第5話 ご飯と一時帰郷

 俺は高速移動魔道装置、ラファエルを見た後真っすぐに宿屋に向かい『ライラの宿屋』の扉を開け中に入った。


 宿屋と言う意識が高かったせいか建物の中を見た時にあれって?感じに襲われた。

 そう宿屋と言うより食堂と言った方が納得いく作り構えだったからだ。


 「一人ですか?」と見た目中学生ぐらいのショートカットの女の子から声を掛けられた。

 俺は一瞬ドキリとした。

 なんてったって異世界での初めての女子との会話になるからだ。


 「一人です」


 「それではこちらにどうぞ」と小さなテーブルと椅子がある席に案内された。

 そう言えば異世界人はどうゆう言葉で会話をしているのか少し興味があったが、直接の言葉を聞くには神から貰った指輪を外さなくてはならない。

 だが、この指輪は俺の命綱と言っていい代物で俺はこの世界で絶対にこの指輪だけは死守しようと心に誓っていた。

 よって異世界人の生の言語は心の想像だけにしておくことにした。


 俺は椅子に座り周りを見渡すと壁に食事のメニュー表が張ってあるのを発見した。

 それはこの板に直接黒い墨のようなもので書かれたものだ。

 これも異世界語から日本語に訳されているのだが、食事のメニューとしてどうかと言うやくし方がしてあった。


 角牛つのうしのふとももと足裏焼き

 ウサギと麦の混ぜ物

 大耳熊の残虐焼

 などなど


 俺はメニューを見て食べる気が一瞬失せてしまったが、ここまで来て何も注文しないのも寂しいし異世界初食事なので出来れば美味しく珍しい物が食べたいと思った。

 そして名案を思いついたのでそれを実行することにした。


 しばらくすると案内してくれたショートカットの女の子が注文を取りに来たので早速実行に移す事にした。


 「初めてこの街に来たので何かオススメな食事はありますか?」

 我ながらなんて完璧な質問だろうと自画自賛して俺は少女を見つめた。

 少女は人差し指を顎にあて『うーん』と考える仕草をしたあと何かを思いついたのか笑顔で答えた。


 「テキトウセットかな」

 俺はその答えにはっ!?と思い直ぐに聞き返した。


 「そのテキトウセットと言うのはどんな料理なの?」

 「それは、麦とお肉とスープのセットだよ」

 俺は少し引きつりながらもテキトウセットを注文した。

 何の麦で何の肉かもわからないがこれもいい経験と思い椅子に座りじっと待った。

 

 店の中に俺以外には二人づれの客しかいなくしん・・としていた。

 だが俺はある異変に気づいた。

 そう店内が明るいのだ。

 この世界に電柱を見ていないので電気なんて無いのに何故と思いその明るい場所を俺は見た。

 

 丸い皿の上に石のような丸い物が置いてあって、それがまるで蛍光灯のように光っているのだ。

 いや、蛍光灯より透明感のある光と言った方がいいくらい綺麗だ。

 俺はそれを後で近くで観察しようと心に決め食事が来るのを待った。

 そして10分程経った時に料理が運ばれてきた。


 茶色い陶器?だろうか、それにはスープが入っていた。

 中は緑色や赤い野菜が入っていた。


 白いおわんには、茶色い細長い米のような物が入っていて、平たい皿には一口サイズの肉が6個ほど乗っていた。

 食べるものは日本でも見る木のスプーンと刃が2本の木のフォークだ。

 店員は皿を置くとさっさといなくなってしまったので食事にする事にした。


 *

 

 食事を食べた感想は正直旨かった。

 何の肉か野菜かも分からないが充分に満足を得られた。

 俺はまず会計をする事にした。

 俺のアイテムボックスには神から貰った金貨2枚、銀貨10枚、銅貨20枚がある。

 恐らくだが食事だけなら銅貨で足りると思うがわざわざ金貨で払い貨幣を知ろうと考えた。


 食事は800ジールだよと言われたので金貨を1枚出すと、会計に立っていた年の頃は40歳位のおばさんに少し嫌な顔をされた後告げられた。


 「ここはギルドのような大金が動く場所じゃないから銀貨はないのかね?」と。

 金貨は大金か・・。

 銅貨と銀貨でどの程度のレートがこのままでは分からいと思い恥を忍んで聞いて見た。


 「じっ実は田舎から出てきて初めて貨幣を使うので価値が良くわからないので教えてくれますか?」

 うん、我ながら言い質問だ。


 「初めてってその歳で初めてなのかい?ずいぶんと山奥から出て来たんだね。でも、いいわ。食事してくれたから特別に教えてあげるよ」

 俺は心のの中でガッツポーズをし教えを受けた。

 

 銅貨10枚で銀貨1枚で、銀貨10枚で金貨1枚。

 計算しやすくていいな。

 ジールだと銅貨1枚が100ジールで銀貨が1枚で1000ジール金貨1枚が1万ジールで白金貨1枚が10万ジールか…。

 よし頭の片隅に置いておこう。


 俺は直ぐに食事代金の銅貨8枚を支払い宿屋の金額を聞いた。

 泊まりが銀貨5枚で食事をすると1品サービスか。

 日本円に換算しても特に高いって事はないって事で俺はこの宿に1泊する事を決めた。

 俺は宿屋の女将から部屋の鍵をもらい店の奥へと進んだ。


 宿屋は2階もあるようだが俺に当てられた部屋は1階の奥だった。

 鍵を開け部屋にはいると食堂にあったと同じような光る石が部屋をぼんやりと照らし出していた。

 部屋の大きさは畳4枚程度って俺は昔ばあちゃんちで見て知ってるが説明としては不足だ。

 まあ、狭いってことだ。

 部屋の端には動物?魔物?の毛皮がたぶん布団の代わりに置いてあった。

 当然ながら枕はなかった。

 そして驚いたのはこの部屋には窓があったのだ。

 当然ガラスなんてものではく透明の固い素材で外の様子がチラリと分かる程度のものだ。

 特に部屋でやる事がないので俺は異世界初のトイレへと行く事にした。

 場所は部屋に来る時に確認済みだ。

 

 俺は恐る恐るトイレのドアをあけた。

 そこには四角い穴と横に葉っぱが置いてあるだけだった。

 穴の中は当然『闇』が広がっていて穴の中は見えなかった。

 まあ、見えない方がいいような気もするが。

 そんなこんなで異世界初のトイレは無事終了したのだった。


 部屋へと戻り一息ついた俺は今日の出来事を振り返ったりしていた。

 魔物、街、奴隷、高速移動装置…考える事は多そうだが、とりあえず無事だったと言う事だ。

 俺は寝る前に風呂の事を思い出したが予想以上に疲れていたのか直ぐに意識を手放したのだった。

 

 『カーン!カーン!』

 俺は2度の鐘の音で目が覚めた。

 そうこの街は12時と6時に2度、そして3時と9時に1度の鐘がなるのだ。


 俺はかなり深い眠りだったので少し節々が痛いように感じたが、恐らくそれは堅い寝床のセイではないかと思った。

 日本では柔らかい布団だからな。


 それから部屋を出た俺は食堂へとやってきた。

 まだ早い時間だと言うのに席の半分程度が泊り客で埋まっていた。 

 宿屋の朝ご飯はパンとスープだった。

 パンはフランスパンの様に硬いパンでスープはとても薄口のスープだった。

 俺の評価ではイマイチって所だが異世界初なのでこれで満足する。

 朝食後俺は少し早いが宿屋を出立した。

 今日の目的の一つが本当に地球…いや、日本に帰れるのを試すためだ。

 そしてもう一つの目的は日本とこの異世界でどの程度の時間のズレがあるか確認する為だ。

 先ほど宿屋の女将さんに俺が出た今日の日付と時間を覚えておいてもらった。

 最初はなんで?とかいろいろ言っていたが金を出し頼み込むとすぐに了承を得られた。

 検証にはやはりお金だなと(笑)。

  

 俺は宿屋の裏手の人の目が無い所で左手の一指し指の指輪に意識を集中し「開けゴマ」と唱えた。

 すると指輪より黒い煙が出て目の前に扉のような形で停滞した。

 当然扉と言ってもドアノブのようなものはない。

 俺は恐る恐る足を一歩その煙の中へ差し入れそして体を入れた。

 その瞬間に見覚えのある石段が目の前にあった。

 そうこの石段は俺が最初に降りて来た石段だ。

 俺はさっと石段を駆け上がった。

 見慣れた部屋そして、えっ?なんで神様がいるの?

 そう石段を上がった先に神が立っていた。

 そして唐突に声が掛かった。


 「どうだったかな?最初の異世界は」

 その言葉と同時に神との会話が始まった。


 俺は異世界で見た事や聞いた事など全てを神に話した。

 全てといってもたいした事ないので話自体は10分もかからずに終わった。

 そして最後に戻った理由を説明した。


 「なるほど、ところで話が変わるがよいか?」

 俺は頷き神の言葉を待った。


 「異世界の門は永遠ではないと言う事を伝えていなかった。なぜ永遠ではないかと言うと異世界へ行く時の門の力のみなもとは、異世界の神の力が根源だからだ。同様に帰る時の力の根源は私だ」

 なんとなくだが神が言おうとしている事がわかったので返答をする。


 「異世界の神が俺を必要としなくなった時に門は閉じるのですね」

 「そうゆう考えであっておる。神の勝手な行いだ嫌になっか?」


 まあ、不必要な物を自分の世界に入れる必要はないから当然か。

 でも、嫌にはなっていない。

 俺は異世界に行くと決めた時から変わると自分で決めたのだ。

 最悪、異世界の神から強制送還されるまでとまではいかないが、人生に一度…いや地球人で一人しか味わえない事をここで辞めるなんてありえないでしょ。

 そして俺は神に目を合わせ心を伝えた。


 「嫌になんてなりませんよ。今ここからがスタートのような気がします」

 神は初めて『ふっ』と笑った後言葉を続けた。


 「流石私が見込んだだけの男よ。名をまだ聞いていなかったな。名を何と言う?」

 俺は迷った。

 本名は大石竜也おおいしりゅうやだ。

 しかし、異世界での新たな名前はやっぱりあれだよな。


 「タツヤです」と。


 「うむ、タツヤよ苦難な道のりがあると思うが冒険を楽しんでくれ。それと近い内に異世界の神がタツヤの前に現れると思うが、思うところがあるならその思いをぶつけても構わんぞ」

 そう言うと神はニヤリと笑い。


 「さあ、この世界に用事はない。異世界に行って暴れてこい!」

 「はい、行ってきます」


 そして俺は魔法陣の石段より再度異世界へと舞い戻った。

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