第15話 新たな事実
バルドーさんの話に俺達を取り囲む群衆も一瞬にして静かになる。
「これはまた何とも……、まさか他国の街中で武器まで出すとは信じられませんねぇ」
確かに信じられない状況だ。
バルドーさんは楽しそうに話していたが、俺はなんで皇帝と呼ばれるような人がこんな街中にいるのが信じられない。
大貴族なのかと思ったが他国の皇帝とは……。
あっ! バタッ。
武器を持った五人の男達が前のめりで倒れた。男達が立っていた場所にはバルドーイケメン隊の黒耳長族がいた。
皇帝も男の人もその光景を呆然と見つめていた。
「すまないが、彼らをマムーチョ辺境侯爵殿の騎士隊に引き渡してください。こんな街中で、集団で武器を持っていたのです。しっかりと調査をせねばなりませんからねぇ」
バルドーさんがイケメン隊に指示をした。それを聞いた男の人が焦って止めに入る。
「持ってくれ! 私はローゼン帝国の第四皇子であるノーマンだ。その者達はローゼン帝国皇帝陛下の護衛だ。武器まで出したのは間違いであったが、陛下を守ろうとした行動だから問題ないはずだ!」
おうふ、第四皇子までぇ~!
「ふむ、それならお引き渡しをしましょう。しかし、他国の街中に皇帝陛下と皇子殿下がお忍びで出てくるとは……、ハッキリ言って迷惑ですねぇ」
バルドーさ~ん、ハッキリ言い過ぎですぅ!
「お主は何者じゃ?」
皇帝は鋭い視線でバルドーさんを見つめて尋ねた。
「私はそちらのテンマ様の執事です。そこの者達が主の近くで武器を抜いたので排除させていただきました。最初からローゼン帝国の皇帝陛下だと知っていれば違う対処をしたのですがねぇ」
いやいや、知っていたでしょ!
相手が名乗る前に皇帝だと言ったのはバルドーさんだよね。
「陛下、ここはいったんお引きください!」
第四皇子のノーマンさんが深刻な表情で皇帝に進言した。
あれ、ならノーマンさんは皇帝の息子になるのか?
くだらないことを気になったが、皇帝は引く雰囲気じゃない。
「テンマと言ったな、黒耳長族を紹介してくれ!」
いやいや、さっき断られたでしょう。それになんで俺に頼のぉ!
「すでに族長のエアル様に断られたのに、私が勝手にそれを変えることはできません。お断りさせていただきます!」
相手が一国の王である以上、丁寧に断った。
「ぞ、族長のエアル殿!」
ノーマンさんは驚いている。
まあ、見た目は幼女で、行動も族長とは思えないから、驚くよねぇ~。
皇帝も驚いたようだ。諦めると思ったが、皇帝はエアルに向かって話す。
「勇者と英雄エクス殿と一緒にこの世界を救うために戦ったローゼン帝国の皇帝だ。盟友でもあるハル様とドラ美様をローゼン帝国にお迎えしたい。英雄エクス殿の娘であるエアル殿に橋渡しをしてもらいたい!」
断られたことは無視するのねぇ~。
「人の話を聞かない若造の頼みなど知らぬ!」
エアルもハッキリ断るんだぁ!
「英雄エクス殿の娘であっても、一緒に戦ったローゼン帝国の皇帝に紹介すらしないとは、卑怯ではではないかぁ!」
う~ん、それは微妙だなぁ……。
あまりにも強引な話に、みんなは呆れた顔で皇帝を見ている。
俺としては目の前にハル衛門もいるから紹介ぐらいは構わないと思う。だがドラ美ちゃんは俺の従魔だから勝手に紹介されたり、ローゼン帝国に招待されたりしても困る。
俺がアンナに合図すると、アンナはぷかぷか浮かぶハル衛門の尻尾を掴んでこちらに投げてきた。ハル衛門は投げられても満腹になった腹を撫でながら、ふよふよと俺のほうに飛んできた。
それを見てバルドーさんやマリアさん、エアル達も驚いていた。ドロテアさんは笑顔で様子を見ている。
俺としてはハル衛門に無理強いはするつもりはないが、本人の自由意思に任せようと思ったのだ。
決して厄介払いをしようとしているのじゃない!
「お~い、ハル衛門。お前をローゼン帝国に連れていきたいと皇帝陛下が言っているが、どうする?」
『えっ、何のこと?』
説明しようとしたら皇帝がまた割込んできた。
「まて、……まさかそれがハル様とでも言うのか?」
その気持ちはよく分かる。どう見てもミニオークにしか見えないよね。
「見た目はこんなんだけど、伝説のハル様と人は言ってます!」
ぷよぷよ浮かぶハル衛門を掴んで、皇帝のほうに姿を向けて言った。
『そうよ、私が勇者と共に世界を救った伝説のハルよ!』
自分で伝説と言うかぁ~。
ハルは胸を張って念話で言ったが、腹のほうが出ているのが悲しい……。
皇帝は唖然とした表情を見せていた。
「そこのローゼン帝国の皇帝陛下がハル衛門をお迎えしたいと言っているけど、どうする?」
『イヤよ! 貯金はどうするのよ!』
おうふ、そんな理由で断ったらさすがに相手が可哀想だよぉ!
「でもローゼン帝国の皇帝陛下の御招待だよ。豪華な食べ物をいくらでも用意してくれるんじゃないかなぁ?」
「も、もちろんです! ハル様の望むものをどれだけでも用意します!」
ノーマンさんが真剣な表情で俺の話に付け足した。ハル兵衛は目が泳ぎまくっている。相当に迷っているようだ。
皇帝はハル兵衛を戸惑った表情で見つめていた。皇帝はまだハル兵衛のことを信じられないのだろう。
『で、でも、ローゼン帝国では嫌なことがあったから……。無理やり勇者タケルと聖女ユウコを無理やり引き離して王族と結婚させようとしたのよねぇ~。二人がハッキリと断ったけど、一緒に戦った皇帝が亡くなったら、ユウコに振られた次の皇帝が酷いことしようとして、みんなでローゼン帝国から逃げ出したのよぉ!』
ここにきて新たなる事実が!
「ローゼン帝国がそんなことをするはずがない!」
皇帝は怒りの形相で叫んだ。しかし、エアルがそれを裏付けるような話をする。
「私も父にその話は聞いたのじゃ。ローゼン帝国に追われて勇者一行は父と一緒に村に来たそうじゃ。勇者なら簡単に返り討ちができるが、ローゼン帝国が一緒に戦ったのも事実だからそこまではしなかったそうじゃ。その皇帝は死ぬまで勇者一行を恨みに思い、勇者が残した知識や食べ物も禁止したと聞いたのじゃ」
それを聞いたノーマンはその当時の文献が少なく、ローゼン帝国に残っていないのだと気付いた。
「そんなはずは……、帝国がそんなこと……」
皇帝はまだハル衛門やエアルの話を信じられないみたいだった。というより混乱している気がするぅ。
「でも、それは大昔の話だろ。こうやって正式に招待するなら変なことはしないよね?」
なんか気の毒になり、フォローした。
「も、もちろんです!」
俺はハル兵衛を説得しながら、最後は尋ねるように皇帝とノーマンに話した。ノーマンは即座に答えた。
『絶対にイヤ! オークカツやプリン、アイスなんか残って無いんでしょ!?』
何と、食いしん坊にはそっちが重要なのかぁ~!
ま、まあ、無理強いするつもりはないし、もちろん厄介払いでもない!
「そ、それならせめてドラ美様を紹介してください!」
ノーマンはさらに真剣な表情で頼んできた。皇帝もそれを聞いて復活したのか呟きをやめ顔を上げた。
リディアは自分を指差しながら驚いている。
それだと正体がバレちゃうよぉ~!
『何を言っているのよぉ。鱗を剥がそうとしたり血を抜こうとしたりして、最初に逃げ出したのがドラ美よ!』
なんと、ハル衛門からまた新たな事実が!
リディアは当時のことを思い出したのか、涙目で何度も頷いている。
過去のこととはいえ、そんなローゼン帝国に招待されても行くことはないだろう。
でも確かリディアとしてローゼン帝国でバルドーさんと一緒に冒険者活動していたと聞いた覚えもあるなぁ……。
「そんなのは全部嘘じゃ! そのミニオークがハル様だと誰が信じるものか!」
皇帝はハル衛門をミニオークと決めつけてしまった。ハル衛門から言葉にならない怒りの念話というか意思が伝わってきた。
俺はハル衛門の怒りがハッキリと伝わってきたので結論を話す。
「それならこれ以上の話は必要ありませんね!」
ハッキリとそう答えた。
「待ってください! ドラ美様と直接話をさせてください!」
ノーマンさんはまだしつこく頼んできた。
「それは無理ですね。ドラ美様はマッスル様の従魔ですよ。勝手に紹介などできません!」
バルドーさんが代わりに答えてくれた。
「だったらマッスル殿を紹介―」
「いい加減にしなさい! テンマ様がハル様を紹介したのに信じなかったのに、マッスル殿を紹介しろとは非常識です。これ以上は許しませんよ!」
「なっ!」
ノーマンさんがさらに要求しようとしたのを、バルドーさんがぶった切って話した。
ノーマンさんは絶句してそれ以上は反論してこなかった。
皇帝はバルドーさんを睨みつけていたが、ノーマンとようやく目を覚ました護衛達と帰っていったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます