第13話 土下座で謝罪
ジジと二人でゆっくりと座って、祭りで盛り上がる広場を眺めていた。今日は前夜祭ということで、本番は明日の式典の後になるはずだ。だがすでに街は驚くほどお盛り上がっていた。
途中でジュビロ達が前を通り過ぎ、ジュビロは俺達に気付いていたが、目を逸らしてそそくさとどっかに消えてしまった。
暫くすると広場の中心で何か騒ぎが起こったのか人が集まっていくのが見える。特に暴力沙汰でもないようなので、気にせずにジジと話をする。
俺はこの機会にジジとの関係を一歩進めようと思ったが、どう進めるのか思いつかずに困っていた。
神様お願いだぁ~、対女性スキルをくださ~い!
そんな願いなど叶うはずもなく、騒ぎの起きている広場から、若い男が老人を無理やり引っ張ってこちら方面に出てくるのが見えた。
何となく彼らが騒ぎの中心だと感じた。老人に説教でもしているのか男が何かを老人に言っている。そんな彼らを町の人が注目していた。
一見して男は商人風の服装だが、どこか貴族のような高貴な雰囲気もあった。
一緒にいる老人も商人風の服にローブを着けていたが、体格は商人というより騎士や冒険者のように立派だ。どう見ても商人に見えないし、服装は似合っていない。
俺は相当に大きな商会の人間か、貴族出身の商人なのかと考えていた。何故か老人が俺達を見て歩いてこようとした。
慌てて男が老人を引き止め、何か話すと男がこちらに向かってくるのが見えた。
「なんですかねぇ?」
ジジも気付いていたのか、少しだけ心配そうに呟いた。
「なんだろうねぇ?」
俺も理由が分からず呟いたが、頭の中でこの世界に来てからあったことのある人なのかと考えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
男の人が近づいてきたので顔がハッキリと見えた。ムカつくほどイケメンだが、憔悴したような顔をしていた。思いつめたような表情をしていたので、少し警戒する。
男は近づくと懐から何か取り出して話しかけてきた。
「すみません。連れの祖父が歩き疲れたので、このお金で席をお譲り願いませんか?」
懐から革袋を出してテーブルの上に置いて頼んできた。
俺は疑問を感じていた。
男の人は丁寧に話してきたし、金を使っての行動は好きではない。しかし、疑問に感じたのは、歩き疲れたという老人が、元気な顔で俺達のテーブルの上の食べ物をギラギラした目で見ていることだ。
疲れきっているのはアンタじゃないのか?
男の人にそう言いたかったが、その前に老人のほうが俺達の返事も待たずに男を押しのけ前に出てきた。
「これはタコ焼きではないか。それも他のとは少し違うようじゃな。この白いソースや緑の粉物が振り掛けてあるのは初めて見たぞ!」
タコ焼きはジジの作ったほうが断然うまい。だから屋台では買わずにジジのタコ焼きを食べていたのだ。
「食べかけでよろしかったら、どうぞお召し上がりください」
ジジは相手がお年寄りだから親切に誘ってしまった。
「そうか、では遠慮なくいただこう」
「お爺様!」
老人は遠慮なく俺達の正面に座ってきた。男の人は咎めるように叫んだが、老人は気にもせず食べ始めたのだった。
「なんと全部同じだと思っていたが全然違う。振りかけてある緑色のものは香りというか風味がとても良いではないか。それに白いソースは濃厚な感じがするが味に深みを出しておる!」
ジジの作ったタコ焼きはバリエーションも豊富で、醤油やソースを塗ったバージョンや、青のりやマヨネーズをかけたタコ焼きもある。料理スキルがさらにレベルアップしたジジのタコ焼きは、同じ食材を使ったとしても同じタコ焼きは作れないだろう。
ジジも褒められて嬉しそうに笑顔を見せている。
「すみません」
男の人は謝罪しながら革袋を押して差し出してきた。
「いえ、お金は必要ありません。俺達も満腹だったので気にしないでください」
丁寧に革袋を押し返して話した。
「遠慮なくもらっておけ。それよりこれはどこの店で売っていた。この店を持ち帰らねばならん!」
ちょっと乱暴な物言いをする老人だと思ったが、害があるわけではないので気にせずに答える。
「それはここにいるジジが作ったものです。お店では売ってませんよ」
なぜか男の人が困った顔をした。老人は俺の返事を聞いて嬉しそうに言ってきた。
「そうか、それならその娘を儂が雇おう。報酬は幾らでも用意する。感謝するのじゃ!」
いやいや、報酬の問題じゃないよ。
「お爺様! それは商会の者が別途交渉します。だから先走ったことはおやめください!」
男の人は必死の形相で老人を諌めた。
彼らは同じことを繰り返して、男の人がこんなに疲れた表情になったのだと気付いた。俺は暴走するドロテアさんを思い出して、男の人が気の毒だと思った。
「目の前に本人がいるなら即決すれば良いではないか?」
老人は男の人に反論するように聞き返した。男の人はさらに困った顔になっていた。
「交渉の必要はありませんよ。いくら報酬を出されてもジジを手放すことはしませんから」
俺がハッキリとそう答えると、老人は楽しそうに俺を見て尋ねてきた。
「ほう、だったら領主や国王が頼んだらどうする?」
老人の質問を聞いて、この老人は商人ではなくレイモンドや国王に話のできる大貴族なのかもと考える。
鑑定すればすぐに正体は分かる。だが鑑定して会話すると、鑑定で分かったことをなぜ知っていると聞かれることが多い。だから戦闘以外は鑑定を使わないようにしている。
今も危険があるわけではないので、鑑定を使わずに会話を続ける。
「領主や国王がそんなことを頼んでくるとは思いませんが、もし頼んできてもお断りしますよ」
「ほほう、そうなれば罪に問われて命の危険まであるのではないか?」
老人は悪戯っぽい笑顔を見せてさらに尋ねてきた。
「そうなればどちらが命の危険があるのでしょうねぇ」
男の人が顔色を変えているのが見えていたが、俺も悪戯っぽく笑顔で答えた。
老人と笑顔での睨み合いになっていると、そこにピピが声を掛けてきた。
「お兄ちゃ~ん、助けてぇ~!」
声のほうを振り向くと同時にピピが抱きついてきたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
ピピの攻撃のような抱きつきに、声が出そうになったが何とか我慢した。ピピは俺の胸に何度か顔を擦り付けた後、涙目で話してきた。
「お兄ちゃん、エアルちゃん達はいくら注意しても屋台で魔法を使おうとするのぉ!」
ピピの話を聞いて移動中に見た光景を思い出した。あの時は屋台の輪投げだったが、他の屋台でも同じことを繰り返したのだろう。
「ピピ! 突然走り出したら心配するではないか!?」
ドロテアさんが心配そうに声を掛けてきた。すぐにエアル三姉妹も合流してピピを心配するようなことを言ったが、ピピは泣きそうな顔で俺に訴えてきた。
「く、黒耳長族……」
男の人が驚いたように呟いたのが聞こえたが無視してドロテアさん達に尋ねた。
「屋台で魔法を使おうとしたと聞いたけど、どういうことかな?」
露骨に動揺するドロテアさん達だった。
「いや、使ってないのじゃ!」
「「「使ってない!」」」
ドロテアさんの話に合わせるようにエアル三姉妹も同意した。しかし、これに反論するようにピピが話した。
「使ってないのはピピがダメと言ったからでしょ! それなのにお店の人がズルしていると騒いだり、他のお店に行っても同じようなことをしたり、ピピは全然楽しくないのぉ!」
ピピはそこまで言うとまた俺に抱きついてきた。俺はピピを抱きしめながら、暴走4姉妹を睨みつける。
「す、すまなかったのじゃぁ!」
ドロテアさんは即座に土下座して謝った。エアル達はそれを見て驚いたようだが、すぐに土下座して謝罪した。
「「「ごめんなさい!」」」
さすがドロテアさん、ここで下手な言い訳しても通用しないと気付いたようだ。
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