第七十四話―暗き洞穴からの脱出
通信機を上着のポケットに仕舞い、隼人は顔を上げた。
場所は東京駅のホーム。隣には共に行動している拓と珍しくついてきた清白がいる。
「真澄さんなんだって?」
「気を付けて行って来いってさ。何か進展があれば連絡くれとも」
真澄とのやり取りを拓に告げた隼人は、拓から水筒を受け取った。栓を開けて筒の中に満たされたお茶を喉の奥へと流した。
彼等は今、千葉にある中原邸に向かう為、東京駅のホームで汽車を待っていた。
「向こうが素直に聴取に応じてくれればいいけどね」
「やましい事がなければそうするだろ。とにかく、現場百件歩き回ってなんぼだ」
水筒を飲み干し隼人は手の甲で口元を拭うと、拓と清白に不敵に笑いかけた。
「もう、少しは頭使いなよ…」
いつになく張り切っている隼人の様子に拓はやれやれと肩を竦めた。
二人の会話を聞きながら清白は膝の上に乗せたノートサイズのタイプライターを薄くしたような機械についた画面を見据えていた。
「拓さんやドクターが調査した内容を纏めました…この中原という人物、五年前まではそれほど目立った人物ではなかったみたい…」
隼人と拓が聞き込みから得た中原の人物像やここ数年の様子を清白は客観的に考察する。
「元々祭事部の幹部になったのも、五年前の震災の後、幹部であった辰宮の後釜に納まったからみたいだよ…」
隼人と拓に画面を見せて清白はそこに纏めた文章や図を指差すと、ゆっくりと説明を始めた。
「
清白が指差す中原の経歴の部分を覗き込み、隼人と拓は眉を顰めた。どの派閥、勢力もそうだが、いまだ日ノ本の組織は家柄や階級などが重視される。大体は古く続く家柄から序列が始まり、参入が新しい程、地位は低くなる。
祭事部における序列の最高位は帝都に住まう国家の最高司祭である帝であり、そこから彼の親族や過去の帝の血を引く一族と序列が続き、余程の歴史に功績を残さない限りは帝に近しい者以外の序列は下位に位置する事になる。
その点では九条は元貴族、辰宮は古くより続く禰宜の一族で中原に至っては禰宜の一族ではあるが、左程大きな勢力の出身ではない事が、資料に纏められていた。
「なるほど、ということは、この中原はやっぱり何か知っているって見た方がいいな」
「憶測は良くないと思うけど…僕もこの人は怪しいと思う…」
「いざという時は彼の心を読んでみるよ。行動パターンや心理状態が分かれば当時の動きを読み解けるかもしれない」
「そん時は頼む。さて、汽車が来たから乗り込むぞ」
汽笛と黒い煙を上げてホームに入って来た汽車を目に留め、隼人は荷物を手にホームを歩き出す。
その後ろをベンチから立ち上がって拓と清白も続いた。
かつての
古く佐倉藩の者達はかの三大悪霊の一人で朝廷から逆賊として討伐された平将門を指示した一族が多いとされている。
平将門が祀っていたのが、星神だとされており、彼等の多くも未だにその信仰を護っていた。
中原もまた、そんな星神を祀る禰宜の一族の一員であったが、元を辿れば辰宮の分家筋から分かれた一族であった。
自身の邸で中原はある待ち人を待っていた。
今日はある約束から丁度一年の節目の日。三日前にかの人物から連絡があり、今日来ることは分かっていたが、朝から待てどその人物は未だ姿を見せていなかった。
壁に掛けられて時計を眺め、中原は何度も深い溜息を吐き、苛立ちを愛用の扇子にぶつけた。
今か今かと待っていると、玄関先に馬の蹄の音と共に、馬車の車輪が止まる男が響いた。
外では使用人が来客の応対をしている。普段なら任せるところだが、中原はいても経ってもいられず自ら玄関先へ飛び出した。
「遅くなって申し訳ありません」
玄関先に立っていたのは、黒い詰襟の僧服に身を包み、右側に片眼鏡をかけた柔和な顔立ちの人物と陸軍の軍服を身に着けた中年の男。それからワイシャツに黒いスラックスというシンプルな格好の赤い髪が印象的な青年が立っていた。
「いやいやよくぞこのような田舎までご足労頂きまして。恐悦至極。ささ、どうぞ中へ」
主人である中原自ら客人達を出迎え、そのまま客間へと案内する。
客間へ通されたヘルメスと鮫島は通されるまま上座に座り、護衛役として付いてきていた赤髪の青年、アレスは客間の入口付近に腰を下ろした。
中原がアレスへ声を掛けると、答えが返ってきたのはヘルメスからだった。
「ああ、彼の事は気にせず、私達の護衛なので」
ニコリとヘルメスに微笑まれ中原はそれ以上アレスに構わなかった。元々の待ち人は上座へ通した目の前の二人である。
「それで、例の術が本日完成すると伺いましたが、どうでしょう」
出されたお茶を一口啜ってからヘルメスは早速本題に入った。
「ええ、術事態は問題ないのですが、何分蟲毒は不確定な要素も多く、今回のように規模の大きなモノは蓋を開けてみないとどのような状態かは分かりません。ですから、是非ともお二人に術の仕上げである蓋を開ける瞬間に立ち会って頂きたく…」
「あれから一年か。九頭竜の部下が色々嗅ぎまわっていると知った時は肝が冷えたが…その後はどうだ?」
「ええ、今の所神戸の英雄の息の掛った者がうろつく事はなくなりました。今は身辺に怪しい者はおりません。特夷隊もあの当時は色々混乱していたと聞きます」
二人の客人と相対しながら中原は淡々と問いかけに応じた。彼の言葉を聞いて鮫島は少しほっとした様子だったが、ヘルメスはここに入ってきた時と変わらずに笑顔を張り付けていた。
「では、早速最後の仕上げとやらを行いましょう。新たな強化兵実験に使用できるか、早く試さねばなりませんからね」
「非検体を作るのに些か時間がかかる気もするが、ヘルメス殿の実験には中島中将からも貴殿の思うように動いて構わないと通達を受けていますから、この件に関しては祭事部の協力を得る他にないかと」
「そこはお任せください。それでは、皆様を庭へご案内しましょう」
話が纏まった所で真っ先に腰を上げて中原はヘルメスと鮫島、護衛役であるアレスを客間から少し離れた裏庭へと導いた。
暗闇の中、全身を這うぬめりとした感触に促されて目を覚ます。
視界の先には一対の禍々しく赤い光がちらついている。
「はあ、はあ…はあ、はあ…」
ごつごつとした石の床の上に身体を起こし、血と肉の腐敗した臭いに顔を歪めると、内側から呼び掛けるような声が直接脳に響いてきた。
『大丈夫かあ?なんなら変わるぞ』
「いや、問題ない…後は、あの目の前の奴をどうにかすれば終わる」
『そうか、そうか。もう少しだから頑張れ。あれをなるべく殺さないように頼むね』
ズルズルと地面を擦る皮膚の音が響く中、暗闇の中で彼はゆっくりと唾を飲み込んだ。
チラリと、寄り掛かった壁に付いた白い傷跡を確かめる。正の字が規則正しく記されたそれは、ここに放り込まれた日から付けたいわば日数だ。計算で行けば今日が丁度一年になる。
初め、この洞窟に放り込まれた時、この中には獣や虫、様々な生き物がいた。だが、それらは次第に共食いや殺し合いを初め、やがて数を減らしていった。自分を襲ってきた大型の獣も何匹も屠った。息絶えた生き物の血肉はやがて朽ちて異臭を放っているが、その臭いにもすっかり慣れてしまった。
洞窟の岩の壁には散っていった生き物の残骸がこびりつき、地下水と混ざり合ってぬるりと肌に落ちてきた。
そんな劣悪な状況下で生き残っているのは、目の前で赤い瞳をぎらつかせる生き物。恐らく二メートル半はあったと思われる熊と自分。わずかばかりの小動物。
更に厳密にいえば、自分の中に住まうもう一つの存在だ。
ある調査の為に中原邸を訪れた際、不意を突かれて拘束され、気が付けばここへ放り込まれていた。
さして戦闘能力の高くない自分が、ここまで生き残ったのは、今、自身と同化している存在に助けられたからだった。
自分達が閉じ込められたこの空間が予想通りなら、今日を含めて数日のうちに扉が開かれる。その日を待って指折り数えた日々。生き残る為に春樹は己の全てをこの日の為につぎ込んだ。
獲物を探して洞窟の中を彷徨い歩く熊の気配を感じながら、春樹は息を殺す。
ここで見つかっては元も子もない。
かつて入口だったと思われる岩の物陰に隠れ、外の様子に耳を欹てていると、その時は唐突にやって来た。
微かにだが砂利道を蹴る人の足音が響いてくる。
それも一人ではなく、数人はいる事を春樹は足音で感じ取った。
「来た…」
『やっとかあ。よし、手筈通りに行くぞ』
内側から響いてきた声に春樹は深く頷いた。もう何日も前から手順を確認し、己の中で何度も予行練習を行った。
ありあまりの道具と物資で出来得る限りの準備も終わらせた。
その時がゆっくりと迫っている。
足音はどんどん近くなり、やがて複数のそれが岩の向こう側で止まった。話し声まで聞こえる距離に彼等がいる。
一人はここに閉じ込められる前、最後に聞いた男のもの。もう二つは初めて聞く声だった。
パラりと、閉ざされていた大岩の脇から小石が落ちる。外ではこの天岩戸の如く洞窟を塞ぐ岩を除く作業に入ったらしい。
鈍く重い音を立てて岩が少しずつ横に動いていく。
やがて外から差し込んだ光がその光量を増し、岩の封が半分まで開かれた直後。
『今だ!』
内側からの合図を聞き、春樹はこの日までずっと持っていた最後の一枚の札に息を吹きかけ、呪文と唱えた。
札が宙に放たれた直後、岩壁に刻んでいた術式が発動し、爆発音と共に洞窟の中は灰色の煙に包まれた。
「ごほ、ごほ、なんだこれはっ」
最初に入って来た中原が突然の爆発音と沸き上がった煙に顔を顰めると、洞窟の中から獣の呻き声が聴こえだした。
それは、入口から少し洞窟の中に進んでいた中原達を見つけるなり真っ直ぐに突進を仕掛けて来た。
「ひっ」
「おい、あれが時間をかけた成果か…」
「い、いえ…けして…」
怯える中原を叱責する鮫島の声が洞内に響き渡る。その声と入口が開いた事で出来た光を求めて赤い目をした熊が大柄な体を揺らして突進してくる。
その隙を付いて春樹は中原達の背後を擦り抜けるようにして洞窟の外へと抜け出した。
隼人と拓、清白が佐倉の地へ辿り着き、列車を降りたのは大分日が陰った頃だった。更に中原の邸宅へ辿り着く頃。辺りはゆっくりと夕暮れの気配を纏い始めていた。
「ここか」
西の空が茜色に染まる少し前に三人はようやく目的地である邸宅へ辿り着いた。
そこは、椿の垣根に周辺をぐるりと囲んだ、武家屋敷の名残を残す建物だった。
門を探そうと歩きだすと、垣根の枝がガサガサと揺れた。
「なんだ?」
立ち止まり暫く様子を伺っていると、椿の枝を無理矢理に折り、葉や枝の破片を付けた人影が飛び出して来た。
「っ!?」
咄嗟に隼人は腰のホルスターに装着していた拳銃に手を回し、拓は清白を自身の背に隠すようにして警戒を始めた。
「…ッ、あんたっ」
「はあ、はあ……赤羽君?月代君?」
「春樹さん!」
ズレた眼鏡を直し、垣根から飛び出してきた人影はたまたま目の前にいた三人を見るなり、ホッと肩の力を抜いた。
それは、隼人達も同様だった。
「なんであんな所から出て来たんだよ」
ボロボロになった衣服を纏う春樹の肩を支え、隼人は今まさに彼が姿を現した垣根を凝視する。
「話はあとだ、ここを離れたい…」
「分かりました。歩けますか?」
隼人とは反対側に回った拓は春樹の腕を自身の肩に回し、隼人と共に両側から支える。
「隼人、調査は中止。駅に戻るよ」
「ああ、元々目的は春樹さんの行方を探ることだったしな」
拓と頷き合い隼人達は元来た道を戻り始める。すると、さっきまで目的地であった邸宅の中から悲鳴や怒号、銃声などの音が聞こえてきた。
何か騒動が起こっているのは一目瞭然だった。一刻も早くこの場を後にしなければと思いつつ隼人達はあぜ道を歩いて行く。
いつしか日が暮れ、互いの顔も分からない程の夕闇が迫っていた。
日が落ちた事で寒さも相まって傷を負い弱っている春樹には些か応える状況だった。
「春樹さん、これ」
「ありがとう、助かるよ…」
拓は自身が来ていた上着を春樹の肩に羽織らせた。春樹の恰好は着物に袴を穿いているとは言え、あちこち擦り切れていた。
夕闇に染まるあぜ道を駅に向かって進んでいると、背後から車のエンジン音が響いてきて隼人は一瞬歩みを止めた。
「まずい、追ってかもしれねえ」
「道の脇に隠れるしか」
背後から迫ってくる一台の車両の気配に隼人達は周囲を見渡して身を隠せそうな場所を探す。だが、あぜ道の真ん中にそのような場所はなかった。
迷っているうちに、目映いライトの光が四人を照らし出した。
「隼人!拓!」
ライトの光に顔を顰めていると、一台のトラックが彼等の横をすり抜け、運転席から声がかかった。
その声にはっと顔を上げると、トラックに乗っていたのは東京にいる筈の真澄と雪之丞だった。
「真澄さん!?」
「早く荷台に乗れ!南天、手伝ってやってくれ」
荷台に向かって真澄が声を掛けると、幌で覆われた物資輸送用の荷台に乗っていた南天が顔を覗かせた。
「ボクが引き上げるので、まずは怪我人を」
隼人と拓に支えられている春樹を示して南天は二人に声を掛ける。
それに応じて隼人と拓は春樹を荷台へと乗せた。
「ありがとう…助かっ…」
自分を引き上げてくれた人物に礼を言おうとして、不意に春樹は目を見張って声を詰まらせた。
「いえ、マスターからの要請ですから」
突然驚いた顔を向けられ、南天はキョトンとしたが、直ぐに現状を思い出して春樹を奥へ誘導した。
春樹が奥に乗ったのを確認した隼人は、次に清白を荷台に軽々と担ぎ上げると、そのまま奥へ押し込んだ。
「赤羽さん…乱暴すぎる…」
「少し我慢しろ。ほら、拓、行くぞ」
隼人が卓の手を掴んで荷台に引き上げた所で、南天は運転席に声を掛けた。
「マスター収容完了です」
「よし、全員しっかり掴まってろよ」
南天の合図を聞き、真澄はアクセルを踏み込むと、そのままトラックを走らせ始めた。
ガタガタと揺れるトラックの荷台の中で、南天と隼人は後方に控えて追手がないかをずっと監視していた。
その横顔を春樹は胡乱気な表情で見つめ、思わず呟きを零した。
「…何故、ここに……」
「春樹さん?どうかしましたか?」
春樹の傍にいた拓は、偶然にもその呟きを聞いてしまい小首を傾げた。彼の視線の先にいる南天を見遣り、更に拓は疑問を浮かべた。
「南天君がどうかしまいしたか?」
「あ、いや…少し知り合いに似ていた気がして…人違いだね」
「春樹さんがいない間に隊に入った新入りだよ。そこの清白と後数人。特夷隊も大分大所帯になったんだ」
「そうなのか…これは、隊長の人脈の賜物かな?」
隼人が降って来た話題に春樹はそれまで入れていた肩の力を抜いた。本当なら何故あの邸から自分が出て来たのかを知りたいだろう彼等は、それには一切触れず、一年の空白など感じさせない様子で気さくに話しかけてくれている。それがこれまで孤独と戦っていた春樹には有難かった。
「春樹さん、少し眠ったらどうですか?
トラックの荷台に背中を預け春樹は拓の促しに頷いた。
「ありがとう。少し眠らせてもらうよ」
ようやく緊張の糸を解く事が出来、春樹は安堵すると同時に一瞬で深く眠りこんだ。
その様子を反対側から見つめていた清白は、思わず眉を顰めて春樹を暫く観察した。
(この人…もしかして…)
春樹のある事に気づいた清白は、ふと荷台の外を見据えて警戒を続けている南天の横顔を見つめた。
何故南天を見た時にこの春樹という人が顔色を変えたのか、清白は気になった。ある憶測は浮かんでいたが、それは詰め所に戻ってから話そうと決め込んだ。
蟲毒の術を行う為の洞窟の封を解いた瞬間、中は突然白煙に包まれた。
異臭を放つ煙に最初に飛び込んだ中原が咳き込み、その後ろから洞窟に入った鮫島も顔を顰めていると、洞窟の暗闇の中から現れたのは、赤い瞳の黒い熊だった。
「これが今回の成果ですか?」
鮫島の更に後方から様子を伺うヘルメスは顔の下半分を袖口で隠しながら、洞窟の中に燦燦と浮かぶ禍々し赤を見据えた。
「他に生き残りがいなければこれがそれになります」
微かに震える声で中原はヘルメスの問いに答えた。
それにヘルメスは短く「そうですか」と答えて横に控えていたアレスに目配せをした。
「はいよ」
ニヤリとほくそ笑み、ヘルメスの要請に答えてアレスは腰に帯びていた剣を抜いて中原の前に立った。
「な、何を…」
困惑する中原の前で、アレスは剣を握る、と熊が彼等目掛けて突進してきた。
喉の奥で悲鳴を上げて顔を隠す中原と軍刀を引き抜く体制を取る鮫島の目の前で、アレスは上段から剣を振り下ろし、向かって来た熊を一刀両断した。
熊の身体が額から胴体を突き抜けて左右に分かたれる。
黒い血を迸らせながら巨体を地面に横たえた熊は、黒い煙を上げて黒い結晶へ姿を変えていった。
「ああ、折角の成果が…」
「こんなの使い物になるかよ。司祭様、これでいいんだろ?」
「ええ、我々が制御の出来ないものなど、野良の怪夷と変わりませんからね。中原殿、大変申し訳ありませんが、そういう訳ですので」
「お、お待ちくださいっもう一体、もう一体いる筈なのです、これは副産物に過ぎ…」
肩を震わせ中原は顔面蒼白でヘルメスの足元に縋ると、必死に弁明を始めた。
そんな彼を鮫島は横から蹴りを入れて地面へ転がした。
「貴様、往生際が過ぎるぞ」
「まあまあ、少佐殿、そのくらいで。祭事部の力がないとあれの制御は厳しい。彼には今後も今まで通り動いて頂きましょう」
憤る鮫島を宥めヘルメスは己の失態に身を震わせて地面に這いつくばる中原の前に膝をついた。
「中原殿、今後もどうぞよろしくお願いします。貴方には祭事部の術を色々融通して頂きたいですからね」
「勿論です!この中原、国の為に精進いたします」
地面に額を付けて深くひれ伏し、中原はまだ自分に利用価値がある事を確信して安堵した。
そんな彼の小さくなった背中を見下ろしてからヘルメスは踵を返した。
「鮫島殿、アレス、東京へ戻りましょう」
スタスタと歩いて行くヘルメスの後をアレスは駆け足で追い、その横に着くと、そっと耳打ちを行った。
「司祭様、あの混乱の中で一人逃げたけど、ほっといて良かったんだよな」
「ええ、よく我慢出来ましたね。偉いですよ、アレス。あれはいわば囮。彼等がどう動くかを見たい為のもの…恐らくもう合流しているでしょうし、それを使って色々探りを入れるつもりです」
ふふと不敵に笑うヘルメスにアレスは深く頷いた。
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朔月:次回の『凍京怪夷事変』は…
暁月:春樹の救出に成功した真澄達。衰弱した春樹は詰め所で三好の治療を受ける事になり…
朔月:第七十五話「堕とされた者達」次回もよろしく頼むよ。
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