08.推しとの再会
「ア、アロイス殿下がなぜここに……?」
正直に言うと、王宮植物園に行けばアロイスをチラ見するくらいはできるのかもしれない、と期待していた。
遠目でもいいから推しの姿を拝みたいと思っていた私にとって、至近距離での再会はこれ以上ないご褒美イベントだ。
アロイスは口元を綻ばせ、
「先生の顔を見たくて、会いに来てしまいました」
なんて、脳殺必至な台詞で私を悶え死にさせようとしてくる。
不意打ちの供給過多の所為で思わず「うぐっ」と呻き声を漏らしてしまった。
推しの前で変な声を出してしまうなんて最悪だ。
穴があったら入りたい。
そんな私を見たアロイスは、私が黒い影の所為で怪我をしたと思ったようで、気遣わしく声を掛けてくれる。おかげで更に罪悪感が募ってしまう。
こんなにも強く心優しく育ってくれたなんて……もはや王子様ではなく、神だ。
一生崇めたい。
「心配してくれてありがとう。私は大丈夫よ。どうにかしてバージル殿下を助け出さないといけないわ」
アロイスの魔法で影を退けさせることはできたのだけど、バージルは依然としてと捕らえられたままだ。
早く助け出さないと、あの黒い影が何をしでかすのかわからない。
「大丈夫ですよ、ようやく助けが来たようですから」
「助け?」
アロイスがそう言うのとほぼ同時くらいに、どこからともなく白く光る炎が現れ、黒い影を焼いた。
黒い影はまるで激痛を受けたかのようにぶるぶると震えると、バージルから離れる。
そのまま地面の中に沈み込み、消えてしまった。
……どうやら、逃げてしまったらしい。
「この魔法は、一体誰が……?」
辺りを見回そうと首を動かしたその時、背後から影が差した。次いで、やんわりと体を拘束される。
身動きが取れなくなった私の頭に、こつんと額がぶつけられた。
「レティ? 無茶をしないでくれと、何度も言っているじゃないか」
低く穏やかな声は聞いていて心地いいのに、なぜか心の底から震えあがってしまう。
体を捻って振り返れば、ノエルが満面の笑みを浮かべている。
「ノ、ノエル?! どうしてここにいるの?」
「ジルから聞いて急いできたんだよ」
ノエルは笑っているのになぜか、彼から禍々しいオーラを感じてしまう。
逃げようと身をよじれば、ノエルにしっかりと抱きかかえられた。
そのままアロイスたちの元に運ばれる。
アロイスはバージルを助け起こしており、その隣にはサラとフレデリク、そしてディディエもいる。
「メガネ先生! あ、今はメガネを掛けていないから、何て呼んだらいいのかな?!」
サラは嬉しそうに飛び跳ねている。
宮廷魔術師団の漆黒のローブを羽織るサラは大人っぽい表情になっており、雰囲気が変わったように思える。
肩までくらいの長さだった髪を伸ばし始めたのか、結ってリボンをつけている。
「ファビウス先生、と呼んだらいいだろ。それとも、また変なあだ名をつける気か?」
フレデリクは苦笑しながらサラにツッコミを入れた。
見習い騎士になったフレデリクは、深い青色を基調とした騎士服に身を包んでいる。
一人前の騎士らしい立派な姿に、思わず見惚れてしまいそうだ。
「さっきの炎はもしかして、リュフィエさんの魔法なの?」
「大正解で~す! モーリーとジーラに呼ばれて参上しました!」
サラはフフンと鼻を鳴らして得意げな表情になり、胸を張った。
「ファビウス侯爵が真っ蒼な顔でリュフィエを探していたんです。メガネが禍々しい生き物に襲われていると使い魔から聞いて、死に物狂いで探し回っていたんですからね」
ジーラことフレデリクの補足によると、ジルから知らせを聞いたノエルが彼らに声を掛け、ここまで連れて来てくれたらしい。
黒い影から「不吉」や「災い」の気配がするとジルから聞いたノエルは、光の力を使えるサラでしか倒せないのではないかと思い、呼んでくれたそうだ。
「そうだったのね。助けに来てくれてありがとう。みんなが来てくれなかったらどうなっていたかわからないわ」
「……無茶をしていた自覚はあるんですね」
何故かフレデリクに溜息をつかれた。
「ファビウス侯爵に心配させたのですから、謝った方がいいですよ」
まるで聞き分けのない子どもに言い聞かせるかのように咎められてしまい、口ごもってしまう。
私は教え子たちが見守る中、ノエルに謝った。
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