの属性を使える訳ではなくさらにたくさんの魔法を使える訳ではないの。私は火・白・黒・無の4つよ。これだけでもかなりの貴重な存在なのよ」

 そうだったのか。

 俺はギルドでの検査で全属性に適正があったから気にしてはいなかったが。


 「でもタツヤの場合は魔法に名前を付けた方がいいかもしれないわね。タツヤは全属性が使えるんだから、恐らく段々と混乱してくるかもしれないし」

 ミーニャは少し考えながらそんな発言をした。


 「出来れば俺は名前があった方が覚えやすい気がします」

 「そう、それじゃこの探知魔法はタツヤ自身が名前を付けなさい」

 「そっそれじゃあ『サーチ』にします」

 「なんか、変わった発音だけどもそれでいいわ。それじゃあ『サーチ』のやり方をもう一度説明するわね」

 そしてミーニャによる『サーチ』魔法の訓練が始まった。


 やり方は胸の辺りで魔力を集めてそれを平らにして周りに広げていくイメージだ。

 ただ最初は前方とか目指す視点へ広げるとやりやすいと言われ俺は練習した。

 すると俺の『サーチ』に何やらモワっとした物を感じたので俺はミーニャに聞いた。


 「何かモワっとした物を感じました」

 「いいタツヤそのまま聞いて。そのモワっとした物に魔物のイメージと色を乗せるの」

 俺はミーニャが何を言っているのかわからず少し首を傾げる。

 ミーニャは俺の行動の意味を知り言い方を変えて来た。


 「タツヤにとっての悪のイメージを連想して」

 俺の悪のイメージ。

 悪と言えば黒だが魔物は敵と思えば『赤』が正解ではないかと思い魔物は『赤』とイメージする。

 すると俺のサーチに引っ掛かっていたモワっとした物はふっと消え去った。

 俺は唖然とした。

 何故消えたかわからなかったからだ。


 「あの、消えてしまったのですが」

 「それは成功じゃないかしら」

 俺はクエッションマークを頭に浮かべる。


 「タツヤの悪の色が消えたと言う事はその反応したのは悪ではないと言う事だから」

 ああ、そうゆう事か。なんとなく理屈が分かった気がした。

 反応があったのは恐らく魔物じゃなく動物って事か。

 

 「タツヤこの魔法はいろんな使い方があるわ。そこら辺は訓練しながらにしましょう」

 ミーニャの言葉でミーニャの特訓は終了し俺達は森へ前進する事にした。

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