第24話 バルドーの画策?
迎賓館の応接室で、皇帝はソファに座ると大きく息を吐き出した。
昨晩はテンマが強引に話を終わらせ、皇帝一行を置き去りにして帰ってしまった。残された皇帝達はまるで厄災が去ったように安堵した。それから気絶した護衛の意識を回復させて迎賓館に戻ってきたのだ。
精神的にも疲れ切っていた皇帝やノーマンは、迎賓館に戻るとすぐに寝てしまった。
しかし、翌日の朝食を終えるとバルドーから話がしたいと使いがきた。了承するとすぐにバルドーが来て、先ほどまで話をしていたのである。
「土地神とかテラス様の話はバルドーの策略ではありませんか?」
昨晩、迎賓館に残っていたグリード侯爵が疑うようにノーマンに尋ねた。グリード侯爵としては皇帝まで荒唐無稽な話を信じていることに驚いていたが、皇帝を疑うようなことは言えないのでノーマンに尋ねたのである。
「お前はあれを見ていないからじゃ。土地神様がテラス様の神託をお伝えしてくれたお姿は、まさしく神といえる神々しさであった!」
皇帝が話しノーマンは頷いていた。グリード侯爵は執事まで頷いている姿を見て、納得はできなかったがそのことを追求するのを諦めた。
「しかし、ローゼン帝国の仇敵ともいえるバルドーに、あそこまで妥協するのは……」
グリード侯爵もバルドーとの話し合いに同席したが、話し合いというよりバルドーからの要望をローゼン帝国側が受け入れるだけであった。
「いや、先ほどの話し合いで、ヴィンチザード王国のこれまでの対応に納得ができた」
「私もそう思います。テンマ殿が大賢者テックスであり、マッスル殿もテンマ殿の部下に過ぎないのでしょう。お祭りでお会いした時のように、特別な扱いをされることを望んでいないのでしょう」
皇帝の話にノーマンは同意して話を補足した。グリード侯爵はまた納得するように頷く執事を見て、これ以上話をしても無駄だと黙り込むのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
俺は拠点の屋敷のリビングでヴィンチザード王国の国王夫妻とマムーチョ辺境侯爵夫妻とお茶を飲んでいた。
「土地神様、まさかこの地でお会いできるとは驚きです」
国王が笑顔で話した。
「プハァ、この地も正式にヴィンチザード王国になったから、私も移動できるようになったのよ。でもまだ信者が少ないから、テンマ君のそばにいないとダメだけどねぇ」
まあ、親戚ともいえる間柄でもあり、ヴィンチザード王国の土地神だから不思議なことでもないのかぁ。
「しかし、これほどお姿がハッキリ見える状態を続けているのは驚きました」
王妃が嬉しそうに話した。
「ふふふっ、テンマ君の
くっ、変な表現をしないでくれぇ~!
それにグッズ販売で信者獲得とか、怪しすぎる!
「そのことですが、すでに教会の横で販売する準備は整っています。土地神様の許可をもらえればすぐにでも販売を開始する予定です!」
「うん、
か、軽い!
レイモンドがすでに準備してあると話すと、
「すでに土地神様の偉大さを伝える王都の劇場の連中も、この地に向かっております。近いうちに大々的に興行する予定ですわ」
興行ってどういうことぉ!?
この数年の間に王都では何が起きてるんだ!
「それなら一気に信者を獲得できそうね。そうなればこの地にも気軽に顔を出せるようになるわ」
変な土地神プロジェクトが着々と進んでいる気がするぅ。
「テラス様も中々やるわね!」
アンナが小さな声で呟いたのが聞こえた。身体能力の高い俺には聞こえたが、他は誰も聞こえていないだろう。
「早く
王妃様は待ち遠しそうに話した。
この場にはドロテアさん達はいない。今朝早くにマリアさんのルームに入ってドラ美ちゃんがエクス群島に送っていった。
明日には国王夫妻も王都に戻る予定である。
気になることもあるが、本当はこの場から逃げ出したい。しかし、
そこにバルドーさんが戻ってきたが顔色は非常に悪い。昨晩拠点に戻ってきてからバルドーさんはバルドー拠点に帰ることなく、朝まで
それでもローゼン帝国との話し合いをしに行っていた。
いや、
◇ ◇ ◇ ◇
目の下に隈を作りながらもバルドーさんは応接間に入ってくると報告を始めた。
「ローゼン帝国側には、今後テンマ様に迷惑をかけないように言い聞かせてまいりました。ローゼン帝国側がどこまで理解しているか分かりませんが、大賢者テックスやマッスル様、それにハルさんやドラ美さんにも迷惑をかけないように言ってあります」
ふぅ~、まあ安心できそうである。
「それとテンマ様が以前からご希望なさっていた、ダンジョン島を自由に行動できるようにお願いして、了承してもらいました」
んっ、そういえば随分前にダンジョン島のダンジョンに行きたいと言っていたなぁ。でもそれってホレック公国に来たばかりのころの話だ。
まあ、そろそろ新しいことを始めたいから、ちょうどいいのかぁ。
「それって大袈裟なことにならないよね?」
昨晩の皇帝の様子では国賓にするとか言いそうで怖い。
「はい、最初は国賓として迎えたいと言ってきましたが、そんなことテンマ様はお許しにならないと話して、普通の冒険者として行動することを了承させました。それにいざという時のためにこの紋章を預かってまいりました。これは皇帝の勅命で行動する印で、これを持つものは副皇帝のような立場になるそうです」
へ、へぇ~、まるで天下の副将軍、黄門様の紋所のようなものかぁ……。
紋章を使ったら使ったで、騒動になりそうだが、使わなければ問題ない。
もしトラブルに巻き込まれたら、その時にどうするか考えれば大丈夫だよね。
「あっ、でもバルドーさんやドロテアさんはローゼン帝国には行けないよね?」
二人はローゼン帝国内では戦犯のようなものだ。さすがにまずいだろう。
「それは大丈夫です。今回のヴィンチザード王国との条約の公布のついでに、我々にも手を出さないように通達を出すようです」
さすがはバルドーさん、そつなく調整している。
「ちょ、ちょっとぉ、どういうことよぉ。まるでローゼン帝国へテンマ君やバルディが行っちゃうみたいじゃないのぉ!」
バルドーさんは
それにバルドーメンズ隊もドロテアさん達とエクス群島に送り返していた。着々とバルドーさんは
バルドーさんを見ると恐ろしいほどの目力で、俺に何かを訴えていた。
少し意地悪をしたい気もしたが、さすがにバルドーさんを追い詰めるのは気が引ける。
「すぐに行くつもりはありませんよ。でも色々な土地を回ってみたいという気持ちもあります。どうするかエクス群島の拠点でゆっくり考えます」
「だったらすぐにもエクス群島をヴィンチザード王国に併合しなきゃ!」
し、しまったぁーーー!
バルドーさんが今までに見たことのないほど落胆していた。彼にとってバルドー聖地に
俺としてもエクス群島をヴィンチザード王国に併合することを実は望んでいなかった。
全く島の形は違うが、何となく研修島のような懐かしさを感じていた。だからどこかの国に併合されるのではなく、今の状況が一番好ましいと思っていたのだ。
「それはやめてください! あそこは黒耳長族が管理する今の状況が一番です」
国王やレイモンドは納得してくれたが、
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