第4話 俺の始まりの街キール

 俺は人々に紛れながら街の門をくぐった。

 初めて見る異世界人そして街並み、俺の心は弾んでいた。

 当然目に付くのが異世界人だが確かに髪の毛の色や肌色がいろいろいるが見た目は地球人と変わらない気がした。

 しかし当然それ以外の人種が居たことに俺の目は大きく開かれた。

 そう、夢にまで見た獣人だ。

 

 けものが立っているとかそうゆう風ではなく、けものの特徴が人間についているといった感じだ。

 まず最初に目に入った獣人はウサギ?ではないだろうか。

 頭のうえから長い耳が2本生えている女性が俺の目の前を荷物を抱えて歩いていた。

 髪の毛は茶色で長い為、本来人間の耳辺りは隠れていて見えないが恐らくは頭の上が耳だろうと予想される。


 次に目についたのがトラ?ヒョウ人間だ。

 頭の上には小さな耳が付いていて、なんと尻からしっぽが生えているのだ。

 尻尾は黄色と黒のまだら模様となっている鎧を着た獣人だ。

 腰に剣を指しているので冒険者?ではないかと思われる。


 そのほかにもいろんな獣人がいるがこんな道の中央で立ち止まっていると迷惑になりそうなので、俺は人の流れにそって門から真っすぐに歩いた。


 しばらくすると両サイドに出店らしき店舗がポツポツと出てきた。

 何かを焼く店や鞄?とか服などを売る店が出て来た。


 その時だった、俺が店を見ていると突然街中に鐘の音が鳴り響いた。

 鐘の音は『カーン!カーン!』と2度鳴っただけだったが。

 なんていうか乾いた鐘の音が鳴り響いた。


 俺はその鐘の音を聞きつつ街を歩いていくとある店屋の前に行列が出来ていた。

 その店には看板らしき物が立てかけて在り『ライラの宿屋』と書かれていた。

 俺はどうして宿屋に行列が出来ているのか不思議だったが、その店から出る匂いで理解した。

 

 その店からはとても旨そうな肉の焼ける匂いがここら一帯を支配しているように漂っていたからだ。

 そして俺は今の鐘が昼の合図だったのではないかと思った。


 俺は少し道の端で止まり考えた。

 さあ、今からどうしようかと。

 冒険となると冒険者ギルドのようなものが存在するのか、それとも又別の何かがあるのか。

 俺には情報をくれる人がまったくいない事に、ここまできてからだが気づいてしまった。

 

 神様~俺、どうしよう。

 心の中で助けを呼んだがそんなの現れる訳がないので、歩いている人に声を掛けようと思ったが直ぐにあきらめた。

 俺は日本でもそうだがナンパのような人に声などを掛けた事がないからだ。

 そんなの出来る位ならもっち違う人生を歩んでいたような気がする。


 俺は考えそして結論を出した。

 日本へ帰るには神様いわく1~2日程度滞在して力を貯める必要があると言っていたので、俺はこの街を見学した後にこの場所へ戻り宿をとろうと考えた。


 俺が持っている金で足りるかわからないが、それは聞いて見るしかない。

 まずこの異世界を知って慣れることから始めないとの結論だ。


 俺はこの地を中心にまず右の方へ向かう事にした。

 なぜ右かと言うと真っすぐ言った先は高台のように道が登っていて、その先の方ではとても大きな屋敷があったからだ。まあだいたいそうゆう場所には偉い人が住んでいると言うのが常識で、そうゆう場所には近づかない方が吉だからだ。


 という事で俺は進路を右に向けて歩き出した。


 右方向は特に身の危険を感じる場所ではなかった。

 さらに言うなれば店もなく、ただ住宅がずーと並んでいる地域だったからだ。

 住宅と言っても日本のような住宅ではなく、ヨーロッパ風?なのか四角い建物が多いのが印象だ。

 日本だと屋根に傾斜がついているがそう言った感じではない、1階部分だけがある平屋な感じだ。

 俺は少し歩いた所でこれ以上歩いても変化がないと思い先ほどの宿屋の所まで引き返してきた。


 そして俺は宿屋から見て左方向へと足を向けた。

 数分も歩いて直ぐに先ほどとまったく違う事に気づいた。


 まず、空気が少しよどんでいると言った言葉が正しいのかわからないが、立っている建物も先ほどと違いあきらかにボロい建物が点々と建っていた。

 俺は直ぐにここは貧民街ではないかと思った。

 

 地球でも海外にはこういった似たような場所を映像としてだが見た事があったからだ。だけど、まだ身の危険があると言う印象がなかったので歩みを進めた。


 すれ違う住民の服は奥に行くにつれ段々と布の質が落ちているのがわかり、そして顔や腕等に汚れが目立つ人々が多くなってきた。

 俺はこれ以上進むのは危ないのでそろそろ引き返そうかと思った所に正面に、ここら辺の建物とは異質の建物が目の前に現れた。


 その建物には一つの看板が付いていた。

 『奴隷館』と。


 なんとなくあると予想はしていたが本当にあると正直目をそむけたくなった。

 神が言っていた虐げられている人々…その一角に当たるのではないかと俺は思った。

 しかし異世界に来たばっかりの俺にはどうする事も出来ない。

 例え金で買ったとしてもその後どうやって面倒を見るのか、まったく俺に未来のビジョンが浮かばなかった。

 俺はここまでだと思い引き返そうとした時に後ろからゴトゴトと音がしたので振り返った。


 そこで俺は初めてこの異世界で馬車と言う物を見た。

 いや、馬車と言っていいのかわからないがとりあえず馬車と言っておこう。


 荷車を引いているのが日本の動物園にいるカバに似た巨大な四本脚の生物なのだ。

 カバと言ったが別にカバのように口が大きい訳ではなく、見える口のサイズは体と違い小さい牛程度だ。

 口の小さなカバこれが正解だ。


 そのカバ車が荷車を引いて走ってきたので俺は道の端に避けた。

 俺はゆっくりと通り過ぎる荷馬車を見ていると荷馬車のホロの後ろがあいていて、その中には男女いろいろな種族の者が乗っているのが分かった。

 そしてそのカバ車はそのままあの大きな屋敷の『奴隷館』へと入って行った。

  

 俺はすぐさま建物に背を向け北方向に足を向けた。

 俺は歩きながら先ほど見た荷馬車の中の光景が鮮明に残っていた。   

 荷馬車の中には俺の目からみて明らかに子供と呼ばれるような小さな子までもが乗っていたからだ。

 この世界でどうして奴隷なんてなるのかも現時点で俺にはわからない。

 俺の住む世界では奴隷はかなり昔になくなったとされている。

 しかし、なくなったと言う事は昔はあったと言う事の証明だ。


 まず俺は人をあわれみで見る前に、もっともっと深くこの異世界を知る必要があると感じた。

 そんな緋想ひそうな思いで歩いていると腹の虫が音を立ててなった。

 そうだな、まずは腹を満たしてから考えようと気持ちを切り替え宿屋へと足を向けた。


 宿屋に着くころに『カーン!』と1度鐘の音が鳴った。

 俺は鐘の音を聞き日本で言うと3時って所か。

 宿屋には先ほどと言っても3時間程前に見た人の行列は綺麗になくなっていて宿屋の前は整然としていた。

 さすがに3時に宿屋は早いと思い腹は少し減っていたが、俺は最後に残った宿屋から真っすの方向に行く事にした。

 この先は高台のように道がのぼっていて、その先の方ではとても大きな屋敷があるので敬遠していたが、いつかはいく予定なので俺は少し引き締め歩き出した。

 

 少し歩いて行くと予定通り道はのぼり坂になっていて、下からは見えなかった物が俺の目の前に現れた。

 そこは大きな広場になってしてその中央辺りにゲートのような物が設けてあり、まるで飛行機に乗る時の搭乗ゲートのようななっていた。そしてその周りには警備の兵士が常駐する姿が見られた。

 俺はゲートの先が気になったのでゲートの横へ周り込み覗いてみた。

 そこには10人程度が立てる魔法陣が描かれていてその周りに柱が囲むように配置されていた。

 しかもそれが3か所あった。

 俺の心は天にも昇るよう好奇心が湧いてきた。

 そんな時に後ろから声を掛けられた。


 「そこの青年、あまり近寄らんでくれ」

 俺は声を掛けられた後ろに振り向くとそこには白髪に白い口髭を生やした兵士と、少しやる気のなさそうな黒髪のおっさん兵士が立っていた。

 

 「ごっごめんなさいっ。ちょっと何があるか興味があったので」

 俺は咄嗟とっさに謝罪をした。


 「いやいや、謝らんでいいぞ。わし達はこのラファエルの警備をしているもんで、悪さをしないなら問題ないぞ」

 白髪の兵士がそんな言葉を掛けてくれた。


 「悪さなんてとんでもない、俺この街初めてでそれで・・・」

 俺が言葉に詰まると白髪の兵士が少し俺との間を詰めて来た。


 「ラファエルの事が知りたいんじゃな?」

 「ええ、それはもちろん知りたいです」

 俺は自分の目がキラキラしているのが分かるくらいハッキリと返答をした。

 すると白髪の兵士はもう一人の兵士になにやら貨幣を渡し耳元で話すと兵士はこの場を去って行った。

 白髪の兵士は俺の隣に来ると唐突に話だした。


 「わしはなこのラファエルの警護をして30年の大ベテランじゃ。そして誰よりもこのラファエルの事を知っていると自負しておる。このラファエルは、高速移動魔道装置だ。簡単に言うと都市と都市の間を一瞬で移動出来る魔道装置だ」

 俺はその瞬間に頭に電撃が走ったように驚いた。

 俺はこの異世界は俺のいた地球より文明も何もかも下だと思っていた。

 だけど、魔道具と言う特殊な物を使う事によって俺のいた地球より抜きに出ている部分がある事に驚いた。


 「その分だとだいぶ驚いたようじゃの」

 「ええ、もの凄くビックリしました」

 「そうかそうか、ならばこのラファエルが出来た昔話でもしようか?」

 「是非」

 そしてラファエルの昔話が始まった。


 「このラファエルは、魔術師ラルフ・バーン導師とその妻の魔術師エルリー・シモン導師によっておよそ千年前に、自分たちの全財産を投じて作られたと言われている。その額は王都の一等地に城が建つ金額と言われている。なぜ導師達がこのような物を作ったかは明らかにはしていないが導師達が城で王にこう説明したと残されておる。

 『自分達は旅が好きでとうとう全財産を投じてこんな物を作ってしまった。しかし自分達で管理するには少し荷が重すぎるので私達はこの高速移動魔道装置の権利を全て破棄します。破棄する代わりに3つの条件を飲んで欲しい。ひとつ目は誰にでも公平に使用できるようにしてほしい。当然だが金銭は取ってかまわない。ふたつ目は絶対に戦争の道具にしない。移動手段としても使用しない。そしてみっつ目は私と妻の名前から取ったラファエルと言う名を更生に伝えて欲しい』

 それが導師達からの願い…いや条件だったのだ。

 一つ目と二つ目は分かるが三つ目の条件だけが皆は首を傾げた。

 名前なんぞ何でもいいのではないかと。

 どうせ残すなら二人の名前を残すのが普通の考えじゃないかと。

 そしてある人がこう証言した。

 導師達の間には一人の男の子がいた。その子は二人の遺伝子を受け継ぎ小さいころから魔道に優れていた。そしてその子が12歳の時に世界でも有数の魔道の学び舎へ通わせることになった。しかしその学び舎までの道のりは馬を使ってもかなりの日数が必要とされた。当然導師達は腕の立つ傭兵を雇い護衛をさせた。だが運がなかったのかのぉ~その年は稀に見る災害やわざわいが多い年で導師の子供は学び舎に着く前に魔物の餌食となった。その子供の名はラファエルだったと言われている。

 導師達は自分達のような境遇きょうぐうを二度と出したくない事と、自分達がはぐくんだ命の名前を未来へ残したかったのではないかと。


 ・・・。


 いやいや、こんな老人の昔話に若者の足を止めてすまんかったな」

 「いえ、とんでもない」

 「旅は安全にな。じゃあ」

 白髪の兵士はそれだけ言うと人ごみの中へと足を進めた。


 俺は白髪の兵士の昔話を聞いて無償に悔しいと言う思いに襲われた。

 魔物の脅威さえなければ魔道装置は生まれなかったかもしれないが導師達は平和に過ごしたのではないか。

 ちから…俺に魔物を倒す力があれば今でも苦しむ人々を救う事が出来るのではないか。

 俺は決心する。

 人々を助ける第一歩は魔物を倒す力を得ることからだと。


 俺は高速移動魔道装置、ラファエルに背を向け宿屋へと歩き出した。

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