第八十話ー憶測と疑念と
結界の力が増したにも関わらず、怪夷の動きは僅かに鈍くなっただけで、その勢いは衰えなかった。
「流石は旧ランクAクラスですわ」
迫りくる触手を切り裂き、鈴蘭は不敵な笑みを浮かべて頬に跳んだ黒い粘液を拭った。
「同感です」
鈴蘭に追いついた竜胆は、己に迫る触手をグローブに施された突起で抉りながら、殴りつけた。
標的までは残り数メートルだが、その距離が上手く近づけない。傍によれば寄る程、触手の数は増し、更に本体から切り離した触手がそれだけで地面を這って迫ってくる。
倒せば倒す程、無数に増える触手の数に二人は背中合わせで溜息を零した。
『何か突破口が必要?』
数の多さに苦戦する竜胆の脳内に、自身の中にいる桔梗が声を掛けて来る。
(そうですね…この大量の触手を足止めして貰えれば…もしくは、さっき大翔さんの結界が力を増した時のように触手を消滅させられれば)
触手を退けながら冷静に竜胆は相手の状態を考察する。それを聞き桔梗は、思考を巡らせた。
『分かった。竜胆はそのまま鈴蘭と進んで』
何とかを思いついた桔梗は竜胆にそう指示を出すと、自身の意識を別な場所へ飛ばした。
後方では結界を張る大翔とその大翔を護衛する桜哉が後方まで伸びた触手の残党と対峙していた。
桜哉の軍刀の刃が黒い触手を斬り捨てる。結界の中心に近いせいか、それとも本体から離れた為か、触手は塵となって霧散していく。
前方の鈴蘭と竜胆の様子に大翔は僅かに焦燥感を覚えていた。何か自分に出来ないか、奇妙な焦りを感じていた時、唐突に脳内に声が響いた。
『大翔、聞こえる?』
「え?わっ桔梗君⁈」
『あ、ごめんごめん。驚かせたね。えっと、なんで僕の声が聴こえるかとか細かい事は置いといて…大翔は、結界張る以外にも色々出来るよね?』
唐突な問いかけに大翔は、えっと目を見張ってから、ハッと普段の巡回を思い出した。
(そうだ。結界を張りながらでも援護は出来るじゃないか…)
何故か忘れていた己の能力を思い出し、大翔は桔梗の声に応じた。
(出来るよ…札を使った術は僕の得意分野だ)
『オーケー。そしたら、この周辺に式を展開してくれる?桜哉ちゃんを前線に出したい。あの怪夷は竜胆と鈴蘭だけじゃ分が悪いから。後は…』
(出来る限り三人を援護する。あの触手なんとかしたらいいかな?)
『流石、話が早い。方法は任せるから』
力強く激励され大翔は自身の手数の中から最善を選び出す。
(これなら…)
「桜哉さん、桔梗から伝言、ここはいいから前線に戻って」
唐突な大翔の言葉に桜哉は目を見張り大翔を振り返った。
「大翔さん?でも、この状況じゃ…」
自分達を取り囲みつつある触手の群れに桜哉は困惑した。今のままでは桜哉自身が前線へ向かうのも、大翔一人を残して行くのも厳しい。
不安を抱えた桜哉の心中を察したのか、大翔は口端をゆっくりと吊り上げた。
「大丈夫。これでも、特夷隊の中で呪術に関しては僕が一番優秀だから」
ニヤリと、いつもの大翔からは想像も出来ない不敵な笑みを浮かべる様子に桜哉は思わず苦笑した。
「大翔さん、なんだか雪那様や雪之丞様みたい」
幼少期から知っている身内同然の二人を思い出し、桜哉は軍刀の柄を握り直した。
九頭竜の血を受け継ぐ者として、秋津川の縁者は総じて護る対象だ。雪之丞の婚約者である大翔は更に自分の友人である。
それだけで桜哉には大翔の言葉を信じるには充分だった。
「分かりました。六条桜哉少尉、これより前線へ出ます」
「ご武運を」
制帽を深く頭、桜哉は正眼の構えを取った直後、一気に触手の群れに向かって駆けだした。
その背中と、その先にいる二人の姿を見詰めながら大翔は制服の袖の中から数枚の札を取り出した。
両手に構えた札に大翔は息を吹きかけ、呪文と共に四方へ放つ。
放たれた札は銃口から放たれた弾丸の如く群がる触手を穿つ。更に、札が通った場所から劫火が広がり、周囲の触手を飲み込んで焼き尽くし、塵へと変えていく。
触手を滅し、広がった空間に大翔は更に二重、三重と結界を展開し、周囲を覆っていく。
結界が強化された事で、怪夷の動きは更に鈍くなり、それとは対照的に桜哉、鈴蘭、竜胆の力が強化された。
桜哉が鈴蘭と竜胆に合流する頃には、イソギンチャク型の怪夷の周りに蠢いていた触手は殆ど駆逐されていた。
「竜胆、わたくしと桜哉ちゃんで援護しますわ。貴方は本体の核を」
「分かりました」
鈴蘭の言葉に応じた竜胆は桜哉とも視線を交わし、三人揃って地面を蹴った。
結界によって弱らされても尚、イソギンチャク型の怪夷は新たな触手を体表から伸ばそうとする。だが、それを地面を蹴り、駆け上がって来た桜哉と鈴蘭の刃が切り裂いていく。
触手さえなくなってしまえば、目の前の怪夷はただの肉の塊に過ぎなかった。
下から、横から桜哉と鈴蘭の得物が黒い体躯を切り裂いていく。
黒い体液を零し、いつしか新たな触手を伸ばす事すら叶わなくなった怪夷の頭上に、高く飛びあがった竜胆は、その脳天目掛けて拳を振り下ろした。
突起の付いたグローブが怪夷の脳天をぶち抜いた。
パリんと、乾いた音が僅かに響き、咆哮を迸らせて怪夷の身体が灰となって崩れていく。
土煙と地響きを上げて消滅した怪夷の後には、いつものように黒い結晶が転がっていた。
「討伐完了ですね」
「急いで核を回収してここを離れましょう。結界を張っていたとはいえ、今の地響きで近くの街では異変に気付いた人がいるかもしれませんわ」
「そうだね。急ごう」
竜胆との融合を解いた桔梗と、結界を解いた大翔が合流すると、桜哉達は散らばった怪夷の核と残骸を搔き集め、その場から姿を晦ませた。
まだ宵の口な上に、繁華街の近くでの怪夷討伐は目撃のリスクが伴った。
怪夷という存在はすでに45年前に日ノ本から消え、10年前に世界からも消えている。その常識を破る事はようやく震災から復興した東京に不安を抱かせる。それだけは避けなければならない。
ましたや、旧江戸城から離れ東京の郊外とでもいうべき新宿付近で旧ランクAの怪夷の討伐という事実は直ぐにでも詰め所に報告するべきだった。
『こちら巡回班。新宿付近にて旧ランクAの怪夷討伐に成功。これより本部へ戻ります』
撤収の最中、桜哉は詰め所にいる今宵の通信班へ通信をしていた。
それを受け取り、鬼灯は淡々と応じて労いの言葉を掛けた。
「お疲れ様でした。今の所他の場所で怪夷の反応は出ていません。そのままこちらへ帰還してください」
通信機の向こうに呼びかけて鬼灯は静かにヘッドフォンを置く。
小さく溜息を吐いて鬼灯は椅子に深く座って天井を仰いだ。
「六条達、戻って来るって?」
執務室横の給湯室から夜食のカップ麺を作って戻ってきた朝月は、通信機の前で項垂れている鬼灯の傍に近づき、カップを手渡した。
「ええ、さっき旧ランクA相当の怪夷と遭遇し、無事に討伐した様ですよ」
「さっきのけたたましい警報はそれだったのか」
同じく今宵の通信班である清白にカップを渡して朝月は鬼灯が腰かけた席の隣にパイプ椅子を引っ張て来て腰かけた。
「そちらの用事は終わったんですか?」
「まあな。相変わらず収穫なしだな。オルデンもあれから大した動きないし」
マグカップの中でふやかした即席麵を箸で掻きまわし、持ってきた醤油を注いで朝月は縮れた麺を啜る。鬼灯と共に今宵の通信班ではあるが、朝月はつい先程まで陸軍の内通者である純浦と定期の連絡を取る為に席を外していた。あちらには例の陸軍内の不穏分子の捜査の件からオルデン及び鮫島達の動向を探ってもらっていた。
「直ぐに動くかとも思っていましたが…当てが外れましたね。あれから既にひと月以上…何も動きがないのは不気味過ぎる」
「
「黒幕が陸軍の本丸の一つに逃げ込みましたからね…外部に拠点でもあれば話は別ですが…恐らく、その拠点は市ヶ谷の陸軍本部の中でしょうし」
マグカップの中を見つめて鬼灯はまた溜息を吐いた。雪之丞がこちらへ戻り、真澄と南天の契約が済んだ事で、こちらの戦力はほぼ整った。仕掛けるなら今が好機なのだが、相手の出方を多少なりとも知っておくべきだと、現在はオルデンの動向やその周辺への調査が主体になっている。
半年前。初めに自身と南天がこの現代の東京へやって来た時よりは様々な事が分かったが、やはり外堀を埋める作業に変わりはない。
「鬼灯はさっさとオルデン達潰したいって感じだな」
思案しながら朝月が作ってきてくれたカップ麺を啜ろうとしていた鬼灯は、唐突な指摘に思わず箸を止めた。
「はい…?」
「いや、なんか焦ってる気がしてさ…間違ってたら悪い。けど、雪之丞の旦那や真澄の旦那が焦っているなら分かるんだけどさ…お前、仮にも小隊の副官なんだろ?司令官より部下が切羽詰まってるのも変だなと思ってさ…」
ズズっと、麺を啜り朝月は世間話と変わらない口調で話しかける。だが、当の鬼灯は今にも箸を落しそうな程に動揺していた。
その動揺は他者の感情を感じ取れる清白にも伝播していたのか、同じくカップ麺を啜っていた清白はじっと鬼灯を見つめた。
「…焦っているように見えますか?」
「すげえ見える。まあ、俺は月代さんみたいに人の心読めないから間違ってるかもだけどさ」
苦笑を滲ませる朝月に、鬼灯は深く息を吐きだして項垂れた。
(この人は…どうしてこう…いや、まあなんとなく分かるのかもしれませんね…)
額を押さえながらチラリと鬼灯は朝月を見遣った。鞘人と使い手としての契約を結ぶ前からコンビを組んだ相手。それは、偶然でなく鬼灯自身の意図的な接触からだ。
極力偶然を装うよう努めている鬼灯が、この件に関してだけは自ら動いた事例。
鬼灯にとって朝月は他の誰よりも護りたい存在だった。
「…まあ、焦っているのは事実ですよ。これでも、向こうで諜報部にいた身ですからね」
観念した様子で鬼灯は淡々と言葉を紡ぎ始めた。黙っていても良かったが、何故か今のモヤモヤとした気持ちを吐露したくなった。
珍しく弱い所を見せて来る鬼灯の様子に朝月は、カップ麺を啜りながらだが、静かに耳を傾けた。
「先日の宮陣春樹さんの一件から、祭事部が怪夷復活に深く関わっていたのは確証が掴めました。ここに陸軍とドイツ陸軍の息の掛ったオルデン。この三つの組織が手を組んでいたのは最早動かぬ事実です」
淡々と語る鬼灯の話に朝月は静かに相槌を打つ。
「わたくしが来た未来では、怪夷の復活は陸軍単体の行動だとずっと思っていました。ですが、まさか本来怪夷を封じ、管理する立場にある祭事部が関わっていたなんて…そりゃ怪夷化歩兵の技術や怪夷の制御も難しい事ではないですよ。それが分かった途端、己の推測の浅はかさに気づいて自己嫌悪に陥りました。わたくしが追っていた真相はもっと多くの者を巻き込んでいた規模の大きな計画だったと…」
「自己嫌悪って。あんたからそんな単語が聞けるなんてなあ。鬼灯も落ち込んだりすんだな」
「失礼ですねえ。わたくしも一応人間ですよ…」
冗談めかしていう朝月に鬼灯は苦笑いを零した。目の前の相手とこんなに腹を割って話せる関係になれるとは、出逢った頃は思っても見なかった。
「それで、その異なる三つの組織が裏で繋がってたところで、お前の予測は?色々まずい事に事態が動いるのは俺も理解してる」
鬼灯の考えを促すような朝月の誘導に鬼灯は静かに頷いて話を続けた。
「まず、祭事部の関係者が関わっていた時点で、怪夷の封印や解除に関してはある程度目途が付いているのでしょう。封印を解く為に必要な陰陽の鍵については今九頭竜隊長と秋津川博士が調べてくれています。我々に出来るのはオルデンと陸軍の動向を探り、少しでも実験を阻止すること。恐らく、近いうちに彼等は野良怪夷に紛れ込ませて怪夷化歩兵の実証実験の為に怪夷を放ってくるでしょう」
「そこまで掴めてんなら、取り合えず現状維持でも…」
「しかし、先程六条さんから入った通信の内容で事態があまり思わしくないかもしれないと感じました」
朝月の言葉を遮るように口にした内容に鬼灯は更に続けた。
「旧ランクAの怪夷の出現。これが意味するところは、一つ。旧江戸城の怪夷の封印が更に解けつつあるという事です」
「怪夷の封印は五年前に解けたんだろ?だから怪夷が東京に現れて…」
「いえ、主様。怪夷は五年前の震災の時点では、まだ完全に封印が解けた訳ではなかったんです。あくまで閉ざされていた蓋が、僅かに開いた。又は小さな穴が開いた程度のものだったのでしょう。そうでなければ今日まで一般市民に知られずに怪夷の討伐なんて出来ていなかったでしょう」
思わぬところを付かれて朝月は目を見開いた。言われてみればその通りだ。
初めて特夷隊として怪夷討伐の為の巡回に出た頃。怪夷は旧江戸城の周辺に旧ランクE程度の小さなものしかいなかった。
それが、年を追うごとに旧ランクDの出現、海静や春樹が一度いなくなった年には旧ランクBと初めて相まみえたくらいだ。
じわじわと怪夷の出現頻度は上がり、その度に特夷隊の討伐回数も増えている。
今まで真澄の指揮の下、怪夷討伐そのものは行って来た。そこで朝月は初めてある点に着目した。
その間にも鬼灯の話は淡々と続いていく。
「しかし、旧ランクAの登場という事は、いよいよ怪夷の勢力が全盛期、もしくは最初に怪夷が出現した60年前にまでもどったという事です。今はまだ出現頻度が数日に一回ですが、これから回数が増えたり、複数の場所で同時に怪夷が出現すればどうなるか…」
「俺達の戦力を捌くのにも限界がある…逢坂時代みたいな執行人がいれば話は別だが、そんなの今の世の中にいるかよ」
「そうです。怪夷の討伐技術は日ノ本では既に40年前に殆ど一般から忘れられています。軍人にその技術を叩き込むのも時間が掛かる。帝都にいる帝直属の近衛部隊当たりならまだ対処できるでしょうが…それでも関西近県の防衛が精一杯でしょう」
鬼灯が語り出した最悪のシナリオに朝月は、子供の頃に聞かされた逢坂時代の話を重ねた。
かつて、怪夷が人々の生活を脅かし、結界という名の壁を築いた都市の中で人々が生活していた時代。
それが再び繰り返される可能性。
「怪夷の脅威からいち早く脱却した事で世界の先端に立った日ノ本が再び怪夷の脅威に晒されたとなったら、この国は誇りを失う。国民の失望はきっと相当だ…」
英雄の国として世界に大頭した日ノ本。だが、その栄華が再び旧時代の異形によって崩されようとしている。これはきっと、戦争で他国に負けるより国民の誉を傷付ける事になるだろう。
そうなったら、この国が立ち直るのは難しい。
軍人という、国家防衛の要を担う朝月は暗雲の立ち込めた国の未来に当惑した。
「オルデンや陸軍がこの事態をどう見ているか分かりません。しかし、怪夷の封印が更に解ければ彼等にも制御出来るかは未知数。だから、わたくしとしては旧江戸城の現状がどうなっているのかこの目で確認したいのですが…」
「そう言われてもな…あの震災の後から大統領府の監視下に入ってるし…真澄の旦那もこの現状どう思ってんのかな…」
「そこは確認しないと分かりませんね。それから、柏木大統領がどうお考えなのかも。怪夷の討伐部隊の創設を進言したのはそもそも柏木大統領ですし…彼が何か握っていても不思議ではありません」
唐突な推測に、朝月は一瞬言葉を失った。まさかここでその名前が出て来るとは思わなかった。
「ちょっとまってくれ…柏木の旦那がまさか何か隠してるってのか…?」
「あくまで妄想です。ただ、主様も疑問に思いませんでしたか?何故、五年もの間、旧江戸城の怪夷の封印を試みなかったのか…東京の街に怪夷が放たれるのをそのままにしつつ、討伐だけはさせていたのか…」
鬼灯の話は朝月の中に浮かんだ疑問そのものだった。
原因を取り除く方法をどうしてもっと早く試さなかったのか。
その理由が分からなくてはきっとこの疑念は拭えない気がした。
「…もし、もしだ…柏木大統領が実はオルデンと繋がっていて、お前達鞘人の事も知っていたとしたら…?そしたら、どうなるんだ…」
「そこまではなんとも言えません。ただ、その結論に至れないのは、彼が未来で九頭竜隊長と共に陸軍に暗殺されている事です。協力者であったなら、どうして消されたのか」
「そんなの、理由は幾らでも考えられるだろ。意見が合わなくなったとか、色々…」
微かに震える喉から朝月は乾いた声を絞り出した。何故こんなにも身体が緊張しているのか、分からなかった。
(もし柏木大統領がこの怪夷の封印の件を野放しにしていた理由が、オルデンとの繋がりなら、出方を変えなければなりません…しかし、暗殺の件をあの人はずっと追っていた。そこにあった感情はきっと目の前の彼の疑問や不安と同じなのでしょうね…)
目の前で拳を握り締め、頬を強張らせている朝月の様子に鬼灯はかつて追いかけた人物の面影を重ねた。
あの人の死の真相を知りたいがために踏み込んだ軍属への道。諜報部に配属されたのはまさしくなんの因果だったのか。
結局、本来自分があった時代ではその真相を掴む事は叶わなかった。
ならばと、全ての始まりである時代で掴みたいと願い、秋津川博士の計画に賛同した。
「不安を煽るような事をしてすみません…ですが、諜報部出身の身としては、疑念は少ない方がいいのです…」
緊張で強張った朝月の固く握られた拳に鬼灯はそっと触れる。遊女のように大きく襟を開けて纏う着物から覗く白い肌は、それだけで艶を帯びている。
朝月に想い人がいなければもしかしたらころりと引っ掛かっていたかもしれない。優艶な姿の人物を朝月はゆっくりと見つめた。
「主様、もし、万が一わたくしの妄想が現実なら、その時は貴方の中にある信念に従ってください。それで、貴方と敵対してもわたくしは受け入れますので」
「…なんだよそれ…それじゃ、あんたの方がオルデンと繋がってるみたいな言い方じゃないか…」
「ふふ、それだったら、どうしましょうね…?」
嫣然と微笑む鬼灯に朝月は苦笑いを零した。
二人の会話を終わらせるように、エントランスの方が騒がしくなる。
「あ、竜胆達帰ってきたみたい…」
それまで二人の会話を黙って聞いていた清白は、まるでその場から逃げる様に、椅子から降りて執務室の中を駆けていった。
パタンと、廊下へ続く扉が閉められ、シンと室内が静まり返る。
「…鬼灯、今の話は他言無用だからな」
「ええ、清白にも後で言いつけておきますね」
何事もなかったかのように距離を取り、ほぼ同時に椅子から立ちあがった朝月と鬼灯は戻ってきた巡回班を出迎える為に、エントランスへ向かって歩き出した。
***********************
暁月:さてさて、次回の『凍京怪夷事変』は…
弦月:特夷隊の巡回の最中、東雲病院から帰宅した真澄達。かつての英雄から聞いた話はやがて鞘人達、そして南天の過去の話へと発展して…
暁月:第八十一話「聞かせて、君の事。」次回もよろしくね!
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