第9話 魔力

 キールの南門の外でカインの言葉と共に冒険の幕が上がった。


 「さあ、ここからが訓練の始まりだ。最初に身体強化を使い森まで走って行く」

 俺は直ぐにカインに問い返した。


 「あの、身体強化なんてやった事ないんですけど」

 「タツヤは魔力についての説明は受けたのか?」

 「冒険者ギルドで適正を調べてその後魔力量を測っただけですよ…それで、魔力量が1でした」

 当然ギルドでバカにされた事は内緒ないしょだ。


 「1…そうか…タツヤそれはこの世界に来てからどの位で測定したんだ?」

 どの位と言われておよそ3時間だけどどう言えば伝わるのか?

 鐘の音で言えばわかるかわからないので言ってみることにした。


 「2つ目の鐘に来て1つ目の鐘くらいで測定しました」

 「なるほどね、まあそうなら当然だな」

 俺はカインが言っている意味がわからず不思議な顔をしていると説明してくれた。


 「いいか、まず魔力と言うのはこの世界に満ち溢れている魔素を取り込む事によって作られるんだ。つまり、タツヤはこの世界に来て数刻すうこくしか経っていないとなると魔力1は正しい数値だぞ。今はそれから時間が経っているので恐らく1と言う事はないと思うがな」

 そうゆう事だったのか流石に適正が全属性で魔力ほぼなしはありえないよな。

 俺は納得と同時に少し安堵した。

 

 「とは言ってもまだタツヤは日にちが経っていないので体内魔力はまだ十分でないだろう。そこでだこれを腕につけてもらう」

 カインはそう言うの自分の魔法の鞄より1枚の布と手のひらサイズの魔石を取り出した。


 「この魔石はある特殊な魔物から採取した物だ。そしてこの魔石を肌にれさせておくだけで、魔力吸収がかなり上がる効果がある」

 俺は興味深々しんしんでカインから布と魔石を受け取りマジマジと観察した。

 魔石に触るのは当然初めてだ。魔石を触った感想はとても軽いと言うのが第一感想で、そしてとても透明で美しい物だと言う事だ。

 俺は魔石を左腕に押し当てその上から布で縛り付けた。


 「これでいいですか?カインさん」

 カインは俺の腕を見て動かないか確認していた。


 「ああ、これで問題ない。この特訓中は出来る限り付けておいてくれ」

 「わかりました」

 「よし、それじゃあ本題の身体強化の魔法を教える」

 ああ、やっと本題だな。


 「身体強化は魔力を体に流して体を強化させる方法だ。まず最初に魔力を感じる訓練をする。少しばかり荒良治あらりょうじになるが時間がないのでゆるしてくれ。いくぞ!」」

 カインはそう言うとほんの少し真剣な顔になり、手の平を俺に見せるようにした。

 するとほんの少しカインの手の平が光ったように感じた瞬間に俺はカインに両手を握られた。

 

 「これが魔力だ。タツヤ何か感じるか?」

 俺はカインに両手を握られた瞬間に手から暖かい力?と言えばいいのか、なんか不思議な感じの力が体に流れ込んで来るのが分かった。


 「ええ、なんか力が入ってきました」

 「そっそうか、特に問題はないのか?」

 ?

 なんかカインの反応が少し変な感じがするが気のせいだろうか。

 だいたい、何が荒療治なのか俺にはわからなかった。

 すると、カインが俺から両手を離して隣にいるミーニャと目を合わせ頷いている光景が目に入った。


 「タツヤ今感じたのが魔力だ。これでタツヤの体に魔力の通り道が開通したと言っていいだろう。今感じた魔力を自分の足に集めるようにやってみろ」

 俺はカインの言う通りに意識を足に集中し先ほど感じた魔力を集めるようにした。

 すると俺の両足がふんわりと暖かくなったような気がした。


 「カインさん、なんか俺の両足が暖かくなったような気がします」

 「もう出来たのか流石神が選んだだけはあるな…よし、それじゃあその場で跳ねてみろ」

 俺はカインに褒められたのがうれしくて両足で大地を蹴ってジャンプした。

 

 「うわぁ!」

 俺は俺の足でジャンプしたのに2メートル近く体が浮きあがったのだ。

 俺はなんとか空中から着地した。


 「よし、成功だ。あまり魔力を使い過ぎると体力が尽きるからその点に注意しろよ」

 「わかりました。頑張ります」

 俺はどのように調整するかをこの後走りながらやる事になった。


 「じゃあ出発!」

 そして俺とカインとミーニャの3人は森へ向けてまず街道を走り始めた。

 走ると言うより1歩1歩地面を蹴ってジャンプしていると言うのが正直な感想だ。

 そして俺は自分の足にどの位の魔力を流せばどの程度ジャンプするのか確認しながらの行動だ。

 走る事10分突然カインが両手を左右に広げた。

 俺はなんの合図かわからなかったがカインのスピードが落ちたので俺は『止まれ』の合図だと理解した。


 「どうだ体の調子は?」

 止まった後街道の脇でカインがたずねて来た。


 「今の所まだ大丈夫そうです」

 「そうか、それじゃあ今から森へ向かう」

 カインは俺の顔色を伺うようにしたあと答え、カインは街道から離れた方へ指を指した。


 「森には魔物がいるが俺達がいるのでそこまで警戒する必要はない。行くぞ!」

 そして俺達3人は又走り出した。

 しかし10分も走らない内に俺に変化が起きた。

 突然体がだるくなってきて、俺は地面を蹴る力が落ちスピードが落ちた。

 直ぐに俺の変化に気づいたカインが『止まれ』の合図で俺達は止まった。


 「魔力切れだな。少し休憩しよう」

 カインは俺の顔色を見ながらそんな事を呟いた。

 俺は少し荒い息をしながらその場に座り込んだ。

 

 「最初にしては上出来だなミーニャ」

 「ええ、そうね」

 カインとミーニャは立ちながらそんな事を話していた。

 俺は息を整えながら静かにしていた。

 カインとミーニャはその後俺と向かい合う様に座り魔法の鞄より皮の水袋を出した。


 「これを飲め」

 「いただきます」

 俺はカインより水袋を受け取りそれを飲んだ。

 俺は皮に入った水袋から水を飲んだのは初めてだったが、それ程まずいとは思えないような味で安心した。この水を最低でも7日間は飲まなくてはならないからだ。

 俺が落ち着いたのを見てカインが話してきた。


 「休憩ついでに少し魔法と魔物の話をしよう」

 そしてカインの魔法と魔物講座が始まった。


 「魔法は力に応じて『レベル』と言う物がある。『レベル』と言う言葉は大昔の大賢者様が言った言葉が言い伝えられた言葉だ」

 もしかして地球から来た人が伝えたのか?と俺は思いながらカインの続きを聞いた。


 「まあ言葉で言ってもわからないので実際に見せるとしよう。たぶん水が一番わかりやすいので見せよう」

 カインはそういうと立ち上がり数歩離れた場所にたった。

 そして右手の手のひらを胸元辺りで上に向けた。

 その瞬間に小さなビー玉程の水玉が現れた。


 「これがレベル1の水魔法だ。攻撃力もほとんどなく主に飲み水として使用される。そして…」

 カインが力を入れたのが分かると小さなビー玉の水玉は卓球の玉程度に大きくなった。


 「これがレベル2の水魔法だ。攻撃力はレベル1の4倍程度。小さな魔物ならば十分攻撃出来る力がある。そして…」

 カインが再度力をいれると水玉は野球のボール程度に大きくなった。

 カインの顔からは明らかに真剣な眼差しが見える。


 「これがレベル3の水魔法だ。攻撃力はレベル2の4倍。魔物を貫通する力がある。これは今俺が使える水魔法の限界だ」

 俺はカインの生み出した水玉を見つめていた。

 キラキラと光りにあたってとても美しいと思った。


 「この魔法の威力を今見せてやる」

 カインはそう言うと手のひらを地面に向けた。

 するとゆっくりと水玉は地面に向けて落下し始めた。

 俺はその水玉を見つめながらどの程度地面に穴を空けるか楽しみに見ていた。

 だが、俺はその威力に愕然とする事になる。


 水玉はガサリと言う音と共に地面に当たり形を変える事なく地面に消えて行った。

 俺はすぐに気になり立ち上がり水が落ちた所へと歩み寄った。

 地面には野球ボール位の穴が開いていて、驚く事に穴の先が闇に覆われ見えない程深い穴が開いていた。


 「すっ凄い!」

 俺は無意識に言葉を発していた。


 「驚いたろう」

 カインは得意げにニヤケた笑顔で答える。

 そして俺とカインは又元の場所に戻り座った。


 「どうすればあんな魔法が使えるようになるんですか?」

 俺は率直な質問カインに投げかけた。


 「タツヤもいずれ使えるようになるがまずは魔力のコントロールを覚えるといいぞ」

 俺は魔力コントロールと言っても意味がわからないので質問を続ける。


 「その魔力コントロールはどのように?」

 「さっき教えた体強化もその一つだが、どの程度力を流せばどの程度力が出せるかを自分で考えながらやればいい」

 俺は先ほど自分が走りながらやっていた事が間違いではないと確信したが、それだけであの力が制御できるとは思わなかった。


 「ちっ力を得るには」

 俺は少しりきみ過ぎてどもってしまった。

 カインは俺の顔を見ながら真面目に答えてくれた。


 「タツヤは今たとえば力が10倍…いや100倍になったらそれで生活は成り立つと思うか?」

 「無理です」

 俺は即答した。恐らく食事をする箸さえ持つことが出来ないだろう。


 「その通りだ。タツヤ焦りは禁物きんもつだ。有り余る力は自らを滅ぼす事になる…そうだな例えばタツヤの魔力が樽いっぱいにあるとする。しかしタツヤはその魔力を取り出す手桶が小さい物しかなければその力を増す事は出来ない」

 「やはり魔力コントロールですね」

 「ああ、だが一気に魔力を出せばタツヤの体は壊れるからゆっくりな」

 「わかりました」

 力は一喜一憂いっきいちゆうにならずだな。

 それから話は魔物の話へと変わった。

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