第3話 知らぬが仏?
バルドーは渡された書類を見ながら、宰相から説明を聞いていた。
「今回テックス様からいただいた品は、元老院の会議場を建て直したとしても過剰すぎると言えましょう」
宰相は販売した場合の想定される金額を示しながら話した。
「その金額もオークションに出した場合の最低価格になります。実際には何倍にもなる可能性があります」
「エリクサーなど国宝だぞ。そんなものに金額などつけられるものか!」
宰相の説明に国王が補足するように話した。
「クククッ、相変わらずテックス様は面白いことをなさる。たぶん自分がきっかけで、ドロテア様が暴走したと考えたのでしょう。しかし、相変わらず物の価値を理解していませんねぇ」
バルドーがそう話すと宰相が尋ねる。
「本当にその説明通りなら安心できるのじゃがのぉ。我々としては、これほどの物を渡したのだから反抗するなと脅されている気になるのだ。違うのだな?」
「さあ、どうでしょうか? そんなことはないと思いますが、私にはテックス様の真意は分かりませんねぇ」
バルドーは惚けるように答えた。
「バルドー、そうイジメるでない! 私と宰相はテックス殿の真意が分からず、夜も眠れないのだぞ。それに貴族共や側室、それに他国からも問い合わせが来ている。頼むからテックス殿の真意を確認して教えてくれ!」
国王は縋るようにバルドーに頼み込むのであった。
バルドーは最初に説明した通り、テンマはやり過ぎたと反省して渡したのだと思っていた。そして簡単に国宝級のお宝を発見したから、それほどの価値があると気付いていないのだろうと思っていた。
「わかりました。テックス様には確認しておきましょう」
宰相はホッとした顔をする。
「それとドロテアが王妃に若返りポーションを贈ったそうだ。テックス殿がドロテアに渡した物を、ドロテアが勝手に渡したともいえる。テックス殿の怒りが王国に向いたら困るのだ。それも確認してくれないだろうか。できれば返却をテックス殿が希望していると、やんわりと話をもっていって欲しい……」
バルドーはドロテアならやりそうだと思いながら、テンマは気にしないと思っていた。しかし、国王は欲しくないようである。
「確認はしますが、なぜ返却を望まれるのですか?」
「それは、……他の側室も欲しがっているから困るのだ。王妃が貰ったものを王妃が使うのは当然のことだ。しかし、国が貰ったものを側室に与えることは許されん。側室たちも渋々納得しておるが……」
国王の話を聞いてバルドーも気の毒だと思ったが……。
「それは大変だと思いますが、テックス様にそれをお願いすることは難しいと思います。テックス様とドロテア様の関係もありますから、夫婦の関係を持ち込まれても困りますなぁ」
「そうか……」
バルドーの返事に国王は残念そうに俯いた。バルドーと宰相は気の毒そうに国王を見るが、それ以上は何もできない。
宰相は話題を変えようと、書類の説明を再び続ける。
「元呪の館の周辺の土地は商業ギルド経由でテックス殿が買い取ったそうじゃな」
「ええ、そこに研修施設を造る予定です」
「テックス殿から貰った品は、あれではもらい過ぎになるので、さらに周辺の区画を国が買い上げ、テックス殿に提供する予定だ」
「ほほう、それは大盤振る舞いですなぁ」
予想外の提案にバルドーは疑いの目を向ける。テンマを飼いならそうとしていると疑ったのである。
「そんな目で見ないでくれ。実は周辺の土地から人が逃げ出しておるのじゃ。商業ギルドからも相談されて、安く買い上げる話がついたのだ」
バルドーは理由が分からず戸惑う。テンマが壁を造ったことで呪の館の不安は無くなった筈である。そして浄化されたことも正式に告知されたことも知っているのだ。
「実は悪魔王が呪の館を浄化したことで出てきたと噂になっているのだ。そして、あの周辺は呪の館のせいで、住んでいた者達は後ろ暗い連中が多い。だから逃げ出すように別の場所に移っているようじゃ。そして、そんな場所に住みたいと思う奴が居ると思うか?」
宰相の説明にバルドーはなるほどと納得する。
「それにお願いもある。できれば宮廷魔術師達やその家族たちの住まいを提供して欲しい。今いる宮廷魔術師の大半がテックス殿の管理下に移るし、王都に居ない宮廷魔術師が戻ってきても、ほとんどがテックス殿の管理下に入ることになるだろう。
だから、王宮がそのために土地を提供したことにして欲しいのだ」
「ふむ、それは随分と王宮に都合の良い話ですねぇ」
バルドーは笑みを浮かべながら嫌味を言う。
「バルドー、その通りだ。だが、これまで王宮の対応で辛い思いをさせた宮廷魔術師に、良い環境を提供したいという気持ちもあるのだ」
国王は真剣な表情で話した。
「もちろん宮廷魔術師との関係を良好にしたいとの思惑はある。だが、王宮としては宮廷魔術師と関係が悪いと噂が広まっては困るのだ。すべてではなくて良いので、その方向で考えてくれないか!?」
「わかりました。最終的にはテックス様の意向を聞いてからになりますが、その方向に進むように調整しましょう」
「助かる!」
宰相はバルドーにお礼を言い、国王はホッとした表情を見せる。
そしてバルドーはテンマにどう働いてもらうか、頭の中で計画し始めるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
王都に拠点を造るのだが、どの辺に造ろうか考える。買い増したことで、壁で囲った土地は外壁と内壁に隣接している。
内壁側の日当たりの良い場所に慰霊碑を設置してあり、隣には礼拝堂を建てた。周辺は色々な場所から木や植物を持ってきて植えたことで、区画の3分の1が公園のようになっている。
その最奥の内壁と外壁の角地に拠点を建てることにする。
建物はログハウス風の木造りにしようと考える。
外観はそれほど大きくするつもりはない。地下に大浴場を造り、1階はリビングと食堂、来客用の応接室にメアリ夫妻の部屋だけにする。
2階にはドロテアさんやマリアさん、
自分の部屋は造らず、『どこでも自宅』を利用するようにする。ジジやピピ、それにアンナが『どこでも自宅』で生活する。
今後はそれ以外のドロテアさんやミーシャでも、基本的には許可なくD研に入れなくしようと考えた。
特に『どこでも自宅』は自分が安らげる場所であるべきだ。最近は出入りが多くなりすぎている。王都に拠点ができれば、D研に人を入れる必要がなくなる。
ミーシャも暫くは
バルドーさんはマイペースで顔を出すだけなので、拠点で会えば問題ないし、必要なら別の建物を用意しても良い。
ジジやピピは一緒に居て癒されるだけなので問題ない。
アンナは眷属である。
最近はやる気になったようだが、肉食系メイドにクラスチェンジした。元女神で眷属でもあるので仕方ない。
エクレアさんはそれほど関係が深いわけではないので、近日中に魔術師向けの建物や研修施設を造るのでそちらに部屋を用意するつもりだ。
研修施設は魔術師用、冒険者用の施設を用意する。冒険者用はネフェルさんに管理してもらう。
ドロテアさんには魔術師用の研修担当に、マリアさんとバルガスには冒険者用の研修担当になってもらう。特にバルガスは意外に面倒見がよく、冒険者の仕事に精通しているのだ。
そんな事を考えてから、自分達の拠点を造り始める。
暗くなるころには地下の大浴場と拠点の建物まで完成したのである。
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