第六十五語ー賽は投げられた
市ヶ谷にある陸軍省本部内。
先日の夜間に行われたある積み荷の搬入と、それを狙った襲撃事件はあれだけ大規模だったにも関わらず、省内ではそれほど話題にされていなかった。
(…やはり特に噂もなしか…)
朝月の同期であり、諜報活動に長けた中野士官学校出身である純浦は、先日の一件に関わった一人である。
警視庁からの依頼がひと段落した後も軍内部の情報収集を進めていた。
普段は広報部に所属している純浦は、士官や将校達の噂話や他愛もない世間話に日々耳を立てているが、これといって襲撃の件は話題に上らない。その時点で例の一件は上によって揉み消された事が確定していた。
ただ、それとは別にある噂話が広がっていた。
陸軍省内に、ドイツ帝国から招いた研究者が滞在することになったらしい。
その一団の為に省内の区画が割り振られたという。
(…その一団というのは、東雲君達が追っているオルデンで間違いないだろうな…)
見当はついた。だが、省内で彼等の姿を見かける事はほどんどなく、純浦の探りも暗礁に乗り上げていた。
最初の読み通り仮にも身内である陸軍内部の詳細を探るのは純浦には困難だった。
自分に出来得る範囲で構わないというのが最初の協力要請だった事もあり、純浦は尻尾を出さないよう地道な情報収集に徹する事とした。
そんな純浦が務める陸軍省内の一角。
噂になっている彼等は搬入を終えて私室をそれぞれ与えられていた。
与えられた私室のベッドに腰掛け、ソルは静かに自身の手元を見つめていた。
その手には今もかけがえのない自身の対の感触が残っている。
「………」
ようやく巡り会えたにも関わらず、再び離れてしまった片割れ。
その銀糸の髪と少女とも少年とも見分けのつかない中性的な容姿を見た途端、それまで朧気だった像がはっきりと結ばれた。
薄暗い座敷牢の中、表情が乏しいながらにその手を伸ばしてくれた存在。
閉鎖された空間の中にあって、唯一の救いだった者の姿。
あの瞬間、ずっと蓋をしていた記憶がようやく蘇り始めたのである。
「く……」
南天と呼ばれた少年と出逢ってから、ソルの閉ざされていた記憶は日々鮮明に思い出されつつあった。
何故、自分があの者を自身の対だと認識できたのか。
時折襲うようになった頭痛が止むと、過去の出来事が甦っている。
それは喜ばしい事であり、それと同時にソル自身の現状へ対する疑問ともなっていた。
「ルーナ……必ず、迎えに行く…今度こそ…」
仮面越しに見えた対なる者の哀しげな表情。今度こそあんな顔をさせないように。
本来ここにいる目的とは異なる目標がソルの中に芽生えていた。
「はあ……」
時折襲うようになった頭痛が止むと、ソルは溜息を吐いた。
すると、私室の扉をノックする音が響いてきた。
「はい」
「ソル、私です。入りますよ」
それは、自身が父と仰ぐ人物の声だった。
宣言通り扉が開かれ、入ってきたヘルメスはソルの傍へゆっくりと歩み寄った。
「調子はどうですか?」
「はい、問題ありません。司祭様」
背筋を伸ばし、先程まで頭痛に悩まされていた様子を微塵も感じさせない振る舞いでソルは自身の主を出迎えた。
ソルの言葉にヘルメスは穏やかに微笑むと、話を始めた。
「ここに日がな一日いては気が滅入るでしょう。暫くは休暇としますから、街にでも出てみてはどうですか?横浜とは、また違う趣がありますよ」
「…分かりました。気が向いたら」
ヘルメスの気遣いにソルは深く頭を垂れた。ソルやオルデンの幹部達は別に囚人や軍人ではない。ある程度規律を護れば自由な行動も許されている。
搬入が終ってから数日、部屋に引き籠もりがちのソルを心配してのヘルメスの提案だった。
それに素直に頷いたソルは、一度外に出てみようと考えた。東京は自分にとって無関係の場所ではない。
まだ記憶の曖昧な部分も多い。
何故自分がこの御仁に拾われたのか、その理由は未だ思い出しておらず、何故対であった筈の片割れと離れ離れになったのか、根本的な部分は封じられたままだった。
(自分が何者か、もしかしたら分かかもしれないな…)
己が属するオルデンに対する奇妙な疑問。それを決定付けるのは、自分をはっきりと思い出してからでも遅くはないだろう。
「街へ出れば、貴方の対の居場所も分かるかもしれません。見つけたら直ぐに保護をしなくては」
「はい。襲撃をするような野蛮な者達の手に我が対を明け渡しているのは、正直虫唾が走ります」
「そうですとも、ようやく再会できたのに、今度は二度と離れないようにしませんとね」
ヘルメスの労わりの言葉にソルは強く頷いた。
(そうだ…私は必ずルーナを見つけ出す…あの子は私の大切な片割れなのだから…)
ぐっと拳を握り締め、ソルは決意を新たにヘルメスの言葉を飲み込んだ。
「折角ですから、少し散歩にでも出てきます」
「それはいいですね。今日は少し寒いですから気を付けて」
ベッドから腰を上げてソルはヘルメスに一礼をして部屋を出て行く。その背中を見送るようにヘルメスも部屋を出た。
廊下の向こうにソルの姿が消えていく。完全に見えなくなった所でヘルメスは背後にいる人影に声を掛けた。
「…しばらく動向を見守ってください。対象と接触出来たら、直ぐに報せるように」
背後で控えていた人影は、小さく頷くとその場から音もなく消え去った。
「やれやれ…記憶が戻るのは結構ですが、あらぬ方向に行かれては困りますよ。貴方は、我々の計画に必要不可欠なのですから」
不敵な笑みを零し、左目のモノクルを光らせてヘルメスは廊下の向こうを見つめた。
歯車はとうに動き出している。後は、必要な材料を手に入れるだけ。
「…少し前倒しになりますが、計画を遂行しましょうか…」
誰に聞かせるでもない独り言を呟き、ヘルメスは僧服の裾を翻して歩き出した。
南天が快方し真澄の生活も一先ず特夷隊の隊長としての物へと戻った。
日常が戻ってきた事に安堵する者も多かったが、新たな課題も生まれていた。
定期連絡会として設けられた政治部と軍部との会合の席で、ある人物からの追及を受けていた。
資料と思しき書類を手に座席を立ち、ピンと伸ばした背筋で朗々と報告をするのは、陸軍の軍服を纏った初老の男。
白髪交じりだが、いまだ黒い髪を鬢付け油で固め、齢60に近いというのにそれを思わせない声量と姿勢は、見る者を圧倒する。
陸軍中将・
「近年、旧江戸城にて封じられている筈の怪夷を目撃したという民間人の報告が後を絶えません。先日は、我々陸軍省の本部がある市ヶ谷の付近でも怪夷が目撃されたという。閣下、この件に関して怪夷専門の私兵をお抱えの貴殿はどうお考えか、お聞かせ願えますか?」
会議場の一番中央に腰を下ろした柏木は、普段と変わらぬ平然さで中島の報告への応答を始めた。
「その件に関しては、こちらも対応しております。近頃は出現する怪夷も凶暴化しているようで、九頭竜少佐も悩んでいると報告を受けています。そろそろ、具体的に旧江戸城の方をどうにかしなくてはなりませんね」
穏やかな表情のまま、柏木は中島を注視し、更に同席している祭事部の幹部達へも視線を注いだ。
「討伐はともかく、封印ともなれば、祭事部のお力が必要でしょう。聖剣に頼らない新たな怪夷封じの術式など、考えて欲しい物ですが…」
ワザとらしく肩を竦める柏木に、祭事部側から息を飲むのが聴こえてきた。
それに気づかないフリをして、柏木は更に発言を続けた。
「怪夷の件に関しては、九頭竜少佐に一任しております。が、私も彼等への協力は惜しみませんし、こちらでも定期的にご報告しますよ、中将閣下」
「ほほう、だがもし民間人に危害が及ぶような事があれば、陸軍としても黙ってみている訳には参りません。もし手に余るようでしたら、いつでもお力をお貸ししますぞ」
ギラリと光る獣の如き視線を柏木は真っ向から受け止めた。
見えない火花が陸軍中将と大統領との間で散っている。
その異様な気配に、その場が凍り付く中、それを打ち破る声が響いた。
「怪夷出現の件は、もうしばらく特夷隊及び大統領に任せて良いのではないでしょうか?仮にも怪夷への対応をそちらに譲ったのは、我々陸軍自身なのですから」
手を挙げて発言をしたのは、中島中将と同じ陸軍である人物だった。ただし、その人物は陸軍の中でも参謀本部という部署に所属する人物だったが。
陸軍参謀本部少将・
「今だ市民への被害は出ておらず、目撃情報もあくまで噂話にすぎませんし。今閣下達を追及するのは場違いかと。我々参謀本部としても、この件には注視しておりますが、仮にも命を張って我々が国防に専念できるよう慮ってくれている彼等には感謝をすべきかと」
若いながらその家柄故に少将まで上り詰めた栗原の堂々とした発言に、中島は肩眉を僅かに動かした。
それでも、平静のままで栗原の発言に一理あると頷いた。
「そうですな。もうしばらく閣下達のお手並み拝見と参りましょう。ですが、もし手が足りないようであれば、我々陸軍は協力を惜しみませんよ。過去の発言を反故にして頂きたいという都合のいい事は申しませんが…」
「そうして頂けると我々も有難い。陸軍には今後も日ノ本の安全と国土の防衛に専念して頂ければ。世論には勿論従いますがね」
胸の前で手を組み、いつもと変わらぬ人の良さそうな笑みを浮かべて柏木は中島を見据えた。
「そういえば、近頃特夷隊には新規入隊もあったと聞きますが、戦力が増えるのは良い事ですな。そのような優秀な人材の確保の方法、是非我々にも伝授頂きたい」
「はは、そんなの私の人徳あってでしょう。陸軍も屈強な者達が揃っておいでではないですか。いやあ、日ノ本はまさしく神の国。これからもしっかり防衛に勤めてくださいね。中将閣下」
前髪の下から、鋭い視線を向けて柏木は中島との間に更に火花を散らした。
その様子を端から見守っていた真澄は、思わず腹部を摩って内心溜息を吐いた。
会議を終える頃には日が陰り、夕暮れが大統領府の執務室に迫っていた。
護衛任務も兼ねている為、真澄はそのまま柏木と共に大統領執務室へ下がる事になった。
部屋に着くなり、緊張から解かれた柏木は大きく溜息を吐き出すと、自身の机の椅子にどかりと腰を下ろした。
「そうカリカリすんなよ」
「ふん、あの震災の時に渋っていた連中が今更口出ししてきて、何様だ」
机にふんぞり返った柏木は憤りを露わにして目の前の真澄に愚痴を零し始めた。
「確かに、怪夷に関しては俺達が引き受けたが、本当なら陸軍が扱っていい案件だったのは否めない…なんせ、怪夷討伐を担っていた防衛軍は陸軍の前身だし、先の戦線までは陸軍が怪夷と戦っていた訳だし…」
「む、九頭竜君はあの中島の肩を持つのか?」
「いや、そうじゃない…だが、陸軍がこの間の襲撃犯の正体が俺達だって気づいていて、敢えて言ってこないって可能性もあるだろう?」
例の南天奪還の襲撃は、目的が目的とは言え、陸軍に喧嘩を売ったようなものである。
向こうがもし襲撃犯の正体に気づいていたら、それはそれで面倒な事になる。
「それに関しては、怪夷の気配を察知した特夷隊が駆けつけたら、陸軍が怪夷に襲われていたと報告をしただろう。もし相違があるなら、とっくに向こうも何か言ってくるだろう?」
柏木の意見に真澄は納得しつつ、疑問も感じていた。
「陸軍が怪夷を兵器に仕立てているなどという事が知られれば、司法部や俺達政治部からの追及は逃れられないだろう。現に、司法部はこの間の囚人失踪の一件から陸軍に対して不信感を募らせているしな」
真澄達も関わっていた囚人失踪事件の真相は、陸軍が借り受けた囚人達を怪夷化していたという事だった。
まだ公にはされていないが、司法部並びに警視庁から陸軍への捜査の手が入るのも時間の問題だろう。
暴いた事によって、よからぬ飛び火がないか真澄は内心気にかけていた。
「それと、中島中将が南天達鞘人の存在に気づいていないといいが。怪夷を手中に収めたいなら、聖剣を宿した鞘人は邪魔かもしれないし、逆に利用される可能性もある」
「そうだな…オルデンがどうして南天を攫ったのか、その理由もまだはっきりとはしていないしな…」
「オルデンか…変な連中と関わってくれたものだな、陸軍も」
中島が何かしらオルデンと繋がっているのははっきりとしているし、目的も明確だ。
黒幕は分かっているが、これからどんな事を仕掛けてくるかまではまだ見当がついていない。慎重になってしかるべきだった。
「しかし、あの中島の発言と栗原少将の発言は、彼等が協力関係にないという事をはっきり示していたな…」
会議での栗原の発言、身内である陸軍の中将をまるで窘めるような物言いに柏木は眉を顰めた。
それは真澄も感じていて、あの場で栗原が柏木の肩を持つのは意外だった。
「陸軍も一枚岩ではない…それは、俺がいた頃から変わらない。栗原少将は参謀本部にあってなかなか切れ者だしな」
共に戦線に立った事はないが、歳も近く何かと噂は聞いていた。
真澄の栗原への評価が思いの外好評な事に柏木は目を見張って口を鳴らした。
「案外、陸軍も腐ってはいないと?」
「一部の力ある者達が独断でこの件を進めている可能性はある。ただ、確証はなし、これ以上の深追いも危険だと俺は思っている。そろそろ特夷隊も別な方へ動き出さないとな」
唐突な真澄の話に、柏木は首を傾げた。彼が何か考えがあるのを察した柏木は、徐に机の引き出しを開けた。
手を突っ込み中から取り出したのは日本酒だった。
「その話、詳しく聞こうじゃないか」
「おい、まだ俺は職務中だぞ…これから巡回のグリーフィングだってあるのに」
どんと音を立てて机に置かれた一升瓶を前に真澄は眉根を寄せた。
会議の後、柏木はかなり荒れる。愚痴を聞くのはいつもの事だが、まだ真澄には職務が残っていた。隊長としてそれをほっぽり出して酒に興じれるほど不真面目でもなかった。
「私の愚痴も聞いて欲しい。これも職務内だ。それに、南天の快方への祝い酒でもある」
「また都合のいいこと言って…飲みたいだけだろ」
「家では妻に遠慮して飲めないからな。付き合え」
今にも一升瓶の蓋を空けそうな柏木に真澄は溜息を吐いた。
「少し待ってろよ、後で付き合ってやるから…それより、お前に話さないとならない事がある」
「ほう、酒が入る前にか?」
不敵に笑らいながらの問いかけに真澄はこくりと頷いた。お互いに酒は強い方だが、愚痴を零しあうとなると、恐らく深酒をする。そうなっては話したい話もきちんと出来ないと真澄は分かっていた。
驚くなよと前置きしてから、深呼吸をして真澄はこれまでの数日胸に秘めていた事を柏木に進言した。
「雪之丞の所在が判明した」
「っ、まさか、あれだけ調べて分からなかったのにか?」
ガタンと、柏木は思わず腰を上げて真澄に詰め寄った。今にも矢継ぎ早に質問をしてきそうな柏木を宥めて真澄は淡々と話を始めた。
最初は驚きながら話を聞いていた柏木だったが、段々と冷静になっていき、やがてゆっくりと椅子に腰を下ろした。
「信じられないかもしれないが、事実らしい」
「…まさか、現実は小説より奇なりとはな…だが、見つかってよかった…」
机に組んだ手の上に額を載せて柏木は安堵の溜息を零す。雪之丞の身を案じていたのは何も真澄だけだはなかった。顔には出さなかったが、柏木も己の一部がはぎ取られたような気持ちはしていたのである。
「それで、雪之丞をこっちに戻すのに儀式が必要なんだが、いい召喚場所がないかと」
「なるほど…今まで鞘人とやらを呼ぶのにも寺社仏閣を拠点にしていたな。それを今度は秋津川君相手にやろうというのか」
「そうだ。出来れば縁のある場所がいいんだが…」
「古い寺社の方がいいだろう?なら、一つ心当たりがある」
軍都・東京の地図を広げ、これまで鞘人が召喚された場所に×印をつけながら、柏木はある一カ所にだけ〇印を付けた。
「ここは、秋津川家の邸宅の傍だ。それに、ここは古くからこの街の守護を担ってもいる」
「なるほど…確かに的確な場所かもな」
地図上に示された場所を見つめて真澄は深く頷いた。
真澄と柏木が選んだ場所。そこは千駄木にある根津神社。ツツジの名所ともして知られる江戸の頃より庶民に親しまれた神社。
「宮司には私から話をしてみよう。まあ、吉報を待ちたまえ」
「ああ、頼むよ」
ホッと安堵する真澄の目の前で不意に柏木は腰を上げる。机を挟んで対面していた位置から移動し、真澄の横に立つとその肩を突然抱き締めた。
「…よかったな。見つかって」
耳元で囁かれた一言に真澄は、ぐっと唇を噛み締めた。
まだやる事はあるが、この五年という歳月がようやく報われたような気がして真澄は柏木の肩に額を押し付けた。
柏木が雪之丞を呼び寄せる場所を根津神社と提案してくれた話は、真澄から直ぐに桔梗達鞘人の耳にも入った。
「根津神社…わたくしも名案だと思います」
「うん、あそこは私も小さい頃に参った事があるから、よく知っているし…上野も近いからいいと思う」
「よかったですわね。場所の算段がついて」
顔を付き合わせた鬼灯達は場所の選定が直ぐに決まった事に安堵していた。
後は、きちんと整えて日取りを決めるだけである。
「南天も全快したし、後はオルデンの動きを止めるだけ。よし、目的達成まであと少しだね」
ぐっと伸びをして桔梗はのんびりと簡潔に物事を纏める。だが、それに対して鬼灯は落胆気味に肩を竦めた。
「隊長、いうのは簡単ですが、まだ色々残っていますよ。オルデンがどうして日ノ本の陸軍に近づいたのか、怪夷を何故こちらでは制御できていないのか」
鬼灯の話に桔梗は姿勢を正して首を傾げた。
「それもそうか…僕等のいた時代だと、この頃に怪夷の流出はなかったんだよね。そうなると…やっぱり色々解明する事があるか」
「少なくとも、オルデンに関しては未だ謎が多い。南天を攫った件や怪夷化歩兵を造り出す技術の出所も突き止めないと、また同じような連中が出てきては困ります」
隊長である桔梗にそう進言しながらチラリと鬼灯はこの場に出席している南天を見遣る。
同じ仲間であり、大事な弟分であるが南天自身にも大きな謎が残っている。オルデンとの繋がりも否定できない事から鬼灯は南天に関わる情報も集めなければと考えていた。
「オルデンのソルの存在も気になる処ですし…南天も、自分が何故対なんて呼ばれていたか知りたいですよね?」
唐突に鬼灯から質問をされて南天は仲間達を見渡してから、こくりと頷いた。
「うん、なんだろう。あの人には懐かしい感じがしたんだ…出来る事なら、ボクも自分が誰なのか知りたい…」
五年より前の記憶がない南天にとって、その記憶の糸口になるかもしれないソルという存在は、ようやく見つけた手掛かりでもあった。
「でしたら、南天、少し危険ですが自らソルに接触してみてはどうでしょう?まあ、いつ会えるかは分かりませんが」
「鬼灯、流石にそれはリスクが…」
鬼灯の提案に困惑した竜胆が思わず声を上げる。
だが、それを鬼灯は手で制して南天の答えを待った。
心配そうな視線と追及するような視線に挟まれて南天は、暫く口を閉じてからゆっくりと顔を上げた。
「…分かった。その任務、引き受けるよ。ボクも暗部の端くれだし」
「ふふ、そう来なくては。よろしいですね?隊長」
「あ~う~ん、あんまりもう南天に危険な橋渡らせたくないんだけど…撒き餌も時には必要か…うん、本人が納得しているなら、それでいいよ。でも、ちゃんと報告はしてね」
「分かった」
少し躊躇いはありつつも南天のブレない眼差しに促され桔梗は任務を正式に伝える。
それに南天は快く応じて敬礼をした。
「それでは、場所も決まった事ですし、ドクターへ連絡をしましょう。清白」
「了解」
話が纏まった所で清白は待っていましたとばかりに黒い板状の機械を操作して通信を繋ぐ。
これが、作戦開始の合図である。この通信が繋がれば、向こうにいるドクターはこちらに戻る為に動き出す。
これは、儀式の準備が整うまでに清算すべき時間を作る為の連絡だった。
電子音が数度鳴り響いた後、運命の通信が繋がった。
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暁月:次回の『凍京怪夷事変』は…
朔月:それは、過去の出来事?それとも未来の出来事か…
暁月:第六十六話「悪夢の始り」次回もよろしくね!
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