第13話 6歳1月 金持ちの為の試験
今日から運搬試験が始まる。
この運搬試験は別名、金持ちの為の試験として有名だ。
一部の金持ちだけが圧倒的優位に立てるからだ。
4人パーティーを作り、5~8階層に生息する大猪を町まで持ち帰る。
これを毎週繰り返し行い、4回目までに合計12匹、1回平均3匹を持ち帰れなければ不合格となる。
わざわざ、死体を丸々持ち帰らなければいけない為、非常に重く、持ち運びに苦労させられる。
しかし、この試験には抜け道がある。
マジックバックの使用が認められているのだ。
一畳分の物が入るだけで、2000万Gの価値を持つ稀少なマジックバック。
自然とそれを持てる人間は金持ちに限られてくる。
これが金持ちの為の試験と言われる由縁だ。
それを分かっていて、毎年、この運搬試験は形を変えて行われる。
この試験で金もコネも無い貧乏人はふるい落とされるのだ。
確かに金も力だ。
学校側は自分に有利な状況を作るのも、実力だと言いたいのだろう。
しかも、この運搬試験の不合格者はBクラス降格対象として、真っ先にカウントされる。
他の成績がどれだけ良くても、だ。
そうなると当然、実力上位とマジックバック持ちが早々にパーティーを組んでしまう。
そして、実力下位で金を持ってない学生達が取り残されていく。
俺はEチーム。
後期にBクラスから上がってきた3人と俺の計4人でパーティーを組むことになった。
要は金も無く、実力も低いと見なされ、誰からも必要とされなかった4人。
当然、自分達の置かれた状況は分かっている。
会話もほとんど無い。
2台のリヤカーを交代で引き、各々が自由に戦う。
5階層で大猪を次々に倒していく。
意外と悪くないペースだと思う。
1台の台車に2匹ずつ大猪を乗せていく。
しかし、ここで問題が生じる。
思っていた以上に重い!
俺のステータスは
体力 303
力 271
ステータスの数値は1で成人平均の1%ずつ能力が上がるイメージだ。
俺は体力も力も約300。
成人平均の3人分ぐらいの力と体力が上乗せされていると考えていい。
その俺が重いと思うのだ。
他の3人では重いどころの話じゃないだろう。
このパーティーで大猪を乗せたリヤカーを運べるのは俺と『武道家』LV11のハヤテのみ。
そのハヤテもかなりキツそうだ。
残り2人は
セリナ『風魔法使い』LV12
ジロウ『火魔法使い』LV12『僧侶』LV4
力と体力のステータスが低いせいで、2人にはリヤカーが重く、少し動かすので精一杯か。
「女の子にこんな物を運ばせようとしないで!」
セリナが怒って、文句を言っている。
まだ時間は半分以上、残っている。
後は町まで戻るだけだ。
なんとかするしかない。
しかし、甘く考えていた。
大猪が重たいだけじゃない。
死骸に魔物が集まってくるのだ。
特にやっかいなのが、3~6階層に生息するウルフ。
ここぞとばかりに群れで連携して、死骸を狙ってくる。
「もうちょっと助けてよ!MPがもうなくなるし。」
「こっちもちょっと厳しいぞ!」
チッ、ジロウとセリナのMP消費量が思った以上に早い。
もちろん、俺とハヤテもリヤカーを置いて戦うが、囲まれてしまっている。
遂にジロウとセリナのMPがまだ4階層の途中にして切れてしまった。
まずい。
MPの切れた低レベルの魔法職なんて、ただのお荷物だ。
護衛も任せられない。
仕方ない…。
リヤカーを1つ諦め、ジロウとセリナの2人掛かりで台車を押してもらう。
「もう嫌。私、歩けない!」
セリナがまた不満を言い出した。
みんな、しんどいんだ。
もう少し我慢してくれ。
俺とハヤテが護衛だ。
魔物がいない時は後ろから台車を押してやる。
何とか2匹は持ち帰れたか…
各チームの大猪の持ち帰り状況が発表される。
試験1週目(残り3週)
Aチーム 9匹(残り3匹)
Bチーム 6匹(残り6匹)
Cチーム 4匹(残り8匹)
Dチーム 2匹(残り10匹)
Eチーム 2匹(残り10匹)
なんだよ。このAチームの9匹って。。。
マジックバックを複数持っている為、リヤカーすら持っていく必要がないらしい。
理不尽にも程がある…。
「こんなの絶対無理だし!」
また、セリナか…
そう思うなら、マジックバックでも借りてきてくれ。
Dチームもうちと同じ状況か…
来週はお互い4匹持って帰らないと追い込まれるな。
試験2週目
今回は俺とハヤテが行きの魔物を全て倒す。
帰りまで魔法職のジロウとセリナのMPを温存させる作戦だ。
よし!
5階層からの帰り道。
3階層に入っても、ジロウとセリナのMPがまだ残っている。
これはいけるかもしれない。
しかし、そう甘くは無かった。
時間が足りなくなるのだ。
特に階層ごとの階段は大猪を乗せたまま、リヤカーで持ち運べない。
重たい大猪を1匹ずつ台車から降ろして運んでいるうちに時間と体力が奪われていく。
この試験は正攻法で合格できるのか?
6歳の子供にやらせる試験じゃないだろ。
ダメだ。間に合わない。
またもや、なんとか、2匹だけ持ち帰り終了する。
試験2週目(残り2週)
Aチーム 達成
Bチーム 達成
Cチーム 7匹(残り5匹)
Dチーム 4匹(残り8匹)
Eチーム 4匹(残り8匹)
マズイ。
残り2回とも4匹ずつ運ばないといけない。
もう半分諦めていた。
でも、DとEチームの2チームが達成不可能の場合、計8人が後期のBクラス降格対象となってくる。
降格は計5名。
他の試験で本気を出せば、残り3人のAクラス居残り枠には楽勝で入れるか。
どこか楽観的に俺は考えていた。
試験3週目(残り1週)
やられた!
Dチームが合格しているBチームに護衛を依頼していた。
そんなの有りかよ!
まずい。まずい。まずい。まずい。
このままではEチームだけ不合格だ。
Bクラス降格が確定してしまう。
3週目(残り1週)
Aチーム 達成
Bチーム 達成
Cチーム 10匹(残り2匹)
Dチーム 8匹(残り4匹)
Eチーム 6匹(残り6匹)
Dチームは次も4匹持ち帰れば合格となる。
うちは6匹持ち帰る必要がある…
4匹すら厳しいのに、6匹なんて現実的に不可能だ…
「終わった…」
「せっかく、Aクラスに上がれたのに…ヒグッ…」
「もう死にたい…もう死にたい…」
ダメだ…コイツら…。
もうお通夜みたいになってる。。。
マジックバックを貸してもらえないか、すぐに交渉しに行く。
「あの…なんとかマジックバックを貸してもらえないでしょうか?
それさえあれば、うちのチームも何とか合格できそうなんです。」
「ぷっっ。」
「ぎゃはははは、馬鹿なの?
お前ら、Eチームが降格してくれれば、他のみんなが助かるわけ。
なんで協力してやる必要があんだよ?」
「そうそう。お前らが不合格なのは最初から裏で決まってた訳よ。」
「ぐっ…。」
チッ…ここはそういう学校だった。
助け合いではない。
Aクラスに生き残る為に蹴落とし合いなのだ。
油断したのは俺の方か…。
「はぁぁぁぁ。」
しょうがない。
使いたく無かったが、もう一つの抜け道を使うか…。
「なぁ、3人共、明日の朝6時集合な。
ダンジョン攻略するから準備しといて。」
「え…?」
「はぁ?何を言ってるの?」
「10階層の中ボスを倒してるなら、来なくていいけど。
もう転移部屋から10階層に転移して、8階層の大猪を倒して2往復するしか道がないんだよ。
これなら時間内に楽勝だろ。」
「いやでも…そんなの無理じゃ…。」
「そうよ…このメンバーでなんて、死にに行くようなもんじゃない。」
あぁ…イライラする。
ガツンと言って、目を覚ましてもらうか。
「ガタガタ煩いな。
俺が連れてってやるから、黙ってついて来いって言ってんの。」
「何よ。偉そうに。
どうやって中ボスを倒すつもりよ?」
「俺1人で十分だ。お前らは黙って見とけ。」
「なっ…『遊び人』の癖に。」
「その『遊び人』より下なのをいい加減、理解しろよ。
Aクラスに残りたいなら言うとおりにしろ。」
「分かった。
何もしないで降格するのは嫌だ。
厳しそうなら、引き返せばいい。」
ハヤテの決断は早い。
最悪、2人で何とかできるか。
「お前達は?」
「俺も…行くよ。」
ジロウも来るみたいだ。
これで3人。
「私は嫌よ。絶対に行かない!
あんたなんかに命を預けられる訳ないじゃない!」
チッ、セリナは本当にどうしようもないな。
「セリナ、朝6時にダンジョン前だ。
せっかくAクラスに入ったのに降格してもいいんだな?」
「………。」
まぁ、3人いれば試験も何とかなる。
この女は1人で留守番でもさせておくか。
ステータス
ユウキ 6歳
HP 393/393
MP 370/370
体力 315
力 280
魔力 355
精神 380
速さ 316
器用 298
運 171
吸収 6
職業
戦士 LV7(398.63/700)
火魔法使い LV8(205.36/800)
水魔法使い LV8(135.88/800)
土魔法使い LV8(247.44/800)
風魔法使い LV8(325.41/800)
僧侶 LV11(224.36/1100)
盗賊 LV7(209.66/700)
武道家 LV6(408.30/600)
吟遊詩人 LV8(798.47/800)
植物魔法使い LV8(96.65/800)
付与魔術士 LV7(290.03/700)
剣士 LV6(367.88/600)
盾使い LV6(508.14/600)
狩人 LV7(517.31/700)
薬師 LV8(147.12/800)
魔物使い LV2(127.48/200)
槍使い LV3(35.44/200)
遊び人 LV2(42.98/200)
斧使い LV2(111.36/200)
弓使い LV2(53.65/100)
スキル
経験値吸収 LV6(85.94/600)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます