第3話 神様、高校に通う

 ヨミがクラスに溶け込むのは造作もないことであった。そりゃあそうだ、あんなに美少女で人当たりも良ければなんならいい匂いだってする、こんなの誰だって放っておかないに決まってる。

 そこからは1週間放課後の男どもの告白ラッシュを切っては捨て、切っては捨てていくヨミを家にて待つ時間の毎日であった。

 その1週間、ヨミとは家でしか会話はしていなかったが、学年でもかなり顔が良く性格もいい男子を「興味がない」の一点張りで説き伏せた話しを聞いた時は実に痛快だった。自分が影が薄く通称「陰キャ」って事を認めた訳ではないが普段校内を横行闊歩おうこうかっぽしているイケイケ共がこうも死地飛び込み討ち取られていくのを側から聞いているといささか込み上げてくるものがある。

 

 告白ラッシュが落ち着きヨミが入学して初めて一緒に下校していた時、不意にその質問が飛んできた。

「君は私に惚れないのかい」


「突然何言うんだ、大体神様なんかに惚れるわけがないだろうよ」


「ふ〜ん、にしし」


 薄気味悪い笑い声が聞こえた気がしたが、内心はそうではなく動揺していた。なぜなら今、クラスの男子共が見たら絶対に嫉妬の念だけで殺されてしまうシチュエーションに俺は居ながら思春期の猿共ならば誰でも勘違いをしてしまいそうな文言が飛んできたからである。今すぐにでも海岸へ走り出し、砂浜を裸足で走り抜けながらそのまま大声で惚れてしまうと叫んでみたくなったが、冷静を僅かに保っていた俺は今日の晩御飯の献立で脳内を埋め尽くすことに成功した。


「バカなこと言ってないでさっさと帰って夕飯の支度をするぞ、今日はカレーだ」


「おっ、いいですねえご主人」



 翌る日、教室に到着するや否や、いつも平穏を保っていた俺の机の周りには人だかりができていた。人だかりができたのはこれが1度目ではなく2度目である、1度目はヨミが入学してきた初日クラスの観衆の前で俺に手でピストルの形を構え発射のポーズをしてきたからである。やれどういう関係だの付き合っているのだの意外だの陰キャのくせにだのあられもない言葉の機関銃で滅多打ちにあった。かく言う俺も「従兄弟だから仕方ない」の一点張りでくぐり抜けてきた。

 有名人になった瞬間に友達が増えると芸能人はよく言うが、多分こんな気持ちなんだろうなと世の芸能人様に労いの言葉を言いたくなった。

 そして今回の2度目であるが、今回は昨日のヨミと2人で下校していたのを学年の多数の有象無象に目撃されていたからである。飛んでくる内容は前回とさして変わらないが今日はちと違う、ヨミも俺と一緒に人だかりに囲まれている。彼女は楽しそうな表情でちょっとまってと観衆に言うと皆黙った。


「みんなそんなに気になるなら正直に言うよ、両親と離れてこの学校に転入してきました。だけども一人暮らしするわけにもいかないから碧君の家に下宿させてもらっています。だから一緒に帰るのは当然でしょ?それに私は碧君とすごーく久しぶりに会えたから学校の案内とか本当はして欲しいの。だからみんなもう少しそっとして欲しいな」


 その神の一喝で観衆は納得したようで、散り散りになっていった。昼休みいつもは一人で過ごしていた俺だが、珍しくヨミを誘って屋上にいた。


「ようあんな口からでまかせが言えたな、神様」


「どうだった?私の心に訴えかけた熱弁は、両親と離れてこっちに来たってのがミソだから、あの言葉で何か大変なことがあったんだろうなって大体は思うでしょ」


 どうやらこの神様悪知恵が大分働くようである、晴れて普通の学園生活を手にした神様であったがただ一つ変わったことと言えば学校中の男子共を俺は今や完全に敵に回してしまったということで間違いないだろう。なぜなら校内でそこら辺をほっつき歩けば確実に熱を帯びた視線が俺のパーソナルスペースをなんとかして焼き尽くそうとヨミにの前に果敢に立ち向かった英雄達が皆放って来るのである。これにはどうしようも対策がなく、なんて人はこんなに愚かなのだろうかと心の中で嘆き、仏の心を決め込みこの1年間は受け止めるしかないと覚悟を決めた。

 




 

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神様が現れ異世界転生すると思いきや、神様と一緒に一つ屋根の下に暮らすことになった 出水貞光 @izumisadamitsu

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