第24話 7歳6月 リーシャの職業と悪魔の女

朝7時45分、いつもの公園。


リーシャと先生がカタログを見ながら、キャッキャッしている。


「お嬢様にはこっちの薄いピンクのウェディングドレスもお似合いだと思いますよ。」

「うふふ、レベッカもそう思いますか?

お兄ちゃんは…その…どちらの方がお好みですか?」


ぐぁぁぁぁぁぁぁ!


何だ…何だこの会話は!

マズイ。マズイ。マズイ。


早く誤解を解かないと…。

もう引き返せなくなる。。。


もう俺はただの恋人扱いでは無い。

婚約者のような扱いに変わっている。。。



2週間前、先生に言われるがままにリーシャに贈ったリング。


「リーシャさん。いつまでも僕と一緒に、この公園を歩いてくれませんか?」


いつものベンチで片膝を付き、リングの箱を開け、先生に指示された言葉をそのまま伝えた。

深く考えもしなかった。


先生と練習した成果もあり、珍しく噛まずに言えたことぐらいか。。。


しかし、この言葉が不味かったのかもしれない。

リーシャの瞳から涙が溢れていた。


「リーシャは…リーシャは世界で1番幸せです。」


この日からだ。

リーシャが自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけてくるようになったのは…。



もちろん、リーシャのことは好きだ。

大好きだと言える。


問題は好きの種類だ。

俺の好きは可愛い妹として好きな部分がまだ大きい。

もちろん愛情だってある。

女性としてもリーシャは魅力的だ。


しかし、婚約者とか、結婚相手とか言われると話は変わってくる。

そこまでの気持ちも、想いも、覚悟も、まだ俺には無い。


そもそも、まだ俺は7歳。リーシャは6歳だ。

今から結婚なんて考える歳でもない。


どうしよう。。。


あの悪魔に唆されたとは言え、自分にも責任がある。

リーシャのことが好きだからこそ

こんな中途半端な気持ちでリーシャと接するべきではない。



ボーッと1人、考えているとリーシャが声を掛けてきた。


「あの…お兄ちゃん。

学校の寮にいらっしゃるなら、うちのお屋敷で一緒に住みませんか?」

「え…?」

「その…未来の旦那様の為に…毎日、お料理も作ってあげたいですし。」


未来の旦那様…。


リーシャがうつむき、顔を真っ赤にしている。

いや、リーシャ、可愛い過ぎるから。。。


「いや、同棲はさすがにまだ早いかなって…」

「ちゃんと責任を取ってくださるなら…リーシャはお兄ちゃんと…少しでも一緒にいたいです。」


まただ。

リーシャが包み隠さず想いをぶつけてくる。

今までのように、はぐらかして逃げることが難しくなってきた。


「あの…少し考える時間を…もらってもいいかな?」

「はい、お兄ちゃん。

良いお返事をお待ちしてますね。」


リーシャがいつものようにニッコリと笑う。

いや、いつもと違うか…。

真っ直ぐに目を見てくるようになった。


もう後戻りできない所まで来ているのかもしれない。。。



◆レベッカ視点


普段からお嬢様は親元を離れ、1人公爵領の学校に通っている。

これはお嬢様の職業に原因がある。


特別職『聖魔法使い』。


2~3千人に1人ぐらいが目覚めるちょっとしたレア職。

まぁ、ステータスの上昇で言えば、ただの中級職と変わらない。


問題は使い手の少ない【聖魔法】が使えるということにある。

魔族の弱点属性の【聖魔法】を使える為、魔族討伐の特殊部隊に召集されることになる。


学校も普通の学校では無く、聖属性の魔法使いが集められる学校とは名ばかりの養成所に通っている。



7年前、『勇者』との戦いで最凶と言われた魔王は倒れた。

しかし、以前よりも落ち着いたとは言え、魔族は現れる。

お嬢様も学校卒業後は召集され、王国各地で魔族の討伐を行うことになる。


『聖魔法使い』の生存率は最初の1年で約7割。

召集期間の終わる10年後には4割ちょいだと言われている。


魔族も馬鹿ではない。

自分達の弱点属性【聖魔法】の使い手から真っ先に狙ってくる。


生き残るのは、強い護衛で固められた一握りの有力貴族と、運と実力に恵まれた者だけ。

残り6割は命を落とす。


お嬢様は優し過ぎて、戦いに向いていない。

例に漏れず、その6割に入る可能性が高いだろう。


魔族との戦いで命を落とす。

まぁ、よくある話だ。

珍しくも何ともない。



だが、その6割に選ばれた親はたまったものではない。

自分の可愛い子供が真っ先に命を狙われる任務に送り込まれるのだ。

【聖魔法】が使えると分かった瞬間から、もうその子の死を覚悟する。


最近では落ち着いたが、親友であるお嬢様の母親リリスも塞ぎ込んだ。

お嬢様の笑顔を見ると「なんであの子が…」と毎日のように泣いていた。


私が従者になり、お嬢様を鍛えるようになったのはその頃の話だ。

お嬢様のことは基本的に私に任せてもらっている。


今では自分の娘のように感じることがある。

いや、血こそ繋がっていないけど、半分は私の娘のようなものだ。


今のうちに人並みに恋愛もさせてあげたい。

女としても幸せになって欲しい。


ユウキは私を悪魔と言うが、母親として娘の幸せを願って何が悪い。


あはは、でも確かにユウキから見れば、私は悪魔に見えるかもしれない。

騙され、脅迫され、殴られ、お金も使い込まれ、利子まで取られる。


この前は私に向かって強い殺気まで飛ばしてきた。

ふふふふふ、私がそんなに憎かったのかしら。


まぁ、我ながら酷いのは間違いないわね。

ちょっと追い込み過ぎたかしら?


この前もやり過ぎて、自信を失くしちゃったし。

少しは優しくしてあげないとダメね。


ふふふ、明日は差し入れを持っていってあげよう。

少しは喜んでくれるかしら?




「いつも頑張ってるユウキ君にお菓子の差し入れを買ってきたの。

とっても美味しいのよ。後で食べてちょうだい。」


ユウキが怪しそうに、匂いをかぎだした。

今度はお菓子を手に取り、表面をなにやら確認している。


毒でも入ってないか確認してるのかしら?

本当に失礼ね。。。


「先生、どういう風の吹き回しですか?

睡眠薬とか入ってるかもしれないと思うと、怖くて食べれません。」

「あら、私の純粋な優しさなのに…。

さすがの私も傷付くわよ。。。」

「今後、そういうのは大丈夫です。

眠らされて、起きたら、何かの契約書にサインさせられてた。なんてことになりそうで…グハッ…」


気が付いたら手が出ていた。

私のことを一体なんだと思ってるのかしら?


「ふふふ、せっかく優しくしてあげようと思ったのに。

躾が足りなかったみたい。」

「ぐっ…いつもいつも殴りやがって!

そんなんで信用される訳ないだろうが!」

「言いたいことはそれだけかしら?」

「ヒィッ…」


「ギャァァァァァァァ!」


あはは、ユウキの断末魔が聞こえる。

もう少し素直な子になるように、念入りに教育しとかないと。


「グスッ…先生。

差し入れ、ありがとうございます…グスッ…」

「あはは、素直になってくれたみたいね。

先生、嬉しいわ。」

「グッ…この悪魔め…ボソッ」

「ふふふ、何か言ったかしら?」

「いえ…これからもご指導ご鞭撻、よろしくお願いします。。。」


ちょっと優しくすると、すぐに付け上がるんだもの。

やっぱり厳しく躾ないとダメね。



こうして、ユウキの理不尽な毎日は続く…。

ユウキが従順になるその日まで、レベッカの躾に終わりは来ない。。。

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