第6話 テラス様と再び

自分の考えをみんなに伝えた。多少の反発はあったようだが、特に問題なく受け入れてもらえたようだ。


呆然とするシャルロッテ王女は少し気になったが、時間が遅くなったので急いでアンナと教会へ行くことにする。


『知識の部屋』の設置は教会が行っているので、お願いをしに行くのだ。


教会に到着すると、中にいたシスターにアンナが声を掛ける。


「『知識の部屋』の設置は、どちらでお願いすればよろしいでしょうか?」


声を掛けられたシスターは不思議そうな表情で俺達を見る。確かに成人したばかりの少年とメイドが『知識の部屋』の設置といえば不思議に思うのだろう。


「え~と、どちらのギルドに設置するのでしょうか?」


「いえ、ギルドではなく、新しく創った研修施設に設置のお願いをしにきました」


「けんしゅう施設? 国の施設でしょうか?」


シスターは益々分からないという表情になる。


「違います。テックス様が創った施設になります」


「テックス! あっ、申し訳ありません。すぐに大司教に伝えてきます!」


なんだろう。相手の反応が気になる。


気にしても仕方ないので、教会の中をゆっくり眺める。

他にもシスターが何人もいるようだ。病気や怪我している人を案内しているのを見かける。たぶん回復か治療に訪れた人達だろう。


予想以上に中は広い。そして何より驚くのが、その広い礼拝所のような場所が人々で埋め尽くされているのである。それも悲壮感の漂う雰囲気で、必死にテラス様の像に向かって祈りを捧げているのだ。

まさか、先日の悪魔王事件で後ろめたいことがある人が祈っているのではないだろう。やはり、この世界は信心深いのだろう。


王都の教会だからだろう、やはりロンダのテラス様の像より大きいし作りも綺麗だ。そう思ってじっくりと像を見つめた瞬間に、また体がふわっとなった。


あれ、祈らなくてもテラス様のもとへ行くのか!?



   ◇   ◇   ◇   ◇



目を開くとテラス様が目の前に座っていた。前にも来たことのある部屋だ。


「久しぶりね、テンマ君」


そうテラス様に話しかけられる。目をパチパチさせながらテラス様のことを見つめる。


うん、前回よりなんか老けた気がする。


前回ロンダを出る寸前に会った時と比べ、テラス様の神々しさに陰りが少し見える。最初に会ったときよりはまだマシだけど……。


「お久しぶりです。教会に来るとテラス様に必ず逢えますね」


これが転生者と創造神との基本設定なのだろうか?


今回は特にテラス様に逢いたかったわけでも、お祈りをしにきたわけではない。別の用件で来たのに会えるということは、そういう設定なのかと考える。


「ほほほほ、もっと頻繁に会いに来てほしいわ。テンマ君とは色々と話もしたいし、謝罪やお礼もしたかったのよ!」


「謝罪? お礼? なんで?」


謝罪される理由も、お礼を言われることをしたつもりもない。


「そこのアンナが最初に随分と迷惑をかけたました。そして王都では愚かの者達がテンマ君を怒らせたようね。それなのにテンマ君はまた、この世界の転換点となるべき研修施設を頑張って造ってくれているのよ。お礼が言いたくなるのは当然よ!」


「テラス様には心配をおかけして申し訳ありませんでした」


おっ、アンナも一緒に来てたのね。


ああ、アンナは誤解が解けてからは、少しずつ良い感じになっている。最近は肉食系にクラスチェンジしたのかと心配になったが、大きな問題ではない。


研修施設は自分以外の成長も検証したいという思いが始まりである。ゲームのサブキャラ的な存在を育成したい欲求からきているのもあるのだ。だからお礼を言われても、逆に申し訳ない。


王都の件はテラス様に謝罪されることではない。


「え~と、アンナも最近は非常に優秀で助かっています。誰でも最初は相手のことが分からず戸惑うものですよ。それに王都の件はテラス様に謝罪やお礼を言われる事ではありません」


おぉ、テラス様が少し若返ったようだ。なんか面白いなぁ。


「そうか。それなら良かったわぁ。あっ、でも、もう少しテンマ君が過ごしやすいように、土地神をテンマ君の造った礼拝堂に派遣したから、色々と相談して欲しいわ。まだ私の眷属になったばかりだから、それほど力があるわけではないけどね」


な、なんですとぉ!


土地神だから土地の神だよね。旅に出ようとしているのに……。


うん、聞かなかったことにしよう!


「ありがとうございます。他に何かありますか? 今日は忙しいので早く戻りたいのですが……」


「そう、残念ねぇ。でも今後は土地神を経由して色々と話せるから……」


それはやめてぇ~。


どう考えても面倒なことになりそうで怖いよぉ。


「それでも、たまには逢いに来てね?」


親戚のおばちゃんに言われている気がする……。


「は、はい」


そう答えると教会に戻ったのである。



   ◇   ◇   ◇   ◇



教会に戻ってすぐに、先程声を掛けたシスターが戻ってきた。


「大司教様がお会いになります。どうぞこちらに」


シスターの案内で教会の奥に入っていく。豪華な扉を開けて中に入るように促される。どんな豪華な部屋かと思ったが、中はシンプルで機能的な部屋だった。でも来客用の応接セットは少しだけ高価な感じがする。


この世界の教会に汚職とかなさそうである。やはり身近に神が存在すると、みんな思っているのだろう。


部屋には痩せた老齢の男性がいた。大司教が教会でどれほどの地位なのか分からないが、贅沢な暮らしをしている雰囲気は全くなかった。


部屋に入ると先程のシスターは扉を閉めて出ていった。今は俺と大司教、そしてアンナの3人だけだ。


大司教は何故か驚いた表情で俺達を見ていたが、すぐに笑顔になり話しかけてきた。


「私はこの教会の大司教をしておりますラムセスと申します。そちらは大賢者テックス様の使者様でしょうか?」


「えっ、は、はい!」


思わず動揺して答える。テックス本人で使者様という表現も変だと思ったのだ。


だが大司教さんは少し目を細めて真剣な表情で尋ねてくる。


「私は国王陛下からも、大賢者テックス様には最大限の配慮をするように言われています。先日の元老院の一件も耳に入っております。念のためにもう一度確認します。

そちらは大賢者テックス様の使者様でしょうか?」


「……はい、そう言うことでお願いします!」


大司教の再度の質問に少し考えてから答えた。自分でテックスだと名乗るつもりはない。だから、使者でいいのかと思って答えた。


大司教が俺の返事にさらに考え込む。そして、アンナを見て何か気付いたようだ。


「もしかして、そちらのメイド服の女性はラソーエ領で聖女と呼ばれていた方でしょうか?」


おお、教会の情報網も侮れないなぁ。ラソーエ領のことを知っているようだ。


「それはラソーエ男爵が勝手に言い始めたことです。私はそんな下位の存在ではありません。こちらにいらっしゃるテンマ様のメイドです!」


いやいや、アンナさんや、その表現はおかしくないかい!?


なんで聖女が下位の存在で、俺のメイドだと偉そうに言うのは変でしょ!


「これは大変失礼しました。私は大賢者テックス殿のことを知りません。そして、この王都で大賢者の関係者は私の知るのはかぎられております。

今のお話を聞いて大賢者様の使者様と確認できました」


おい、本当に確認できたのかよ!?


今の会話のどこに確認できる要素がある。俺には全く分からない。


そしてアンナさん、当然のように頷くのは変でしょ!


「それでは『知識の部屋』の設置についてですね」


大司教このひと信じてくれたよぉ!


それで良いなら、俺は構わない……、でいいよね?


「はい……」


「ですが必ず設置できるかは保証できません。私として設置できない可能性が高いと思います。別に大賢者テックス様に問題があるわけでもありません。そして、教会が設置に反対するわけではありません。

『知識の部屋』は基本的に神の管轄と言われています。教会は受け継いだ情報を元に必要な魔道具を作成しております。しかし、設置しても神の許可が無いと『知識の部屋』として機能しないのです」


へぇ~、そんなことになっているのかぁ。


確かにあれは非常に高度な作りだとは思った。


それならテラス様に頼めばよかったのかぁ。


うん、失敗したなぁ……。


「何も問題ありません。テックス様の考えをテラス様が拒絶することは、絶対にありません!」


えっ、えぇぇぇ! そんなこと断言して良いのぉ!?


確かにアンナは俺よりテラス様のことは知っていると思うけど……。


「そうなのですね。わかりました、大至急対応をさせていただきます!」


大司教このひと、またまた信じてくれたよぉ!


それに、……なんかこの人の視線が恐いよぉーーー!


今にも跪いてきそうな表情で俺のことを見つめている。もう大司教このひとは俺のことテックスだとバレている気がする。


でも、……大賢者というより、それ以上の存在として見ている気がするのは、気のせいだろうか?

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