第七十六話-新たな手掛かり
まだ夜も明けきらぬ早朝だというのに、特夷隊詰め所の執務室では真澄と雪之丞が話し込んでいた。
先刻春樹が詰め所へ帰還した時にいた面々の姿が見えないところを見ると、一部は自宅に帰ったか、巡回に出たのか、
「失礼します。九頭竜隊長、秋津川博士、今よろしいですか?」
扉をノックして執務室へ入り、三好はまるで待ち構えるようにその場にいた真澄と雪之丞へ声を掛けた。
「三好先生…」
「おはよう、春樹君の具合は?」
執務室へ三好が入って来たのに気付いた真澄と雪之丞は二人揃って顔を上げる。
「春樹さんなら先程一度目を覚まして、また眠っています。それで、お二人に報告したい事がありまして」
雪之丞の質問に答えてから三好は真剣な表情で二人を見据える。彼の様子から重要な案件だと察した真澄と雪之丞は顔を見合わせてから三好に視線を戻した。
「じっくり聞きたいから三好先生、そこに座ってくれ」
応接用のソファを示して真澄は三好に座るように促した。それに応じて三好は入り口側のソファに腰を下ろす。
その目の前に真澄、斜め横に雪之丞がそれぞれ腰を下ろした。
「先に秋津川博士に報告を。春樹さんの中には
「え?ホントに?」
三好からの思いがけない報告に雪之丞は大きく目を見開いた。だが、その顔には驚きだけではなく安堵の色が滲んでいた。
「雪、オクラってのは…」
三好と雪之丞の話が呑み込めず真澄は眉を寄せて雪之丞へ説明を求めた。
「ああ、ごめん。真澄にはまだちゃんと話してなかったっけ…鞘人の適正実験は桔梗と鬼灯達だけじゃないんだよ。この三好君や海静君の中にいる紅紫檀もその被検体の1人なんだ。他にもいたんだけど…みんな怪夷化歩兵との戦闘で命を落としたり、反乱軍の捕虜になって消息が分からなくなったりしてね…未来では僕等が属していた帝を中心とした政府軍も反乱側の怪夷化歩兵に対抗する為にそれに近い生体実験を行っていたから、その実験を僕が担っていてさ」
「雪が生体実験を?」
雪之丞の口から話された内容に真澄は怪訝に眉を顰めた。彼の話からすると今自分達の仲間として戦い、聖剣の核を宿している鞘人たる若者達はその実験の産物と同意犠打と今更ながらに気付いた。
「不本意だったけど、お陰で被検体って名目で鞘人の候補を集められた。その被検体の初期組が三好君や紅紫檀、今話題に上った秋葵君。僕はこの三人にそれぞれ、朔月、暁月、弦月を宿そうとしていたんだ…でも、その実験を行う前に彼等はそれぞれ殉職や未帰還兵扱いになっていた…まさかこっちに来ているとは思わなかったよ」
「だから三好先生は最初から鬼灯と交流があったのか…」
改めて事情を知り真澄は、最初に鬼灯と南天が自分達と対面した後の様子を思い出し、ようやく納得する答えを得た。
「でも驚いた、まさか秋葵君までこっちに落ちてたなんて…」
「ええ、私も驚きました。それも春樹さんの中に宿っているなんて…」
二人揃って複雑な顔をする雪之丞と三好に真澄は更に疑問を抱いて質問を投げかけた。
「雪、一つ疑問なんだが…どうして紅紫檀やその秋葵ってのは海静や春樹の中に入っているんだ?海静に関してはアイツを連れていった怪夷がその紅紫檀だった…」
「九頭竜隊長、それについては私から説明を。私達は敵側に捕まり、怪夷化歩兵の実験体にされた存在なんです。ですが、秋津川博士が行っていた鞘人実験の被検体でもあり、その実験の最中にそれぞれが敵の捕虜になりました。それが功を奏して怪夷化歩兵への実験には拒絶反応が出た為に捨てられ、ちょっとした奇跡が起きてこちらに落ちました。ただ、自分の肉体の損傷の激しさと意識を保つ為にどうしても他者の肉体を借りる必要があったんです。私はたまたま死にかけの人物が落ちた先にいたのでその身体を借りて今に至ります。紅紫檀もほぼ怪夷のような姿で跋扈していましたが、自身の意識を保つのに丁度傷ついた海静君を見つけたのでしょう。海静君もまだ生きていましたから合意の上で融合及び共有を選んだのかと…秋葵も同じような状況だったのかと推測します」
俄かには信じがたい突拍子もない話だが、鞘人やこれまで怪夷と渡り合う中で様々な経験を積んできた真澄は、内心そんなものかと納得した。何より、それによって海静は死ぬ事なく戻って来たし、春樹に関しても同様の事が言えるので彼等の行動を批判する事はなく、むしろ礼を言いたいくらいの気持ちだった。
「つまり、三好先生達は雪の元実験の被験者で、かつ怪夷に近いもしくは同等の存在って解釈でいいか?」
「ええ、問題ありません」
静かに頷く三好に真澄は雪之丞の方へ視線を送る。親友の視線に雪之丞もまた深く頷いた。
「それで三好君、秋葵君が春樹君の中にいたってだけが報告じゃないよね?真澄も一緒に聞いて欲しいなら、他にもあるんじゃない?」
「はい。実は秋葵が話した事なんですが…オルデンや祭事部は怪夷を制御する為の“鍵”と呼ばれるものを探しているようです。詳細までは分かりませんが、それが聖剣のような呪物なのか、もしくは術師のような人物を示すのか…お二人なら心当たりがあるのではと…」
三好はここへ報告に来た目的を真澄と雪之丞に聞かせる。すると二人はまた顔を見合わせて首を捻った。
「鍵?」
ほぼ同時に繰り返した真澄と雪之丞は訝しみ更に首を傾けた。
「なんだろ…何かの暗号かな?真澄は心当たりある?」
「いや、ピンと来ないな…怪夷を制御する為のものか…今まで怪夷を制御するって発想すらなかったからな…確かに、制御出来たからこそ怪夷化歩兵にも繋がった訳か…」
「他に秋葵は何か言ってなかった?」
互いに首を捻ってから雪之丞は再度三好へ訊ねた。だが、三好は小さく頭を振ってそれ以上はないと無言で応えた。
「鍵か……なんか、昔似たような単語を聞いた気もするけど、あれは用途が違った気がするし…仕方ない、もう少しこちらでも調べてみよう。もしかしたら怪夷を制御できる聖剣みたいな物があるのかもしれないからね」
「そうだな。古い資料を改めて洗ってみるか。三好先生。報告感謝する」
「少しでもお役に立てればいいですが」
「いや、春樹の治療を寝ずに引き受けてくれただけでも十分な功績だよ。いつもすまないな」
「これでも特夷隊付きの医者ですからね。皆さんの医療面、健康面のサポートが私の役目なので。お二人もきちんと睡眠はとってくださいね」
肩を竦める三好に忠告され真澄と雪之丞は視線を交わらせた。春樹の事が心配で他の隊員達を各自自宅や仮眠室、巡回等へ送り出した後も執務室で資料を広げながらあれこれ意見を交し合っていた。そこを見透かされて真澄も雪之丞も三好から顔を逸らした。
「それでは、私はまた医務室に戻ります。何かあれば遠慮なく声を掛けて下さい」
「ああ、ありがとう」
ソファから腰を上げ三好は二人に会釈をすると執務室を後にするため入り口へと向かう。
「そうだ、九頭竜隊長。あれから調子はどうですか?」
ふと思い出したように三好は先日の南天との一件を思い出し真澄に問いかけた。
「あ?特に問題ないが…」
「落ち着いたら東雲病院にまた検査へ行ってください。症状が出ていなくとも皮膚の黒化が進んでいるようですので」
「分かった。数日中には受診を検討する…」
自身の左腕を擦り真澄は肩越しに振り返って忠告してくる三好に深く頷いた。
「ええ、是非そうしてください。主治医として検査結果は欲しいので」
ニコリと、何故か凄みのある笑みを見せられ真澄は息を詰まらせる。頬を引き攣らせた真澄をじっくり見つめてから三好は今度こそ執務室を後にした。
白衣の背中を扉が閉まるまで見送ってから真澄は吐き出すような溜息を零し、やれやれと肩を落とした。
「三好君の忠告は一理あると思うよ。黒結病は油断してると直ぐの影響でるから。怪夷討伐が終わってないのに隊長が使い物にならなくなったら困るでしょ?」
「そうだな…やっぱり早いうちに東雲先生の所に行ってくるよ。お前も行くだろ?」
「付き添いが必要なら付き合おう。僕も大先生には会いたいからね」
やけに胸を張る雪之丞に苦笑を浮かべ真澄は凝り固まった肩や腰を解した。
「雪、先に仮眠室行っていいぞ。俺は巡回組が帰ってきたら寝るから」
「なら真澄がお先にどうぞ。運転して疲れてるでしょ。ここは南天に任せて寝たら?」
春樹救出の一件の後、仮眠室へ半ば強引に送り出した南天の事を思い出し、真澄は小さく溜息を吐く。その瞼裏には渋々仮眠室のある二階へ上がっていく南天の姿が浮かんでいた。
「そうだな…たまにはアイツに託してみるか」
「そうだよ。南天も真澄に頼られたら嬉しいよ」
ニコリと胸を張って言う雪之丞に真澄は苦笑を滲ませてソファから腰を上げた。
「それじゃ、二人で仮眠室に行って南天起こすか」
「オーケー、行こう行こう」
二人で今後の行動を決め、真澄と雪之丞は揃って二階にある仮眠室を目指した。
仮眠室では南天の他、清白と隼人、月代も眠っていた。
静まり返った室内で南天は静かに目を覚まし、木製の天井を見上げた。
ぼんやりとした意識の中で、南天は春樹をトラックに引き上げた時に見た彼の表情を思い出した。
何か、見てはいけないモノを見てしまったかの如き驚愕と困惑の表情。それは、まるで自分の事を知っているような様子だった。
「……」
暫く天井を見あげてから身体を起こし、南天は入口の方に視線を向け、パイプベッドの上で膝を抱えた。
(あの人…どうしてあんな顔したんだろ…)
春樹の事を内心考えながら南天は徐にベッドを降りて入口の方へ向かう。喉が渇いていて、それを潤す為に一階に降りようと扉を開ける。
「あれ南天、起きたの?」
「あ、ドクター、マスターも」
丁度廊下に出た所で階段を上がってきた雪之丞と真澄に出くわした。
「おはよ南天、休めたか?」
「はい。マスター達も休息ですか?」
「うん、流石に眠くてね。僕等が休んでいる間、詰め所の番任せていいかな?」
仮眠室の入口の前で真澄と雪之丞は南天と向かい合う。
彼等から託された内容に南天は静かに頷いた。
「それじゃ、大翔さん達が戻って来るの待ってますね」
「ああ、頼んだ」
巡回に出ている大翔達の事を南天に任せ、真澄と雪之丞は入れ替わるようにして仮眠室の扉を開ける。
「あ、マスター」
ふと、南天は真澄の事を無意識に呼び止めた。それに仮眠室に入ろうとしていた真澄は身体を斜めに向けて南天の方へ顔を向けた。
「ん?どうした?」
咄嗟に呼び止めたような響きの声に真澄は首を傾げる。だが、待っても南天から問いかけがかかることはなかった。
「あ…いえ、なんでもないです…おやすみなさい」
自分が咄嗟に真澄を呼び止めた事に驚きながら南天は、首を横に小刻みに振ってから踵を返した。
パタパタと音を立てて螺旋階段を降りて行く南天を暫く見つめ、真澄は頭の上に疑問符を浮かべた。
「どうしたんだアイツ…」
「なんか、言おうとしてたよね?」
傍で二人のやり取りを見ていた雪之丞もまた首を傾げて眉を顰めた。
「アイツ、たまに言いかけてやめることないか?」
「そうかな?南天はあまり喋る子じゃなかったから、あんなに喋るの見たのこっちに来てからだよ」
未来の世で南天と過ごしていた時の事を思い出し雪之丞はこちらに戻ってからの南天の変化に驚いた事を真澄に話す。
「まあ、確かに口数が多い奴ではないけどな…それにしたって今のはなんか含みがあったぞ」
「何か話したかったら多分話してくれるよ。きっと僕等が休む所を引き留めてすまないと思ってのかもよ」
「そうだといいが…」
階段を降りて執務室に入っていく南天の足音を視界の片隅で追いかけた真澄は、腑に落ちないと眉を寄せた。
「ほら、早く横になろう」
入口付近で立ち止まる真澄の背中を押し、雪之丞は半ば強引に仮眠室へ真澄を押し込んだ。
後ろ髪を引かれる思いであったが、真澄は雪之丞に促されるまま仮眠室へと消えていった。
夜が明け、大翔達巡回班と彼等の帰りを出迎えた南天が執務室で報告書の作成などの作業をしていると、仮眠を終えた隼人と拓、清白が降りて来た。
「おはようございます」
「おはよう。ご苦労だったな」
朝の挨拶を交わし隼人は昨夜の巡回の報告書を書いている大翔達に巡回への労いを掛けた。
「隼人さん、あの、兄は…」
ずっと気になっていた事を大翔は思い切った様子で隼人へ訊ねた。
「春樹さんなら今医務室で眠ってるって。明け方に一度目を覚ましたらしいが、また眠ったらしい」
「一年も洞窟に閉じ込められていたみたいだから、かなり消耗はしているけど、命に別状はないそうだよ」
隼人に続いて拓も補足を入れる。二人から兄の様子を聞き、大翔はほっと胸を撫で下ろした。
「よかった…」
「次に目が覚めたら会いに行ってきたら?そういえば、晴美さんは?」
「あ、姉はさっき連絡をしたので、アンダルシアの出勤前にこっちへ来るようで。少し煩いかもですが…」
晴美の騒がしさを思い出し大翔は困った顔を浮かべる。
「晴美さんはあれくらい賑やかな方がいいからな。気にしないさ」
すまなそうな顔で姉の事を話す大翔に隼人と拓は顔を見合わせてニヤリと笑い合うと、晴美の性格を肯定した言葉を大翔に掛けた。
それを聞き大翔は少し驚いた顔をしてから、恥ずかしそうに微笑んだ。
「ありがとうございます…そう言って貰えると気持ちが楽になります…」
「またアンダルシアに珈琲でも飲みに行かないとな。晴美さんのあの感じ、俺は好きなんだ」
「分かる。元気が出るよね。僕達は一人っ子だから兄弟がいるのは憧れるし」
二人の好意的な言葉の数々に大翔は兄の事で沈んでいた気持ちが楽になるのを感じた。
胸の中に広がった温かさにホッと力を抜き、肩から力を抜いた。
「あ、大翔、あれ晴美さんじゃない?」
不意に窓の方から聞こえてきた桔梗の呼び声に大翔は顔を上げ、視線を窓の外へと向ける。
大統領府の中にある特夷隊の詰め所の方へ、小袖に袴の女性が歩いてくる。
間違いなく晴美だった。
「早かったな…ちょっと迎えに行ってきます」
隼人と拓にそう告げて大翔が執務室を出ようとした時、外から何か口論するような声が聴こえてきた。
「なんだ…」
「あれは…」
窓の外、晴美を追いかけるように袴姿の数人の男達が現れる。と、彼等は晴美となにやらもめるように口論を始めていた。
咄嗟に隼人と海静、竜胆は困惑する大翔の代わりに飛び出すように外へと出て行く。
「南天君、隊長を起こしてきて。僕は大統領に連絡を取るから」
拓の指示に静かに頷いた南天は同じく廊下に出て仮眠室へ続く階段を駆け上がって行く。
「他の皆はここで待機。もしもの時に備えるように」
不安げな大翔とその傍に寄り添う桔梗、いつでも戦闘態勢に入れるようにしている鈴蘭と桜哉を見渡し拓は各々に指示を出す。
「大翔君、医務室に行って三好先生達にこの状況を伝えて。いざとなったら春樹さんを裏から逃がして」
「…分かりました」
名指しで言われて大翔は一瞬戸惑いながらも頷いた。
「僕も一緒に行くよ」
傍にいた桔梗が励ますように大翔の肩を叩く。それに背中を押された大翔は強張った身体の呪縛を解くように深呼吸をして踵を返し、桔梗と共に廊下へ出た。
「だから、知りません。私は弟に用事があって来たんです」
特夷隊の詰め所前。玄関へと続く道の真ん中で晴美は自分に声をかけてきた袴姿の若い男達を睨みつけていた。
「貴様は宮陣家の者だろう?ここに宮陣春樹が運ばれたという情報が入っている。奴は禁忌に触れた不届き者。直ちに祭事部本部へ同行を願いたい」
袴姿の男達のうち、リーダーと思われる三十代半ばの男が晴美を威嚇しながらここへきた理由を口にした。
「大変申し訳ありませんが、我が家の当主は昨年行方不明の身になりました。未だに行方も分からないのに勝手な事を言わないでください。確かにここは兄の職場ですけど。それと、ここは大統領府の敷地内、政府の管轄である重要な場所で、祭事部の荒事部隊が勝手をして許されるとでも?」
男達に臆する事なく向かい合い、晴美は毅然とした態度で彼等に詰め寄った。
祭事部と政府の関係は言ってしまえば微妙な所だ。
陸軍、海軍程真っ二つに分かれてもいないし、かといって司法部のように政府に協力的でもない。
さらに言えば、祭事部は先の震災の後旧江戸城の監視を大統領側に取られて一部の祭事部の派閥とは不仲が続いている。
仮にも微妙な関係性の、下手をすれば国家問題になりかねない場所に祭事部の荒事を担当する武装部隊の連中が詰めてきた事に、晴美は不快感を覚えていた。
晴美の脅しに男達は一瞬怯んだように顔を見合せたが、背後に控えた赤い髪の青年に視線を送った後、再び威圧的な態度で晴美と向かい合った。
「その宮陣春樹がここに運ばれた情報が入っている。貴様では話が出来ないなら特夷隊の者を出してもらおう」
晴美を押しのける様にして男達は詰め所の玄関へ向かっていく。
「ちょっと、勝手な事しないでよ!」
自分を横に押し退けた男達を追いかけ晴美が必死に彼等を止めようとした時、詰め所の玄関扉がゆっくりと開いた。
観音開きの両空きの扉から現れたのは、隼人と海静、竜胆だった。
「俺が特夷隊副隊長の赤羽隼人だ。こんな朝から祭事部の人間が何の用だ?」
聞こえていた晴美とのやり取りの内容から、彼等が祭事部の人間という事は分かっていたため、隼人は手短に名乗りを上げて要件を聞いた。
「祭事部の禁忌に触れた重罪人、宮陣春樹がここに潜伏しているという情報が入った。大人しく罪人を渡してもらおう」
「罪人?うちの宮陣が何をしたって言うんだ?悪いが彼は今大怪我をしていて動けない。令状もないのに引き渡しは応じられないな」
かつての刑事としての威圧感をもって隼人は祭事部の男達と真っ向から対峙した。
その横にいつでも荒事に対応できる姿勢で海静と竜胆が控える。
若いながら威厳のある三人の様子にリーダー各の男は僅かに後退った。
「これは何処の家からの依頼だ?きちんとした書状を持って出直して来い。仮にもここは大統領閣下のお膝元。むやみな事をしたらお前達の主もただでは済まないぞ」
使えるモノはなんでも使えとばかりに隼人は柏木の威光を掲げて男達の食らいついた。
彼等の目的が何か分からないのに、ようやく戻ってきた春樹を引き渡す訳には行かなかった。
「どうしても邪魔をすると?」
「邪魔?そっちが勝手に押し入って来たんだろ?礼儀知らずの犬どもが。伝統を重んじるのが祭事部の信条じゃなかったか?」
腰に手を当てて男達を見捨て隼人は更に詰め寄る。
正論をぶつけられ、若い男達はいつしかその手に武器を手にして各々に構えだした。
「どうしてもというなら、力ずくで連行させてもらう」
「やってみろよ。させないけどな」
隼人もまた、男達からの喧嘩を買う事を決め込み、横に控えた二人に目配せをした。
互いに睨み合った末、どちらからともなく乱闘が始まった。
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暁月:次回の『凍京怪夷事変』は…
三日月:春樹を狙い押し入ってくる祭事部の武装部隊。真澄達はこれを押し返すべく対峙するが…
暁月:第七十七話「始まりの悲劇」次回もよろしくね!
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