幕間

040 早乙女紬

 成績優秀。容姿端麗。仙姿玉質。図書委員。それがわたし。


 うん。四字熟語を並べるだけで、わたしがさぞいいものに思えてくる。いや、いいものだ。さぞかし両親も誇らしいと思う。

 

 正直、わたしは周囲に愛されて育った自覚がある。甘やかされて、と言い換えてもいい。で、その結果、どうなったか。こうなったわけだ。


 成績は学年順位一桁。交友関係は広く、後輩からの信頼も厚い。規範を犯すことなんてもってのほか、誰がどう見ても規律正しい模範的な生徒である。


 図書委員長という役割も難なくこなし、司書の先生から受けた仕事も、その日のうちに必ず片付ける。し、わたしのポリシーとして、「言われたこと+1」の仕事をして帰ることに決めている。例えば、返却作業+窓の清掃、とかね。


 だから、わたしは、とにかく人望がある。自分で言うのも恥ずかしいけど。


 甘やかされて育つと傲慢な人格になる、というのが世間に蔓延る一般的なイメージかもしれないが、実際は真逆だ。いや、実際は、というか、わたしのケースでは、だな。正確に言えば。


 愛された分だけ、期待にこたえたいと努力する。


 そして、愛された分だけ他人を愛すようになる。


 金は天下の周り物、ということわざがあるが、たぶん愛も同様なのだ。人から愛されたら、人を愛さずにいられない。そうして愛は人と人の間を渡って、この世界を豊かにしていくのだ。


 ま、これはあくまで持論。けれど、真理のような気がしている。


 そういうわけで、だ。

 いま、わたしは、猛烈に愛している人がいる。


 それは、


「紗季ちゃんすこすこのすこ~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! は? ありえん尊いんだけど。生徒会長という厳格な立場でありながら、ファッションセンスがないというギャップがたまらん。で、裏ではアイドルでしょ? はあ? 紗季ちゃんしか勝たんが? この子推さんやつおる? いねぇよなあ?」


 何を隠そう。ソシャゲ「アイドリッシュ・ブライド(通称:アイブラ)」のキャラクター、赤石紗季たんのことである。


「紗季の説教、気持ち良すぎだろ! わたしのことも叱ってぇ! え? は? フェスの星5紗季たん欲しすぎる。正直、水着ポニテ紗季は犯罪です。重課金教唆罪です。有罪です。こんなん重課金一択。迷ってたら鱗滝にビンタされるレベル」

「委員長~」

「アイブラ女子と繋がりてぇ~。てか、紗季たんと繋がりてえ。物理的に。性的に」

「委員長。聞こえてます?」

「つーか、アイブラは曲が良いんだよな。オーセキヨシマサとかいう神采配。潔竜人もハマりすぎだし、Ksはホント外れねえ」

「……仕事終わったんで、先、帰りますね」

「……ちょ、え? はああああああああああ? え、ちょっと待って。マ? マジ? 一月ドームツアー決定? ソシャゲ三周年記念ツアー? マジ? いくしかないっしょ。共テとか受験とかしてる場合じゃねえな。先々の学歴より目先の推しだろ。いまのうちにホテルとっとこ。…………あれ?」


 わたしはそこでふと、視線をスマホから上に向けた。

 気づけば、図書室にはもう誰もいなかった。


 さっきまで、後輩たちが仕事をしていたはずなのに、おかしいな。


「ま、いっか」


 わたしはまた、視線をスマホに戻す。

 誰もいなくなった図書室にて一人。ガチャを回す。星5紗季たんはまだ出ない。推しへの愛はまだ届かない。


 はてさて。人と人との間をめぐって、わたしの愛が紗季たんに届くまで、あと何Kだろう。



   ***


【あとがき】

 なにとはいいませんが、ソシャゲをやっていたら、この文章が出来上がっていました。しかし、この物語はフィクションであり、実在する名称・団体・ソシャゲ・白石沙季とは関係ありません。


 次回はちゃんと本編書きます。

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