第21話 ゆ、百合ちゃん!?
国境に近い村は、村というより町といった感じであった。バルドーさんのオシリアイのお陰か、村に入るのも特に調べられることもなかった。
村には兵士を多く見かけ、どこか騒然とした雰囲気であった。しかし、何となく住人の表情は暗い感じだ。
村で一番の宿を紹介してもらい、宿の入口で兵士の人達とバルドーさんと別れる。村だからそれほど良い宿ではないのかと思ったが、下手な町の宿より立派な宿だった。
受付の従業員に部屋を紹介してもらいながら話を聞いてみる。
「村なのにこんな立派な宿があるんですね?」
成人したばかりの俺が尋ねても、従業員は笑顔で普通に答えてくれた。
「この村は国境に近いこともありますし、頻繁に商人の出入りも多くありました。それも長年続いたこともあり、実質的には町と言えるのではないでしょうか? 実際に国境の村と名前がありませんでしたが、町として正式に名前を付けようと話も出ていたのですが……」
最初は笑顔で話していた従業員も、だんだん陰のある感じで話してきた。
「やはり領主一族が不正で捕まったせいですか?」
「……それは確かに少しありますが、正直あまり関係ありません。国から代官様が派遣されてきて、兵士の人達が駐留されていますが、ほとんど生活は変わっておりません。それよりも、暫く前に国内で塩が供給されるようになったことで、一気に隣国の商人が来なくなったことですかね」
ああ、それは俺が原因ともいえるなぁ。
それ以上話を聞くのが辛くなり部屋の鍵を受け取って部屋に移動するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
その日は、バルドーさんは戻ってくることもなく、というか、いつも夜は行方不明だけど、朝食を宿の食堂に食べに行くと合流した。
「国から派遣された代官に説明も終わりました。今後の予定はどうされますか?」
う~ん、ホレック公国で海産物を食べるとしか考えていなかったなぁ。
「特にこの村ですることもないし、早めにホレック公国へ行こうかなぁ」
「おう、それがいいぞ! ホレック公国から船で半日ほどの所にある島にはダンジョンがあるし、あそこの島は料理がうまい!」
へぇ~、そんな所があるのかぁ。
自分にとっては最高の場所のような気がする。
「まあ、それほど良いダンジョンではありませんでしたが、確かにあそこの料理は美味しかったですね」
バルドーさんも行ったことがあるようだ。
「その通りだ! あそこの食材でジジに料理してもらえば、もっとうまいはずだ!」
食いしん坊ドラゴン妹は、完全にジジの料理に嵌まったようだ。
しかし、話を聞くと今すぐに行きたくなるなぁ。
「あそこには暫く滞在しましたからねぇ。あれは何十年前でしたか、懐かしいですねぇ。あそこの料理は非常に素晴らしかった!」
バルドーさんがそこまで料理のことを話すのを初めて聞いた。
うん、今すぐ出立しよう!
◇ ◇ ◇ ◇
なんでこうなったぁーーー!
目の前にはファイアードラゴン姿のドラ美がボロボロで倒れている。
まあ、俺が倒したのだけどね……。
朝食を食べ終わるとすぐにホレック公国に向けて出発したのだが、馬車の御者台でリディアが変な質問をしてきたのが始まりだった。
「なあ、テンマはバルドーの主になるぐらいだし、あんな魔法が使えるくらいだから、そこそこ強いのだろ?」
んっ、突然何を言い出すのだ?
「あんな魔法?」
「あれだよ、ルームみたいに中に入れる魔法だ」
ああ、D研のことかぁ。
「ディメンションエリアのことか?」
「あれ、D研という魔法じゃないのか?」
「あれは空間魔術のディメンションエリアという魔法を、俺がD研と呼んでいるだけだよ」
「ふ~ん、俺も知らない魔法なんだ……」
リディアは何か考えるように呟いた。
「それで?」
それで……、なに?
俺はリディアが何か聞きたそうにしてきたが、意味が分からなかった。俺が不思議そうにしていると、また尋ねてきた。
「だから、そこそこ強いのか!?」
あぁ~、そういうことかぁ。
「たぶん強いよ」
「じゃあ、俺と戦ってみようぜ!」
いやいや、なんでそうなるぅ~。
「面倒だからイヤだね!」
「自信がないのか? 俺は人化けすると力が1割ほどになっているから何とかなるだろ?」
こいつぅ~、明らかに煽っているな!
リディアは負ける気など全く考えていないようだ。鑑定でステータスを見た俺としては、女の子を苛めるみたいでイヤなんですけどぉ。
「面倒だからイヤ!」
「だったらジジは俺がもらうぞ!」
コイツは何を言ってるんだぁーーー!
も、も、もしかして百合ちゃん!
ジジも驚いた顔をしている。
「ド、ドラゴンは雄雌を気にしないの?」
男女と言った方が良かったかな……。
「バ、バカ、そ、そういう意味じゃない! ジジはお前に雇われているんだろ。だから俺が代わりに雇うと言ってるんだ!」
ああ、そういうことね。
俺だけでなく、ジジもホッとした表情をしている。
「却下!」
「なんでだよ! 弱い奴にジジほど素晴らしい女の面倒はみられないだろ!」
う~ん、コイツの話し方を聞いていると、まるで百合ちゃんかと勘違いしそうになるなぁ。
「ジジは家族だ。誰にも渡さない!」
「その家族を守れるのか? 俺が力ずくでジジと駆け落ちしたらどうする!?」
だから駆け落ちってなんだよぉ。やっぱり百合ちゃんかぁ!?
たぶんハル株の影響から、食い意地でジジを確保したいのだろう……。
「なぁ、ハル衛門から俺の事を聞いてないのか?」
「お姉ちゃんから話は聞いたよ。お前に殺されそうになったとお姉ちゃんは言ってたけど、純粋な戦闘力は圧倒的に俺の方が強いからな。どうする?」
う~ん、面倒だけど、これからも言ってきそうだからプチっとやっちゃうかぁ。
ついでに少し脅しておくか。
「わかったよ! 戦っても良いけど、俺が勝ったら尻尾を貰うぞ!」
「し、尻尾!? な、なんで尻尾が欲しいんだ?」
「ほら、魔力の多い魔物は美味いじゃん! ドラゴンの尻尾も美味いよねぇ~」
リディアは大きく目を開いて驚いている。しかし、驚いたのは最初だけで、リディアはすぐに不敵な笑みを浮かべている。
「いいぞ! ジジの価値を考えたらそれぐらいが妥当だ!」
リディアの合意も得られたので、馬車を収納してD研に移動するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
D研に入るとジジに昼飯の準備を頼み、いつも訓練するあたりに移動する。
さすがに俺の特製ショートソードを使ったら、本当に殺してしまうので、訓練用のショートソードに持ち替える。すると、ジジに話を聞いたのかハル衛門が飛んできた。
『やめなさい! テンマと戦えばひどい目に合うわよ!』
ちょいちょい、ハル衛門さん。随分前の事を恨んでる?
「大丈夫だよ。テンマからジジを奪えば、オークカツ貯金などしなくても、いつでもオークカツが食べられるんだ!」
『本当! それなら問題ないわね。もし負けても尻尾をテンマに食べられるだけだから大したことないしね』
えぇぇぇぇ! ドラゴンにとって尻尾は貴重じゃないのか! もしかして食べても生えてくるのか!?
リディアを見るとまた驚いて俺の顔を見つめてきた。
「えっ、本当に食べるつもりなの……」
「ジュルリ! うん、もちろん!」
冗談だが脅してやろう。そういえば研修時代の在庫がまだ倉庫にあるはずだ!
今晩はテールスープかなぁ。冗談だが、考え始めると涎が出そうになった。
慌てて口元拭うと、リディアの目が本気になっている。
「いつでも掛かってきなさい!」
そう言うと、リディアが驚くほど速い動きで、大剣を抜くと襲い掛かってきた。
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