第30話 7歳9月 顔合わせと金銭担当

今日から1ヶ月間の長期休暇だ。

しばらく田舎に帰るつもりは無い。


母さんと兄さん達は元気にしてるだろうか?

久しぶりに母さんの顔が見たい。



リーシャの家に引っ越して、そろそろ1ヶ月が経つ。

俺の担当は掃除だ。

掃除と言っても、『生活魔法使い』が覚える【クリーン】を掛けて回れば終わりだ。

15分も掛からない。


エリナさんがその他の料理や家事を受け持ってくれている。


「お兄ちゃん。おはようございます。」


リーシャが今日もニッコリと微笑んでくる。

あぁ…パジャマ姿も可愛い…。


「おはよう。リーシャ。」


「お兄ちゃん。今日の顔合わせのご挨拶、何をお話しするか決めました?」


「いや、適当でいいかなと思ってて。」


「もう!お兄ちゃん。

皆さんとは長いお付き合いになります。

リーシャの婚約者として、ちゃんとご挨拶して下さいね。」


「まぁ、そうなんだけど…。」


何の顔合わせかと言うと、リーシャの魔族討伐パーティーの決定メンバーの顔合わせだ。


本来、魔族討伐パーティーは王国から護衛として

『聖魔法使い』1人に対し、壁役、斥候、アタッカー×2(魔法と物理)、回復役に加えて、身の回りの世話や雑用を兼任にする従者が派遣される。


計7人。

パーティーとしては多いように思うかもしれない。

これは魔族が街中やダンジョン、山林、渓谷など、どこに現れるか分からない。

どこに現れても対応できるようにしている為だ。


一定以上の強さが認められれば、王国から派遣される護衛ではなく、俺やリヒトのように『聖魔法使い』の好きなメンバーを連れていける。


現状で言うと…

『聖魔法使い』はリーシャ

斥候担当はリヒト

従者担当は俺


それに加えて、影から護衛するレベッカ先生。


残りのメンバーは決まらなければ、国からの派遣となる。

もう1人、メンバーが見つかったとかで、急遽、先生が顔合わせと役割決めをすると言い出したのだ。


役割決めって何だよ?

職業ごとにそもそも役割は決まってるし。

むしろ、俺が戦闘職 兼 雑用担当みたいな扱いになってるから…。


それに、どうせリヒトとは同じクラスだ。

今さら挨拶する必要もない。

他に誰が来るのか知らないが、個人的に挨拶すればいいだろう。



もうすぐ、顔合わせの時間だ。

リーシャがそわそわしている。


ふふ、緊張しているリーシャも可愛いなぁ。

リリス様が来られた時は逆の立場だったから、今日はゆっくり見ていられる。


「もう!お兄ちゃん。

こっちを見て笑いませんでしたか?」


「あはは、緊張してるリーシャも可愛いなって。」


「その…可愛いだなんて。

ズルいです。

そんなこと、言われたら…怒れなくなります。」


そんな上目遣いで俺を見ないでくれ…。

可愛い過ぎて頭を撫でてあげたくなる。。。


この長期休暇はダンジョンに通い詰めることになる。

こんな穏やかな1日を楽しむのも、たまにはいいかもしれない。


そう思っていた矢先だった。


「ユウキ、リーシャ、おはよう。

今日から正式に仲間としてお世話になるね。

長い付き合いになるし、仲良くしましょう。」


「ぶふっっ。」


飲みかけのお茶を吐き出してしまった。


「ちょっと、ユウキ、汚ないわよ。」


な、なんで、セリナがここにいるんだよ!

セリナは絶対ダメだと伝えたはずだぞ。


「はい、セリナさん。

今日からよろしくお願いします。

お兄ちゃんのこと、色々と聞かせてくださいね。」


おい!どういうことだ?

俺は何も聞いてないぞ!


リヒトが部屋の入口にいる。

リヒトを見ると思いっきり目を反らされた。


リヒト!おまえ、セリナが来ることを知ってたな!


「セリナ、お前はこれがどういうパーティーか分かってない。

お前が思ってるような楽しい旅じゃないんだ。」


「ありがとう、ユウキ。

レベッカさんから聞いたよ。

ユウキは私を戦いに巻き込まない為に、私を突き放した不器用な子だって。」


あの女め、余計なことを。

そんな風に言えば、セリナは絶対付いてくるって言うに決まってるだろうが!


「いいから頼む。今日は帰ってくれ!

また今度、ちゃんと話すから。」


「嫌よ。最後の最後まで何も話してくれなかったじゃない。

それにね、レベッカさんが私に師匠を紹介してくれたの。

師匠は本当に凄いんだよ!

私、まだまだ強くなるから、私を信じて。」


「じゃ、強くなってから言ってくれ。

今のお前じゃ足手まといだ。」


「そんな言い方しても無駄だからね。

私は付いていくから。」


こいつ、人が心配して言ってるのに…。

どうして分かってくれないんだよ。


「はいはい。2人とも仲が良いのね。

みんな揃ったことだし、さっさと役割を決めちゃいましょうか。」


おい!約束が違うぞ。

俺はセリナが来るなんて認めないからな。


「私は上級職『アサシン』のレベッカよ。

しばらくはみんなのまとめ役になると思うわ。

よろしくね。」


ぐっ…話を流しやがった。

そもそも、コイツにまとめさせると何をさせられるか分かったもんじゃない。


「で、こちらがリーシャお嬢様ね。

特別職『聖魔法使い』よ。

みんな、お嬢様のことをよろしく頼むわね。」


「で、この子がリヒト。凄腕の『盗賊』で諜報担当よ。

何か困ったことがあれば、彼に相談したらいいわ。」


「知ってると思うけど、彼はユウキ君ね。

従者として付いて来てくれるけど、とっても強いのよ。

ユウキ君は金銭管理担当ね。」


金銭管理担当?

パーティーのお金を預かれということか?

まぁ、従者の仕事と言えば仕事だけど。


「セリナちゃんのマジックポーション以外で必要な経費があったら、また教えてちょうだい。」


「で、この綺麗な子がセリナちゃんね。

今は師匠を紹介したから、しばらくはそっちで修行になるわ。」




「じゃ、ユウキ君とリヒトは残ってくれるかしら。

担当業務の説明をするわね。」


「で、金銭管理って、俺は何をしたらいいんだよ?」


「あはは、みんなの金銭管理。そのままよ。

あなたがみんなの資金を稼いでくるの。」


「は…?」


「ふふふ、当面はあなたとセリナちゃんの毎日のマジックポーション代。

10万G×2人分×30日で月に600万Gと言ったところかしら。」


「ふざけるな!

そんな金を稼げるわけがないだろうが。」


「あはははは、足りない分は私が貸してあげるわ。

もちろん、利子は付くから、ちゃんと返すのよ。」


クソが!

理不尽にも程がある…

利子まで取るのかよ!


「何で俺がセリナの分まで稼ぐんだよ。

そもそも、約束が違う。」


「パーティーメンバーはあなたが決めることじゃないわ。

決まったことを何度もグチグチ言わないの。」


「そんな…話が…」


「いい?良い魔法使いを育てるにはお金が掛かるのよ。

セリナちゃんが弱いままで命を落としたら嫌でしょ?」


「ぐっ…」


「それじゃ、あなたが稼いで来ないと。

ふふふ、あなたの為にセリナちゃんは来たんだから、あなたが助けてあげないとね。」


「クソが!」


「あははは、それにユウキ君。

毎月600万も適当に出した数字じゃないわ。

長期休暇はいつもより稼げるでしょ?

その分を足して、稼ぐペースを上げれば、半年間で少し足らないくらいで済むはずよ。」


「この悪魔め…」


「酷すぎる…。」

リヒトがボソリとこぼした。

あわれむように俺を見ている。

この理不尽さを分かってくれるのだろう…。



「次にリヒトね。

あなたは他の有能な壁役、アタッカー、回復役の弱みを握って、仲間に引き込みなさい。」


「また…そんな無茶を…。」


「ふふふ、あなたのクラスに有能なのが何人かいるでしょ?

1人か2人ぐらい、いつものように引きずり込んだらいいでしょうが。」


「ちょっと、僕が悪の道に突き落としてるみたいな言い方、やめてくださいよ。。。」


「あはは、あら、悪じゃないわよ。

世のため人のために魔族を討伐するんだから、私たちこそ正義だと思うわ。」


「でも、やり方が汚いと言うか…。」


「あら、私は結果さえ出してくれれば何でもいいのよ?

毎週1回は誰の何を調べたのか報告なさい。

手を抜いたら、すぐに分かるからね?」


「はい…。」


「ふふふ、それじゃ、しっかりやるように。

分かってると思うけど、あなた達に長期休暇なんてあると思わないでね。

結果を残すまで死ぬ気でやりなさい。以上よ。」


「………。」

「………。」


「返事は!」


「ハイ…。」

「はい…。」



悪魔だ。悪魔がいる。。。

この女こそ、魔族じゃないのか…?


コイツの討伐なら、俺は全力を尽くして取り組む自信がある。。。



部屋を出るとリーシャとセリナが楽しそうに話している。

普段ならセリナの戯言を突っ込みに行くところだが、今日はそんな気分になれなかった。


「なぁ、リヒト。

あの女こそ、魔族だと思わないか…?」


「うん、僕もそれ思った。。。」


「俺さ、いつかあの女をぶっ殺すのが夢でさ。」


「うん、その時は僕も手伝わせて。」


「あぁ、俺達2人でめった刺しにしてやろうな。」


「トドメはユウキ君に譲るから。」



この頃から2人で将来の夢を語るようになった。


まぁ、夢と言っても…

あの悪魔を退治したいとか、解放されたら何がしたいとか

全てあの悪魔さえいなくなれば済む話なのだが。。。




数日後。


よし。『光魔法使い』のレベルが1に上がった。

これで23個目の職業だ。


『光魔法使い』

『聖魔法使い』の下位職業に当たる。

レベルが25まで上がれば『聖魔法使い』に変わる職業だ。


この職業のレベル上げには1つ注意点がある。

誰にも使えることを知られてはならない。

知られてしまえば、俺もリーシャと同じ養成所に送り込まれるからだ。


レベル上げは密閉された空間でだけ。

【光・聖魔法】使用時は独特の白い光が漏れるから、カーテン越しでも気付かれかねない。


部屋に鍵を掛け、カーテンを閉める。

そのままクローゼットの中に入り、【光魔法】を使う。

【光・聖魔法】は魔力と精神に威力が依存する。

ただ光を灯すだけの【ライト】の魔法であっても、人に比べて俺の灯りは大きく強い。


誰にも知られないように、人前で使えない魔法のレベルを上げる。

はっきり言って不毛だ。


それでも、万が一に備え、使えるようになる必要がある。

俺がリーシャを守ると決めたからだ。

『聖魔法使い』にまで成長させれば、もしもの時に時間稼ぎくらいはできる。


レベル上げと金稼ぎか…

やらなければならないことが多すぎる。

後期は最低でも週に2日は学校を休まないと追い付かないな…。

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