第11話 やり過ぎ注意!?

突然の執事の乱入により門の周辺は静寂に包まれた。


「我が主の無礼をお許しください! 必要であれば私の命を差し出します」


うっ、重い!


「ほう、何故あなたがこんな所に居るのですか?」


あれっ、バルドーさんの知り合い?


「どういうわけか分かりませんが、罪を許され、ベルタ伯爵にこちらのキース様の執事をするように言われたのです」


んっ、罪を許され?


少年代官は生きているようで後頭部を手で押さえ唸っている。


「ふむ、国王陛下から恩赦が与えられたことは聞いていましたが、まさかベルタ伯爵が拾っていたとは……」


国王陛下の恩赦!?


「お、恩赦とは、ど、どういうことだ!」


おっ、少年代官が復活した! だが彼も事情を知らないようだ。


「私はベルント侯爵家の筆頭執事をしていました。国王陛下に恩赦をいただいてベルタ伯爵様にあなたの執事をするように言われたのです」


「な、なんだと! 国家の反逆者に仕えていたのか!? 恩赦が出たということは反逆者と一緒に犯罪をしていたのではないのか!」


おうふ、きついことを言うなぁ。


「その通りでございます」


執事さんが寂しそうに微笑んで答えた。


「バルドー様、王宮からバルドー様の一行に迷惑をお掛けしないように、緊急通達が本日届いたところでございます。キース様はまだその事を知らなかった。だから責任はすべて私にあります!」


「ア、 アルフレッド……」


少年代官は目を見開き驚いている。


「ほほう、そんな通達が出ているのですか? 私は聞いていませんねぇ」


うん、俺も聞いていない。なんでそんな通達が?


「王領の代官がご迷惑をお掛けしたからではありませんか? その代官はすでに一族と一緒に追放処分の受けたと通達にございました」


おうふ、本当に一族追放になったんだぁ……。


少年代官が涙目になっている。


何となく他人事の話のような気がしてきた。どんな結論が出るのかその事の方が気になる。


「しかし、彼は国王陛下が恩赦を与えたあなたを、犯罪者呼ばわりしたのですよ。それこそ国王陛下に反逆するような言動ではありませんか?」


「いえいえ、そのことで罰を与えようとすれば国王陛下への反逆になりましょう。しかし、犯罪者であるのは本当のことでございます。犯罪者呼ばわりしただけでは問題ありません」


う~ん、確かにそれは言えるのかぁ。


「まあ、通達とかは別に私達とは関係ない話なので気にしなくても構いません」


おっ、バルドーさん見逃すのか!?


少年代官と執事さんはホッとしたような表情をしている。


「しかし、罪もない我が主を、捕まえようとしたことは許せませんなぁ」


うん、それも言える! なんで俺が捕縛されないとダメなんだ?


なんで捕まえようとしたのか、よく分からん!?


「あなたは我々を捕まえてどうするつもりだったのですか? 女癖が悪いと聞いていましたが、我々を排除して、無理やり彼女たちを手籠めにでもするつもりだったのですか?」


バルドーさんが少年代官に質問した。彼は鼻水まで垂らして泣いている。


「グスッ、ただ彼女が、ズズッ、危険な目にあわされていると、ウグッ、思って。助けたかっただけなんですぅ!」


うおっ、なんだぁ、アンナを見ながら話しているのかぁ!?


お目当てはアンナだったようだ。アンナを見ると虫けらかゴミでも見るような目で、少年代官を見ている。


うん、何となくアンナの本性を垣間見た気がするぅ。


「ほほう、聞いた話では沢山の女性が泣かされているようですがねぇ」


バルドーさんが更に彼を追い詰める。


「バルドー様、確かにキース様は強引に女性に手を出しております。しかし、最終的には相手を納得させております。使い捨てのようなこともしておりません。

今回だけは過剰な手段を用いたようですが、それはそちらのお嬢様があまりにも美しいからです」


アンナさんや、ドヤ顔で嬉しそうにしないでほしいなぁ……。


さあ、バルドーさん、どんな結論を出しますか!?


「テンマ様はどうなされますか?」


なんとぉー! 俺に振ってきたぁーーー!


その質問は非常に困る。腹は立ったが結果的に被害はない。でも、訳の分からない理由で捕縛されそうになったのも事実で、何の罰もないのは良くない気もする。


う~ん、だけど俺が罰を与えるのも変な気がするぅ。


周りを見るとすでに町の住人が集まってきているし、情けない顔で少年代官を見ている。ある意味社会的な制裁は済んでいる気もする。だけど、簡単に許せば同じような被害者が出る可能性がある。


うん、強引に迫られる恐怖を覚えて貰おう!


「バルドーさんに手籠めにされたら、彼も同じことをしなくなるのじゃありませんか?」


本当にしてもらうわけではないが、脅しにはなるだろう。


少年代官は目を見開き、恐ろしいものを見るようにバルドーさんを見ている。


「それで許して頂けるなら、キース様も喜んで身を捧げることでしょう!」


執事さんはその程度で済むならと嬉しそうだが、少年代官はイヤイヤと顔を左右に振って拒絶している。


「テンマ様、それはあまりにも酷い話です!」


あれっ、バルドーさんが彼を庇うの?


俺が驚いた表情をするとバルドーさんは更に話を続ける。


「私にも好みが御座います! こんな人生経験の少ない我が儘な子供の相手は嫌です!」


あぁ、庇ったわけではないのね。


少年代官はホッとした表情を浮かべるが、執事さんは残念そうな表情をしている。


俺も本気でそんなことをするつもりはないが、もう少し少年代官には恐怖を覚えてほしい。


「それはすまない。でも、バルドーさんなら、我が儘な彼を調教したり、自分好みの男に育てたり、2度とこんなことをしなくなるようにしてくれるかと思っただけですよ」


「えっ、調教……、育てる……」


あれれっ、バルドーさんが考え込んでる。じっくりと少年代官の足元から舐めるように全身を見ている。


少年代官は蛇に睨まれたカエルのように、ブルブルと恐怖で震えながら絶望の表情を浮かべてる。


うん、良い感じに恐怖を感じているようだ。


バルドーさんも上手く話を合わせてくれたようだ。


俺は少年代官に近づくと、できるだけ優しく笑顔で話す。


「君は同じような感じで俺の仲間を昨晩見ていたよね?」


「ご、ごめんなしゃい!」


少年代官は怯えたように俺に謝る。


「謝る必要はないよ。明日の朝には君も納得してくれるんだから」


彼はまたイヤイヤと首を左右に振る。


彼の肩をポンポンと叩くと更に話を続ける。


「心配ない。明日の朝には新しい道が君の前には広がっているよ。ふふふっ」


あっ、恐怖のあまり気絶した!


まあ、これだけ脅せば彼は2度と悪さをしなくなるだろう。


執事さんが真剣な表情で詰め寄ってきた。


「ほどほどでお願いします。そちらの道に狂ってしまったら、余計に手が付けられません!」


「はははは、少し脅しただけですよぉ。本当にそんなことはしませんから。バルドーさんも話を合わせてくれて、ありがとうござ……」


バルドーさんの方を見ると、いつの間にかさっきまでいた場所に姿がない。そして何故か筋肉冒険者と一緒に少年代官を抱きかかえている。2人が驚いた表情で俺を見て固まっているが、俺も固まってしまう。


え~と、まさか本気じゃないよねぇ。


「テ、テンマ様、か、彼を馬車に運びます!」


本当に馬車だよね! 部屋に連れて行こうとしていないよね!


筋肉冒険者もバルドーさんがそう話すと、動揺した表情でコクコクと頷いていた。


うん、見なかったことにしよう!


「執事さん、彼を屋敷に連れて行ったら、服を脱がせて寝かせてあげてください」


「ふ、服を脱がしてですか!?」


執事さんが驚いて確認してくる。


「そうです。そして彼が目を覚ましても、彼が気を失ってからのことは何も答えないで下さい。そうですねぇ~、気の毒そうな表情で言えないと答えるのもいいかもしれません」


「そ、それは……」


ふふふっ、さらなる恐怖と不安を感じてもらいましょう。


そこまですれば彼も反省する事でしょう!


「テンマ様はおそろしい……」


なぜかバルドーさんに恐れられた気がする。それに周りにいる筋肉冒険者だけでなく、町の住人の人も何故か俺を恐れるように見て頷いている。


もしかして、やり過ぎだったのかなぁ……?

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