第3話 初めての街

 俺はゆっくりと部屋の片隅の魔法陣の中央に位置する石段を一歩ずつ降りる。

 10段位だろうか俺の身長程の段数を降りると既に上に見える俺の部屋は闇に覆われていた。

 そして次に踏み出そうとした時に違和感を感じた。

 そう、次の段が無い事に気づいたのだ。

 そして目が闇に慣れたのか目の前に黒い壁のような物が存在しているような感じがした。

 俺はそっと右手を伸ばすとその右手はすぅーと闇に溶け込むような感じで見えなるくなった。

 ああ、ここがこの地球と異世界の境界線ではないかと直感する。

 そして、俺は勇気を振り絞り闇へと体を入れた。


 てっきり闇の中を歩くと思ったがたった一歩踏み出しただけで目の前の景色は変化した。

 まず最初に気づいたのが靴の下が石ではなく砂だった事に直ぐに気づいた。

 これは感触ではく『ガサリ』と言う砂どくどくの音で気づいた。

 そして目の前距離にして10メートルあるかないかの場所が、まるで太陽が当たっているかのように輝いていた。

 俺はゆっくりと歩みを進める。

 そして闇の中から光の下へと俺は足を進めた。


 最初に俺の目に飛び込んできたのは眼下に広がる緑の大地だった。

 ここが高台になっていたのか俺の眼下には草原が広がり、そしてその先に壁で囲われた街らしき物が見えた。

 俺は感激していた。

 都会に住んでいればこんな景色は旅行でも行かない限りおがめない景色だからだ。

 ここからか、ここからが俺の異世界の冒険が始まるんだ。

 俺はそっと拳に力を入れていた。

 ただ、一つだけ違和感を感じた。

 俺ってこんなに目が良かったかなと。

 最近携帯のいじり過ぎで遠くを見る事がなくなったからか目が悪くなっていたような感じがしたからだ。

 俺はふと左手の人差し指にはめている指輪を見つめ気づいた。

 ああ、これも神から受けた恩恵の一つじゃないかと。

 だが、そんな俺の感動は一つの音で消し飛んだ。


 そう、俺の真後ろから『ガサリ!』と大きな音がしたからだ。

 そしてその音と共に俺に天より降り注いでいた光がなくなり陰がしたのだ。 

 俺の体は一瞬で硬直した。

 俺は直ぐに後ろを振り向く事が出来ずにとりあえず俺は2歩程度足を進めると又後ろで『ガサリ』と音がした。

 俺は大きな深呼吸をしたあとゆっくりと体ごと後ろに顔を向けた。


 俺はその音の正体を見た瞬間に大声を上げたくなったが、自らの両手で口を塞いでそれを防いだ。

 ここで大声を出せばかならず攻撃されるような気がしたから。

 なぜ、こんな状況で冷静でいられるかと言うと、異世界には魔物がいると神が言っていたのでこんな事があるのではないかと少しだけだが予想していたからだ。


 俺はゆっくりと影の正体を見る為に顔を上にあげた。

 その体が黒光りしていて硬い体に覆われていた。

 そいつの顔と思われる思われる所は俺の顔より少し上に位置しており、眼と思わる場所は両サイドに黒く輝いていて、眼の間には黒光りする宝石の様な物が輝いていて、頭のサイドからは触覚のような物が左右にウヨウヨと動いていた。

 そう、俺の目の前に現れたのは巨大な黒ありのよな感じの怪物だった。

 そして何より恐怖したのが頭の正面についている巨大な口…いや、顎だった。

 その牙は大きくそして鋭く鈍い光を漂わせていた。


 俺は瞬時にこの怪物からどのように逃げようか考えていた。

 俺は一呼吸した後一歩ずつゆっくりと後ろに下がる。

 俺が3歩ほど下がった所で巨大な黒ありの脚が一歩俺の方へ動く。

 俺は息を飲んでその光景を見つめる。

 そして『ああ、俺の異世界人生はここで終了か』と覚悟をするが、神はいきなり俺を殺す場所に送るのかと思考する。

 

 そうこの怪物が俺を襲うなら既に襲っているんじゃないかと俺は考える。

 だから、俺は一歩ずつゆっくりと後ろに下がる。

 そして俺が10歩ほど下がった所で巨大な黒ありは俺から見て左方向に頭を向け歩き出した。

 俺はその光景を見た瞬間に助かったと確信した。

 だが、俺が街の方向へ向けて少し歩きだした所で俺が出て来た穴からあの巨大な黒ありが次々と出て来る光景を俺は目にした。

 そして俺はそこから全力で掛け出したのだった。


 俺は走る事10分息を切らして立ち止まり俺が出て来た穴を確認したが、穴は小さく見えるだけで特に変化はなかった。

 俺は大きく深呼吸をして息を整えた。

 そこでも俺は自分への変化に気づいた。

 そう、俺は10分程の間全力で疾走したにも関わらずわずか数分もたずに俺の呼吸は整えられた。

 そして俺は又も自分の左手の一刺し指にはめてある指輪を見つめた。

 そして俺は確信した。

 俺の身体能力はこの神から貰った指輪で強化されているんだと。


 俺の先おおよそだが1キロも満たない場所に穴から最初に見た街の外壁が見えた。

 俺は一度落ち着きまず周りをゆっくりと見渡した。

 足元に生えているのは草だが、地球いや日本で生えている草とそう見分けがつかないほど類似していた。

 そして上を見上げた。

 そこには太陽ではなく光り輝く惑星が浮かんでいた大きいのと少し小さい二つが。

 上を見上げるだけでここが異世界だと実感される風景だ。

 地球では太陽を見ると目が痛くなるがこの光る惑星を見ても余り目が痛くならないのが特徴だ。

 俺は長袖のシャツをめくり光に当てて見るが太陽のように余り熱いと言う感覚は感じられない。

 地面いや俺がいる空間がやや暖かいと言うのが正確な答えなのかもしれない。

 気温は温度計がないが20度はないかなと言った所だろう。

 とりあえず風景に関してはこのくらいにして本題に入ることとする。

 

 俺は街に着く前に神からもらった指輪に付いている能力そうアイテムボックスを確認する事にした。

 だが俺は神からは『収納魔法が付いている』とだけ聞いているのでどうやって使えばいい分からない。

 とりあえず俺は左手の一指し指にはめてある指輪に意識を集中した。

 その瞬間に頭にアイテムの一覧だろうかその情報が流れ込んできた。

 それはまるで店で貰うレシートの一覧のように。

 アイテムは以下の通りだった。


 金貨2枚、銀貨10枚、銅貨20枚、回復薬5個


 って、これだけかよ!

 俺は独り言のように叫んでいた。

 まあ、確かに金さえあればある程度なんとかなると思うがそれでも金と回復薬って・・・。

 俺は指輪から意識を外して目の前の街へと目線を向けた。

 それから俺は街へと歩きながらいろいろ考えた。

 そう言えば異世界と言えばステータスなんかがあるんじゃないかと思い恥ずかしいが叫んでみた。

 

 「ステータス、オープン」


 …。


 まあ当然ですが何も起こらなかった。

 だいたいゲームの世界じゃないんだから現実的にステータスなんてあるわけないんだ。

 俺はそれでも昔見た異世界のアニメや小説を思い出していた。

 しかし思い出すのはスキルやチート能力ばかりで何も浮かんでは来なかった。

 そんな事を考えながら歩いていると目の前に街らしき外壁が目の前に現れ、その先に入り口らしき穴が開いていた。

 

 街の入り口らしき所からは人々が入って行く姿が見えたが出て行く姿は見られなかった。

 俺は出て行く人が見えれば街の様子を聞いて見ようと思ったがその当ては外れ街に入る人だけだった。


 俺が入り口付近に近づくと門番だろうか頭の先から足の先まで鎧のような鉄の服を着て、右手にはヤリのような棒を持った兵士らしき人物が両サイドに立っていた。

 俺は人数は多くないが門をくぐって行く人々を眺めていた。

 

 こうゆう場合は検査とかいろいろあるんじゃないかと思って見ていたが、特にそうゆう様子はなく皆素通りしていくからだ。

 俺は一度深呼吸し覚悟を決めて門へと歩き出した。


 心臓はバクバクしているが俺はゆっくりと足を進める。

 ちょうど門の所を歩いている時に一人の兵士からジロリと厳しい目線を向けられたが、その目は特に何事もなく又正面へと向けられた。

 俺は歩きながら人を監視している訳じゃないだと思いながら歩いていると、後ろから一人の兵士が走って来て俺に鋭い目を向けた兵士の正面で止まり大声を上げた。


 「西の森の入り口にてワーウルフの目撃情報が入りました!」

 「それは本当か!」

 「はい、冒険者からの情報です」

 「うむ、了解した。お前はここの門を警護しろ。俺は宿舎に行きこの事を至急伝達する」

 「はい!」

 そして門を守っていた男は後ろの大きな館へと走って行った。


 俺は思った。

 この世界では人より神が言っていた魔物の脅威の方が優先されるんだとこの時改めて記憶に刻んだ。

 そして俺は初めての街の門をくぐったのだった。

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