第16話 お姉ちゃん!?

昨日行った草原に朝から移動した。いつものように狩に行くピピやハル兵衛は周辺を走り回っている。


「この池はフリージアさんが魔術で開けた穴が池になったと思ったんですが……」


バルドーさんに草原や池の状況、遺骨や遺品が見つかった状況を説明する。


「私も同じように考えます。母上の魔術は見たこともありますし、可能性が高いと思います」


バルドーさんも同じように考えてくれたようだ。


俺は池のほとりを整地して土魔術を使って人の背丈ほどの慰霊碑を作った。慰霊碑の下にはバルドーさんの祖父達の遺骨が納めてある。


「テンマ様、ありがとうございます。まさかこれほどまで遺品や遺骨が見つかるとは思いませんでした」


バルドーさんは丁寧に頭を俺に向かって下げると、暫く顔を上げてくれなかった。


俺はバルドーさんを1人にして、ピピやハル兵衛の様子を見に行く。


ピピはシルとピョン子と連携をとり、まるで遊んでいるかのように魔物を倒していく。ピピは止めを刺せないのを楽しむようになっていた。そしてシルとピョン子は魔物を大量に倒したことで益々強くなっている気がする。


ハル兵衛も驚くほど動きは軽やかになっている。ミニオークがオークを瞬殺する姿が少しカッコいいとさえ思ってしまった。


ハル兵衛の戦闘方法は、最初に俺と会った時の方法とは全く別物だった。全身を光らせて突進するように飛んでいくのは変わらない。しかし、相手にぶつかるのではなく、すぐ横を通り過ぎると、オークが首から血を流して倒れるのだ。よく見ると風魔術を使って、風の刃を通り過ぎながらオークの首に放って倒しているのである。


後日その事を褒めて、何故自分の戦闘の時に使わなかったのか尋ねたら、俺との戦闘時は使えなかったと答えた。さらに尋ねるとオークカツの肉を傷つけたくないから、必死に考えて習得したらしい。


うん、ハル株は食い意地を利用すれば成長が加速するようだ!


しかし、倒し終えた後に収納しに魔物のそばに近づく姿には恐怖した。涎をダラダラ流しながら、欲望の念話が溢れているのだ。


『ヒヒヒッ、これでまた貯金がぁ~、最高よぉーーー!』


うん、オークカツ貯金の口座を凍結したら、ミニオークからミニオーククイーンにクラスチェンジしそうだ……。


その日の夜は池のほとりに結界を張り、野外バーベキューを開催した。


鉄板や網を用意して、過剰供給されるオークの内臓を大量に消費することにした。色々なモツを下拵えして出したら、予想以上に好評であった。


ハル兵衛が供給したモツだったので、今回は制限なく食べて良いと言ったことを後悔することになるのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



朝食を食べながらみんなに話をする。


「今日はバルドーさんが昔住んでいた場所まで行くからねぇ。だけど、移動は俺が飛んで行くからみんなはD研内で過ごしていてよ。到着したら声を掛けるからヨロシクね」


前から話していたので特に問題はなさそうだ。


『イヤよ! 私はもっと貯金をしたいわ!』


ハル株は新たなハル兵衛株に変異した気がするぅ。


「大丈夫ですよ。私の住んでいた場所の近くにはオークの集落があります。上位種もいますし、さらに美味しいオークカツが食べられると思いますよ」


『美味しいオークカツ……』


おいおい、食事中に涎を垂らすんじゃない!


「それよりもテンマ様には何から何までお世話になり申し訳ありません。もしお望みでしたら添い寝や調教も致しますが?」


いるかぁーーー!


「遠慮します!」


バルドーさんは残念そうにしている。


まさか俺をバルドー聖地に迎え入れようとしていないよね!?


俺は逃げるようにD研を出ると、目的の山に向かって飛ぶのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



空を飛びながら、魔物の分布やどんな魔物が居るのか確認する。山に近づくほどに魔物の種類は増え、強くなっている。上位種も多いし、上位種を中心とした群れもたくさん存在した。


驚くほど大きなゴブリン集落を超えて進んで行く、そして山の麓が近くなると、さらに強い魔物たちを見かけるようになる。少し狩ってみようかと思ったが、みんなを待たせていると思って我慢する。


なんだぁ!


前方に予想外の種族が1頭だけでいた。慌てて空中で止まって考える。


取り敢えずこの位置からなら隠密スキルで相手は気付いていないようだ。


研修時代にも倒した記憶があるが、まさかこんな所で会うとは思わなかった。


迂回したいが、目的の近くである。それどころか目的地の麓の草原がすぐ近くにある。倒す事も考えたが不安要素もある。


研修時代のダンジョンで倒した魔物は多い。しかし、この世界に来て魔物もレベルアップすることを知った。ダンジョンの魔物はほとんどレベルアップしている感じはなかった。しかし、地上の森に居た魔物は、レベルアップしていたのだ。


自分の能力なら大した違いはなく倒せているが、目の前の魔物は別物である。大丈夫だとは思うが油断してはダメだと慎重になる。


取り敢えず慎重にゆっくりとした速度で進んでみる。


隠密スキルで相手は気付いている様子はない。さらに近づくと不思議なことに気付いた。魔物がいる場所に家があり、家の中にその魔物が居るのだ。


あれっ、俺の知っている種族じゃないのか?


どう見てもその魔物が入れるような家ではないし、別に地下に居る訳でもない。普通に家の中にいる。


もしかして偽装スキル!?


偽装スキルにはついては研修時代に図書室で読んだことはある。まだ鑑定は使っていないが、地図スキルで連動した種族表示も偽装されていても不思議ではない。


迷ったが俺のことは気付いていないので、予定通り近くの草原に行く。草原は気持ちの良い場所でそれなりに広い。そして先程の家から結界が張られ、魔物除けの効果がこの草原まで届いていた。


最初は結界に気付かなかったが、徐々に違和感が大きくなり魔物除けの結界だと気付いた。魔物除けの効果は人には全く感じないので、最初は気付かなかったのだ。


魔物除けの結界だと気付くと、先程の魔物もやはり偽装スキルの表示だと思えた。


少し安心して草原を見渡すと、草原の端に石の積まれた場所があった。


そこに行くとD研を開いて中に入り、『どこでも自宅』のリビングに行く。


「お昼ですか? まさかもう到着したのですか!?」


バルドーさんは驚いた表情で尋ねてきた。そういえば昼食の時間が近いなと思いながらバルドーさんに答える。


「えぇ、もう着きましたよ。三つほど石が積まれた場所がありましたね」


「わかりました。すぐに行きます!」


え~と、それなら昼ごはん食べてからにしようと思ったのだけど……。


しかし、バルドーさんにそんなことを言える雰囲気ではなかった。


「それより近くの家に何か居るようなんです」


バルドーさんはすぐにでも行こうとしていたが、俺の話を聞いて驚いた顔で答える。


「それは昔の冒険者仲間でしょう。元々あそこの家は彼女の家でしたから」


彼女……、やはり偽装スキルだな!


『着いたの!? 早速オーク集落を襲撃よ!』


こいつは何を言ってるんだ!


そう思ったがすぐに考えを変える。まさかと思うが念のためにハル兵衛もついてきてもらおう。



   ◇   ◇   ◇   ◇



バルドーさんとハル兵衛と一緒にD研から出る。バルドーさんはすぐに石の積まれた場所に行く。ハル兵衛はこの場所が気に入ったのか、止める間もなく飛んで行ってしまった。


何のために連れてきたのか分からん!


しかし、背筋に何か感じると、すぐそばに20代中ごろ女性が立っていた。髪は真っ赤でショートカット、冒険者の服装で少し汚れているがスタイルも良く胸もデカい。魅力的な女性なのは間違いないが少し粗野な感じがした。体に不釣り合いの大剣を背中に担ぐように背負っている。


「なんだバルドーかよ。突然気配を感じたから誰かと思ったぜ!」


雰囲気通り粗野な感じの話し方だが、それも魅力的に感じるのがまた良い。


「リディアさん、戻っていたのですね。しかし、相変わらずあなたは変わりませんねぇ」


バルドーさんは女性の方を見て名前を呼んだ。うん、名前もいい感じだぁ。


「そっちはお前のこれかい?」


リディアと呼ばれた女性は小指を立て、バルドーに尋ねる。


そんなわけあるかぁ!


「そうだと嬉しいのですが、こちらは私の主であるテンマ様です」


「へぇ~、まさかバルドーが主を持つとはなぁ」


興味津々と言う感じで俺のことを見つめてくる。俺は偽装スキルのことを聞きたいと考えていた。鑑定してみたい誘惑に駆られるが、まずは話を聞いてからにしようと考えた。


『あら、ドラ美じゃない。久しぶりねぇ!』


そこにハル兵衛が戻ってきて、バルドーさんにリディアと呼ばれていた女性に念話で話しかけている。


えっ、ドラ美!?


リディアはワナワナと震えていたが、突然リディアが大剣を抜いてハル兵衛に切り掛かった。


ハル兵衛は上に飛んで躱し、念話で文句を言う。


『ちょっとぉ、何するのよドラ美!』


「ミニオークがその名前で俺を呼ぶんじゃね!」


おぉ、ミニオークは存在するんだぁ!


『ちょっとぉ、失礼なこと言わないでよ! お姉ちゃんにこんなことして覚悟できてるのよねぇ!』


えっ、お姉ちゃん!?


「えっ、お姉ちゃん……。まさかハルお姉ちゃん!?」


まさかのお姉ちゃん! でも微妙に種族違うよね!?


『そうよ!』


「うそ、……なんでオークみたいになっているのよ!」


『失礼ねぇーーー!』


誰もが同じように感じるのだと俺は感心していた。

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