第22話 7歳5月 セリナへのイジメと頼れる大人
◆セリナ視点
「はぁぁぁぁぁ。」
まただ、油断するとすぐに物が失くなる。
もちろん、私が失くしてる訳じゃない。
私に嫌がらせしているマリーのグループが捨ててしまう。
10日前、魔法実戦の授業でマリーと当たった。
総合順位7位 マリー。
水魔法の中級職『氷魔法使い』と下級職『風魔法使い』の2つの職業を持つ貴族の娘。
プライドだけは異常に高く、中級職に目覚めた自分に酔っている面倒な女。
これがマリーに対する私の印象だ。
「うふふふふ、皆さん、中級職『氷魔法使い』の私がお手本を見せてあげましょう。」
取り巻き達に向かって何やら自慢気に話している。
私が『魔導師』になったのは3ヶ月前の話だ。
いくら【魔力上昇(小)】(魔力20%上昇補正)のスキルがあっても、マリーの『氷魔法使い』LV14と比べてレベルも低い。
しかも、私は風魔法しか使えない。
逆にマリーは水・氷・風の3つが使える。
魔力も手札も劣っている。
マリーの圧勝だろう、私もそう思っていた。
しかし、蓋を開ければ、私が圧勝していた。
マリーは魔力の扱い方が上手いとは言えない。
魔力を練り上げるのも遅かった。
舐められてる…。
総合順位7位がこの程度なハズがない。
手を抜かれてると勘違いした私は、マリーが本気を出すように全力で3度魔法を放った。
これがいけなかった。
【風魔法】同士のぶつけ合い、マリーの魔法を私が吹き飛ばした。
マリーが得意の【氷魔法】で氷壁を作り、私の魔法を防ごうとするが氷壁は粉々に。
もう一発、私の【風魔法】の前にマリーはなす術もなく立ち尽くした。
「キャァァァァァ!」
私の【風魔法】がマリーを場外まで吹き飛ばした。
自慢の髪と顔が泥だらけだ。
一方的に叩きのめしてしまった。
マリーが手を抜いたんじゃない。
私が強くなってるんだ。
「あはははは!マリーのやつ、何がお手本だよ。
口と態度だけな、デカイのは。」
「ぷぷ、見てみろよ。
あいつの自慢の頭、泥だらけになってるし。」
「おいおい、止めとけって。
あいつの親はヤバイって有名じゃん。」
「よくも!よくも!よくも!
皆の前で恥をかかせてくれたわね。
覚悟しておきなさい!」
「え…」
次の日からだ。
嫌がらせが始まったのは…。
教室に物を置いていくと、また捨てられる。
お陰でダンジョン実習にも教科書を持ち込むしかなかった。
見かねたユウキが、マジックバックに私の荷物を入れてくれるようになった。
担任のイザベル先生にも相談した。
「物が失くなる程度で済んでるんでしょ?
それぐらいなら自分で対処なさい。
身の危険を感じるようになったら、また教えてちょうだい。」
先生から返ってきた言葉に耳を疑った。
貴族と平民が一緒にいる学校なんだから、それぐらいは普通だと言う。
「嫌なら、逃げるか、立ち向かうか、そのマリーに謝罪して許してもらうしかないわね。」
仕方ない。
これ以上の面倒事はゴメンだ。
さっさとマリーに頭を下げて許してもらおう。
「マリー、この前の対戦の時は…その、悪かったわ。」
「あら?やっと自分の愚かさに気付いたのかしら。」
「もう嫌がらせをやめてもらいたいの。」
「うふふふふ、あら、人聞きの悪い。
嫌がらせって何のことかしら?」
「なっ…」
「でも、あなたがユウキのパーティーから抜ければ、その嫌がらせは無くなると思うわ。
その時は嫌がらせをしてる子達に私がお願いしてあげる。」
ぐっ…あんたが指示してるんでしょうが!
それにパーティーを抜けるなんて、できる訳ない。
今、抜ければ迷惑が掛かる。
ユウキ達は3人でダンジョンに行かないといけなくなる。
「はぁぁ。そんなことできる訳ないでしょ?
もういい。嫌がらせでも何でもすればいいじゃない。」
「あはははは、せっかく私がチャンスを与えてあげたのに。
平民風情が調子に乗ればどうなるか、後で後悔なさい。」
「………。」
「帰り道とご家族にも気を付けるように言った方がいいわよ。
最近、物騒だって聞くし。」
「なっ、ちょっと!それ、どういう…」
「うふふふふ、それじゃ、ごきげんよう。
気が変わったら、また話を聞いてあげる。」
その日から、帰り道に後を付けられるようになった。
家の周りには人相の悪い冒険者がうろついている。
窓から見ているとまた目が合った。
すぐにカーテンを閉じた。
そして、一昨日、お母さんが職場をクビになった。
お母さんがいると貴族に目を付けられるから、辞めて欲しいとお願いされたそうだ。
ごめんなさい…。
どう考えても私のせいだ。
うちの家は片親だ。
お母さんが職を失うと収入も失くなってしまう。
あなたは何も心配しなくていいと言ってくれる。
それでも、無意識なのか、ため息ばかりついている。
再就職先も見付からないみたい…。
男爵の息子のジロウに相談したが、ジロウは返答に困っていた。
マリーの家はガラが悪くて有名らしい。
何人も目を付けられて潰されたと言っていた。
「どうしよう…。」
ジロウから聞いた話が頭によぎる。
私だけなら、まだ我慢できる。
でも、妹はまだ小さい。
家族にまで手を出されたら…。
私は途方に暮れるしかなかった。
◆ユウキ視点
最近、セリナの様子がおかしいのは気付いていた。
教室に物を置いておくと嫌がらせされるらしい。
セリナの荷物をマジックバックに入れてあげれば大丈夫だろう。
それぐらいにしか思っていなかった。
放課後。
さっさとダンジョンに行こう。
そう思っていたら、ジロウが俺に声を掛けてきた。
「ユウキ、ちょっと付き合ってくれ。」
「どうした?ジロウ。」
「いいからちょっと付き合えって。」
ジロウと2人で歩くのは初めてかもしれない。
「どこ行くんだ?」
「付いていけば分かる。」
前を見るとセリナが歩いていた。
「セリナからはユウキには言わないでって言われてるけど、一応、伝えとくよ。」
「すまないけど、俺の家じゃ、セリナを助けてやれそうにない。
ユウキのとこは?」
「俺はもう…従者として売られちゃってるし。」
「そっか。マリーの家はガラが悪くて有名だから。
もう厳しいかもしれないよ。」
「………。」
セリナの後を付けてる大人が2人いる。
コイツらか。
家の周りをうろついてるとかいう冒険者は。
セリナの家に着いても何もしようとはしない。
ただ、嫌がらせのようにうろついている。
「ジロウ、先に帰っといてくれ。
ちょっとあのおっさん達と話をしてくるわ。」
「さすがに大人2人相手はユウキでも無理だろ?」
「いや、話をするだけだからさ。」
「すいません。ここをうろつかれると迷惑なんで、他所に行ってもらえませんかね?」
俺は冒険者2人に声を掛ける。
セリナへの負担は減らしてやりたい。
「あぁぁ?クソガキが。俺達がどこにいようと勝手だろうが?」
ただのチンピラか。
こんな奴等に敬語を使う必要もないな。
「あっそう。じゃ、俺はおっさんが通れないようにしても勝手だよな。」
そう言って、チンピラの前に【土魔法】で壁を作る。
もう前は通さない。
「おい?お前さ、痛い目に合わないうちにさっさと消えろよ。
ガキの相手をしてるほど、暇じゃねーんだよ。」
「はぁ?暇で仕方なさそうに見えるけど?
人ん家の前でウロウロしやがって。」
「このうざいガキをさっさと追い払ってこいよ。」
「チッ、めんどくせえな。」
チンピラAが俺を掴もうと手を伸ばしてきた。
俺はその手を払う。
「汚い手で触るな。」
「あぁぁぁ?おまえ、ふざけやがって!
喧嘩売ってんのか?」
「やっと分かったか。このチンピラが。」
「このガキ!」
チンピラAが殴り掛かってきた。
遅い。
速さ200ぐらいか。
相手の突きを避けて、みぞおちに一発いれる。
今の俺の身長では大人の男性相手に、直接、顔面に攻撃を加えるのはキツイ。
「ガハッ…マジか、コイツ…。
中級冒険者の俺を相手に…。」
最近、先生にボコられ続けていたから、自信を失いつつあった。
うん、俺が弱い訳じゃなさそうだ。
俺の攻撃が掠りもしないあの化け物がおかしいだけで。
ローキック。
まずは動けなくなるように足から潰していく。
「ギャァァ…ちょっ、ちょっと待ってくれ。」
ふふ、大人の癖に大袈裟だな。
みぞおちにもう1発。
「オエエエッ…」
おいおい、吐くなよ。
セリナが迷惑するじゃないか。
顔がやっと下がってきた。顔面に膝蹴り。
「ブハッ…ま、ま、ま、待ってくれ。」
顔面にもう1発。
「ヒィィ…わ、悪かった。は、反省してる。」
マウントを取り、殴る。殴る。
「ガハッ…もう許し…ゲホッ…やめ…てくれ…」
後ろから【雷魔法】が飛んできた。
チンピラBだ。
へぇぇ、中級職『雷魔法使い』か。
HPの減りを確認する。
クックックッ、12のダメージか。
「ガキが調子に乗りやがって。」
俺は毎日のようにダンジョンでエレメントコアから魔法攻撃を受け続けている。
その程度の魔法なら無視でいい。
マウントを取っているチンピラAをそのまま殴り続ける。
【回復魔法】を掛けて、また殴る。
こういう輩は身体に教え込まないと、同じことを繰り返す。
「このガキ、魔法が効いてないのか…?
おまえ!グンジから離れろよ!」
また、【雷魔法】が飛んできた。
ぐっ…今度のはさっきよりもダメージが大きい。
へぇぇ、今のが【雷魔法(中)】か。
「おっちゃんはコイツが終わってからだから、もうちょっと待っててね。」
「ヒイッ…」
暗い笑みでチンピラBに微笑む。
俺の仲間によくも手を出しやがったな。
ジロウの話を聞いてショックだった。
そこまでセリナが苦しんでいたのに、気付いてやれなかった。
セリナを鬱陶しいと思う事はしょっちゅうある。
でも、お前らがセリナを苦しめていい理由にはならない。
チンピラBのMPが尽きたのか、逃げ出そうとしている。
ダメだから。逃がさないよ。
「おっちゃん、仲間を置いて逃げようとするなんてクソ野郎だね。」
「ヒィィッ…」
ローキック。
「ギャァァァァァ!足が…足が…」
「子供に蹴られたぐらいで、そんな叫ばないでよ。」
反対の足にもう1発。
「アガガガガ…やめて…やめてくれ…」
ククク、足が痛くて引きずっている。
これでもう逃げられない。
10分後。
すっかりお行儀が良くなった2人が誰の指示で何をしているか、快く話してくれた。
指示があるまで手は出さなくていいが、精神的にとことん追い込め。
そうマリーから指示を受けているようだ。
学外で手を出されると、俺には守りようがない。
こんな時に頼れる大人は1人しかいない…。
あの女だ。。。
気は進まないけど、先生に相談するしかないか。
「ふふふ、ユウキ君。
その男爵の息子のケンタと子爵の娘のマリーが大人しくなってくれればいいのね?」
「ええ、その2人さえ何とかなれば、あとは大丈夫だと思います。」
「男爵の所はすぐね。明日には謝罪してくれると思うわ。
子爵の所はちょっと骨が折れるわね。
少し時間を貰えないかしら?」
「何とかできそうですか?」
「あら、先生もそれなりにお付き合いはあるもの。
安心してくれて大丈夫よ。」
「良かった。先生、ありがとうございます。」
「で、ユウキ君は私に何をしてくれるのかしら?
ふふふふふ、先生もちょうど、ユウキ君にお願いしたいことがあったの。」
次の日の朝。
教室がざわついている。
皆の前で土下座したケンタがセリナに謝罪を始めたのだ。
慰謝料まで封筒に包まれている。
「こ、これで、何卒、お許し下さい。
もうセリナさんには一切近付きません。
バックにいる方を止めてもらえませんか?」
「え?え?」
何も知らないセリナが混乱していた。
昨日まで自分を嫌がらせしていた連中が、突然、慰謝料を持って謝罪にきたのだ。
自分のバックに誰がいるかなんて知りもしない。
「ごめん…何を言ってるのか、さっぱり分からない。
慰謝料なんて言われても…その…困るし。」
「そんな…お願いします。
足りないなら、親に相談してきます。
だから、もうこれ以上は…」
「いや、だから…。」
ケンタが酷く怯え、セリナにすがりついていた。
何をどうしたら、こうなるのだ…。
先生に聞いても
「ふふふ、ユウキ君は知らなくていいこともあるの。
子爵の方も黙らせたら、約束は守ってもらうわよ。」
それしか、言ってくれない。
お願いする相手を間違えたのかもしれない。。。
昼休み、セリナが声を掛けてきた。
「ふふふ、ユウキ、ありがとう。
私の為に冒険者と戦ってくれたって聞いたよ。」
「なっ…」
ジロウを見ると目を逸らされた。
おい!ジロウ。余計なこと言うなよ!
「大人2人相手に勇敢に立ち向かったユウキが格好良かったって。
私に手を出すなって、念入りにやつけてくれたんでしょ?
ふふふ、私ね、キュンってしちゃった。」
おい!ジロウ。何て伝えたんだよ!
「いや…たまたま、絡まれただけだから…。」
「そう。たまたま、私の家の近くで絡まれたんだね。
ふふふ、ユウキったら本当に素直じゃないんだから。」
そう言って、腕に抱きついてきた。
いや、離せって…。
「おい!離せよ。」
「あはは、やだ、絶対離さない。
たまたま、抱きついた先にユウキの腕があっただけだもん。」
「それはたまたまとは言わんわ!」
この日からセリナがすぐに離れなくなった…。
ジロウとは近いうちに腹を割って話し合った方が良さそうだ。。。
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