第5話 とりあえず解決?

まさか心の声が全部口から出ているとは……。


一度考えをまとめると話して、ひとりで『どこでも自宅』に行く。ジジとアンナにしばらくは誰も中に入れないようにお願いする。


もちろん、シルは一緒に連れていきシルモフしながら考えを整理する。


『心の中で不満をぶちまけて忘れよう』作戦の心の声は本心である。しかし、本音だけで人間関係がうまくいくとは思えない。


だが、どうなんだろう……?


全てをさらけだすのは良くないと思うが、やはり前世でのトラウマで我慢しすぎたのではないだろうか。


テックス仮面(悪魔王)になった時の解放感は、それが理由なのかもしれない。


チート能力で他の人より能力が高いのは間違いない。そしてその気になれば人のために色々なことはできるだろう。それは本当に自分のやりたいことだろうか?


頼まれると断るのが恐い。断ることで嫌われたり、もっと嫌な思いをしたりする。それは、前世のことで、この世界のテンマではないはずだ!


でも、アーリンやシャルロッテが悪いとも言えない。いや、シャルロッテに悪いところはあったと思う。しかし、子供と思えばそれほど追い詰めるのは……。


やはり自分は精神年齢33歳以上という思いと、肉体に引っ張られて幼稚な感情の起伏があるようだ。そして前世のトラウマと、研修時代のボッチ生活……。


ゆっくりしたいなぁ~!


自分の中で色々なことが整理できた気がする……、たぶん。


考えが整理できたので、再びリビングに向かうのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



リビングに入るとドロテアさんとマリアさん、バルガスと狐の守り人フォックスガーディアンまで揃っていた。


ドロテアさんとマリアさんは簡単に呼び出せるが、ダンジョンに行っていたはずのバルガス達まで居るのは驚きである。


バルドーさんに確認すると、ドロテアさんとマリアさんは食事のついでにアーリン達の様子を見にきていたようだ。


そしてバルガス達は区切りがついたので、今日は早めに戻ってきたらしい。


それと、なんでドロテアさんとアーリン、シャルロッテ王女までが正座なの!?


そして、バルガス!? なんでお前まで正座している?


ダメだ、色々と状況が良く分からない。


リビングの状況を見て混乱していると、マリアさんが厳しい表情で説明を始める。


「テンマ君、ドロテアおねえさんの愚行とこの小娘たちの過ちをお許しください!」


予想外の方向に進んでいる気がするぅ~。


うん、マリアさんに鞭を持たせたら似合いそうだぁ。


いやいや、そういうことじゃない!


「マリアさん、俺も言い過ぎました。何と言うか心の中の不満みたいなものが、疲れとか色々混ざりあって消化しきれなかったようです。

ドロテアさんがアーリンをここに入れたのも問題ありませんし、友達が一緒なのも大きな問題ではありません」


「聞いたか! 私は全く悪くないのじゃ!」


うん、ドロテアさんは今回悪くないけど、罰を与えたくなる……。


「では、お姉さんとアーリンさんはソファにお座りください」


「いつも私が悪いというのは納得できないのじゃ」


マリアさんがドロテアさんを解放したが、ドロテアさんはブツブツと文句を言っている。


いやいや、いつもはドロテアさんが悪いんだよ!?


アーリンはホッとした表情で立ち上がる。何気にピピを見ている気もするが……。


「ですが、こちらのシャルロッテはテンマ君の従魔であるシルを奪おうとして、それができないとなると王家の立場を利用して悪辣非道なことをしようとしました。

これは王家による宣戦布告では無いでしょうか!」


いやいや、宣戦布告ではないよね。それに相手は王女だよ?


「任せるのじゃ! 私が王宮ごと吹き飛ばしてやるのじゃ!」


それこそ大問題だよ!


「ふぅ~、まずはドロテアさん。変なこと言うとそれこそ2度と口を利きませんよ」


「私は何もしない。何も言わないのじゃ!」


口の前で指でバツの形を作るのは良いが、喋ってんじゃん!


「それとマリアさん、これ以上問題を大きくしないでください。確かに彼女の行いは納得できないこともあります。ですが、成人前ということもあり、今回は許そうと思います!」


シャルロッテは驚いて、安心したのか涙が次々と溢れている。他のみんなもホッとしているようだ。


「ただ、彼女だけでなく、今後誰であろうとシルモフの邪魔するものは許しません!」


「「「わかりました」」」


シルモフの時間だけは誰にも奪わせない!


この世界の人達がホロホロ鳥を特別視するように、俺にはシルモフの時間は特別なんだ!


拳を握り締め、固い決意を宣言すると他のみんなも納得してくれた。何となく呆れたような視線も感じるが、絶対に譲れない戦いシルモフがここにあるのだ!


「それと追加の作業ですが、本当は断りたいです!」


「もちろんでございます。テンマ様がなんでも簡単に熟してしまうので、私が余計な仕事を引き受けてしまいました。今回のことで一番悪いのは私でございます」


バルドーさんが申し訳なさそうに謝罪する。


別に良いけど、なんでバルドーさんは土下座しないの?


まあ、似合わないから良いけどね。


「俺も嫌なら嫌というべきでした。ただ、誰かのためになるなら仕方ないと思っていました。しかし、これからは断ろうと思います」


「了解しました」


「ただ、今回はもう引き受けているし、これで断ることになると、彼女の立場も辛いでしょう」


そう言いながらシャルロッテに視線を向ける。彼女は許されたと思ったら、自分がきっかけで国王が頼んだ仕事が無くなると気付いて、また顔色が悪くなっていた。


子供に責任を負わせるべきじゃないよな。


なんとなく大人の気分を味わい嬉しくなる。


あれ、これは幼稚な発想なのか? いや、まあ、良いでしょう!


「だから5日以内に一気に終わらせます!」


「「「おお~」」」


うん、気持ち良い!


そして本題はこれからだ。


「それが終わったら旅に出ます!」


みんなは少し驚いた顔をしたが、それぞれ別の思いがあるようだ。


バルドー「ふむ、悪くないですね」

ミーシャ「むふ~!」

マリア「やりかけの仕事はどうすれば……」

バルガス「えっ、俺の正座は?」

ドロテア「今度はどこに行くのじゃ?」

ピピ「また旅なの! 仮面付けるぅ」


ピピ、仮面は付けないよ。


「まあ、旅といっても大きな目的があるわけではありません。先日バルドーさんにホレック公国の話を聞いて、海があり魚がいると聞いたので、のんびりと食べに行こうと思ってます」


ピピ「お魚食べた~い!」

ミーシャ「むふ~!」

ドロテア「私も魚は大好きじゃ!」

マリア「…………」

バルガス「えっ、俺の正座は?」

バルドー「私もホレック公国には用事がありますねぇ」


みんな色々考えているようだ。


「一緒に行くのはジジとアンナです。ジジが行くからピピも一緒に行くことになります。それ以外は王都でやることがありますよね?」


ピピ「やったーーー!」

ミーシャ「が~ん!」

バルドー「それは受け入れられませんねぇ」

ドロテア「私も一緒に行くのじゃ!」

マリア「ふぅ~」

バルガス「えっ、俺の正座は?」


マリアさんの反応を見て、まずはマリアさんに話をする。


「マリアさん、やることがたくさんありますよね?」


「……はい、魔術師としても冒険者としても、この研修施設でやりたいことがたくさんあります。ミイやメアリのこともあります。今は王都を離れることはできません。

それにドロテアおねえさんも、今行かれては困ります。エクレアは実務や王宮との橋渡しをしていますが、やはりドロテアおねえさんは必要です」


マリアさんの話で、ドロテアさんは口を開けた状態で固まっている。


「ミーシャは冒険者として優先してやることがあるよね? 冒険者として一流になるためにも、今の仲間のためにも……」


ミーシャは涙目でタクトとジュビロ、そしてリリアと目を合わす。彼らにとっても今の状態を継続したほうが良い。ミーシャもそれが理解できたのか、ケモミミをヘニョらせて頷いた。


「テンマ様、ホレック公国の話をしたときに、私もあそこに用事があると言いましたよね!当然私も一緒ですよね!?」


バルドーさんがこれまで見たことのない表情で訴えてきた。


恐いよぉ~、眼圧が凄すぎるぅ!


「そ、それは、用事が全て終わっていたらですね……」


「お任せください! 今日中にも全て終わらせ、引継ぎも済ませます!」


くっ、迫力に負けてしまったぁ!


「テンミャァーーー!」


ドロテアさんは絶対にダメ! ゆっくりできなくなるし、マリアさんの言うとおり王都でしっかり働いてほしい。


「大丈夫ですよぉ。すぐに帰ってきますからぁ」


「ひょうんとうか?」(ほんとうか?)


「はい、本当ですよ。その間に俺が大切に思う研修施設をお願いしますね」


はい、嘘です!


のんびり行くから時間が掛かるし、色々と遠回りしようかなぁ~。


もしかしたら戻ってこないかもしれないし、戻ってくるのに何年も掛かるかも……。

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