第8話 冒険者カインとミーニャ

 アライアス神が現れた翌日俺は早々宿屋を後にした。

 なんとなくだが俺が冒険者ギルドにいれば会えるような気がしたからだ。

 そんな俺の予感は的中し突然後ろから声を掛けられた。


 「君がタツヤかな?」と。

 俺が振り向くとそこには筋肉で覆われた皮鎧を着た30歳くらいの白髪の男性と、頭以外全身に黒いローブを着た白髪の髪の毛をしたキレながら目が特徴の美人な女性が立っていた。


 「そうですが、何か?」

 俺はこの二人を見た瞬間に神からの話にあった人物だと思ったが普通の返答をした。


 「アライアス神と言えばわかるかな?」

 白髪の男性が小さな声で言う。

 俺はやっぱりと思いコクリと頷いた。


 そして俺達は冒険者ギルドの食事が出来るスペースの一番隅で話をする事になった。

 話は簡単でアライアス神より俺を鍛えて欲しいとの依頼できた事がわかった。


 「俺はまだこの世界に来たばかりで右も左もわかりません、それでもよろしいのですか?」

 「ああ、構わない。ただ、俺達には時間がないんだ。今日から7日間しか君を鍛える事しか出来ない。だから少しだけハードな訓練になるがそれだけは了承してほしい」

 俺はその言葉で正しく試練だと思った。

 俺がカインの話に了承すると次に男性カインと女性ミーニャの自己紹介が行われた。

 カインが近接が専門の戦士でミーニャが遠距離を得意とする魔導士と言う事だ。

 神が依頼したと言う事はかなりの使い手じゃないかと俺は推測する。

 何故なら俺が声を掛けられた時気配すら感じなかったからだ。


 「タツヤ少し待っていてくれ、ギルド登録をしてくるから」

 カインとミーニャはその言葉と共に二人でギルドカウンターへと歩いて行った。

 俺は二人の後ろ姿を見ながら成り行きを見守っていると直ぐに二人が俺の元に帰ってきた。


 「よし、次は依頼を何枚か受けるからタツヤも依頼ボードに来てくれと」

 俺はカインの言葉で席を立ち依頼ボードへと足を運んだ。

 カインは適当といわんばかりに討伐の依頼を何枚かボードから引きはがしていった。

 俺はその光景を見てそんなに受けるの?と少し不安を持ったが口を出さずにただ見つめていた。

 カインが依頼書を何枚か集めた後俺に告げた。


 「今回タイツやはパーティーの一員ではなく、あくまでも荷物持ちとして登録するが了承してくれ」

 俺はその意味が理解出来なかったので聞いた。


 「すみません、意味がわかりません」

 「おーすまん、初めてだって事わすれていた。パーティーの一員にすると依頼によって後でギルドポイントが割り当てられるんだ。そうなれば恐らくこの依頼量だとランクは3つ程上がる事になる。ランクはあまり関係ないが力がない者にとってランクは少し麻薬みたいな所があってな、ランクポイントは自らの力で勝ち取ってほしいってのが俺達の方針だ」

 「わかりました。それでお願いします」

 受付嬢が言っていたがギルドランクは気にする事ないが、カイン達から見れば苦労なしで受けランクは慢心を招くと言う事らしい。


 そして俺達3人は大量の依頼書を持ってギルドの受付カウンターへとやってきた。

 カインが出した依頼量の多さに受付嬢は少し引き気味になっていた。


 「あの、すみません。いきなりこれほど大量に受けられるのですか?」

 受付嬢の言い分はもっともだがカインはサラリと告げる。


 「ああ、問題ない」と。

 「失礼ですが冒険者登録は先ほどされたばかりだと記憶しているのですが」

 この受付嬢がカイン達の登録をした人らしい。

 まあこうなるのは当然だと俺は後ろから眺めていた。

 するとカインは懐から1枚の冒険者カードを受付嬢に差し出した。


 「これは西の大陸のギルドカードだ」

 カインの出したギルドカードを見た受付嬢は目を見開いてそのカードを見つめた。

 その瞬間に態度を一転させ先ほどの心配はなかったような態度をしめした。


 「失礼しましたカイン様。それでは依頼書の受付をしたいと思います」

 俺は何が起きたのか分からないので隣のミーニャに尋ね寝てみた。


 「ミーニャさんあのカードはなんなんですか?」

 「西の大陸…私達が活動しているギルドカードよ」

 ミーニャは懐から1枚のギルドカードを取り出し見せてくれた。

 カードにはギルドランク『3』と示されていた。

 確かギルドランクは10から始まり1が最高だった事を思い出し驚いた。


 「3って凄くないですか?ミーニャさん」

 「そうでもないわよ。ずーとやっていればこんなの勝手に上がるわよ。だいたい数字なんて強さと関係ないしね」

 確かに数字は強さではない。

 しかし3からは試験があるような事を以前副ギルド長が言っていたような気がするが…と俺が考えているとミーニャから声が掛かった。


 「タツヤも自分で依頼受けてやればあっという間よ。ポイントはパーティーで頭割りだから一人だったらポイントは総取りだからあげようと思えば簡単よ。でも、上げてもいい事ばかりではない事は一応覚えておいた方がいいわよ」

 俺はミーニャさんの言葉の意味がイマイチ理解出来なかったが一応頭の片隅にいれた。


 そんな話をしている内にカインが受付を終わらせてきた。 

 そして俺達3人はまず最初に武器防具屋に向かった。それは俺の格好をカインが一目見て防具すら持っていない事を見抜いての事だった。


 武器防具の店。

 冒険者ギルド『ライド・ドール』から歩いて5分程の場所にあるこの店はドール御用達の店だ。

 ドール系統の冒険者ならば割引があると言う何とも繋がりが深い店だ。

 なんてったって名前が『ドールハント』なんて名前なんだから。

 外から見てもいかにも武器防具の店に俺達3人は入店した。


 カインの指示で最初に防具を選ぶ事にした。

 カインは俺の体を少し触り筋肉の付き方などを調べてから断言した。


 「タツヤは筋肉の付き方からして軽装がいいだろう。急所な部分だけをガードするタイプだ。それでこれなんかどうだ?」

 カインは近くにあった胸当てと呼ばれていそうな心臓付近だけをガードする薄い鉄プレートを手に取った。

 俺はそれを受け取り重さなどを確認した。

 重さははっきり言って軽い鉄と言ってもペラペラなのでこんなんで大丈夫?と言ってもいいほどだ。


 「こんなんで敵の攻撃が防げるのですか?」

 俺は心配になりカインに質問してみた。


 「ああ、問題ないぞ。ある程度ならこれで大丈夫だ。だいたい攻撃を受けなければ防具なんていらないんだからな」

 カインはあっさりと言うが俺はそりゃそうだけどもしもって時の備えが防具のような気がするが、しかしカインの言葉に従うのがここは一番だと思い「なるほど」と相づちを打って了承した。

 結局防具は胸充て、肘まで覆う皮の篭手こて、膝の少し下までをガードするブーツになった。

 頭は兜をかぶると前が見にくくなる可能性があるのでなしになった。

 そして次に武器を選択する事に。


 武器売り場へ行きカインはいろんな武器に目もくれずに、目的の物を見つけたのかそれを指を指して武器屋の店員に告げた。

 

 「そこに飾ってある黒刀を見せてくれ」と。

 カインが店員に取ってもらった黒刀は他の剣に比べて少し短めの剣だ。

 カインは店員から受け取った黒刀をゆっくりと黒い鞘から抜き放つ。

 俺は抜かれた黒刀を見て一言「綺麗」と言葉を漏らした。

 その刃は太さが5センチ無いほど細く黒く輝いていたからだ。

 長さは1メートルほどしかないが、それ以上に長くも見えるまさに業物の一品のような気がした。

 俺はその黒刀をカインから受け取り実際に持ってみたが、それほど重くもなくなんとか扱える感じの刀だった。


 「これ素晴らしいと思います…でも、高いんじゃないですか?」

 俺はいかにも一般庶民らしい言葉を発する。


 「ははは、気にする事はない。タツヤを鍛える為の必要経費だ」

 カインはサラリと言ってのけたので武器防具はこれで決まった。

 その後防具の下に着る服もこの世界の冒険者が愛用する皮の素材で作られた上部な服を選択した。


 「それじゃあこれ一式をもらうがいくらになる?」

 カインは店員に向けて問う。


 「全部で60万ジールになります」

 店員は笑顔で答えるがカインの顔は少しだけ引きつってそのままミーニャに顔を向けた。


 「ミーニャ支払いは頼む。貸しといてくれ」

 カインの言葉にミーニャと呼ばれる女性はにこやかに返事をした。


 「ええ、カイン支払いは任させて。貸しとく・・・・から」と。

 ミーニャが支払いをして俺は店内で購入したばかりの防具そして剣を装備した。


 「よしよし、冒険者らしくなったぞ」

 「そうね」

 カインそしてミーニャが俺の格好を見てそんな言葉を掛けてくれた。

 俺は少しだけ恥ずかしかったが心の中ではやっと冒険が始まると期待した。

 

 「次は食料調達だな」

 そう言ってカインが歩き出した時俺は疑問があったのでカインに尋ねた。


 「カインさん達もアイテムボックス…いや、収納魔法具を持っているのですか?」

 カインが俺と同じように指輪をしていなかったので俺は尋ねた。


 「いや、持っていないぞ。俺達はこの魔法の鞄しかないぞ」

 カインはそう言うと腰に引っ掛けてあるウエストポーチを指を指した。

 

 「魔法の鞄?」

 「ああ、タツヤお前は神からその力をさずかったが俺達はそうではない。この世界の人間だ」

 俺は勘違いしていた。

 カインとミーニャも又異世界から来たと思っていたからだ。


 「そうだったんですか。俺と同じだと思っていました」

 「まあそう思うのも無理ないだろうな、神からの言葉をうける存在なんだからな」

 「それで話は戻りますが魔法の鞄とはなんですか?」

 「おお、そうだったな。魔法の鞄とは鞄に重力魔法と空間魔法が施された物だ。この鞄の中に物を入れても重さを感じずに持ち運ぶ事ができ、容量も見た目以上に入るんだ」

 俺はカインの腰にある物を見ていると俺にその鞄を渡してくれた。


 「触ってみてもいいぞ」

 カインに礼をいい俺は魔法の鞄を触ってみた。

 外は何の変哲もない布の鞄だ大きさは横幅40センチ程度高さは20センチ程で、鞄を開ける所はチャックのような感じになっていた(実際のチャックとは少し違う)。


 「開けてもいいですか?」

 俺がカインに聞くと「ああ、いいぜ。ただし覗くだけな」と返事をもらい俺は魔法の鞄を開けてみた。

 正直驚いた。

 鞄の中を覗くとそこにはちょっとした空間が広がっていて、いろんな物が置いてあったからだ。

 そう、まるでミニチュアの人形ハウスを覗いているような感覚だ。


 「ありがとうございます。初めて見ました、すごいですね」

 俺が魔法鞄をカインに返しながら言う。


 「そんな事はないぞ。タツヤが持っているその指輪に比べたら俺達の持っている鞄は足元にも及ばない」

 俺はそう言われ左手の一指し指にはめた指輪を見つめた。

 やはり神から貰った指輪が最強なのかと。

 俺達はその後食料を買い込み街の門まで歩いてきた。

 そうここは俺が最初に潜った門だ(南門と言うらしい)。


 「さあ、ここからが訓練の始まりだ。最初に身体強化を使い森まで走って行く」

 カインの言葉で俺の初めての冒険が始まった。

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