錬金堂『sweet rain』
@ink_itsuki
第1話 赤竜鉱
カツン、カツーン。
つるはしを振るう音が響く。
ここは戦士だったか魔法使いだったか、まあそんな何者かが巨大な赤竜と戦った、跡地。辺りには、竜のブレスが固まった、炭の塊のようなものが点在している。それを採取している者がいた。錬金堂『sweet rain』の店主だ。ひとかけらずつ、丁寧に採取していく。――通常、このような採掘には魔法を使う。爆発させて欠片にして、採取するのだ。だが店主は額の汗を拭いながら、つるはしを振るう。別に魔法が使えないわけではない。
竜のブレスには、魔力が籠っている。その力は固まった後も残っているが、その強固さとは裏腹に、魔力自体は不安定だ。採掘用の小爆発の魔力でさえも干渉して、魔力の質が落ちる。だから店主は、つるはしを振るい続けるのだった。
とっぷりと日が暮れた後の、錬金堂。
昼間採掘した鉱石を、丁寧にフラスコへと移していく。そして精製用の器具を取り付け、何かが描かれた板をフラスコの下へ敷く。板に描かれているのは、魔方陣。鉱石を加熱、精製するためのものだ。店主が呪文を唱えると、魔方陣がうっすらと発光する。やがて、鉱石から蒸気が上がり、複雑な生成器の中へと吸い込まれていき――最後に、黒い雫が別のフラスコの中へと落ちてゆく。その雫は漆黒だが、ちらちらと、赤く煌めくものが混ざっている。竜のブレスに残っていた魔力だ。不安定な状態から、精製によって安定した魔力へと変わっている。
やがて最後の一滴が落ちきると、店主はフラスコに栓をして、走り書きのされた紙を貼り付けた。そして店主はあくびを一つして、寝室へと消えていった。
残されたフラスコには、癖の強い字で『Red Dragon's Ore』と書かれている。
フラスコの底に沈んだ赤い結晶が、静かに、微かに、光を発した。
錬金堂『sweet rain』 @ink_itsuki
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