第32話 7歳10月 今後の資金繰りと融資の条件

◆レベッカ視点


「はぁぁぁぁぁ。」


どうしてこんなにお金ばかり掛かるのかしら。


ユウキに2人分のマジックポーション代は稼がせてはいる。

しかし、パーティーとして見れば、はっきり言って赤字だ。

これ以上、ユウキに稼がせるにしても限界がある。


マジックポーション代を削れば、お金に余裕は出る。

でも、これはユウキとセリナの成長の為の必要経費。

ここはどうしても削りたくない。


でも、私の貯金だって、もうそんなにある訳じゃない。。。


融資も数件お願いしたが断られた。

まぁ、それはそうだろう。

魔族討伐のパーティーに投資する馬鹿はいない。


資金繰りに関しては八方塞がり、か。


私がお嬢様の護衛を離れ、稼ぎに出れば解決はする。

しかし、お嬢様の学校が終わった後、護衛についてLV上げに行かないと肝心のお嬢様が強くならない。


今はまだ、貯金を切り崩しながら、何とかやっていけてはいる。

しかし、来年、再来年にはもっと強い装備が必要になる。


ユウキにだって、魔法生物特効の付いた武器を追加で買わせてあげたい。

でも、資金を回せない。


そもそも、どうしてこんなに付与装備は高くつくのよ?

魔族討伐に出発する前に、それなりの武器を揃えてあげたいのに、どう計算しても不可能だわ。



「はぁぁぁぁぁ。」


何か良い手はないかしら?

せめて付与装備が安く手に入れば…。


ん?


待てよ。


付与できる都合の良い人材がいるじゃない。


しかも、これまた都合良く、遊び人のレベルまで上げてる運の高い子が。


あはははは、何で今の今まで気付かなかったのかしら。


ふふふ、あの子はレア職業の『光魔法使い』と『闇魔法使い』の職業もある。

どうやら、下級職しか増やせないみたいだけど、レベルを上げて中級職にさせればいい。


あはは、あの子に付与させれば、聖属性が付いた装備品だって簡単に手に入るじゃない。


付与させた物を売りに出せば、それだけで利益も上がってくる。

やらない手は無いわね。


どちらにしても、もうこれにすがるしかないか…。


ふふふ、ねぇ、ユウキ。

これもみんなの為なの。

あなたには絶対付き合ってもらうわよ。



◆ユウキ視点


「ふふふ、ユウキ君。

レベッカプロデュースで『聖属性』を付与した武器を売り出そうと思ってるの。」

「はぁ?」


ケッ、レベッカプロデュース?

馬鹿じゃねぇの。


「あはは、高く売れるわよ。

あなたにも1枚噛ませてあげようと思って。」


絶対、俺は関わらんからな。

そもそも、もうこれ以上は俺の手が回らん。


「知らん。俺には関係無いことだ。」


「あはは、賢いユウキ君なら言いたいことが分かるはずよ?

『聖属性』を付与できそうな都合の良い人材なんて、目の前にしかいないもの。」


なっ…

『付与魔術師』なんて、自分ですら持ってることを忘れてたのに…

何でお前が知ってるんだよ!


「無事、『光魔法使い』にはなれたみたいだし。

さっさと『聖魔法使い』まで上げてもらえないかしら?」


「いや、俺は知らんぞ。

『付与魔術師』も『光魔法使い』も俺は何も知らんからな!」


「あはははは、無駄な抵抗はやめなさい。

全て調べは付いてるの。

毎日毎日、クローゼットの中で何をしてるのかしら?」


「なっ…嫌だ!これ以上はもう無理だ。」


「ふふふ、別に難しい事は何もないの。

ただ、『付与魔術師』と『光魔法使い』のレベルを優先して上げてくれればいいのよ。」


「嫌だ。あんたに関わるとロクな事がない。

もうソッとしておいてくれ。」


「ふふふ、ダメよ。

あなたが手伝ってくれないと、もっとあなたに稼いでもらわなきゃいけなくなるわ。」


「あほか!

そもそも、何で俺1人でこんなに稼がなきゃいけないんだよ!」


「ふふふ、分かってる。

もうあなたも限界でしょ。

このプロジェクトが成功すれば、あなたも私もみんな幸せになれるの。

ほら、やりたくなってきたでしょ?」


「ちょっと待て!そもそもの前提条件からおかしいから…」



その後の抵抗もむなしく、結局、あの女に押し切られることになった。。。


クソが!

ふざけやがって。

俺は何でも屋じゃねーんだぞ!



『付与魔術師』

自分の覚えたスキルを装備品に付与することができる。

付与できるスキル数は『付与魔術師』のレベルに応じて変わっていく。

付与の結果は運のステータスに大きく影響する。

自分の持っているスキルを余すことなく付与するには、運の数値が高くないとまず厳しいと言える。



そもそも1枚噛ませてあげるって…

どう考えても俺がメインじゃねーか!


言っておくが、俺はまだ7歳だぞ。

働かせ過ぎだろうが。

魔族討伐に行く前に過労で倒れるわ!





2年生の後期が今日から始まる。


恒例の自己紹介の時間だ。


お、ハヤテもジロウもしっかりレベルが上がってる。

いい感じだ。

セリナもいるし、ダンジョン攻略実習は20階層を目指してもいいかもしれない。


次は俺の番か。


「『火魔法使い』LV10『戦士』LV9『遊び人』LV5のユウキです。

よろしくお願いします。」


まただ。

前回同様、シーンとしている。

はは、俺なんて興味も無くなったか?

まぁ、別にいいけど。



放課後、セリナが俺の所にやってきた。


「ねぇ、ユウキ。

いつまであんな白々しいウソを付き続けるの?

彼女としてはどうかと思うわよ。」


「はぁ?俺はウソなんて付いた覚えはないけど?

むしろ、勝手に彼女を名乗ってるおまえの方がウソ付きだろうが。」


「あの『戦士』LV10とかってやつよ。

みんなも馬鹿じゃないんだから、もういい加減、気付いてるわよ?」


「えっ?そうなの。

誰も興味すらないと思ってた…。

ちなみに『戦士』はLV9な。」


「はぁぁぁ。

LV9でも10でもどっちでもいいの。

そんな、みみっちい話をしてるんじゃないから。」


「いや、面倒くさいし、もうこのままでいいよ。」


今さら、クラスの奴にどう思われようと知ったこっちゃない。

そんな下らないことより、お金を稼がないと…。

学校が始まると長期休暇の時のように稼げない。


学校生活なんて、いつもの3人とリヒトが居てくれれば十分。

後期も代わり映えしないだろうと思っていた。



しかし、新しくできた友人が毎日のように押し掛けてくることになる…。



「あっ、いたいた!

セリナ、ユウキ君。一緒に帰ろう。」


あ、サラさんだ。

そう言えば、5年生って言ってたっけ。


「ユウキ君。

また手合わせしてをお願いしたくて。」


「はい。またやりたいです。

次はいつにしますか?」


「もう!サラさん。

そう言うのは彼女の私を通してもらわないと。」


「あはは、ごめんごめん。

それじゃ、明日でどうかな?

お母さんもお話したいって。」


なんでセリナを通す必要があるんだよ?

セリナに付き合って、彼氏の振りをしてるだけなのに。



「へぇぇぇぇ、38階層でレベル上げしてるんだ。

通りで…私の魔法が効かない訳だ。

魔法を撃っても撃っても倒れてくれないんだもん。

お姉さん、自信失くしちゃったんだから。」


「いやでも、サラさんはとても強かったですよ。

今まで戦った魔法使いでぶっちぎりの1番でした。」


「ふふ、ありがとう。

ユウキ君は本当にいい子だよぉ。

ねぇ、やっぱりセリナと別れて、お姉さんと付き合わない?」

「え!?ちょっ、ちょっとサラさん、顔が近いです!」


何を言い出すんだ、この人は…。

急過ぎて、心拍数が跳ね上がったじゃないか。


「ちょっ、ちょっと!サラさん!

私の目の前で口説かないで!

早く離れて下さい!」


「あはは、ごめんごめん。

ついつい本音がこぼれちゃって。

ユウキ君、お友達ならいいよね?」


「は、はい、喜んで。」


「え、ついつい本音って、どういう…」


「あはは、セリナったら、冗談よ冗談。

ありがとう、ユウキ君。

それじゃ、また明日ね。」


セリナさんが走って去っていった。

本当に心臓に悪い…。


「サラさんたら、急にどうしたのよ…。」



◆セイラ視点


何度も断ったレベッカへの融資。

魔族討伐に行くパーティーへの投資だっけ?


普通なら絶対にしない。

半数近くが死ぬような任務のパーティーにお金を出しても返ってくる保証すら無い。



でも、ユウキ君を見て気が変わった。

彼は大きく化けるかもしれない。


その可能性が高いか低いか。

今日はそれを見極める。

融資するかどうかも、その結果次第で決める。


前回の手合わせは、3つも下の子に自慢の娘が全く歯が立たなかった。


さぁ、何が隠れている?


今、分かっているのは『盾使い』『僧侶』『闇魔法使い』の最低3職業はあるということだけ。


それだけでは説明が付かない。

最低でも中級職、いや、上級職以上の何かが隠れていても不思議じゃない。


残るはスキルとステータスと特殊スキルの有無か。


精神は最低でも500は無いと計算が合わない。

もしくは【魔法ダメージ半減】等の特殊スキルを持っているかだ。


他のステータスもどこまであるのか見極めないと。



「ふふ、ユウキ君。

今日は来てもらって、ごめんなさいね。」


「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします。」


「ねぇ、ユウキ君。

一回本気で戦ってみてもらえないかな?」


「いや、でも…」


「ユウキ君ならサラに勝てるでしょ?

どれくらいの差があるのか見せて欲しくって。」


「それは、まぁ…」


どうして、そんなに歯切れが悪いの?

やっぱり、防御力に特化した『盾使い』や『守護者』のような職業か。


それなら前回の手合わせの説明が付く。

サラが感情的になって自滅しただけだ。

もう負けはしない。


「ふふ、ユウキ君は何か心配事でもあるのかな?」


「前回、やりすぎちゃったから…

その…サラさん、泣いてましたし。」


ふふふ、あのサラを相手に、自分の心配じゃなく、サラの心配をしてるだなんて。


「ふふ、サラの為に本気を出してあげて。

今回はユウキ君に勝てるように、サラも色々と考えてたから。」


「分かりました。

では、全力でいきますね。」


『吟遊詩人』の【体力上昇】のバフをサラに掛けている。

今日は攻撃させてもらうから、サラが怪我をしないように配慮らしい。

自分にはバフを掛ける必要も無いってことか。

サラも舐められたものね。



手合わせが始まった。


彼は盾を構えて歩いていく。


セリナが【火魔法(中)】3つを同時展開。

ユウキ君が防ぎ切れないように3つ同時に発射した。


その時だった。

彼が速度を上げて一気に距離を詰めてきた。


速い!

ちょっと、速さはいくつあるのよ?

魔法も効かないのに、あの速度で突っ込んで来られたら対応しようがない。


彼の足払いでサラが倒れた。


「きゃっ!」


えっ…もう終わり?

まだ1分も経ってない。。。



「ユウキ、またそれ?

たまには違うパターンはないの?」


セリナが隣で叫んでいる。


「うるさいな!

これが1番確実なの。

外野がギャーギャーわめくなよ!」


嘘でしょ…。

サラと今日の再戦の為に打ち合わせもしたのよ。


「久しぶりにユウキの『火魔法(微)』を見せてよ!

あのお尻焼いてたやつ。」


「おまえはアホか!

サラさんにそんなことできる訳ないだろうが!」



ふふふ、あはははは。

この私が彼を見誤っていたみたい。

打ち合わせとか、そういう問題じゃなかったわけか。


さぁ、レベッカ。全部話してもらうわよ。

場合によっては、サラの縁談も全て断らないといけない。


こうして、ユウキは知らない間に融資を勝ち取った。

しかし、金を出すということは、当然、口も出してくる。

今後の育成方針はより過酷な物へと変わっていく。。。

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