第18話 7歳3月 一時の別れとリーシャのお供え物

◆レベッカ視点


「はぁぁぁぁ。」


私の可愛いお嬢様が今日もため息を付いている。


恋人になったユウキと一緒にいたいのに、もう子爵領へ戻らないといけないからだ。


お嬢様は大好きなユウキに告白され、1人盛り上がっていた。


ユウキはユウキでもうリーシャに会えないと思い込み、恋人役を頑張って演じてくれた。


今では2人は立派な恋人同士。

少なくともお嬢様はそう思っている。


ユウキの方は別れを済ませたと思っているが、そうはいかない。

まだ片足。これから、肩まで泥沼の中にハマってもらう予定だ。

自力では抜け出せないように。



しかし、さっきのリーシャの見送りは笑いを堪えるのが大変だった。

リーシャと今生の別れになると思い込み、ユウキがガチ泣きしだしたのだ。


あはははは、リーシャの笑顔が大好きだとか。

会えなくなるのが寂しいとか。

あの公園での時間が救いだったとか。

リーシャとずっと一緒にいたいとか。


涙と一緒に鼻水まで流して。

あはは、本当に素晴らしい演出だったわよ。


お嬢様はお嬢様で愛されていると勘違いして、それはまぁ、嬉しそうにユウキを慰めて。


1ヶ月後にお嬢様は普通に帰ってくる。


2度と会えないと思って告白までさせられて

いつもの公園に普通にリーシャがいたら、あの子はどんな顔をするのかしら?

あはははは、想像するだけで笑えてくる。

私なら恥ずかしくて死んじゃうわね。



しかし、さすがにユウキも怒りそうね。

ここ1週間ぐらいは本当に別れが悲しそうだったし。

何て言いくるめようかしら?


逆ギレも脅迫もやったし、次は知らんぷりでいいか。

あはははは、知らんぷりした時のユウキの顔を想像すると、また笑えてきた。


まぁ、反抗しても、最終的には私に従うしかないようにできてるんだけど。



クックックッ、ねぇ、ユウキ。

あなたは可哀想なお嬢様のお供え物なの。

もうお嬢様をその気にさせたんだから、今さら勝手は許さない。

しっかり恋人の役割は全うしてもらうからね。

まぁ、あなたも満更ではなさそうだけど、ね。



◆ユウキ視点


また1ヶ月の長期休暇が始まる。

俺は今回の休暇は領地には戻らない。


40階層攻略をこの休暇で行うと決めているからだ。


学校が無いから、レベル上げは順調に進んでいる。

いつもの倍ぐらいの時間をダンジョンで過ごしていた。

今日も32階層でレベル上げだ。


目標としていた『僧侶』LV12にさっき到達した。

【回復魔法(小)】を覚えたおかげで、回復面での不安がやっと軽減される。


先生がリーシャを送り届けて戻ってきたら、一緒に40階層まで付いて来てくれることになっている。


何でも、38~39階層は魔物に囲まれて魔法を浴びせられるから、今の俺では厳しい可能性が高いらしい。

ついでに、40階層の中ボスを倒してしまおうと言ってくれた。


正直、中ボスは不安だったからありがたい。

先生が戦うところも見てみたかったし。


そろそろ先生が戻られるはずだ。



最近、変わったことが2つある。


1つ目はセリナだ。

元々、魔力の扱い方が上手いと思っていたけど、対人戦を経て、本人の意識が大きく変わった。

打倒メリッサと、俺に強さで追い付きたいと言い出し、本気で努力するようになっていた。


強くなる為にどうすればいいか、あのセリナが相談してくるのだ。

セリナと真面目な話をしていると、どうしても違和感を感じる。


MPの回復量を計算して睡眠時間を取り、後はひたすら魔法で敵を倒すようにアドバイスした。


メリッサのように金があれば、マジックポーションで回復できるが、俺たち貧乏人はそうはいかない。

睡眠時間を調整して回復するしかない。


長期休暇中は睡眠を3回に分けて取り、MPを回復させてダンジョンで敵を倒す。

毎日3回繰り返せば、その分、レベルも上がりやすい。


驚いたのは、そのレベル上げにジロウとハヤテも便乗するようになったのだ。

週に5日、3人でみっちりレベル上げを行っているらしい。

休暇明けに強くなった3人と再会するのが楽しみだ。



そして、2つ目がリーシャだ。


婚約者のことなど、何も知らないまま、領地へと帰って行った。

もうあの公園に行ってもリーシャはいない。

もうあの可愛い笑顔が見れない。

見送りの日、もう会えないと思うと寂しくて、涙が止まらなかった。


良い想い出を残せてあげただろうか?


またリーシャが落ち着いたら手紙を書こう。




あっ、先生が戻ってきた。


「先生、お帰りなさい。

リーシャは、その…何か言ってましたか?」

「ふふふ、お兄ちゃんに会いたいって、何度も言ってたわよ。

お嬢様をあんなにしちゃって、ちゃんと責任を取ってあげて欲しいわ?」

「それは先生が告白させたから…

それに次はいつ会えるのかも分かりませんし。」

「あはは、会えたら責任を取ってくれるのかしら?」

「その時はその時で考えます。」

「あら、ダメよ。ちゃんと責任取らないと。

お嬢様のこと、ちゃんと守ってあげてね。」

「はぁ…。婚約者がいるんでしょ?

その人にお願いするしかないじゃないですか。」


「そうそう、『僧侶』のレベルは上がったのかしら?」

「はい。先程、上がりました。」

「それじゃ、明日からダンジョンに行きましょうか。」

「はい!」


明日から40階層に向けて攻略開始だ。



◆レベッカ視点


38階層。


やっぱりこうなったか…。

付き添っていて良かった。


ユウキは38階層でもギリギリ戦えないことはない。

並外れたステータスに守られ、攻撃力もソロじゃなければ、7歳で中級冒険者として今すぐにでも通用するだろう。


しかし、ソロになると話は変わる。

スキルが貧弱であるが故に、瞬間火力の無さが致命的な弱点になりかねない。

一戦一戦がどうしても長引くから、ダメージを受ける量が大きいのだ。



先程の戦いの内訳はこうだ。


ユウキのHPが約400。

エレメントコア×3体からの魔法攻撃が1回20ちょっとのダメージ×3体


あの魔法攻撃を20ちょっとのダメージしか受けない時点で既におかしいけど。


1回攻撃する間に約70のダメージとして

3回攻撃して1体倒している間に190~210のダメージを受ける。

この3回が問題なのだ。

ソロで複数を相手にする場合、スキルを使ってでも数を減らす必要があるのに、それができない。


残り2体の時点でHPの残りは約200。

3回攻撃してもう1体倒すまでに、20ちょっと×2匹×3回で約130のダメージを受ければ、残りのHPは70。


そこから、【回復魔法(小)】を使い、HPが約80回復。

この回復量もおかしい。

覚えたての頃は30ちょっとの回復量だったはず。

既に精神の数値は私よりもかなり上にいる。


回復してる間に約23のダメージを受けたとして、HPの残りが130。

そこから、また3回攻撃してる間にダメージを受ければ、戦闘が終了する頃にはHPの残りは60ぐらいしかない。


もちろん、もう少しこまめに回復すれば、危なげなく戦えるが、その分、戦闘はもっと長引く。

5体以上の敵に囲まれれば、致命的になりかねない。


エレメントコアの使う範囲魔法は基本的に避けられない。

今まで彼が通用したのは、その高い速さと器用で魔物の攻撃を避けてこれたからだ。

今のままじゃ、とてもじゃないが危なっかしくて、ここでのレベル上げは認められない。



魔法耐性と魔法生物特攻の付いた装備品を買ってあげないと。

マジックバックまで購入すれば、さすがに私の貯金が底をつくわね。


それでも、今後を考えるとここでのレベル上げは効率がいい。

どちらにしても、ここの素材は高く売れるから、次の装備品を買えるようになるまでは、ここで戦ってもらうしかない。

お嬢様が領地に戻っている3月いっぱいまでは時間もある。

しばらくは手伝ってあげるしかないか。


とりあえず、40階層の中ボスをさっさと倒して、街に戻るのが先ね。


「ユウキ君。1回街まで戻って装備品を買いに行くわよ。

今のままじゃ、とてもじゃないけど、ここで戦うことを認められない。」

「分かりました。

先生、申し訳ありません…。

あの、戻るならこっちじゃ?」

「あぁ、ここのボスくらいなら、2人で戦えば楽勝だから付いてきなさい。」


そろそろ、ユウキの職業についても確認しないと。

今日こそは洗いざらい話してもらうからね。

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