第五十六話―秘密の会議
赤煉瓦倉庫での潜入作戦を終えた真澄達は、明け方特夷隊の詰め所へと戻ってきた。
各々が倉庫の中で行われていた状況と持ち帰った証拠品を手に、報告書の作成や次の一手への思案、共同戦線を張っている警視庁や陸軍内の内通者への連絡を取る為に動く。
その中で、鬼灯は自身の仲間達を医務室へと呼び寄せた。
話があると呼ばれた鈴蘭と清白は、医務室へで鬼灯と顔を付き合わせた。
医務室の主である三好は、理由を付けて助手の天童と共に外出している。これは、鬼灯達の目的を知る三好なりの気遣いだった。
医務室にある簡易の椅子を持ち寄り、三人は円になるように椅子を三つではなく四つ配置した。
三つの椅子には、鬼灯、鈴蘭、清白が座り、四つ目の椅子には清白が普段から持ち歩いているノート状の板を立てかけた。
三人だけで話せる機会を得た鬼灯は、改めて現状を鈴蘭と清白へと伝えた。
「鈴蘭も清白も巡回でお疲れの所すみませんね」
「別に、大したことありませんわ。それより、どうでしたの?赤煉瓦倉庫での守備は」
椅子に腰を下ろし、鈴蘭は向かいに座る鬼灯へ問いかけた。
鈴蘭も清白も例のオルデンの事は鬼灯に任せている。それは、彼が元情報士官でそういった情報戦に関しては自分達よりも優れているからである。
もとより鈴蘭としては自身の使い手として選んだ桜哉と共に怪夷の討伐に出ている方が性に合っていた。
鈴蘭の促しに鬼灯は一呼吸おいてから、己が横浜の地で見聞きしてきた事を語り出した。
「まずは、単刀直入に申し上げますが、オルデンと陸軍の怪夷化歩兵実験は既に実用段階まで進んでいます。正直、ここまで実験が動いているとは思いませんでした」
鬼灯の嘆息交じりの話に、鈴蘭はおろか清白までが頬を強張らせた。
「それ、まずいんじゃないの?確か、オルデンの日ノ本上陸は年末のだったんじゃ…」
「ええ、わたくしもそう予測していましたが…どうやら、少し流れが変化しているようです」
「オルデンの上陸はこの際仕方がないとして、怪夷化歩兵の実験が進んでいるのはまずいですわよ」
鈴蘭からの指摘に鬼灯は深く頷く。現時点で連中が強化された歩兵をどこまで制御できるかは不透明だが、怪夷と化した兵が軍都・東京に放たれれば大問題である。
自分達が聞いていた情報との差異が思いの外出ている。
ならば、それに対抗する術を早急に打たねばならない。
赤煉瓦倉庫への道すがら、鬼灯はある事を実行すべきとずっと考えていた。
「そこで、一つ提案があります」
人差し指を立てて鬼灯は神妙な面持ちで口を開いた。
「次の満月の晩、残りの鞘人をこちらに召喚する儀式を行います」
そこから出た内容に、鈴蘭も清白も大きく息を飲んだ。
「鬼灯、それは些かリスクが高すぎますわっ南天がいない中でそんな事をすれば、何が起こるか分からない」
「理屈は分かります。しかし、陸軍の行動が思ったよりも進んでいるとなると、急がなくてはいけません。我々に残された時間はもうあまりない。その中で、こちらの体制を万全に整え、オルデンと陸軍が計画している案件を阻止する為に動かなくては」
「ですが、それで仲間と聖剣を失う事になっては、本末転倒ではなくって?」
鬼灯が出して来た提案に鈴蘭は珍しく声を荒らげた。これまで、自分達の副隊長であり、こちらの実質的な纏め役である鬼灯の考えに鈴蘭は従ってきた。だが、今鬼灯がやろうとしている事を鵜呑みには出来なかった。
「清白も何か言いなさいな」
「でも…時間がないのは事実だ…来年の二月までに、後何回満月があるの?既にオルデンは上陸しているのに…」
鈴蘭に睨みつけられ清白は視線を彷徨わせる。
「ぼ、僕達が召喚を行えるのは満月の日だけ…それを逃せば、もっとリスクは高くなるよ…」
鈴蘭から目を逸らすように清白は、自身の手元にあるキーボードの付いた板状の機器を覗き込む。そこには、彼等がリミットと考えている二月までの満月の予測が映し出されていた。
「貴方まで…」
清白の援軍を得られなかった事に鈴蘭は舌打ちする。と、再び鬼灯を見据えた。
「勝算はありますの?」
「これまでの傾向から、多少のリスクは伴いますが、霊脈の安定と時間、後は触媒でカバーすればどうにか、というのがわたくしの予測です」
正し、五分五分ですと付け加えて鬼灯は肩を竦めた。
これまで、鞘人をこちらへ呼ぶ召喚は、慎重にやってきた。
その理由は、彼等があちらと呼ぶ場所が本来ならあり得ない場所だからだ。
歪みを生み出すかも知れない危険を伴いながら、これまで鬼灯達はそれを成功させてきた。
何故それが出来たのか、未だに謎な部分が多い。自身がその身に宿す聖剣の御業か、それとも聖剣を生み出した出雲の神々の加護によるものか。理由ははっきりしないが、鬼灯達の行ってきた術式はあり得ない事を可能にしていた。
『…いいんじゃない』
鬼灯と鈴蘭が睨み合う中、重い空気を払拭する軽快な声が、響き渡る。
その声が聴こえてきたのは、座る者のいない空白の椅子に置かれた、板状の通信機。
淡く光るそれから響いてきたのは、アルト音の男の声だった。
『時間がないのは事実だし、ここは一つ賭けに出ようじゃないか』
鬼灯の提案を肯定する声に、鈴蘭は悲鳴のような甲高い声で抗議した。
「ドクター!それでよろしいんですの!?それは、
板状の通信機に向かって鈴蘭はますます甲高い声で訴える。
鈴蘭の訴えに通信機の向こう側にいる人物は、肩を竦めて自身の意見を音声に乗せた。
『二人なら大丈夫だよ。僕の隣で賛成している。それに、十月の月は力が強い』
「貴方の賛成を得られるなら、直ぐに準備に掛かります」
『うん、鬼灯、君に任せるよ。大丈夫、きっと上手くいくさ。まあ、近くに南天がいれば一番いいんだけどね』
「それについては一つ希望があります」
ドクターの憂いに応じるように鬼灯はいつもの不敵な笑みを浮かべた袖口で口元を隠した。
「赤煉瓦倉庫に南天がいました。運よく接触が出来ましたので、彼に発信機と位置情報の探知器を忍ばせてきました。清白、それで南天の居場所をいつでも把握できます。南天の周辺の会話なら拾う事が出来ますでの、何かと情報も得られるかと」
鬼灯の唐突な情報開示に鈴蘭と清白は更に驚かされた。
南天が連れ去られた先が赤煉瓦倉庫で今もオルデンと共にある。それは予想していたが、鬼灯が捕虜となっているであろう南天と接触出来たとは思いもよらなかった。
「そういう事は先におっしゃってくださらない?」
「南天は、無事だったの?」
「ええ、傷は負っていましたが、治療はされていました。どうやら、南天を連れ去ったオルデンの人物は彼を無下に扱うような人物ではないようです」
鬼灯の報告に黒い板の中から反応が返る。
『蘭陵王の仮面をつけた人物か…それに関しては調べたけど、こっちにも資料がない。何者なんだい?』
「南天が言うには、太陽を司る者だとか。オルデンに関してはそもそも詳細が少なくてドクターも存在くらいしかご存じないのですよね?」
鬼灯の問いかけに相槌が打たれる。
『彼等がドイツ軍と日ノ本陸軍の結び付けたのは間違いない。けれど、どんな存在かは僕も知らないんだ。五年より前から暗躍していたなら、少しは僕の耳にも入ってた気がするんだけど…』
自身の記憶を辿るドクターの話に鬼灯は頷くと、更に話を続けた。
「そして、南天の情報から彼等が近いうちに赤煉瓦倉庫を出て東京の陸軍の施設へ移動を計画しているようです。その時に南天の救出を実行します」
鬼灯の口から出た言葉に鈴蘭と清白、黒い板の向こうで話し合いに参加しているドクターが息を飲んだ。
「召喚の当日までに南天の救出が出来れば通常通り。満月の日までに南天の救出が行われていなければリスクはありますが、触媒を使います」
鬼灯の作戦を聞きふと、清白はある事に気が付いて挙手をした。
「鬼灯…もし、満月の日がその奴等の動く日だったら?」
唐突な清白の問いに鬼灯は、暫し思案してから不敵に微笑んだ。
「南天の救出と召喚を同時に行います」
まさしく、それは大博打だった。
『流石鬼灯、考える事が違うな』
「呑気すぎますわよドクター…」
鬼灯の提案に鈴蘭は額を押さえて椅子に深く座り込んだ。
「…でも、やるしかないんでしょう?」
膝を抱え、覚悟を決めた様子で清白は鬼灯を見据える。
ここに来た当初、不安げだった清白はどういう心境の変化か逞しくなった。
自信に満ちた清白の問いかけに鬼灯は深く真剣な顔で首を振る。
「…分かった。南天に付けた盗聴器と発信機の信号教えて。僕がモニタリングする」
「ええ、お願いします」
袖の中から黒い小さな箱を取り出し鬼灯は清白にそれを手渡す。
「召喚場所の目途は立っていますの?」
深く息を吐き、肩を竦めて気持ちを切り替えた鈴蘭はさっきまでの嘆きの表情とは打って変わる軍人としての顔で鬼灯に問いかけた。
「ちゃんと一か所残していましたので。江戸の裏鬼門の護りを担う社。日枝神社をポイントにします。あそこは周辺に愛宕神社や増上寺などの護りの拠点が存在しますし、品川から市ヶ谷に向かう際に通過する場所です。わたくしと南天の召喚時が鬼門である上野でしたから、丁度対に当たる位置です」
鬼灯の説明を聞き鈴蘭は深く頷いた。
「承知したわ」
「ドクター、当日までに二人のコンディションを整えてください。恐らく、相当消耗するかと」
椅子の上に乗せられた黒い板に鬼灯は声を掛ける。
『分かった。こちらでも出来得る限りの準備をしておくよ』
通信機の向こうから聞こえてくる楽しげな声に、鬼灯はホッと胸を撫で下ろす。と、背筋を伸ばして頬を引き締めた。
「それでは、各自行動開始です。必ず、残りの仲間を無事に召喚できるよう、尽力しましょう」
纏め役の号令に、清白は大きく頷き、反対をしていた鈴蘭も自身が折れる形で頷いた。
仲間達との話が纏まり鬼灯は早速行動を移すべく真澄がいる執務室へと向かった。
「九頭竜隊長」
丁度、大統領への報告を済ませて戻ってきた真澄と出くわした鬼灯は、手を挙げて真澄に声を掛けた。
「鬼灯、昨晩はご苦労だったな」
「いえ、隊長こそお疲れ様でした」
胸元に手を添えて鬼灯は丁寧に腰を折る。顔を上げた瞬間、不意に真澄の顔が曇っているのに鬼灯は目を円くした。
「すまない、南天を救出できなくて。お前ならもしかしたらあの場で南天を助け出せたんじゃないのか?」
赤煉瓦倉庫への潜入時、鬼灯は南天の傍まで近づいて安否を確かめる事が出来た。ならば、自分が号令を出せば彼は南天をそのまま救出してこれたのではないか。
そんな思いが真澄の胸を過っていたが、鬼灯は首を査収に振って否定した。
「いいえ、あの場で南天を連れて逃げるのは恐らく難しかったでしょう。わたくしも幾度も潜入作戦は行ってきましたが、情報を得るためのそれと仲間を救出する為のそれではそもそも作戦の内容が異なります。あの場で無理に南天を救出していれば、我々にも危険が及んでいました。むしろ、朝月様を止めて下さった事に感謝を」
「そうか…お前がそういう考えなら俺も助かる」
「ふふ、隊長の苦労はそれなりに知っていますから」
袖口で口許を隠して微笑む鬼灯に真澄は何故か救われた気がした。
いつもと変わらない鬼灯の態度はとてもありがたいものだった。
「それで、その南天の救出の件なのですが、一つ提案があります」
ようやく本題を切り出した鬼灯の話に真澄は耳を傾ける。
「南天からの情報で、現在赤煉瓦倉庫に潜伏しているオルデンは、近々市ヶ谷の陸軍施設内に拠点を移すようです」
鬼灯からもたらされた内容に真澄は眉を顰めた。
「まずいな、それは」
「ええ、奴等が陸軍の施設に入ってしまえば、恐らくもう手出しは出来なくなります。その前に南天を救出する必要があるかと」
鬼灯の見解に真澄は深く頷いた。今はまだ赤煉瓦倉庫という半分無法地帯にいる彼等は陸軍と繋がっているとはいえ、その警備はそこまで厚くはない。だが、市ヶ谷という陸軍の本丸に逃げ込まれてはもう真澄達が南天を救出するのは不可能に近くなる。
そうなる前になんとしても南天を救出しなくてはならない。
「ですから、いっその事、オルデンが移動する時を狙ってはいかがでしょう?彼等の情報はこちらでどうにか入手出来そうですので、日にちを察知する事は出来ます」
思いもよらない鬼灯の提案に真澄は一瞬面食らったが、なるほどと唸った。
「確かに、輸送中を襲撃すれば上手く南天を救出できるかもしれないな」
「どうにかこちらのルートへ引き込めばそれも容易いかと」
「分かった。それで動けるよう作戦書を纏めてくれ。俺も出来る限り協力者を募ってみる」
自身の提案に賛同し許可をくれた真澄に鬼灯は深く頭を下げた。
残りの仲間を呼ぶ儀式の事もこれから先に起こるであろう最悪の事態の始まりを防ぐ目的も勿論だったが、鬼灯としても一刻も早く南天を救いだしたいのが本音だった。
暗く冷えた中、鎖に繋がれ寒さに身を丸めた弟分をそのままにしておくなど、鬼灯は赦せなかった。
(南天が何故連れ去られたのかについての謎は残りますが…それよりもまずは南天を救う事をしなくては…)
一抹の不安はある中で、鬼灯は自らこの大博打に打って出る覚悟をした。
それは、全てを好転させる為の一縷の望みでもあった。
鬼灯から南天救出への作戦を打診された真澄は、早速その旨を隼人に伝えた。
「分かりました。警視庁に頼んで当日その近辺で検問を敷いて貰えるように協力を要請します」
「ああ、悪いな」
「今回の囚人失踪事件の犯人を突き止めたんだ。向こうもそれなりに協力はしてくれますよ」
ニヤリと、自身が纏めた先の赤煉瓦倉庫での潜入の際の報告書を掲げて隼人は不敵に笑った。
司法部の管轄である小菅監獄の囚人達を断りもなく人体実験の材料にしていた事が明るみに出れば、陸軍も暫くは大きな口を叩けなくなる。
大統領擁護派である革新派の司法部は穏健派の陸軍が自ら生み出してしまった牽制の材料を手に入れた。陸軍相手に後悔の辛酸を舐めさせることが出来るだけでも、警視庁にとっては大きな成果だろう。
「この件を持ち出されたら陸軍も少しは大人しく検問に従うでしょうしね」
今回の件に協力をし、証拠まで掴んだ特夷隊への礼をするのに警視庁はこの件をきっと引き受けてくれる。隼人にはその確信があった。
「真澄さん、南天必ず助けてやりましょう」
「ああ、そうだな」
真澄があの場で冷静だが断腸の思いで決断をした事に隼人は気付いていた。だからこそ、一日も早く南天を真澄の下に帰してやりたい。そう思っていた。
真澄達特夷隊の潜入作戦があった三日後。
横浜の港にある赤煉瓦倉庫の中では蜂の巣を突いたようにバタバタと白衣を着た研究者や陸軍の兵士達が動き回っていた。
研究資料や資材が次々に箱の中に詰め込まれ、机や椅子、資料棚などの家財道具が運び出されていく。
あちこちで様々な者たちが指示を出された場所に荷を運び、様々な声が飛び交って騒がしくなっていた。
足枷に付けられた鎖で繋がれた南天がいる倉庫内でも、兵士達が忙しなく荷物を運び出し、その騒がしさに南天は壁際に身を寄せて息を潜めていた。
「ゴホっ、ゴホっ…」
荷物と人が行き来する度、床や箱の上に積もりに積もった埃が舞い、南天はその埃っぽさに咳き込んだ。咳き込むと痛み止めを服用していても背中の傷が痛むので息苦しさと疼痛に南天は顔を顰めた。
(一体…何が起きているんだろう…)
唐突に始まった荷物の運び出しに困惑していると、入口の方から見慣れた人影が誰かを連れて現れた。
「ゴホっ、ゴホっ、…なんだこの埃っぽさは…もう少し静かに運び出せないのか…」
咳き込んだ後、呆れた様子で呟いたソルは、埃が舞う中で壁際に蹲っている南天に気づくと、弾かれたように傍へ駆け寄った。
「ルーナ」
苦しげに何度も咳き込んでいる南天の背中をソルは慈しむように優しく摩る。
顔を上げた南天を覗き込みソルは埃を被った南天の銀色の髪をそっと払った。
「ルーナ、すまない。引っ越しの準備が始まったようでな」
ソルの言葉に南天は、以前ソルから聞かされたここから移動するという話を思い出す。どうやら彼等はこの赤煉瓦倉庫を捨てて次の場所へ移るらしい。
「移動は二日後。それまでもう少しここで待っていてくれ。当日、私は部隊の指揮を執らねばならないから傍にはいられないが、このユピテルがお前を連れて行ってくれる。心配せずとも信頼のおける者だ」
そう言ってソルは後ろに控えていた大男を振り返った。
南天も自然とその視線を追ってユピテルと紹介された男を見遣る。
「ユピテルと申す。お前の事はリーダーであるソルから言い遣った。当日は拘束に加えて目隠しをさせてもらうが、乱暴に扱う事はないと約束しよう」
二メートルを超すであろう大柄な体躯を折って床に膝をついたユピテルは、南天の前で穏やかな声音でそう告げた。
真っ直ぐに目を合わせてくる男に南天は敵意がない事を察して、強張っていた身体から力を抜いた。
「当日は東海道を通り、品川宿から北上し、旧江戸城の西側を通って市ヶ谷に至る。お前も含めて我々は皆、車での移動だ」
南天を安心させる為にかソルは当日どのように進むかを南天へ説明した。
「不安だろうがここから移り終わるまで辛抱してくれ。市ヶ谷に付いたらお前の部屋を用意させるからな」
優しく南天の頬を撫でてソルは仮面の向こうから穏やかな眼差しを南天へと向けた。
ソルとユピテルを交互に見遣り、南天は同意を示すように小さく頷くと、再び咳き込んだ。
ソルの手が、優しく南天の背中を撫でる。
激しく咳き込み肩を震わせる南天の背中をひとしきり撫でたソルは、忙しなく荷物の運び出しをしている兵士達を睨みつけた後、再びユピテルと共にその場を去って行った。
去り行くソルとユピテルの背中が見えなくなった後、床に顔を俯けるようにしながら南天は微かな声で呟いた。
「…プランC」
二日後の夕刻。
東の空には少しオレンジ色の掛った真ん丸な月が昇り始めていた。
潜入作戦の時に来た黒い装束に身を包んだ真澄達は、互いに作戦書を手に準備を整える。
「隊長、横浜の検問をトラックが出発したそうです」
無線機を手にした隼人が真澄に状況を伝えてきた。
「分かった。各自準備に入ってくれ」
隼人からの報告に頷き真澄は部下達を見渡して指示を出す。
今回は特夷隊総出ででの作戦決行を選択した。
「これより、南天救出作戦を開始する」
静かだが闘志に燃えた真澄の湧き上がる声に隼人達以下特夷隊の面々は拳を突き上げて鬨の声を上げた。
**********************
暁月:さて、次回の『凍京怪夷事変』は…
朔月:ついに動き出す陸軍と謎に包まれた組織オルデン。そして、真澄達が立てた作戦とは…
暁月:第五十七話「夜半行進」次回もよろしくね!
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