第34話 人の話を聞けぇ!

ウオォォォォーーーーー!


魂の叫び声を上げ終わると、不思議とスッキリとした。そして別の人格とか、そんなものは存在しないことに気が付いた。


この世界ではチートと言える力を持ちながら、俺はその力を隠そうとしてきた。

最初は自分がこの世界でどれくらいの強さか分からなかった。だから、自分の能力を隠して調査しようと考えた。


しかし、すぐに自分がチートと呼べる存在なのは分かった。それでも、自分以上のチート野郎がいる可能性を考えて、自分の力を見せないようにしてきた。


いや、それはただの言い訳だな……。


過剰とも言える力を隠したフリをして、人を傷つけることを避けていたのだ……。


研修施設で一生懸命に力をつけ、本当は堂々と自分の力を使いたかった。それを必死に誤魔化してきた反動で、自分の隠していた感情や気持ちが溢れ、それが暴走した人格のように感じていたのだ。


結局は俺の願望のような人格だったんだ……。


自分の手で直接人を殺めたことで、何か吹っ切れたような気がした。


今でも人を殺したいと思わない。


でも……、必要なら力を見せつけるのを我慢するのは止めよう!


最初からそうすれば、彼らは愚かな戦いを選択しなかっただろう……。


俺は甲板の上で怯える彼らを見て、本来の自分で話をしようと決心する。


不思議なことに気持ちが落ち着いて、冷静に話ができると確信していた。



   ◇   ◇   ◇   ◇



俺の魂の叫びは声になっていたのか、きちんと威圧スキルが仕事をしたようだ。


ペニーワースは兄のゴダールと同じように盛大にお漏らしをしている。ゴダールと違うのは本人が気絶していることだろう。


他の兵士は青い顔でガタガタと震えている。


「な、何者だ!?」


他の兵士より身分の高そうな男が声を尋ねてきた。


「んっ、お前達が戦いを挑んだ相手だよ」


普通に相手の質問に答えた。


尋ねてきた男は驚いた顔を見せた。そして、兵士たちに目配せしているのに気付く。

兵士たちは恐怖を必死に抑え込み、剣を抜いて構えている。震えながらも俺を囲むように位置に移動している。


そして包囲できたことで少し落ち着いたのか、先ほどの男がまた尋ねてくる。


「敵中に1人でくるとは、覚悟はできているのか?」


いやいや、お前達こそ覚悟できているのかなぁ。


「別に」


ガキンッ!


俺が話し始めた瞬間に、背後から兵士の1人が俺の首に目掛けて、剣で斬りつけてきた。地図スキルと気配察知で、攻撃していることは分かっていた。しかし、彼らの攻撃では俺を傷つけることはできないと思い、無視していたのだ。


ふむ、やはり実力を分からせないと、こいつら勘違いしていて面倒だなぁ。


攻撃が通じないと分かった筈なのに、他の兵士がまた切りつけようと近づいてくる。


それを躱すようにフライで飛び上がる。そしてマッスル弾を放った。


「マッスルゥーーーーーーーーーーーー、ハアッ!」


ダガード子爵領で放ったようなマッスル弾を放つ。そして前回と同様に着弾まで時間が掛かった。


ドゴォーーーーーーン!


「たぁーまやぁーーー!」


着弾と同時に俺は叫んだ。


だいぶ離れた場所でマッスル弾は爆発した。

前回と同じように、まるで海底火山が噴火でもしたように、海水が巻き上げられ、噴煙のように真っ白な煙を上げている。


船の上にいる兵士たちが呆然としているのが見えた。そして、呆然と爆発を眺めていた兵士の1人が突然叫んだ。


「つ、津波だぁーーーーー!」


爆発の余波で、また津波が発生していた。


いや、これって津波じゃないのかなぁ?


前世で確か海底火山が爆発したことがあった。その時に潮位が上がったのを、津波と違うとかニュースで騒ぎになった記憶がある。


甲板では何とか逃げようと、船を動かそうと必死に準備する人もいたが、半分以上が諦めているのか呆然と津波を眺めている。


「マッスルゥーーー、ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」


連続でマッスル弾を放った。マッスル弾は次々と津波に当たり、衝撃で津波を消していく。見える範囲の津波が消えると、甲板は静寂に包まれた。


なんかこの前と同じ感じだぁ。でも今度は敵だから、喜びはしないだろう!


「「「ウオォォォォォ!」」」


喜んでいるじゃん!


一瞬の静寂の後、兵士達は喜びの声を上げ、仲間同士で抱き合って喜んでいる。


俺はそんな状況を確認すると、ゆっくりと船に降りて行くのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



「ダンダンダン、ダッダダン、ダッダダン……」


俺はメロディーを口ずさみながら甲板に降り立った。


「黙って人の話を聞く気になった?」


身分の高そうな男に尋ねた。すると彼だけでなく甲板にいる全員が何度も頷いている。


「ねえ、そこの君!」


残っていたペニーワースの最後の取り巻きの男に声を掛ける。男は涙目になりながら必死に首を左右に振っている。


いやいや、何もしないからぁ。


「え~と……、総司令官を踏んづけているよ!」


俺は親切に教えてあげた。彼はペニーワースの腕を踏んづけていたのだが、跳び上がって後ろに下る。踏んづけられていても、ペニーワースは目を覚ましていなかった。


再び身分の高そうな男を見て尋ねる。


「あなたは指揮官か船長なのかな? あなたが一番偉いの?」


「わ、私はこの船の船長でこの船団の指揮官でもあります。一番偉いのはそこの総司令官であるペニーワース殿下で、私はその次になります」


「じゃあ船長さん、今の状況を説明するからよく聞いてね」


船長さんは黙って頷いてくれる。


俺は公都で起きていることを説明して、いまさら誤魔化そうとしても無駄だと教えてあげる。船長は驚いていたが、先ほどのデモンストレーションの効果か、疑うようなことはなかった。


「そういうことで、そこのペニーワースを拘束して、至急公都に向かってくれる?」


「はい、すぐに向かいます!」


気絶したペニーワースを兵士たちが拘束を始めた。過剰に力が入ったのか体に縄が食い込んでいるのがわかる。


拘束した痛みでペニーワースが目を覚ました。彼は何か訴えようとしているが、すでに猿ぐつわをされているので、何を言っているのか分からない。


「それじゃあ、俺は先に公都に戻るからよろしくねぇ」


俺はそう話すと、またフライで飛び上がって公都に向かうのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



公都に近づくとあることに気が付く。港の船の大半が沈み、港に打ち上げられた船もあった。


そうかぁ~、こちら側の津波は消し切れていなかったのかぁ。


ちょっとだけ反省して仮拠点の建物に行く。テラスにはムーチョさんと宰相、レイモンドが居るのが見えた。


テラスに降りると同時に公都に声が届くように魔法を使う。


「マッスル様、お疲れ様です」


「ああ、あいつらの船は昼までに公都に着くはずだよ」


ムーチョさんが声を掛けてきたので、本来の目的の報告をする。そして何があったのか詳しく話そうとすると、宰相が興奮した様子で会話に割って入ってきた。


「おい、あれは本当にお前がやったのか!? 大変な被害が出たのだぞ。どうしてくれるのだ!」


それを話そうとしたところだ!


少しムッとしたが、被害が出たのは見てきたので我慢して説明する。


「ああ、実は」


「これでは領地の割譲はできん! 先に損害を弁償しなければ許さんぞ!」


おいおい、人の話を。


「悪いのはそちらだ! きちんと責任を」


パァン!


「人の話を聞けぇ!」


きちんと手加減スキルを使って、力を抜いて宰相の頬を叩いた。それでもテラスの端まで宰相は吹き飛び、気を失っている。


鑑定で宰相のHPが1になっていることを確認する。


まあ、死んでも知らんけど……。


アイテムボックスからポーションを出し、青い顔をしているレイモンドに渡す。


「中級ポーションだ。そこのクズならそれで回復するだろう」


回復魔法で治療できるが、こんな奴のために魔法を使いたくはないと思った。

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