第37話 ゲバスの最後

王都の闇ギルドの本部である建物の屋上に降り立つ。


もうひとつの拠点でこの建物が闇ギルドの本部であることは確認済みである。建物内にマーキングした最後の1人が居ることを確認する。


おお~、比較的に強そうな奴らが一緒に居るようだが、俺から見たらザコだなぁ。


最後の1人の所在を確認しながら、並列思考で建物内部を確認しながらゲバジュを探す。ゲバジュがこの王都の闇ギルドの頂点であることは確認済みであった。


しかし、尋問するたびに泣き叫んで、鼻水やお漏らしする奴ばかりで、闇ギルドは泣き虫ばかりだった。


あっ! あぁ、そういうことかぁ。手加減する必要はないなぁ~!


並列思考で建物を確認していたのだが、地下には他の拠点とは比較にならないほど多くの被害者と思われる捕らわれた者達が居た。


そして地下の一角には、大量の遺体やすでに骨になった者を捨てるための大穴まであった。そこは呪いの館ほどではないが、怨念のようなものが渦巻いていた。


うん、徹底的に処理する必要があるなぁ。浄化も後でしよう!


地下室はこの建物のある区画に広がっており、他の建物にもステータスに闇ギルドや犯罪の称号が付いている者がいた。中には普通に雇われ人もいるが、奴隷や強制的に働かされている者も多い。


はぁ~、この区画丸ごとが闇ギルドの所有物かぁ。


自分の中でどす黒いオーラがさらに濃密になっていくことがわかる。


しかし、並列思考で建物内のすべてを確認したが、ゲバジュが見つからない。


んっ、ゲバス!?


ゲバジュは見つからないがゲバスを見つけた。そして、尋問した時のことを思い返す。


「ゲバジュ様の命令でしゅ!」


うん、泣いて鼻水を垂れ流していたことを思い出し、発音が変になっていたのだと気が付く。念のために聞き耳スキルで様子を窺うことにした。



   ◇   ◇   ◇   ◇



ゲバスはまだ時間的な余裕があると考えていた。それでもベルント侯爵の使者の話を早めに聞いて次の手を打とうと考えていた。


急いでいつもの商人風の衣装に着替えて応接室に入る。見たことのある貴族2人が偉そうにお茶を飲んでいた。従者を連れており、ゲバスを見下すように自分を見ている。


「これはお待たせしてすみません!」


内心では使い走りが偉そうにするなと思いながらも、いつもの商人風で貴族に挨拶する。


「遅い! ベルント侯爵から重大な命令を伝えにきた。すぐに命令に従って対処せよ!」


「それはどのようなご依頼になるのでしょうか?」


命令と言う言葉にゲバスは内心でムッとしたが、彼らはベルント侯爵の使いでしかなく、自分が怪しいだけの商人だと思っているのでは仕方がないと気にしないことにする。貴族は平民に好きに命令できるものだと、勘違いしている貴族も多いからだ。


男爵は簡単に元老院での経緯を説明して命令してきた。


「商業ギルドのギルドマスターを脅迫して、ベルント侯爵の命令に従うようにさせろ! 必要なら家族を攫ってもかまわん。どんな違法なことをしてでも、夕方までに必ず実行しろ!」


ゲバスは男爵の話を聞いて、首を傾げたくなった。

この貴族達にも違法に攫ってきた女や出所の怪しい商品を融通してきたが、これほど明確に犯罪行為の命令をされるのは予想外でった。


すぐにベルント侯爵が、自分のことを闇ギルドの関係者だと、彼らに話したと気が付く。


ゲバスはその警戒心のなさに舌打ちする。闇ギルドのことを簡単に口の軽そうな貴族達こいつらに話されては、闇ギルドのことが広まってしまう可能性が高い。


念のために確認をする。


「商人の私にそのような大それたことはできません。違法すれすれのことはしていますが、先程のご依頼は犯罪行為です。さすがに無理でございます」


ゲバスが答えると大きな声で男爵が予想通りの返しをしてくる。


「侯爵様からお前が闇ギルドの者だと聞いている! いまさら隠しても無駄だ!」


男爵がそう話した瞬間に、ゲバスから商人風の笑顔が消え去る。ゲバスは一緒に部屋に来た男に目で合図する。男は部屋の扉を開くと外の男たちを部屋に呼び入れた。


「な、なにを!?」


いつも低姿勢で、文句を言っても笑顔で答えるゲバスから笑顔が消えた。目つきも鋭くなり、さらに屈強な男たちが部屋に入ってきた。


「闇ギルドのことをお前達は吹聴しながら、ここまで来たのですか?」


ゲバスは雰囲気を商人から闇ギルドモードに変えて話し始める。


「ぶ、無礼な! 男爵の私にそのような、」


「黙れぇ! 闇ギルドの拠点で男爵風情が偉そうにするんじゃねぇ!」


「ヒイッ!」


ゲバスのドスの利いた怒鳴り声に、貴族や従者たちは震え上がる。


「もう一度聞きますよ。闇ギルドのことをお前達は吹聴しながら、ここまで来たのですか?」


ゲバスは闇ギルドモードの嫌らしい笑顔を見せながら、優しく尋ねる。貴族たちは、その不気味な笑顔に怯えながら答える。


「い、いえ、命令されて急いでここに来ました。ですから他では話していません!」


あっと言う間にゲバスと貴族達の立場が逆転していた。


「移動中の馬車の中で話しましたか? 他には誰も一緒じゃないですよね?」


「我々だけです。ば、馬車の中では少し……」


「他に誰も居ないか確認して、御者を捕まえてきてください! そして、そこの従者も一緒に始末しろ!」


ゲバスの指示に始末される従者だけでなく、貴族も真っ青な表情になり震えながらゲバスを止める。


「ま、待ってくれ! 彼らは我々の家の従者だ。絶対に秘密は守る!」


ゲバスは不気味な笑い声をだして、呆れたように話す。


「フヘヘヘ、だったらあんたら一族を根絶やしにさせてもらいましょうか。それが組織を守るためには必要なのですから」


「す、すまない。家族の面倒は見る……」


すぐに貴族達は自分の従者を見て言う。従者は目を見開いて驚き喚きだしたが、闇ギルドの男たちに部屋から引きずり出されていった。


それを見送るとゲバスは男爵に話す。


「では、お話しの続きをしましょうか。ただ、我々のルールを理解してください。闇ギルドのことは他では一切話さない。話すときは知っている人だけにする。間違っても他の貴族や従者、家族には話さないでください。今後はあなた達と家族を常に闇ギルドが監視します。

よろしいですね?」


貴族達としてははよろしくはないが、諦めて頷いて了承する。


「それで新たなご依頼の件ですが、ベルント侯爵様から別の依頼を受けていまして、今日の夕方までにしなければなりません。急なご依頼を受ける余裕はありません」


「そ、それはダメだ! 両方を何とかやってくれ!?」


「それは無理です。簡単に言われますが、碌な準備もしていない状況で、商業ギルドのギルドマスターを脅せると思っているのですか?

王都の商業ギルドのギルドマスターは、国から伯爵待遇を受けているのですよ。その相手を数時間で脅せと言うのは現状では無理です。しかし、もうひとつの依頼を取り下げていただければ、その人員を回せるからなんとかなりますがね」


ゲバスとしては失敗しそうな依頼を男爵により取り下げさせたかった。商業ギルドのギルドマスターを脅すのは楽ではないが、まだそちらの方が望みはあると考えたのだ。


「し、しかし、……」


「ああ、ご安心ください。今朝の受けた依頼は我々の実力を試すつもりで、侯爵様が依頼したと思います。それほど重要な依頼だとは思えませんが、我々が勝手に依頼を放棄することはできません。緊急性の高い任務ということなら、そちらを優先したほうがよろしいかと思います」


「だが、私が勝手に……」


煮え切らない男爵の返事にゲバスもイライラする。


「では、お帰り下さい。侯爵様に無理だとお伝えください。ただ、そうなると先程のお話では、侯爵様は犯罪者として裁かれてしまいそうですがねぇ……」


ゲバスは貴族たちの様子を見ながら、この貴族バカならすぐに自分の思惑通りになると考えていた。


「そ、それは、困る……」


「困ると言われても、私も困ります。お試しで宿を燃やすだけの依頼を大切にして、侯爵様が犯罪者にされるのを黙って受け入れたのは男爵様達です」


「か、確認を!?」


「確認にお戻りになって、再度来られても時間的にご依頼は受けられませんよ?」


「「………」」


いい加減決断できない貴族バカに、ゲバスの苛立ちは限界に近づいていた。しかし、男爵が質問してきた。


「本当にお試しの依頼なんだな?」


「はい、それは間違いありません」


ゲバスはこれで自分の思い通りになると安心する。

結局男爵たちの判断ということで、前の依頼は取り下げられ、依頼料の半金をキャンセル料にして、さらに追加の依頼料の支払いの契約までさせたのである。


すでに男爵たちはゲバスの言うとおりに契約内容を碌に見ずに署名するのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



聞き耳スキルでゲバスたちの様子を確認していたテンマは、『妖精の寝床』を燃やしたのがベルント侯爵の依頼で、ゲバスが闇ギルドで受けて実行したことを確認した。


はい、ギルティ確定!


その後のゲバスと貴族のやり取りには興味が無くなり、すぐにその区画全体を結界で覆う。さらに地下室や各建物、各部屋まで順番に結界で囲むと、ゲバスたちのいる建物以外を順番に殲滅を始めるのであった。


闇ギルドか犯罪者の称号を持つものはスタンで気絶させる。それから手足の一部を切り落としてから、死なないように治療する。10日間だけ嘘や暴力を使うと頭痛(大)になるように呪術を掛けていく。


ただの客や従業員にはスリープを使い、それ以外は必要に応じて治療や奴隷からの解放をしていく。


捕らわれた人達や無理やり働かされた人たちは、俺の姿に驚くよりも、諦めた表情をするものが多くいだった。さらに死んで苦痛から解放されると勘違いして、涙を流して喜ぶものまでいたのだった。


そんな姿を見るたびに、自分のどす黒いオーラの濃度が濃くなっていくのがわかる。


理不尽な行いをする闇ギルドを許さないし、その闇ギルドを使って宿を燃やすように指示した貴族も許す気はなかった。


マーキングしていた男にもそれほど興味も無くなっていた。


彼らの部屋に入ると周りの男たちと一緒にスタンで気絶させたが、気絶する寸前に「悪、」と言って意識を失った。

その後は、他の連中と同じ運命を辿らせたが、頭痛(大)と同時に今の俺の姿が頭に浮かぶようにした。


最後にゲバスたちのいる部屋に向かう。結界を解くと同時に扉を蹴破る。扉を破ろうと闇ギルドの2人が扉近くにいたため、一緒に吹き飛ばされてスタンする前に気絶してしまった。


部屋に入るとゲバスと貴族2人だけが、呆然と俺のことを見つめていた。


「やいやい、この桜吹雪が見えねえのかぁ。お前たちの悪事はすべてこの桜吹雪がお見通しでぇ!」


桜吹雪などない赤いマントをパタパタさせながら言い放つ。彼らは恐怖で震えながらも戸惑った表情をしている。


(ほ、本当に悪魔王!!!)


ゲバスは相手から漏れ出る異様な雰囲気に、本当に悪魔王だったのかと動揺する。しかし、そんなはずはないと自分に言い聞かせ、誤魔化そうとテンマに話しかけてきた。


「な、何の事でしょう! 私はしがない商人アキンドです」


頭痛(極大)


「ギャァーーー!」


ゲバスは悲鳴を上げて倒れると、転げまわることなく、ビクビクと痙攣して口から泡を吹いて気を失ってしまう。


頭痛(極大)はやり過ぎかもしれないなぁ。


口から泡を吹き、大小の両方を漏らしたゲバスを見て少し反省する。


これでは話が聞けないじゃないか!


しかし、よく考えてみるとすでに話は聞いているし、後は制裁するだけだから問題ないと考える。

そして両手、両足を凍らせて他の連中のように呪術を掛ける。ただ、彼には1年という期間にしてだ。


でも、すぐに処刑されるんじゃないかなぁ。


建物内には闇ギルドの悪事の証拠は大量にあるから、極刑になる可能性が高いと考えた。


まあ、極刑にならなくても手足は間違いなくなくなるだろう。ゲバスの凍った手足を見てそう思った。


「悪いがベルント侯爵の所に案内してくれるか?」


「それは、ギャァーーー!」


頭痛(大)を使うと貴族の男は転げまわる。足を凍らせると転げまわるので、足が両方とも砕け散った。面倒なのでスタンで気絶させ、呪術を掛けてやる。


残りの男爵に聞く。


「ベルント侯爵の所に案内してくれるか?」


「はい、喜んで!」


面倒なので天井を派手に魔法で吹き飛ばし、男爵を抱えてフライで飛び上がる。


男爵に方向を確認するが、気を失っていたので頭痛(中)を掛けると目を覚ました。


しかし、すぐに気を失いそうになったので彼に言う。


「気を失ったら、このまま落とすよ!」


そう言うと男爵は気を失うこともなく、案内をしてくれるのだった。

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