第19話 エクス門?

ホレック公国の公都を近くから見て、それからエクス群島に戻った。途中で総司令官のペニーワースが乗る3隻の船団を見つけたことを、ムーチョさんに報告する。


「ふむ、彼らは公都に直接向かっているのですね。マッスル殿が見つけた位置を考えると、それほど急いで戻っている感じでもありませんなぁ」


ペニーワースは船内で内部工作をする時間を考えて、ゆっくり戻るように指示をしていることを俺達は知らなかった。


「ムーチョさんの計画もあるだろうから調査をしたんだ。俺は出番までのんびりするかなぁ」


計画の修正や調整はムーチョさんに任せて、俺は自分の出番まで何をしようか考える。


「ああ、その事なんですが、マッスル様にはマッスル様にしかできないお願いしごとがいくつかございます」


「そ、そうなの……」


なんか嫌な予感を感じながら、ムーチョさんを見る。


待ってぇ~、悪魔王の眷属ムーチョの笑顔を、俺に向けないでくれぇ!


また社畜に戻るようなお願いをされるのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



島に戻ってから6日ほど過ぎた。


「よし、これで大丈夫じゃないかな?」


俺はエクス群島に残ったダガード子爵の30人ほどの部下たちにそう話した。


「はい、大丈夫です! いや、大丈夫ではなく、素晴らしいです!」


彼らの中で一番年配の男性がそう答えてくれた。他の連中の様子を見るかぎり、お世辞で言っている雰囲気ではないだろう。出来上がった港を見て驚きと感動をしているのがよく分かる。


ムーチョさんからまず頼まれたのは、港の建設である。

エクス自治領が実現して、エクス群島が盟主となるなら、今後は人族との交流が必要になるだろう。それには港が必須だから、ムーチョさんには最優先で作って欲しいとお願いされたのである。


そして最後に岩で作った桟橋を完成させて、彼らに作業が終わったことを伝えたのである。


ムーチョさんに頼まれて渋々お願いという仕事を引き受けた。

しかし、ボッチ経験が前世や研修時代も含めて長かったので、何となく1人でコツコツと作業しているほうが俺は落ち着く。気付けば5日ほどで港を完成させてしまった。


いやぁ~、物造りをしていると、ホレック公国のこととか、ドラゴン姉妹のこととか、エアル姉妹こととか、……余計なことを考えずに無心になれるなぁ。


岩で作った桟橋は2本あり、30隻ほどの船も係留させられると思う。比較的大きな船も係留できるように桟橋の横は、海底を削って船底が海底につかないようにもしている。


陸地には倉庫となる建物や、ちょっとした商店街、住人用の長屋住宅まで作ってあった。


岩礁を避けて入ってこられる航路から、一番近い島に港を造った。黒耳長族の普段の生活から切り離し、トラブルを減らすために、彼らの住む島ではなく、この場所に港を造るようにムーチョさんが決めたのだ。


「ほほう、さすがマッスル様、仕事が早いですなぁ」


いやいや、ホレック公国を脅す、ゲフン……、交渉する前に完成させて欲しいと言ったのはアンタだよ!


いつの間にかムーチョさんも彼らと混じって完成した港を確認にきていたようだ。


「この港は凄いです! 安全性や効率を考えてもダガードの港よりも立派かもしれません!」


年配の男性が興奮するようにムーチョさんに話している。


「はははは、エクス自治領の盟主の港として恥ずかしくないようですなぁ」


俺はそんなことは深く考えていなかった。海岸沿いを公都まで空を移動しながら、幾つかの港を見た。そして木の桟橋ばかりで危険じゃないかなぁとか、朽ちた桟橋も多かったなぁとか感じたから石で造ったのである。


「間違いありません! 船を係留しやすくするために、海底の形まで変えるなど、そのような発想はありませんでした!」


おうふ、そうなのぉ~、ただ船を係留しやすく、桟橋を無駄に長くしないようにしただけなのにぃ~。


「ふふふっ、まあ、我が主であるマッスル様にかかれば、これぐらい簡単ですからなぁ。やはりマッスル自治領とした方が良いかもしれませんなぁ」


「はい、響きも良く、我々も賛成であります!」


「却下!」


それはすでに話し合って決めたじゃないかぁ。


ムーチョさんはからかうように俺に視線を送っているいる。しかし、話を聞いていた他の連中は期待するように俺を見てきたので、即座に却下する。


「まあ、仕方ありませんねぇ。ですが、さらに従属する領が出てくれば、マッスル王国のエクス自治領となるかもしれませんねぇ」


「「「おおっ!」」」


「却下! 却下! 却下!」


なんでコード名が国名になるんだ!


それに王国ということはマッスル王とかに俺をするつもりか!?


「まあ、そういうことは成り行きでしかありませんなぁ。自然にそうなるかもしれませんし、国名や王の名前も違う名になるかもしれなせんがねぇ。クククク」


ま、まさか、コード名ではなく本当の名前で!?


そんな事されたら、俺は姿を消してやるぅ~!


俺は信じられないと、ムーチョさんを驚きの表情で見つめる。ムーチョさんはそんな俺にウインクをしてきた。


そ、それは、どういう意味ぃーーー!?


冗談だという意味なのか、楽しみにしての意味なのか、それ以外の意味なのか全く分からない。逆に混乱するだけであった。


しかし、そんな俺の混乱を無視して、ムーチョさんは更に話を続ける。


「ですが、あの岩礁を避ける航路は微妙ですなぁ」


「はい、熟練の船乗りが船にいないと危険です。それでも注意して進まないと座礁する危険があります。大きな船が座礁でもしたら、船の出入りができなくなる可能性もありますから……」


年配の男は心配そうに話した。


この群島は岩礁に周りが囲まれている。所々岩が海面から突き出しているのも見えるし、突き出していなくても白波を起こしている場所もある。そして船が通れる場所のように普通の波が見える場所もある。


正確な場所が分からなければ小舟でも危険な岩礁地帯だと言えるだろう。だが岩礁地帯があるからこれまで他からの船が近づいてこなかったのだろうし、外海の荒い波も岩礁地帯で消され、内海は穏やかな状態になっているのだ。


俺は先程のマッスル王国関係の話で動揺して、深く考えず話してしまう。


「それなら、航路の部分を挟むように塔みたいなものを造ったら? 左右は岩礁があるからそれほど深くないし、塔を造るのもそれほど難しくないでしょ。このエクス群島に入るにはその塔の間を通るようにすれば分かりやすいと思うなぁ。何ならその塔から監視するようにすれば、不穏な連中は排除できるんじゃないですか?」


「ふむ、それは素晴らしい案ですねぇ。その塔はこのエクス群島に入るための門のような役割になるのですな。その門で不審者は排除すると……。その門をマッスル門と」


「却下! エクス門でいいじゃん!」


ムーチョさんの発言をぶった切り、エクス門と提案する。


「そうですかぁ、少し残念ですが仕方ありませんねぇ。ではマッスル様、エクス門で決定とします」


「うん……」


俺はホッとして気が抜ける。その隙をみてムーチョさんが頼んできた。


「ではエクス門を早めにお願いしますね。ホレック公国との交渉に向かうまでに完成してください」


「えっ、うん、わかった……」


不意を突かれて了承してしまった。


「あと交渉についての準備も忘れないで下さいね?」


「……わかった」


気付くとまた社畜生活に戻っている気がするぅ。


まあ、でも、それほど大変じゃないかなと思っていた。ロンダから王都に行く途中で橋を造った時とそれほど変わらないか、それよりも簡単だからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る