第23話 7歳5月 増えていく稼ぎと減らない借金と

38階層でのレベル上げは順調。

いや、我ながら良く頑張っていると褒めてやりたい。


今月は『盗賊』『狩人』『吟遊詩人』『遊び人』『生活魔法使い』のLVが上がった。

毎日毎日、戦い続けた積み重ねが自信へと繋がっている。


最近まで安全マージンを取って、1度に4体以上の敵は避けるようにしていたけど、昨日から4体までなら戦うことにした。

もう4体程度なら、やっていけるだけの余裕も実力も付いてきた。


フフフ、これで敵を避けていた時間も戦いに回せる。

見てろよ。

来月からはさらにLVの上昇速度が上がる。

あっという間に、追い付いてやるからな。



そして、レベルが上がり強くなれば、もう1つ利点がある。

借金返済だ。

一刻も早く終わらせてしまいたい。


先月よりも魔物を倒す数が増えた分、魔石もレアドロップも増えた。

今月は400万G近くは稼いでいるはず。

強くなればなるほど、稼ぎも増えていく。


先月の終わりに確認した借金総額は約6230万G。

魔法生物特効の付いた剣や槍、斧を買ったとしても、頑張れば、あと2年ぐらいで返済できる見通しだ。



何故、返済を急いでいるのか?


そんなの決まっている。

先生が…あの女が何かにつけて借金を盾に脅してくる。

もう、うんざりだ。

このまま放置しておくと、後々、何をさせられるか分かったもんじゃない。


一見、あの女は綺麗で優しく、穏やかそうに見える。

強いから頼ってしまいそうになる。

甘い言葉を信じてしまいそうになる。


しかし、信じる度にことごとく裏切られた。


「あはははははは!」

あの女の笑い声が脳裏によみがえってくる。


あの女は人の皮を被った悪魔だ。

あの手この手で俺を騙し、気が付けば、奴のいいように使われている。


さすがに、もう俺の前では本性を隠さなくなったが、まだ何かあるんじゃないかと警戒は続けている。



そもそもだ。

毎月1%の利子。

年利に直せば12.68%程か。


これがおかしい。

子供に背負わせるような利子じゃないだろ。


利子の話を聞いた時は目の前が真っ暗になった。

利子のことを確認せず、契約書にサインした俺も悪い。

俺も悪いが…こんな子供から、これだけのお金をむしり取ろうとするとは、さすがに想像できなかった。


父さんは1%くらいならと喜んでサインしたそうだ。

本当にあの馬鹿は…。

次に会った時にぶん殴ってやる。



週に2回あるダンジョン実習は『遊び人』のレベルをこれまで以上に優先して上げるようになった。

【経験値吸収】も『遊び人』から経験値を吸収するようにしている。


それもこれもお金の為だ。


LV5まで上がれば、【運上昇(微)】(運、上昇補正10%)を覚えられる。

そうなれば、さらにレアドロップが増える。


借金まみれで身動きが取れない状況はもう嫌だ。

あの女の言いなりになりたくない。

ここで頑張って、もっとお金を稼いでやる。


早く…早く人並みに過ごしたい。


リーシャのことは気掛かりではある。

でも、学校卒業までに自分を買い戻して、気ままに1人旅に出るのもいいかもしれない。


そんな風に考えるようになっていた。



しかし…


人並みに過ごしたい。

そんな彼のささやかな願いは、またもや踏みにじられることになる。



次の日の朝。


「先生、今月の返済金386万Gです。

確認してください。

借金はあといくら残っていますか?」

「ちょっと待ってくれるかしら?

今、計算するわね。」


1%の利子も含めて、5900万Gちょっとだろう。


「えーと、利子も付けさせてもらって、残りは6315万Gね。

もうちょっと頑張らないと、借金は減らないわよ?」

「ちょっと待て!

何で386万Gも返済して、借金が増えるんだよ!?

先生、ちゃんと計算して下さい。」

「でも、計算は合ってるわよ?ほら。」

「はぁ?そんな訳あるか!」


俺は敬語を使うことも忘れ、意味の分からない数字に怒りで震えていた。

これだけ稼いで借金が増えていることが理解できない。


な、なんだこれは!?


婚約指輪 120万G

婚約指輪 200万G

婚約指輪  80万G


計3つ400万Gの婚約指輪代が加算されている。


「おい!この婚約指輪の3つはなんだよ!?」

「あら?先月、婚約指輪か、婚約指輪か、婚約指輪か、髪留めか、選んでって言ったでしょう。

請求が着たんだから、あなたが払うしかないの。」

「俺は指輪なんて頼んでない。絶対払わん!」

「せっかく、お嬢様がお喜びになりそうな物を選んであげたのに。

感謝するどころか踏み倒そうとするなんて…。

先生は悲しいわ。」


先生が泣き真似を始めた…。


まただ。言葉巧みに俺が悪いかのように言ってくる。

この女の口車に乗せられたら、骨の髄までしゃぶられる。

もうその手には乗らない。


「踏み倒す?どう考えてもおかしいだろ。

請求を擦り付けられそうだから、拒否してるだけですがね。」

「あら、エリナさんの就職先まで面倒見てあげたのに、もうその恩も忘れたのかしら?」


エリナさんはセリナのお母さんだ。

マリーのせいで再就職先が決まらないと相談した時に、リーシャの屋敷でお手伝いさんとして、雇ってもらえることになった。


「ぐっ…それとこれとは別の話だと思いますが…」

「あら、半分は私のポケットマネーでエリナさんを雇ってるのに、まだ私からお金を巻き上げようとするのね。」

「うぅ…」


ダメだ。この女の口車に乗せられたら…。


「困った時だけ、私のことを頼ってきて、本当に私は都合の良い女ね。

セリナちゃんだっけ?

だいぶ安心して学校に通えるようになったと思うけど?」

「ぐぐっ…」


ダメな物はダメだ…。

今月、あれだけ頑張ったのに、このままでは意味の分からない指輪代に消えてしまう。。。


「ねぇ、誰かが払うしかないの。

さっきから敬語も使えないようだし。

私にボコボコにされてから教育指導料を上乗せして払うのと

今、気持ち良く支払いを認めるのとどっちがいいの?」


ぁぁ…ぁぁぁ…。


結局、弱い俺はまた搾取されてしまうのか…?

今月、あんなにも頑張ったのに。

もう…泣いちゃうかもしれない。。。


「ほら、どっちって聞いてるの?

何発か殴られてみないと分からないようね。」


ぁぁ…。


嫌だ…。


嫌だ!嫌だ!嫌だ!

このまま、この女の食い物にされるのはゴメンだ!


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」


元『勇者』ユウキの本気の怒り。

今は『勇者』でなくても、修羅場を何度も潜った記憶は残っている。

ユウキが放つ殺気にレベッカは驚いていた。


まだ、この女に勝てないかもしれない。

それでも、俺だって強くなっている。

せめて、一矢報いてやる!


『吟遊詩人』のバフを掛ける。

これで力と速さも上がった。


もう中級冒険者にだって負けなくなった。

これが正真正銘の俺の全力だ!

くらえっ!


「ウォォォォォォ!」


今までにない気迫とユウキの全身全霊を掛けた攻撃。

さすがの上級冒険者もタダでは済まない。



が、ダメ。

レベッカにかすりもしない。


元『勇者』もクソもない。

そもそものレベルも職業も性能もスキルまで違う。

叫んだくらいで強くなれたら誰も苦労しない。


「あはははは、最近、反抗期が酷いわね。

ちょっと実力の差を理解させてあげようかしら。」


「ギャァァァァァァァ!」


反抗する気力を根こそぎ奪うかのように、レベッカの猛攻が続く…。

今のユウキでは、どう足掻いてもレベッカには勝てないのだ。。。


「グスッ…。気持ち良く…お支払い…

させて頂きます…グスッ…。」


「ふふふ、先生はそう言ってくれると信じてたわ。

あらあら、急に泣き出して。

男の子なんだから、それくらい我慢しないと。」


力が…力が欲しい…。

この理不尽の塊を跳ね返せるだけの圧倒的な力が。。。


泣きじゃくる俺を先生は抱きしめ、耳元で囁いてきた。

「ふふふ、ねぇ、ユウキ君。

私に反抗しようなんて考えちゃダメ。

あなたは黙って、私の言うことだけ聞いていればいいの。」


耳障りの良い、甘い声で囁いてくる。

うっかり返事しそうになるが、言ってることはちっとも甘くない。


「ふふふ、ユウキ君。

聞こえたら、ちゃんと返事しないと。

またぶっ飛ばされたいの?」

「ヒイッ…」


「ふふふ、そんなに怯えないで。

前にも言ったはずよ。

何があっても私はあなたの味方だって。」

「はい。」


「指輪もお嬢様にプレゼントすれば、無駄にならないでしょ。

3つもあるから、好きなのを選んでいいのよ?」

「はい。」


「これなんて、どうかしら?

お嬢様も喜ぶと思うわ?」

「はい。」


「ふふふ、えらいわ。ユウキ君。

明日、早速、お嬢様にプレゼントしようね?」

「え……。」

「返事。」

「………ハイ」

「声が小さい!」

「はい!」


「ふふふ、先生、とっても嬉しいわ。

女の子にとって大切なことだから、明日の為に練習しようね?」

「………はい。」

「いい?指輪の入った箱をお嬢様の目の前でパカッと開けて、こう言うの…」


心をへし折られたユウキに、もう抵抗する気力は残されていなかった。。。


こうして、借金の抗議をするはずが…

レベッカに無理矢理、リングを買わされ、リーシャへと贈ることとなった。

半ばプロポーズとも取れるリングのプレゼントに、リーシャは泣いて喜んだという。



そして…


「先生、次からは…

せめて…せめて、お金を使う前に相談して頂けないでしょうか。。。」

「ふふふ。えぇ、分かったわ。

覚えていたら、ちゃんと相談するわね。」

「覚えていたら…」


もちろん、レベッカは相談する気など微塵も無い。

ユウキのささやかなお願いは聞いてすらもらえない。


こうして、いつまで経っても減らない借金にも苦しめられることになる。



ステータス

ユウキ 7歳


HP 444/444

MP 401/401

体力 359

力  318

魔力 388

精神 424

速さ 366

器用 346

運  203

吸収 6


職業

戦士 LV8(290.58/800)

火魔法使い LV8(745.51/800)

水魔法使い LV8(368.68/800)

土魔法使い LV8(497.23/800)

風魔法使い LV8(599.65/800)

僧侶 LV13(760.28/1300)

盗賊 LV9(110.26/900)

武道家 LV7(240.68/700)

吟遊詩人 LV10(240.68/1000)

植物魔法使い LV8(498.73/800)

付与魔術士 LV7(290.03/700)

剣士 LV6(388.19/600)

盾使い LV7(133.84/700)

狩人 LV9(100.31/900)

薬師 LV8(147.12/800)

魔物使い LV2(127.48/200)

槍使い LV3(35.44/300)

遊び人 LV4(14.04/400)

斧使い LV2(111.36/200)

弓使い LV3(183.65/300)

生活魔法使い LV2(56.94/200)


スキル

経験値吸収 LV6(465.65/600)

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