第6話 ジジの休日①
ドロテアとジジ達はロンダの町の近くでテンマと別れると町に向かった。
ジジは妹のピピが舞い上がって走り回るのを見て、魔物が近くにいたら危険なので、注意しようとしたがやめる。
(ピピは私より、何倍も強かったんだわ)
ジジはピピの実力を思い出した。
ピピはタクトやジュビロ、リリアでも勝てないほどの実力になっていたのだ。ピピとまともに戦えるのはテンマ以外では、ミーシャとバルドーだけであった。バルガスは耐久力で負けはしないが、ピピをとらえることができないので倒す事ができないのだ。
それにピピの従魔のピョン子も一緒にいる。
ピョン子は全然成長しているようには見えない。だが素早い動きからの攻撃はホーンラビットとは思えないほど鋭い。ジジはエクス群島のダンジョンで、ピョン子がオーガを倒したことを聞いていた。
そんなピピをドロテアも笑顔で見ている。
ドロテアは久しぶりの帰郷だから、ウサミミを付けている。ジジも同じ様にウサミミを付け、ロンダを出たときのウサミミ三姉妹になっているのであった。
ピピがたまに後ろに向かって手を振っているが、気になってジジやドロテアが後ろを見ても誰もいない。ジジ達は見えなくなったテンマに手を振っているのだと思い、気にせずロンダの町の門に向かった。
門に着くと門番の若い兵士が声を掛けてきた。
「お嬢さん達、荷物も持たずにどこから来たんだ。護衛はいないのか?」
兵士はジジ達が女性だけで行動していることに驚いていた。それも貴族とも思えるドロテアの雰囲気や、どこかのご令嬢にも見えるジジが、荷物もなく護衛もいない、子供だけを連れている状況に不思議に思ったのだ。
ドロテアはお嬢さん達と言われたことが嬉しいのか、満面の笑みで答える。
「ふふふっ、荷物は収納に入っている。私には護衛など必要ないのじゃ!」
兵士はドロテアの返事を聞いても信じられず、心配して話した。
「それでも綺麗な女性だけで旅をするのは危険だぞ。無事にロンダに来れたのだから良かったが、気を付けたほうがいいぞ。念のため身分証を見せてくれ?」
ドロテアは綺麗な女性と言われてさらに機嫌がよくなるになる。ドロテアは魔術師ギルドのギルドカードを出して、ジジは錬金術師ギルドのギルドカードを出した。
ジジは戦闘訓練をめったにしなかったが、料理だけではなく錬金術で物を作り続けてきた。ギルドのランクを上げることはしていないが、錬金術の素質が[S]のジジはすでに錬金術師の実力はA級、いやそれ以上の実力であった。
兵士がギルドカードを確認する前に、門番の責任者であるヨルンがドロテアのことに気付いて走り寄ってきた。
「ドロテア様、申し訳ありません。お通り下さい!」
ヨルンはドロテアに頭を下げる。
「ヨルンさん、私の身分証はこれです」
ドロテアはともかく、ジジは身分証の提示が必要だと思ってギルドカードを見せようとした。
「はははは、ジジとピピのことは知っているから必要ないよ!」
「なんじゃ、ジジはこの門番を知っているのか?」
ヨルンは笑ってジジに話した。ジジ達のことはもちろん知っているのもあるが、ドロテアの同行者の身分を確認する必要はないのだ。
「はい、孤児院にいたときもヨルンさんにはお世話になったんです」
ジジは昔のことを思い出しながらドロテアに答えた。それを聞いたヨルンは申し訳なさそうに話す。
「いや、ジジのお父さんにしてもらったことを考えると、大したことができなくて申し訳ないくらいだ……」
ヨルンはジジの父親が冒険者をしている時に世話になったことがあったのだ。
「いえ、私は領主様やドロテア様、町の人のお陰で今があるんです。今の幸せがあるのもヨルンさんのような親切な人達のお陰です!」
ジジは心からそう思って話した。
「そ、そうかジジは幸せになれたのか、グスッ、本当に良かったなぁ!」
ヨルンは目に涙を浮かべて話した。
「ヨルンと言ったな、ご苦労なのじゃ。ジジやピピは私の家族だ。これからも頼むのじゃ!」
「はい!」
ヨルンが返事をするとドロテアは満足したように頷き、町へ向かって歩きだした。
「これは私の作ったお菓子です。ご家族で召し上がりください」
ジジは収納から袋を出してヨルンに渡した。その中には色々な種類のクッキーが詰められていた。ジジはお世話になった人に渡そうと用意していたのだ。
ヨルンは受け取るのが申し訳ないと思ったが、ジジはヨルンに押し付けるように渡すと、すぐにドロテアを追いかけていってしまう。
その後ろ姿をヨルンは見て、本当にジジは幸せなんだなと思い、また涙ぐむ。
「あ、あれが英雄ドロテア様だったんだ……」
若い門番はドロテアが町を旅立った後に、近くの村から兵士になるために出てきたのだ。彼はドロテアを直接見たことがなかった。
「ああ、気を付けろよ。それに一緒にいたジジ達はあのテンマ殿の関係者だ!」
「えっ、あの研修施設を造ったという!」
「そうだ! そのことを大きな声で話してはダメだぞ!」
若い門番はコクコクと頷くしかできなかった。
ロンダではテンマのことは大賢者テックスだと知られていた。新しく町に来た人には知られていないが、兵士や役人には説明され、公で話さないように通達が出ていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
町中に入るとドロテアに気付いた住民が次々と声をかけてきた。ドロテアはその声に笑顔を返しながら堂々と大通りを進んで行く。
ジジやピピのことを覚えている人もいて、ジジ達にも声をかけてくる住民もいた。
そんな状況にジジは照れくさそうにドロテアの影に隠れるように歩くのだった。
冒険者ギルドの前に到着すると三人は立ち止まり、ドロテアがジジに話しかける。
「本当に我が家に泊まらないのか?」
「はい、お世話になった人の所を回るつもりです。前に泊まった猫の
旅立つ前にジジはドロテアにそのことは話してあったが、ドロテアは念のために確認したのである。
「わかった。でも何かあればすぐに我が家に来るのじゃぞ?」
ジジが頷いて答えると、ドロテアは振り返り一人で屋敷に向かうのだった。
ジジは住民に声をかけられるドロテアの後姿を見えなくなるまで見送った。ドロテアの姿が見えなくなると、ピピに声をかけて冒険者ギルドの建物に入っていくのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
ジジ達が冒険者ギルドの中に入ると、騒然とした雰囲気が静かになった。冒険者には見えないジジと子供にしか見えないピピに注目が集まったのだ。
ジジ達は平民とは思えない洗練した服装であり、ジジは自分では気付いていないが、男が注目するほど魅力的な女性に成長していた。
ジジは受付に行くが、知っている受付嬢が誰もいないことに戸惑っていた。三年振りだとしても知り合いが誰もいなくなっているとは思わなかったのだ。
「どのような御用ですか。新規の依頼でしょうか?」
受付の女性がジジに丁寧に声をかけた。冒険者に見えないジジを依頼にきた客と受付嬢は思ったのだ。
「あ、あの、ルカさんにお会いしたいのですが……」
ジジは戸惑いながら尋ねた。
「えっ、ギルマスに面会ですか!?」
「えっ、ギルマス!」
ルカはロンダの冒険者ギルドのギルドマスターになっていた。
案内嬢はギルマスの客だと思って驚き、ジジはルカがギルマスになっていることに驚いた。
受付嬢はジジがギルマスではなく、ルカ個人に会いに来たと気付いて話をする。
「ギルドマスターのルカ様はお忙しいので、先に面会の予約をお願いします」
受付嬢はギルドのマニュアルにある手順で対応する。
冒険者ギルドのギルドマスターになると、知り合いでもないのに知り合いの振りをして会おうとする連中もいるのだ。
ジジのことはそんな連中と違うことはすぐに分かったが、それでも手順を守らないと叱られるのである。
ジジは面会の予約と言われて戸惑っていた。ルカが忙しいのなら迷惑になる。伝言とお土産だけ渡そうかと思ったのである。
「ようお嬢ちゃん、ギルマスに用事なら俺が取り次いでやろうか?」
ジジの様子を窺っていた冒険者が声をかけてきた。声をかけてきた冒険者と仲間と思われる三人ほどがジジのほうに近づいてきた。
ピピがジジを庇うように冒険者の前に立ちはだかった。
仲間と思われる若い冒険者が、ジジを見て驚いたように声を上げた。
「あっ、乳デカ女!」
ジジは彼の発言に孤児院時代の苦い思い出が頭に浮かんだのであった。
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