第21話 皇帝にビンタ!

バルドーさんに話しにノーマンさんは黙り込んでしまった。それを見て皇帝が前に出てきて話し始める。


「多少の勘違いがあったことは認めよう。だが、お主たちはマッスル殿の関係者ということは間違いなかろう。ローゼン帝国の皇帝である儂が、正式にマッスル殿に挨拶をしたい。取り次いでくれ!」


おおっ、もっと上から目線で言ってくると思ったよ!


皇帝不満そうな表情をしていた。しかし、命令口調は変わらないが、それほど上から目線ではなくお願いといった雰囲気で話してきた。


不思議だと思っていると、バルドーさんが答えた。


「昨日のことをマッスル様に報告したところ、会いたくないと言われております。だからお断りします!」


うん、俺はマッスルとして会いたいとは思わない!


皇帝は顔を歪めたが、怒りを吐き出すように息を吐くと尋ねてきた。


「ふぅ、お主は元ヴィンチザード王国のバルドーだな?」


「ええ、私はバルドーですよ。それが何か?」


皇帝はバルドーさんのことに気付いていたようだ。バルドーさんも気付かれていることを知っていたのか動揺することなく答えた。


「お主は大賢者殿の元に雇われたと聞いておる。なぜマッスル殿やそこのテンマの執事のようなことをしておる?」


おおっ、皇帝も鋭いことを尋ねてきたぁ!


ローゼン帝国はどこまでマッスルやテックスのことを知っているのだろう。それに昨日のやり取りだけで、バルドーさんの正体に気付くとは凄いと思う。


「さぁ、なぜでしょうかねぇ」


バルドーさんは意味ありげに微笑みながら惚けるように答えたのであった。


「ローゼン帝国の皇帝である陛下に対して、いくら何でもその答えは失礼ではありませんか!?」


ノーマンさんがバルドーさんを睨みながら苦情を言った。


俺としても本当のことを話されると困るから、適当に誤魔化すのが最良の方法だとは思う。しかし、ノーマンさんが苦情を言いたくなる気持ちも理解できる。


バルドーさんだけに頼るのもどうかと思い、ノーマンさんに直接尋ねる。


「え~と、マッスルがローゼン帝国の皇帝陛下に会う理由はありませんよね?」


ノーマンさんは俺が会話に入ってきたことに驚いたようだが、すぐに答えてきた。


「勇者と共に戦った英雄エクス殿の関係者に、一緒に戦ったローゼン帝国の皇帝陛下が挨拶をするのは不自然ではではないはず!」


彼らは何度も勇者、勇者と言っているが、俺には全く関係ない!


「いえ、マッスルは英雄エクスの関係者じゃありませんよ」


「で、ですがマッスル殿は黒耳長族のはずです。当然、関係者じゃないですか!?」


「んっ、マッスル殿は黒耳長族じゃありませんよ」


俺の答えに、ノーマンさんと皇帝が口を開いたまま固まってしまった。


それを見てバルドーさんだけでなく、他のみんなも声を押さえて笑っている。


「ということで帰りましょうか?」


ローゼン帝国側の主張は見当違いなので、そろそろ帰ろうとみんなに声をかけた。しかし、まだ納得していないのか皇帝がさらに話しかけてきた。


「ま、まて、マッスル殿が黒耳長族じゃないとしても、勇者の知識を使っているはずだ。勇者はローゼン帝国が召喚したのじゃ。その関係者や知識はローゼン帝国とかかわりがあるはずじゃ!」


また勇者かぁ~。いい加減腹が立ってきた。


俺は勇者とは関係ないし、知識は努力して得たものだ。伝説に近い昔のことを持ち出して、あれこれ言われるのは、それこそ納得できない。


「勇者がどうしたというんだ。そんな昔の話は俺には関係ない!」


もしかしたら勇者は同じ世界から転生してきたのかもしれない。だからといって数百年前の話をされても困る。


おっ、ローゼン帝国の騎士と使用人風の男達の目が鋭くなって戦闘態勢になった!?


あっ、全員気絶した!


なんとバルドーさんだけでなくミーシャやピピが、剣やナイフを抜いたローゼン帝国側の連中を、あっと言う間に倒してしまった。


「ローゼン帝国側は懲りずにテンマ様に戦闘を仕かけてこようとしました。この場で皇帝も含めて全員を始末しますか?」


いやいや、それはやり過ぎだからね。


バルドーさんの問いかけに焦ってしまう。


「んっ、始末する?」


ミーシャさんや、簡単に始末するとかサラっと言わないでぇ~。


「ひ、卑怯ではないかぁ!」


皇帝は怯えた表情で言った。


「クククッ、先に戦闘を始めようとしたのはローゼン帝国側ですよ。先に戦いを始めて負けると相手を非難する。相変わらず卑怯なローゼン帝国らしい答えですなぁ」


おうふ、バルドーさんはまだ挑発するのね……。


でもバルドーさんの主張はもっともだと思う。こんな愚かな話し合いは早く終わらせたい。


皇帝に手の届く位置まで移動する。皇帝は俺が近づくと怯えたような表情をしたが、皇帝としてのプライドなのか必死にその場で踏み留まっていた。


「ローゼン帝国は都合が悪くなると武器を手にする。そして戦闘で敗れると相手を卑怯者呼ばわりする。それで次はどうするつもりなの?」


俺は淡々と尋ねた。


「ち、違う! 勇者の知識をお前達が独占するのが卑怯だと言っておるのじゃ!」


パンッ!


勇者の知識と言われ、思わず皇帝の頬を叩いてしまった。


どれほどの苦労をしたと思っているんだ!


俺が研修施設でどれほどの訓練と検証を重ねて手に入れたか皇帝は分かっていない。

それも過去に勇者を召喚したと理由だけで、何もしていない相手がその成果を寄こせと言っている気がして余計に腹が立った。


老人の割に体格の良い皇帝であり、身体強化を使わずに手加減スキルをMAXで使ったので頬が赤くなった程度で済んだ。


皇帝は初めての痛みと驚きで、頬に手を添えながらも目を見開いて俺を見つめていた。


「勇者の知識とはどれのことだ?」


俺は皇帝に静かに問いかけた。皇帝は叩かれたことで応えるまでに少し時間がかかった。


「……先ほどの光の魔法じゃ」


パンッ!


今度は反対の頬を叩いて答える。


「あれは勇者なんか全く関係ない。俺が必死に考えて創った魔法だ!」


「そ、そんな、あれほどの魔法は勇者でなければ──」


パンッ!


また皇帝の頬を叩いた。


「その程度の理由だけで、俺の考えた魔法を勇者のものと決めつけたのか?」


「それしか考えられない!」


皇帝は涙目になり、今度は叩かれないように両頬を手で覆いながら、やけくそ気味に答えた。


「そうか……、これほど言ってもあんたは決めつけて、俺の考えた魔法や知識を奪うというのだな?」


「お前が考えた……、お、お前は何者じゃ?」


あっ、俺が考えたと言ってしまったなぁ。


でも、そんなことはもうどうでもいい!


「俺が何者だろうが関係ない! お前が俺から奪うというなら、お前は俺の敵だ!」


俺が皇帝を睨んで答えると、みんなが物騒なことを言い始める。


バルドー「クククッ、ローゼン帝国も消滅ですなぁ」

ドロテア「新生ドロテアの魔法を思う存分に使えそうじゃ!」

エアル「もちろん黒耳長族も全員で参戦するのじゃ!」

ミーシャ「テンマがその気なら、私も頑張る!」

リディア「従魔である俺も暴れてやるぞ!」

ピピ「ピピも殲滅するぅ~」


いやいや、お兄ちゃんはピピにそんなことをさせないよ!


くっ、怒りに任せて宣戦布告まがいのことを言ってしまったぁ!


普段は暴走するドロテアさん達をおさえる立場のはずが……。


腹を立てたことで、暴走の先頭を走っている気がするぅ!


暴走するみんなを見て俺の興奮は収まったが、後戻りできない流れになってしまった。


「ああぁぁぁ、やっと見つけたぁぁぁぁぁ!」


どうしようかと迷っていたら、信じられないことに妖精フェアリーが飛んできて俺に抱きついてきた。


妖精フェアリーは十五センチぐらいで透明な羽があり、全身が半透明で幻想的だった。叩き落とそうかとしたが、手の平サイズの妖精フェアリーだとプチっとなりそうで、手を止めてしまった。


しかし、妖精フェアリーに抱き着かれると、急に体がだるくなり命の危険を感じたのだった。

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