第20話 7歳4月 再会と恥ずかしい想い出

それはいつもの公園で先生と稽古していた時のことだ。


「ユウキお兄ちゃん!

お兄ちゃんに…やっと会えた。

私は…リーシャは…お兄ちゃんにずっと会いたかったです。」


えっ、リーシャ!

リーシャがいる!


「リーシャ!

もう会えないって…え…その…婚約者は…?」

「婚約者?…ですか?

何のお話をされているのですか?」


話が噛み合わない。


「だって、リーシャには婚約者がいるから、想い出作りに…って?」




「ぷふっー、あはははははははは!」


先生の笑い声が聞こえてくる。




「ぁ…ぁぁ…。」


まさか…まさか…まさか…まさか!

また俺はハメられたのか、あの女に!


リーシャの見送りの日の記憶が頭によみがえってくる。


「リーシャの笑顔が大好きだ。」

「リーシャと会えなくなるのが本当に寂しい。」

「一緒に過ごしたあの公園での時間が救いだった。」

「リーシャとずっと一緒にいたい。」


もう会えないと思って、泣きながら、リーシャに想いを伝えた…。


「うふふ、お兄ちゃんは私のことをそんなに好きでいてくれたのですね。」

「リーシャも寂しいです。だから、1ヶ月だけ我慢してくださいね。」

「うふふ、リーシャもお兄ちゃんのお側にずっとずっといたいのですよ。」


号泣していた俺は…

何も知らない年下のリーシャに抱きしめられ、頭を撫でられ、慰められ…


「ぁぁ…ぁぁぁ…。」


もう俺がリーシャを好きで、好きで、どうしようもないみたいになっている。。。



「ふふふ、お兄ちゃん。

リーシャの笑顔が大好きだって言ってくれたから、毎日、笑顔の練習をしたんですよ?」


ぐぁぁぁぁぁぁぁ!

リーシャ、やめて、やめてくれ!

思い出すと恥ずかしくて死んでしまう。


どんな…どんな羞恥プレイだよ!

あの女だけは絶対に許さない!



羞恥プレイはまだ続く。


「うふふ、お兄ちゃん。

リーシャと会えなくなるのが寂しいって泣いてくれてましたので、次からは一緒に行きませんか?

お母様にお願いしておきましたよ。」


がぁぁぁぁぁぁ!

頼む。もうこれ以上は…。

俺はリーシャがいないと寂しくて泣いちゃうみたいじゃないか。。。



「それでね、お兄ちゃん。

あの…リーシャとずっと一緒にいたいって、泣きながら告白してくれたって…。

お母様に相談しました。」


え…。

リーシャ、お母様にも言っちゃったの。。。


「お母様が、リーシャは愛されてる。良かったねって。

その…リーシャを大切にするって、お母様とも約束できるなら…正式にお付き合いしてもいいって…。

お父様には内緒にして下さるって。」


ヒィィィィッ…

お母様とお約束できるほどの自信は俺にはまだ…。

もう一度、お友達からやり直せないか悩んでるのに。。。


「お兄ちゃん…リーシャのこと、大切にしてくれてますか?

お付き合いするってお母様にご報告しても大丈夫ですか?」


ヒィッ…


ダメだ…ちゃんとリーシャに話さないと、泥沼にハマってしまう。


ごめん、リーシャ。

あそこで腹を抱えて笑ってるクソ野郎に騙されて…。


「お兄ちゃん…もしかして、リーシャとお付き合いするのは…お嫌でしたか?」


ぁぁ…リーシャ、そんな泣きそうな顔をしないで…

リーシャは何も悪くない。


「あのリー」

「お嬢様、大丈夫ですよ。

ユウキ君はお母様と聞いて、緊張してしまってるだけですから。

ね、ユウキ君。」


ちょっ!何を勝手なこと言い出すんだ。

元はと言えば、あんたが騙したことが原因だろうが!


先生が耳元で囁いてくる。

「早く笑いなさい。さぁ、早く。

お嬢様を悲しませたら、許さないわよ。」

「なっ!」


先生の勢いに負け、ひきつりながらも俺はリーシャに微笑んでしまう。


この野郎、許さないのは俺の方だろうが。


先生がまた耳元で囁いてくる。

「あなたは今日から、お嬢様と晴れてお付き合いするの。いいわね?

これはお願いじゃない。命令よ。」

「ちょっ!」


「えへへ、お兄ちゃん、良かった。

お母様にはお付き合いするって、ご報告しておきますね?」


リーシャ…そんなに嬉しそうに微笑えまないで…

断れなくなってしまう。。。


「ハイ…。」

「それで…あの…お兄ちゃんにお願いがあって…

次にお母様がこちらにいらした時に…

その…大事なお話があるって。」

「ぇ…お母様と…大事なお話…?」


こうして、リーシャとユウキは正式にお付き合いすることになった。。。



「お嬢様、私はユウキ君と少しお話がありますので、先に戻っておいて下さい。」



リーシャの後ろ姿を先生と2人で見送る。

リーシャの姿が見えなくなった瞬間、また先生が腹を抱えて笑いだした。


「ぷぷっ、あははははははは!」


何が…何がそんなにおかしいんだよ…。

人の気持ちを弄びやがって…


「レベッカァァァァ!」


この女だけは…ここでぶっ殺してやる!

俺は全力で殴りかかっていた。


「あはは、あら、ごめんなさい。

知らんぷりしようと思ってたけど、あんまりにも面白くって、笑うのを止められなかったの。


それと口の聞き方に気を付けなさい。

ちゃんと先生って付けなきゃダメでしょ?」


先生は俺の攻撃をあっさりと避け、俺のみぞおちに一撃入れてきた。


「グハッ…俺がどんな思いでリーシャを見送ったと…」

「あはは、良かったじゃない。

愛しのお嬢様とまた一緒にいられることになって。」


先生の蹴りが俺の顔面に入った。

この女、格闘術も使えるのかよ…。


「ガハッ…あんたに騙されて、告白までしたのに…」

「だから、口の聞き方に気を付けなさいって言ってるでしょ。

騙された騙されたって人聞きの悪い。」


ぐっ、コイツ、開きなおってやがる!


さらに顔面にパンチが飛んでくる。

ダメだ。速くて避けられない。

この化け物が…。


「ブフッ…悪魔め…。」

「あはは、だから面白かったって、謝ってるじゃない。」

「それは謝ってると言わんわ!」



「ねぇ、ユウキ君。

あなたには恋人として、可哀想なお嬢様を少しでも幸せにしてあげて欲しいの。」

「リーシャが可哀想?

もうあんたの…先生の言葉は2度と信じない。」

「リリス、お嬢様のお母さんのことね、に詳しく聞いてくれればいいわ。」

「………。」


「話を聞いて何も思わないようであれば、そこまでの人間だもの。

さっさと別れるように私からお嬢様に言ってあげる。

お金も返してくれれば、従者を辞めてもらっても構わないわ。

でも、話を聞くまではお嬢様の恋人でいてもらうわよ。

異論は認めない。」

「ぐっ…」



こうして、リーシャのお母様に話を聞くまで、この関係は続くことになった。


情に流されやすいユウキにとって

この関係を断ち切りたいなら、今日が最後のチャンスだったのかもしれない。


この時点でユウキは、既に両膝まで泥沼にハマっていた。

あとはもう沈んでいくだけとなった。。。




2年生の始業式。

またAクラス下位5名とBクラスの上位5名の入れ替えがあり、新しいメンバーを迎える。

恒例の自己紹介の時間だ。


はぁぁぁぁ。

また、馬鹿にされるのか。


はいはい。どうせ、俺だけレベルが低いですよ。


「『戦士』『火魔法使い』LV8『遊び人』LV3のユウキです。

よろしくお願いします。」


「………。」


あれ?シーンとしてる。

まぁ、いいか。

ソッとして貰えた方が助かるし。


去年まで馬鹿にされ続けたユウキではあるが、さすがにユウキが何らかの職業を隠していることは皆が気付いていた。

実際、対人戦でもここにいる半数近くがユウキに負けている。

特に運搬試験でユウキ達をハメてくれたグループを男女問わず叩きのめしたせいか、一部からは恨みさえ買っていた。


ユウキも1年間馬鹿にされ続けたせいか、今さら仲良くなりたいとも思わない。

ユウキはハヤテ、ジロウ、セリナの3人がいてくれれば、それで十分と思っていた。


しかし、ユウキを恨むグループは存在する。


周りから見れば、ユウキにべったり媚びを売っているようにも見えたのだろう。

恨みの矛先は、次第にセリナに向かっていくことになる。

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