第15話 6歳1月 リーシャの病とセリナはお断り

試験前日、もう一度予行練習を行い、最後の打ち合わせを行う。


うん、やれることはしっかりとやった。

これでダメなら諦めもつく。



試験4週目。


10階層に転移し、すぐに9階層に降りる。

10階層はボス部屋と転移部屋しかない。

有って無いような物だ。


9階層、お化けキノコに囲まれる。

全部で9匹。


「ジロウ、セリナ頼んだ。」

「うん、ジロウ。【火魔法】少し強めにお願い。」

「はいよ。」


この2人の連携は何も心配していない。

当たり前のように魔物を倒していく。


8階層、階段近くのポイントに向かう。

大猪はすぐに見つかった。


「ハヤテ、リヤカーは任せた。」

「あぁ、そっちもな。」


うん、スムーズにいってる。


1往復目、2台のリヤカーで大猪4匹を運ぶ。

よし!問題無し。



あともう1往復。


1台のリヤカーで2匹運べばおしまいだ。


俺の出番は何もない。

大猪はセリナがあっさり倒した。

リヤカーはハヤテが「俺が運ぶ」と言って聞かないのだ。

襲ってきた魔物はジロウとセリナが次々と倒していく。


最初の頃とは見違えるな。


そう思っていると、付き添い 兼 監視の担任のイザベル先生が話し掛けてきた。


「ふふふ、10階層から来たのはAチームとあなた達だけよ。

あなた達はもうダメだと思ってたのに、上手いことやったわね。」

「えぇ、やらなければ、クラス降格でしたから。

本当に酷い試験でした。」

「あはは、ちゃんとその酷い試験を突破できそうじゃない。恐れ入ったわ。」

「はぁ…。」


よく言うわ。

どれだけ追い込まれたと思ってるんだよ。


「あなたがあの子達を引っ張り上げたんでしょ?」

「……何の話ですか?」

「ふふ、何でもないわ。

ほら、運ぶの手伝ってあげなさい。」



「ふぅぅぅぅ。」


試験はあっさりと終了した。

イザベル先生との後味の悪い会話を残して…。



もうダメだと思っていた試験に無事合格できた。

3人が抱き合って喜んでいる。


「キャァァァ!

合格した!みんな合格したよ、ありがとう!」


セリナは嬉し泣きしながら、はしゃいでいる。

へぇぇ、セリナもあんな顔をするんだ。


まぁ、今回は俺もヒヤッとした。

3人の気持ちも分からないでもないか。


「お疲れ様。ハヤテ。ジロウ。」


俺もハヤテとジロウにそれぞれ握手する。


「今回は助かったよ。ユウキ。」

「ありがとう。ユウキ。」

「あぁ、2人とも、こちらこそ助かったよ。」


セリナが〆は私だと言わんばかりに待ち構えている。

目が合うがすぐに会釈し、片付けを始めた。


試験は終わった。

この女とはもう関わらない方がいい…。


「ちょっと待った!

ねぇ!さっきの会釈で私の番は終わりなの!?」


セリナが騒ぎだした。


「あぁ、もうパーティーは解散しました。

もう関わらないで下さい。」

「酷い!何で敬語になってるのよ!

それが仲間に掛ける言葉なの?」

「いや、仲間と思ったことは無かったですが。」

「ちょっ!さすがの私でも泣いちゃうわよ。」



合格した俺達を見て、何人かが面白くなさそうにこちらを見ている。


「チッ…。」

「落ちれば良かったのに…。」


舌打ちが聞こえてくる。

お前ら、よくもやってくれたな。

来月の対人戦は覚えてろよ。


今度はおまえらが降格に怯える番だ。



翌日。


何故かパーティーが解散しても

3人とも俺の所に集まるようになった。。。


いや、呼んでないんだけど…。

特にセリナはお断りだ。。。


「リーダー、次のダンジョン攻略実習も4人パーティーらしいわ。

次はいつ集まるの?」

「集まらんわ!」

「いや、俺も連携を試しておきたい。」

「俺は知らん。」

「もうパーティーの希望申請出しといたわよ。」

「図々しいわ!」

「どうせ誰も組んでくれる人なんていないくせに。」

「それは言うな!」


こうして、俺達は週に2回、放課後にパーティーを組むようになった。

まぁ、保護者みたいな物だが、パーティーメンバーが強くなってくれないと俺も困る。


それに俺にもメリットが無い訳ではない。

目の前で戦ってくれるから、【経験値吸収】ができて、スキルのレベル上げができるからだ。

加えて、9~11階層で稼ぐから『遊び人』のレベルを上げるのにちょうどいい。


まぁ、しばらく、付き合ってやるか。


「ちょっ!セリナ!くっついてくるな。

次やったら、パーティー解散だからな。」

「あはは、それ、この前も言ってたわよ。」

「いい加減、学習しろよ!」


本当にこの女は…。



◆レベッカ視点


「はぁぁぁぁ。」


また私の可愛いお嬢様がため息を付いている。

恋の病。

しかも、重症のやつだ。


今朝のことを思い出して、お嬢様がうっとりとしていた。



「お兄ちゃん…私は…リーシャはユウキお兄ちゃんをお慕いしております。」


最近、私が何かする度にお兄ちゃんが褒めてくれるようになった。


今日は【植物魔法使い】のレベルが上がったことをお伝えした。

褒めてくれるかなと期待してはいたけど

お兄ちゃんは想像してたより、私をたくさん褒めて、一緒に喜んでくれた。


だから、私もお兄ちゃんに褒めてもらいたくて、ついつい頑張ってしまう…。


それに今日もお兄ちゃんから手を繋いでくれた。

しかも…今日のは…その…手を絡めた恋人繋ぎ。


期待してなかったと言えば嘘になるけど…

まさか、お兄ちゃんから私にしてくれるとは思ってもみなかった。




まだ5歳のリーシャには刺激が強かったらしい。

リーシャは顔を真っ赤にして、また固まっていた。


クックックッ

お嬢様をこんなにしちゃって。

ユウキも罪な男よね。



こんなにしちゃったのは

指示役のレベッカと実行犯のユウキである。


元々、リーシャは大好きなお兄ちゃんとささやかな時間を過ごせれば幸せだった。


それが最近では、大好きなユウキの方から積極的に褒めてくれる。

さらにリーシャへの好意を言葉と行動で、とことん伝えてくるのだ。

【植物魔法使い】のLV上げの時間は、いつしか、甘い一時に変わっていた。。。


さらに、付き人のレベッカも煽ってくる。

もうリーシャは完全に舞い上がっていた。


「あはは、お嬢様。

今日もユウキ君は積極的でしたね。

お二人のお熱い関係に、私も嫉妬してしまいました。」

「うふふ、最近、お兄ちゃんが…その…凄く積極的で、私も困っています。」

「ふふふ、とても困っているようには見えませんでしたよ。」

「もう!レベッカったら、からかわないで下さい。」


あはは、そろそろ次の段階に進んでいい頃合いか。

お嬢様。

もっとユウキのことを意識させてあげるからね。


「しかし、お嬢様。

今日、彼はお嬢様を抱きしめようとしておりました。」

「えっ!?お兄ちゃんが…私を…抱きしめる…?」


もちろん、ユウキはそんな大それたことを考えてもいない。

これから、レベッカがリーシャを抱きしめるように指示を出すのだ…。

あの手この手で言いくるめて。。。


「さすがに私の従者として、お嬢様に近付かないように躾ておかないと…。」

「ダメ!レベッカ。

そんなことしたら、お兄ちゃんに会えなくなっちゃう…。」

「先ほど、お嬢様が彼が積極的で困っていると言っていたではありませんか?」

「それはその…。」

「彼はお嬢様を好きになっていますよ。

放っておくと、彼はもっと積極的になると思いますが?」

「やだ、レベッカったら。

そんなこと言わないで下さい…。

もう…お兄ちゃんの顔を見れなく…なっちゃう…。」


あはははは、顔を真っ赤にして。

あんなに凛としてたのに。

それが今や、こんなにもポンコツになっちゃって。


クックックッ

ねぇ、ユウキ。

私の可愛いお嬢様の為だもの。

ちゃんと最後まで協力してもらうからね?


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