閑話:星々の事情(※ノエル視点)
「闇の王様、お久しぶりです。これからはユーゴと呼んでくださいね。よろしくお願いします!」
王都に戻ってから程無くして、ユーゴ・ランバートが邸宅を訪れた。
その隣には、厳しい家庭教師さながらにユーゴの言動を監視しているローランが居る。
ローランにユーゴの事を話したのが間違いだった。
ノックス国内に星の力を持つ者が居るとわかるや否や、迎えに行くと言って、すぐにオリヘンに発ってしまったのだ。
かねてより自分の後任が居ないままノックスを発つのが心残りだとぼやいていたローランは、この僥倖を逃すまいと文字通り飛んで行った。
何故、こんなにも仕えてくれるのかわからない。
これまでは星の力を持っている故の言動だと思っていたが、ユーゴを見ていると個人的な事情もあるような気がする。
「……頼むからその呼び名は止してくれ」
隣に居る家庭教師から教わったのであろう呼び名を、嬉々として口にする姿を見ていると疲れが押し寄せてくる。
初めて会った時から感じていたことだが、ユーゴ・ランバートは真っ直ぐ過ぎる。
純粋で、無垢で、献身的。
そのような人間が恩師の仇討ちを胸に抱えたまま王都に来れば、マルロー公爵家の餌食になるのが目に見えている。
「私は忠告したはずだが、それでも君はランバート博士の元を離れて王都に滞在するつもりなのかい?」
「はいっ! お師匠様の為に、自分ができる事をしたいんです!」
「……ランバート博士は許可したのか?」
「え、えっと。ローランさんが説得してくれました」
「やはりな……」
ローランが星の力を持つ者の使命について説き、丸め込んだらしい。
おまけに、私の側に星の力を持つ者が居なくなれば危険だから是非ともユーゴを連れて行かせてくれと頼んだそうだ。
月の力を持つ者の身に何かあれば災いが起きると推測したランバート博士は、渋々ユーゴを送り出したようだ。
ランバート博士はユーゴを王都に行かせたくなかっただろう。
彼女にとってユーゴはかけがえの無い家族だ。
少しの間しか彼らのやり取りを見ていなかったが、ランバート博士がユーゴに向ける眼差しには得も言えぬ愛情を感じられた。
そんなユーゴを、因縁の地に向かわせるはずが無い。
ましてや自分の為に行こうとしてくれているとわかれば、引き止めただろう。
「ユーゴ、王都に居るには条件がある。私と契約し、ランバート博士を陥れた者たちへの復讐をしないのであれば、できる限りの助力をする」
「わ、わかりました」
母の死を悼み、初めて会う私の身を案じてくれたランバート博士を巻き込んでしまい、申し訳なく思う。
だからせめて、二人が大切な存在を失うことが無いように手を打とう。
「もし約束を破り復讐を企てれば、君の心臓は潰れる。ゆめゆめ忘れないでくれ」
この場にレティが居れば、私の事をどう思うのだろうか?
恐ろしい黒幕に戻ったと恐れ、いたずらに人の命を契約にかけた私を軽蔑するかもしれない。
レティに拒絶される事を思うと憂鬱だが、それ以上に、レティがこの一連の騒動に巻き込まれてしまう可能性を考慮すればこれぐらいしておいた方がいい。
……マルロー公爵家は、いささか厄介な家門だから。
「それでは契約をしよう」
魔術で編み出した契約書に署名させ、契約を交わす。
レティと交わした契約を解いた日の事を思い出し、今回も無事に契約を解く日が訪れる事を願う。
「あ、あの。頑張って仕返ししないように我慢しますので、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
こうして私の元でまた、星が仕えるようになった。
***あとがき***
更新お待たせしました。
次話から二章が始まるのですが、ここで一週間ほど更新をお休みさせていただきます。
黒幕さんの同人誌の入稿データ関連の締め切りが近づいておりまして、編集と加筆作業に専念させていただきます……。
ご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんが、再開までお待ちいただけますと幸いです。
また、表紙のデザインが終わりましたら画像を公開させていただきます。
イラストレーターさんがとても素敵なレティとノエルを描いてくださったので、早く皆様にお見せできればと毎日そわそわとしています。
これからも黒幕さんをよろしくお願いいたします。
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