第2話 いざ、異世界へ

 俺はハッキリと神へ異世界へ行くと言う意思を伝えた瞬間に、神は両目をさらに大きく明け俺を見つめ言葉を発した。


 「本当に良いんだな」

 俺は神の再度の問いに頷いて見せた。


 「本来なら直ぐにと言いたい所だが、お前さんは少し体調がすぐれないと見える」

 俺は神に言われ何の事かと思ったが、直ぐにこの公園に来る前に自分が何をしていたか思い出した。

 今日は会社の歓送迎会で居酒屋で結構たくさんの酒を飲んだったんだ。


 「明日の朝、再度お主の前に姿を現す。その時にまた話をしよう」

 神の言葉が終わると同時にまばゆい光が目の前を覆いそして、公園の静寂せいじゃくが俺の目の前に戻ってきた。

 そして公園の歩道にたたずむ俺の横を夜の散歩する人が通り過ぎて行き現実へと戻った事を確認した。

 もしかしてかなり酒が回って夢と現実が分からなくなったのか…しばしそんな事を考えながら自宅へ向けて俺は夜の公園を歩き出した。


 夜の公園を俺は自宅の一人暮らしのアパートへ向け歩きながら今先ほど起こった事を考えていた。

 夢…いや、まぼろしだとしても俺はその中で会話をしていた。

 普通、まぼろしは目だけじゃないかと思うんだが、一旦そうゆう屁理屈へりくつは置いといて明日の朝実際に神が来たら俺は異世界に行くのか?

 今になってあの時の判断が正常なものだったかと少し不安になってきた。

 そんな自問自答を繰り返しながら10分程で我がマイホームに到着した。


 俺のマイホームは築12年の2階建て木造アパートだ。

 鉄の階段を上がり誰も居ない部屋へと鍵を開けて入った。

 室内は2DKで6畳の部屋が二つ、1部屋は寝室にして後は生活スペースのリビングとしている。

 俺は疲れを癒すようにどっさりとリビングのソファーへと体を倒れさせた。

 目を少し閉じると神と会った光景がフラッシュバックされる。

 そしてハッと目を開け起き上がった。

 そうだ、こんなグダグダしている場合ではない。

 あれが現実だったなら明日の朝、神は又俺の前に現れるはずだ。

 それまでに俺は自分の体調を整え心の準備をしなくてはならないと思った。

 俺は着ていたスーツを脱いでまずシャワーを浴び体を綺麗にした。

 シャワーから出た所で異世界への準備について考えた。

 はて、何を準備したらいいのだろうか?

 ・・・。

 結論として不明だ。

 まあ、とりあえず体調を整えろと神から言われていたよな気がしたから俺は眠る事にした。

 俺が布団にはったのは23時頃だったが結局寝つけたのは深夜の1時を過ぎてからだった。

 

 翌朝俺は携帯の目覚ましもなしに7時頃にハッと目覚めた。

 もう朝が来てしまったというほど眠気もなく目覚めた。

 昨日飲んだ酒はすっかり俺の体内から消えていて快適な朝だ。

 リビングのカーテンを開けると眩しい太陽の光が目に飛び込んできた。

 

 よし!準備しよう!

 俺はパンをトースターで焼きその上にたっぷりとマーガリンを塗り、ホットコーヒーと共に朝食を取った。

 まず何事にも腹を満たしてからと言うのが俺の何かをやる前の儀式だからだ。

 俺はその後顔を洗いさっぱりてから異世界へ着ていく服を考えた。


 まず、目立つ服は当然NGだ。

 よって下は紺色のジーンズにし上着は暑いのか寒いのか分からないので、中に半袖Tシャツを着てその上に長袖のシャツを着る万能スタイルで服装を決めた。

 そんな事をしていると時刻は朝の9時を迎えようとしていた時に異変が起きた。


 俺のリビングに眩い光が輝く。

 そしてその中から昨日見た神が現れた。

 俺は神が現れた瞬間に『ああ、あれは夢や幻ではなく現実だったんだ』と実感した。


 光から現れた神は俺の顔を見て言葉を発した。


 「ほう、準備をしていたようだ。ならばさっそく話をしようか」

 そして俺と神の話合いが始まった。


 俺は立って話すのがやりにくいと思いリビングのテーブルに神と対面で座り話を始めた。


 「再度聞くが異世界へ行く事に依存はないか?」

 再度の神からの問いに俺は緊張しながらもコクリと頷いた。

 神は俺の頷きを肯定とみなして話を続ける。


 「まず最初にお主に渡すものがある」

 神はそういうと銀色の指輪をテーブルの上に置いた。

 銀色の指輪は特に光るとかではなく、どちらかというと少しくすんだ色の指輪だ。


 「この指輪は異なる世界…いや、お主の言葉の異世界の神から借り受けた指輪だ。その指輪にこの世界と異世界を行き来できる能力をほどこした」

 俺は神の言葉を聞きながらじっと指輪を見つめる。


 「そしてまず一番最初に異世界からこの世界へと帰る時に使用する言葉を決めようと思う」

 なんとなくその言葉の意味を俺は理解した。

 ようするに帰還魔法みたいなものじゃないかと思った。


 「帰る時に用いる言葉は普段お主が使わないような言葉がいいのだがどのような言葉が良いか?」

 俺はしばし悩んだ。

 俺は昔みた異世界アニメや漫画なんかを考えたがいい言葉が浮かんでこなかった。 

 だけど、一つだけ変な言葉を思い出した。

 それはおとぎ話で出てくるような変な言葉だった事を思い出した。

 最後のゴマとは何の意味か分からないがこれなら普段使わない言葉だと思い俺は言葉を発した。


 「それじゃあ、開けゴマにします」

 神はその言葉を聞き指輪を持ち俺の方へ向け言葉を発する。


 「今の言葉をこの指輪に向け発せよ」

 そして俺は少し声量を上げはっする。

 開けゴマと。


 その瞬間に一瞬だけ指輪が光り元の色合いへと戻った。

 そして神はそのまま指輪を俺の方へ差し出してきたので俺は右手でそっと指輪を受け取った。

 神は話を続ける。


 「私からお主へ与える力は行き来できる事だけだが、その指輪には既に異世界の神の力をやどしてある」

 キター!

 ここからが本題だ。そもそも何の力もなく異世界に行ったら間違いなく死ぬだけだしな。

 俺はつばをゴクリと飲み込み指輪から神へと目線を上げる。


 「まず言葉を変換する力が入れてある。それはお主の目、耳、そして口だ。異世界には数種類の言語があるらしい。その言葉をお主の世界の言葉へと変換する事が出来る。ただし、文字を書く事だけは出来ない為、もし文字を書きたければ自分で学習する必要がある」

 これはありがたいと言うよりこの能力がないと何も出来ないからな。

 でも文字を書く事なんてあるのか?

 まあ、その辺は臨機応変に行こう。


 「次にお主が摂取せっしゅする物に対して体の中に高レベルの防御が張られる。これは世界が違う為に体に取り入れる酸素や水、食料から体を守る力だ。ただ、高レベルと言っても完璧ではない。その辺はよく考えて行動するように」

 これはある程度の毒とか細菌から体を守ってくれると言うやつか。

 やっぱり健康が一番ってやつか。


 「次に指輪には収納魔法が付いている」

 よし!アイテムボックスってやつだな。


 「既に異世界の神よりお主に与える物が入っているので異世界で確認してほしい」

 異世界で確認と言うとこの世界はでやっぱり能力は使えないのか…ちょっと残念。

 でも、もしかしたらチート級の武器とか入ってるかもしれないしな後でのお楽しみと行こう。

 

 「あと細々とした事を異世界の神が言っていたがそこら辺は自分で確認をする事だ」

 おい!

 流石にそれはないでしょ。

 俺は直ぐに声を上げた。


 「ちょっと自分で確認って、それは無責任じゃないんですか?」

 俺の声に神は少しだけ寂し気な目を向けて話出した。


 「異世界に行くと言う事は冒険をしに行くと言う事だ。お主は私達が用意したレールに考えもしないで歩いて行く事がお主にとって人生の時間を使う事に値する事か?」

 俺は神の言葉を聞きさっきまで高ぶった感情が一瞬で失せた。

 確かに人を助けると言う目的ではあるが、それは俺が出来る範囲の事で強制ではない。

 そして何もかも準備された事をやるならそれはただの作業に過ぎなくなる。

 そうだ、俺が異世界に行くと決めたのは今とは違う道じゃなく、違う世界の道を見たいからだ。

 俺は興奮やドキドキを求めているからそう決めたんだった。

 

 「ごめんなさい神様。今俺が言った言葉は訂正します」

 神は俺の言葉を聞きコクリと頷き口を開く。


 「時間で思い出しがお主がこの世界を離れて戻って来てもこの世界の時間は1秒も進まぬが、お主が異世界へ行っている間お主の人生の時間は流れているからそれだけは頭に入れておいてくれ」

 「ようするに俺の人生の時間は1秒たりとも止まらないと言う事ですね」

 「その通り」

 俺は考える。

 俺は今25歳。

 異世界の旅がどの程度になるか分からないが、数日や数か月なんてレベルで済むはずがない。

 さっき神が言った人生の時間を使う意味を考えされた。

 俺は思うああもう少し俺の人生が長ければと…。

 俺の表情を見たのかは定かではないが神が独り言の様に話し出した。


 「異世界の神が独り言を言っていたな。なんでも森深くに住む耳長族みみながぞくと言う種族自体は短命のはずだが、そやつらが作って摂取している物によって数倍もの寿命を獲得しているらしい」

 ああ、そうか、そうゆう裏ワザが隠されていた訳か。

 それこそまさに冒険の醍醐味だいごみってやつじゃないか!

 俺はワクワクしてきた。

 それは俺が異世界で使った時間を全て無くす…いや、プラスに出来るだけの力があるかもしれない。

 俺がやる気を見せたのか分かったのか神は立ち上がり俺を見て言葉を放つ。


 「さあ、指輪をつけるが良い」

 俺も立ち上がり右手で指輪を持っていたのでそのまま左手の迷ったが一刺し指に指輪をはめた。

 指輪をはめたが正直指輪をしている感覚はほとんどないほど軽かった。

 俺が指輪を付けると同時に神はリビングの端に移動し持っていた杖で床をそっとついた。

 その瞬間に小さな魔法陣とその中央に石の階段が現れた。

 

 「これが異世界の入り口だ。その指輪を付けていればいつでも入る事が出来る。指輪を外せば魔法陣や階段は見えなくなるので生活には問題ない」

 俺は恐る恐る魔法陣へと近づく。

 魔法陣は眩しいほどではないが輝いているが、魔法陣の中央に位置する石の階段の奥は闇に覆われていた。

 俺はゆっくり確認するように石段へ歩み寄ろうとした時に神から言葉を掛けられた。


 「靴は履いて言った方が安全だぞ」

 俺は自分が自分の部屋の中に居る事を忘れていた。

 そして俺は玄関から履いていく予定だったスニーカーを魔法陣の所まで持って来て履いた。

 

 「異世界は危険も多いが珍しい物もたくさんある。身の安全を第一に楽しむのだぞ」

 神のニッコリとした初めての笑顔を見た俺は元気よく返事をする。


 「はい!楽しんで行ってきます!」

 そして俺はゆっくりと石段を下りるのだった。

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