第14話 な、なんですとぉ
ピピが俺に抱き着いた状態で振り返ると、涙声でドロテアさん達に尋ねた。
「本当にもうしない?」
「「「しないのじゃ!」」」
ドロテアさん達は声を揃えて答えた。
「それなら、許してあげる!」
ピピは嬉しそうに答えた。ドロテアさん達はホッとした表情をしている。
なんだかなぁ~!
ピピの機嫌がなおったのは良いが、子供のピピに高年齢四姉妹が土下座して謝罪したことに呆れてしまう。
「あなた達は何歳だと思っているんですか?」
ドロテア「ろ、二歳じゃ!」
エアル「八歳!」
エリス「五歳……」
エリカ「九歳……、私が一番上なのね」
いやいや、なんで一桁目だけを堂々と言っているのぉ!
呆れてツッコむのが馬鹿らしいと思った。それほど騒動は起きていないので、これ以上の説教はやめよう。
「ピピが許したからもういいよ……」
折角のお祭りだからこれで終わりだ。
ドロテアさん達は俺の話を聞くと、すぐに土下座をやめて立ち上がり始めた。もう先程の謝罪を忘れたように笑顔で立ち上がるのを見て不安に感じる。
絶対に同じことを繰り返す気がするぅ~!
そんなことを感じていると老人が話しかけてきた。
「お主は黒耳長族の知り合いがおるのか?」
「見たとおりです」
詳しく説明する気も起きず、簡単に答えた。
「それならもっと大人の黒耳長族を紹介してくれ!」
え~と、これ以上の大人はいませんよぉ~。
老人は黒耳長族と話がしたいようだが、黒耳長族のことを分かっていないようだ。
「黒耳長族に何か用でもあるのか?」
俺は説明しようとしたが、先にエアルが老人に尋ねた。
「そうじゃ、だが子供では話にならん!」
「お爺様、お待ちください!」
おっ、こっちの男の人は気付いたようだ。
「なんでじゃ。折角の機会を生かさないでどうするのじゃ?」
男の人はまた疲れた顔をしながら説明を始めた。
「黒耳長族の女性は、大人になっても姿は人族の子供と変わりません。彼女達が成人していたら失礼になります!」
老人は驚いた表情を見せたが、すぐに何か思い出したような表情になった。それでも納得できないみたいで男の人に尋ねた。
「儂もそのような話は聞いたが、先ほど自分達の歳を言っていたではないか?」
「そちらの人族も二歳に見えますか? 女性が本当の年齢を隠すことは良くあることです!」
老人は男の人に言われて、改めてドロテアさんを見て混乱している。
「そっちの若造は何も分かっていないようじゃな。こっちの若者は乙女の気持ちを分かっておるのじゃ」
エアルがいつの間にか男の人の後ろに近づき、胸を張りながら男の人のお尻を叩きながら話した。
どこが乙女だぁ! セクハラするんじゃねぇーーー!
いつの間にかエリスとエリカも男の人の尻を叩いて……、撫でてるぅ~!?
男の人はエアル達の見た目が幼女なので、気にしていないのが救いだ。
「お爺様が失礼なことを言いまして失礼いたしました。我々は黒耳長族の人と話したいので、できれば黒耳長族の族長のエアル様か、それに近い人を紹介して頂けませんか?」
おおっ、老人はともかく男の人は切り替えも早い!
しかし、エアルはハッキリと言った。
「祭りの最中にそんな面倒なことは断るのじゃ! 今度偶然会うことがあれば、少しくらい時間を作ってやるのじゃ。ただしそこの若造が礼儀を覚えてからじゃ」
老人を若造と言っても変でもないのかぁ~。
エアルの年齢を考えれば、老人のことを若造と言っても変ではないが、やはり見た目幼女のエアルが言うと不自然に感じてしまう。
それでも若造と言われた老人は興奮したのか顔を真っ赤にしている。
「テンマ、たくさんゲットした!」
不意にミーシャがそばに現れ、景品だと思われるものを手に持って声をかけてきた。油断していた俺は驚いたが、ピピが嬉しそうに答える。
「ミーシャお姉ちゃんすご~い!」
おいおい、そんな雰囲気じゃないだろ?
ピピは気付いていたのか、突然ミーシャが現れたことは気にせずに喜んでいる。
油断していたとはいえ俺が驚いたくらいである。突然姿を見せたミーシャに老人も唖然としていた。
「これだけじゃない。全部出す?」
空気を読まないミーシャが手に入れた景品をこの場で全部見せようかと聞いてきた。止めようとしたが、その前にリリアとミイが合流してきて、ミーシャを咎める。
「こんな所に全部出したら大変だぞ! ミーシャのせいですでに噂が広まって景品をとる屋台は出入り禁止だ!」
リリアが話すとミイも詳しく説明してくれた。ミーシャは投擲と命中スキルで、的当て系の屋台では大量に景品を獲得したようだ。複数の屋台で同じことをしたら同業の屋台に噂が広まって、彼女達はお金を払っても遊ばせてくれなくなったようだ。
スキルのあるこの世界では危険な商売だよなぁ。
ミーシャはケモミミが垂れ、残念そうにしている。
そんなに景品を見せたかったの?
「まあ、戻ったら見せてくれよ」
それほど興味はないが、見るぐらいなら問題無いだろう。
しかし、今度は同じような屋台で魔法が使えずに惨敗したドロテア四姉妹はズルだと騒ぎ始め、何やら老人と男の人が何か揉めている。
これ以上は騒ぎが大きくなって目立ちそうだ!
「まあ、今日は前夜祭だし明日もあるから一度帰ろうか?」
明日に備えてみんなにやり過ぎないようにルール作りをしようと考えて、今日は帰ることを提案した。
「あら。もう帰るのかしら?」
おうふ、今度はドラゴン姉妹もやって来たぁ!
声をかけてきたマリアさんの後ろには、浴衣の前が閉じられないほど腹を膨らませたハル衛門がいた。リディアはいくら食べても腹は膨らまない。元のドラゴン姿の影響なのか、まるで亜空間に繋がっている感じだ。だがハル衛門はすぐにお腹が大きくなる。
「「ミニオーク?」」
アンタらもかい!
老人と男の人は揉めていたはずがハル衛門を見て、ミニオークと呟いた。
ミニオークはこの世界には存在しない魔物のはずなのに、なぜか俺と同じようにハル衛門をミニオーク扱いする人がたくさんいるのだ。
ハル衛門は満腹になり、満足しているのか、ぷかぷか浮きながらアンナに尻尾を掴まれ、引っ張られていた。
ミニオーク風船みたいだぁ!
それになぜかシルがマリアさん達と一緒にいた。シルはドロテア四姉妹と一緒では満足に食事をもらえないと判断して、マリアさん達に切り替えたのだろう。
さらに目立つと思い、俺はマリアさん達にも話した。
「今日はこれくらいで終わりにしましょう。お祭りは我々だけが楽しんでいるわけではありません。屋台に迷惑をかけているようなので、戻って反省会をします」
祭りを楽しむのは構わないが、できればお金を払って食べるぐらいにしてほしい。ドロテアさん達も問題だが、ミーシャやドラゴン姉妹の行動も危険だ。前夜祭で潰れる屋台が出ていないか心配だ。
「テンマ様、みんなが騒ぎを起こした店には、それなりの心づけを渡しておきましたのでご安心ください」
今度はバルドーさんが合流してきた。なんとバルドーさんがみんなの後始末をしてくれたらしい。
「ふぅ、それならそれほど迷惑をかけていないね。ありがとう!」
俺はホッとしてバルドーさんにお礼を言った。これで安心して帰れると思った。しかし、老人が割って入ってきた。
「いい加減にしろ! 儂はそこの黒耳長族に用事があるのじゃ!」
男の人は腰に抱き着いて止めようとしているが、全く効果はなさそうであった。よく見ると涙目になっていて可哀想だと思ってしまった。
しかし、バルドーさんが予想外のことを言った。
「ほほう、先ほど彼女たちに断れたはずですがねぇ。ローゼン帝国の皇帝陛下は他国で暴挙をするというのですか?」
な、なんですとぉ、他国の皇帝なんて聞いてないよぉーーー!
バルドーさんが老人の正体を話すと、我々のことを見ていた群衆の中から、五人ほどナイフのようなものを握って出てきたのだった。
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