第22話 同じ過ちを……
リディアは人の姿では限界と思われる速度で俺に近づくと、大剣で首筋を狙って横から斬りかかってきた。
ガキィン!
ショートソードでその大剣を受け止める。訓練用で頑丈さだけは一級品の剣だから受け止められたのだろう。それにリディアは、最初から首筋に寸止めするつもりだった感じだ。そうでなければ体ごと吹き飛ばされていただろう。
リディアは驚いた表情を見せると、一気に元の場所まで戻った。
「魔術師のお前が、まさか私の剣を受け止めるとは思わなかったぞ!」
すでに驚いた表情ではなく笑顔で話してきた。
んっ、俺は魔術師だと言った覚えはないけど?
「いや、凄いな。今より早く動けば地面が削れるだけだし。あの速さで寸止めしようするとはどんな腕力をしているんだ?」
俺が正直に感じたことを話すと、また驚いた顔をしたがすぐに笑顔で話してきた。
「ははは、確かにバルドーの主だと言うだけはあるなぁ。手加減していたが、その必要はないようだな!」
そう言い終わると同時に人とは思えない速さで斬りかかってきた。これには俺も驚いた。
ガキン、ガキガキガキーン!
まだ寸止めで攻撃しているようだが、最後の一撃は寸止めではなかった。しかし、不思議な移動手段だ。まるで空を飛ぶように凄い速さで近付いてきたのだ。
空を飛ぶ? ドラゴンの飛翔能力を利用したのか!?
最初の一撃を止められた時も間近でリディアの驚きは分かった。それから何度も剣を振るってきたが、全て受け止めた。そしてリディアは元の場所に戻って口を開いて驚いていた。
「はははは、凄いなぁ。まさか剣術に飛翔能力を組み合わせる方法があるとは思わなかったよ! 勉強になるなぁ~!」
感動して笑いが込み上げてくる。こうやってそれなりの相手と戦ってみないと、スキルの活用法とか分からなかっただろう。たった一人で訓練していただけでは得られない経験だ。あの研修時代に訓練に協力してくれたオーガの亜種からも、剣に魔力を纏わせる方法を学んでいた。しかし、あれ以上の人型の相手はいなかったから仕方ない。
リディアは人化けで戦うようにしていたから、自分でこの戦闘法を気付いたのかもしれないなぁ。
「お、お前は何者だ! ま、魔族か!?」
魔族!!! 魔族は人型で強いのか!? あ、後で聞いてみよう。
「フフフッ、俺はただの旅人だよ。剣術を鍛えるために世界中を旅する剣客だ。今宵の虎徹は嬉しそうにしているなぁ~」
うん、訓練用のショートソードだけどね。
「お兄ちゃん、カッコイイ!」
ふふふっ、ピピのカッコいい、いただきましたぁ!
「ふ、ふざけるなぁ!」
ガキン、ガキガキガキーン!
おっ、全部が本気の剣筋になってる。
寸止めどころか全力じゃね!?
ガン、ガキーンガキガキガキン!
訓練用の武器じゃなければ、確実に剣ごと切られていそうだ。
それに自分が思った以上に戦えることにも驚く。研修時代はドラゴン種とは魔法で戦っていた。剣で倒せる気はしなかったのだ。今なら剣で倒せる気がする。
バン、ガキガキガキーン!
リディアも人の姿では力が1割程度と言っていたが、それでも弱すぎる気がする。
やはりレベルアップで基礎能力が上がったことで、俺のチート能力が更に成長した気がするぅ。
ガキン、ガキガキガキーン!
「ハァ、ハァ、ハァ」
おっ、疲れたのか?
それでは折角教えてくれた戦闘法を試してみるかぁ!
俺にはドラゴンのような飛翔スキルが無いので、フライの魔法を使って同じ様に移動してみる。
ガン!
おっ、いいねぇ~!
リディアと同じ感じで移動できた。軽く大剣にショートソードを叩きつけて元の位置に戻ったが、予想以上に上手く実戦で使えた。
ガン、ガキガキガキーン! ゴロゴロ。
うん、良い感じじゃないか! これは気持ちいい!
リディアは俺の動きが見えていなかったのか、何度も大剣をショートソードで叩いていたら、大剣を落としてしまったようだ。
俺は大剣を拾うとリディアに差し出した。
しかし、よく見るとリディアは涙目で俺を睨んでいる。
あれっ、やり過ぎた!?
女の人を苛めている気がして申し訳なくなる。
「ゴ、ゴメン……」
「ふ、ふざけるなぁーーー! グギャァーーー!」
え~と、ドラゴンに変身!? いや、元に戻ったのかぁ! うわぁ!
一瞬だけど体が大きくなり始めた時に装備が吹き飛び、服が破れて裸が見えた気がするぅ。
くっ、先に鱗が生えたのが残念だ!
それでも装備越しより、胸の形はハッキリと分かった。
しかし、呑気にそんなことを考えている場合じゃない!
ファイアドラゴンになったドラ美は、口の中でファイアブレスしようと準備しているのがわかった。研修時代にも見たことのある初期動作なので気付いたのだ。
俺だけなら問題ないが、他にもピピやバルドーさんも居る。それに俺の後方には『どこでも自宅』がある。
俺は結界を全力で何重にも展開する。俺だけでなくピピ達や『どこでも自宅』も含めてだ。
結界の準備が整うと同時にドラ美がファイアブレスを吐いた。目の前が真っ赤になったが、何とか結界で防げているようだ。
「ギャオオオォォォォォ!」
ドラ美はファイアブレスが塞がれたことに気付くと、地面が揺れるように吠えた。そして前よりもじっくりとファイアブレスの初期動作を始めた。
うん、これはダメだね!
結界で防御できているし、さらに強化したファイアブレスでも結界で防げるとは思う。しかし、その余波で周辺の森が燃え盛っているのである。
俺のD研を!
アイテムボックスから訓練用の大剣を出すと、今にもファイアブレスを吐きそうなドラ美の顔を横殴りにする。訓練用だから切れないから安心だ。
「グギャァ!」
ファイアブレスは不発になったようだが、大剣で殴られたことでドラ美は更に興奮した。またファイアブレスの初期動作をしながら尻尾で攻撃してきた。
攻撃してきた尻尾を大剣で叩き落とすと、今度は反対からドラ美の顔を大剣で殴りつけてファイアブレスを止める。
ファイアドラゴンの姿だと凶悪そうな見た目で女の人と思えない。だから遠慮なく殴りつける。
それから何度も同じような事を繰り返して、ボロボロになったドラ美は動きを止めた。
俺は大剣を収納すると、歩いてドラ美に近づく。
「少しは落ち着いたか?」
しかし、ドラ美は尻尾で俺を横なぎしてきた。俺は腕に魔力を纏い、片手で尻尾を受け止めた。
おっ、やっぱり今晩はテールスープだなぁ。
思わずそんなことを考えながら、あの辛いスープを思い出すと口の中に唾が溢れてくる。
ゴクリ!
自分でも驚くほど唾を飲み込む音がした。同時にドラ美は尻尾を隠すように体の後ろに戻した。
いやいや、ドラ美ちゃん、食べるのは在庫だから!
ドラゴン姿なのに怯えたように目に涙を溜めるドラ美を見ながら、心の中で呟いた。その瞬間に前にも経験した事のある、相手と繋がる感覚がドラ美との間で起き。ドラ美が青白く光った。
まずいと思いながらドラ美を鑑定すると、名前が『ドラ美ちゃん(リディア)』になり、称号に『テンマの従魔』と表示されている。
やってもうたぁーーーーー!
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