第五十四話―太陽と月の邂逅
肌を撫でる風に、沈丁花の甘い薫りが混じる頃。
陸軍幼年学校の卒業式の日。
悠然と海へと注ぐ隅田川の土手で、三人の少年は共に青い空を見上げた。
あの頃はただ、夢を追いかける事に希望しかなかった。
春からはそれぞれが違う道を進む。
寂しさはあるが、少年達の胸には、確固たる決意と未来があった。
「いいか、真澄、雪之丞。俺達の道はここで別れるが、想いは一緒だ」
三人の中でリーダーであった柏木静郎の言葉は、残りの二人の胸にも静かに刻まれた。
「俺は政治で、真澄は軍部で、雪之丞は科学で、この日ノ本を良くするんだ」
「大袈裟だな...静郎は。けど、お前の言いたい事は分かるよ」
苦笑を滲ませながらも、九頭竜真澄は相槌を打つ。
「国の平和の為ってのは...なかなか大きいけど、誰もが平和に暮らせる国を造る為なら、僕も尽力するよ」
二人の幼馴染を見遣り、雪之丞は微笑んだ。
「俺達なら出来るさ。いや、成し遂げるんだ」
空に拳を突き上げる柏木に続き、真澄と雪之丞もそれに習う。
三人の拳が太陽に垂らされ、春の空に並ぶ。
希望に満ちていた時代。
どんな困難もこの絆があれば、乗り越えられると思っていた。
なのに。
目の前に広がるのは、燃え盛るかつての軍都。
建物は燃え落ち、至る所に黒焦げになった遺体が転がっている。
焼け野原と化した街を、黒い革袋を被ったような生き物が蠢いている。
転がった遺体に食らいつき、ブクブクとその身を肥えさせる。
漠然と広がる地獄絵図。
右手に握った新聞の見出しには『軍部暴走。大統領暗殺』の文字が踊り、左手には血に染まった軍服の上着が握られていた。
嗚呼。どうしてこんな事になってしまったのか。
自問自答が脳内を駆け巡る。
三人で、平和な国を造ると約束したのに。
目の前の情景は、全くの正反対だ。
何処で歯車が狂ったのだろう。
疑問はやがて、後悔となり、そして、新たな決意となって雪之丞の中に流れ込んだ。
取り戻さなくては、あるべき未来を。
その為には、あの男を止めなくては。
懐かしい夢を見た気がして、彼はゆっくりと意識を浮上させた。
薬品の臭いが染みついた実験室のソファで目を覚ましたのは、くたびれた白衣を身に纏う無造作に伸びた白髪の四十代前半の男。
日々の業務に伴う寝不足で重くなった頭を振り、男は溜息を吐いた。
「少しは休めましたか?ドクター」
すっと、差し出されたコーヒーの薫りに視線を上げると、そこには長身の青年が立っていた。
紺色の髪を肩口でボブカットに切り揃えたさっぱりとした印象の青年の手には湯気の立ち上るカップが握られている。
「ああ…
差し出されたカップを受け取り、ドクターと呼ばれた男は青年―竜胆に礼を言った。
「鬼灯達上手くやっているでしょうか?この所、定時連絡が滞っていますが」
不安を滲ませて訊ねてきた竜胆に、ドクターはコーヒーを一口飲んでから、眉を顰めた。
「そうだね。清白が彼方に無事に辿り着いたから、通信網は問題ない筈なんだけどね」
「でも、もう一週間ですよ。少し引っ掛かります」
「向こうでトラブルがあった可能性もあるからね...竜胆、鬼灯にまたこまめに連絡を取ってくれる?君達を呼ぶ準備もあるだろうし、あちらで今どんな動きがあるのか、もう少し知っておきたいから」
「分かりました。もう少しこちらからの通信を増やしてみます」
背筋を伸ばして頷き、竜胆はドクターに一礼して研究室を出て行く。
その背中を見送り、ドクターは研究室の外に視線を向けた。鉄の壁に覆われた強固な空間。ここは、帝都に程近い海軍の軍事施設だ。
ここで彼は怪夷化歩兵へ対抗する研究を行なっている。
その殆どが人体実験まがいの物ばかりだ。
それでも、帝都へと忍び寄る戦禍を退ける為にはやむを得なかった。
先日、軍都東京が陥落した。
いよいよ、西にも戦禍が広がる日が近いのは目に見えていた。
「急がないと...」
焦燥感に胸を締め付ける中、ドクターはコーヒーを飲み干した。
明かり取りを兼ねた小窓からは、数多の星々と月を眺める事が出来た。
僅かに差し込む光。その先に何があるのかを、知らずに過ごした日々。
薄暗い石で出来た部屋の天井には星図が描かれ、その家が信仰する神が記されていた。
祭壇の奥に隠されるようにしてある小部屋が、自分にとっての世界の全てだった。
物心つく頃からの過ごしていた場所は、窮屈で息苦しく、自分がいる意味すら分からなかった。
その中で、唯一自分へ向けられた優しい視線。
甲斐甲斐しく世話を焼く同じくらいの体格の人物。
狐の仮面を付け、素顔は見えなかったが、自分に向けられた視線は暖かかった。
これが、太陽というものかもしれないと、その時思ったのだ。
意識の片隅に蓋をされ、思い出そうとすれば鈍い頭痛に襲われる。
失われた記憶を思い出す方法を、南天は知らなかった。
ハッと、目を覚ました瞬間、背中に激痛が走り南天は痛みに顔を歪めて寝返りを打った。
ズキズキと痛む背中は、意識を失う前に怪夷との戦闘で負ったものだと直ぐに思い出した。
だが、桜哉を庇い、怪夷と対峙した後の事の記憶が曖昧で南天は混乱した。
(ボクは…そうだ…目の前の怪夷と倒そうとして…そしたら、誰かが…)
深呼吸をして南天は意識を失う前の事を思い出す。
桜哉の加勢を告げる声。自分達の下に駆けつけようとしていた真澄達。
それから。
(そうだ…ボク、誰かに連れ去られたんだ…)
意識を失う寸前の状況を思い起こし、南天は周囲を注意深く見渡した。
そこは、何処かの倉庫の中なのか薄暗く広い空間が広がっていた。
南天の周りには積み荷だろうか、木箱が幾つも積みあがっている。
次に南天は、自身の状況に目を向けた。
衣服はいつの間にか普段来ている狩衣のような上着から、白い小袖に代わっていた。胸元を覗くと、包帯が巻かれている。恐らく背中の傷口に巻くために前に回されたものだろう。
傷の手当てをされているが、足首には枷と嵌められ鉄の柱に鎖が繋がれている。
更に、両手にも枷が嵌められていた。
(手当をしてくれているみたいだけど、ボクは捕虜という扱いか…)
現状を注意深く考察し南天は徐に腕を摩った。
広い空間のせいなのか、何処となく寒い。
窓がないため今が昼なのか夜なのか、時間が分からない。
逃げられそうな場所はないかと見渡してみるが、武器もなく内部の構造も分からない上に、手負いである。
隙をつくにしてももう少し現状把握と情報が欲しかった。
(まずは、ボクがここに連れて来られた理由を探るのが先かも…)
暫く逡巡していると、次第に冷静な判断が出来るようになってきた。
そこで南天が思い出したのは、意識を失う前の事。
目の前で一瞬で怪夷を滅し、自分をここに攫ってきた人物の事を、南天は脳裏に思い浮かべた。その時の状況を反芻し、その人物が口から紡がれた言葉が甦る。
『やっと見つけた…我が対』
「対…?」
何の事だろうかと悩んでいると、倉庫の奥、扉らしき場所がゆっくりと開いた。
「目が覚めていたのか」
目映い光を背にして、聞き覚えのあるアルト声が聴こえてくる。
何故かその声に懐かしさを覚えたが、南天は警戒するように入ってきた人物を見据えて壁際に後退った。
倉庫に入ってきたのは、雅楽の演目などで舞われる中国の武将・
恐らく体格や年齢は自分と変わらない。そこまで推測して南天は彼が抱えているモノにい視線を落した。
仮面の少年が持っているのは、木の小箱と桶、手拭いとお湯を入れた水差しだった。
「包帯を替えに来た。気分はどうだ?列車の中で治療はしたが、傷口が化膿していないといいが」
警戒する南天の前に仮面の少年は持ってきた道具を下ろして膝をつく。
警戒心を露わにする南天に、仮面の少年は自身が付けた仮面越しに目を細めた。それが憂いの表情であると、何故か南天には手に取るように分かった。
「貴方は…?」
直ぐに危害を加えられる訳ではないと確かめてから南天は相手に問いかけた。
「我が名はソル。オルデンで太陽を司る者だ」
背筋を伸ばし、真っ直ぐに南天を見据えて名乗った少年は、まるで施政者の如く威風堂々した気配を纏っている。
「傷の手当てをさせてくれ」
右手を差し出し、招くようにソルは南天へ自分の傍に来るように促した。
ソルと名乗った人物の清廉潔白で堂々とした気配に敵愾心を感じなかったからか、それとも何故か懐かしさを覚えたせいか、南天は未だ警戒を解かないながらも、ソルの招きに応じて彼の傍に近づいた。
自然と背中を向けてソルの前に座る。
襟を緩め、肩から小袖を外して上半身だけ着物を脱いだ南天の背中には、血の滲んだ包帯が巻かれていた。
唇を歪め、ソルは傷口に触れないよう丁寧に包帯を解き、当てていたガーゼを取る。
猿の怪夷によって傷付けられた白い背中は、未だに血が滲んでいたが、抉られた肉が盛り返して治癒の兆しを見せていた。
「少し染みると思うが、耐えてくれ」
幼子に言い聞かせるように忠告してソルは、背中の傷口を丁寧に手拭いで拭っていく。
「…っ…ん…」
引き攣る痛みに南天は眉間に皺を寄せて唇を引き結ぶ。痛みに耐えながら、気を紛らわせるように南天は手当をしているソルに疑問を問いかけた。
「…どうして…こんな事を…?」
南天の問いには、敵なのにどうして助けるような真似をするのか、という疑問が含まれていた。
傷口を清める為に手拭いで拭っていたソルは、手を止めないまま南天の疑問に答えた。
「貴様が私の対だからだ…ルーナ」
ルーナと、聴きなれない単語で呼ばれて戸惑った南天の背中に、ソルは慈しむように頬を寄せた。
ソルの行動や発言が分からないまま困惑していると、いつの間にか傷口には薬が塗られ、再びガーゼと包帯で保護された手当は終わった。
「本当は、このような所に貴様を置いておきたくはないが。仲間が納得しなくてな。すまない、もうしばらくの辛抱だ」
丁寧に手当の為にはだけていた小袖の襟を直して着付けを済ませたソルは、再び南天と向き合ってその頬に優しく触れた。
「痛み止めと化膿止めだ。飲んでおくといい。後で食事を運んでくるから待っていてくれ」
愛おしげに頬を撫でられた南天は、相手の真意が分からずに困惑する。
それを分かってか否か、仮面の下で寂しげに微笑んだ後、ソルは薬の包まれた包みを置き、桶と水差しなどを片付けて再び倉庫の中から出て行った。
重たげに閉められ扉を南天は茫然と見詰める。
未だ頬に残る手の温もりを追うように自らの頬に触れて南天は、目を細めた。
得体の知れない彼の気配が完全に消えた頃、南天は徐にソルが置いて行った薬の包みに視線を落とした。
本来、捕虜の身にあって渡される薬は毒である場合が多く、警戒するべきなのだが、どういう訳か南天の中にさっきまであったソルへの警戒心は薄れていた。
それよりも、彼に奇妙な既視感を覚えていた。
本能が、何故か彼は問題ないと告げてくる。
包みの中に包まれた薬を、南天は一緒に置いていかれた水筒の水と共に流し込んだ。
苦みが口腔と喉を覆う。が、それは直ぐに消えて体内に吸収されていった。
本当に薬だったと安堵した途端、急な眠気が襲ってきた。
傷の痛みと極度の緊張から解放された反動から、南天は抗うことなく再び意識を手放した。
赤煉瓦倉庫の一角、ヘルメス達が居住区として使用する場所へとソルは戻って来た。
「ソル」
血の付いた手拭いとお湯の張られた桶を水場に持っていくソルを呼び止めたのは、ガイアだった。
「なんだ?」
歩みを止め、自分より背の高いガイアをソルは静かに見上げる。
ガイアは眉間に皺を寄せ、自身のリーダーである少年に苦言を呈した。
「仮にもオルデンのリーダーたる者が、自ら捕虜を手当するなど。本来ならあってはならないことですよ。ヘルメス様が許しているとはいえ…少しは己の立場を考えての行動を」
「貴様に言われずとも分かっている。だが、あの者は捕虜などではない。私の対だ。本当ならあのような扱い、私は認めたくはない。貴様が他の者に示しがつかないと押し切った結果だろう。忘れるな。司教様から私はほぼ全ての権限を預かっている。私のする事に口を出すな。これでも状況はわきまえている」
蘭陵王の仮面の下から、ソルは副官であるガイアを見据えた。
鋭く鋭利な視線にガイアは一歩後ろに下がって唇を噛み締めた。
「安心しろ。私は己に与えられた役目は必ず果たす。それが、司教様との盟約だからな。裏切りはしない」
冷やかな視線を向けたままソルは流れるようにガイアの前から歩き去ると、台所に立っていた金髪のシスターの傍へ歩み寄った。
「アプロディーテ、粥を作ってくれないか?」
先程のガイアへの凄みとは異なる柔らかな口調でソルはこの中で唯一の女性であるアプロディーテに声を掛けた。
二人の会話をさり気なく聞きながらソファで寛いでいた赤い髪の長身の青年は、その場で項垂れるガイアを小突いた。
「泣いてんのか?」
「まさか、何故私が…」
「まあ、分からなくもねえよ、お前の気持ち。司教様に優遇されているアイツがムカつくのも分かる」
思いもよらぬ慰めにガイアは仲間であるアレスを睨みつけた。
「慰めなど必要ないっ」
アレスの手を払いのけガイアは憤慨してその場を去っていく。
それを見送ってアレスと、同じくソファに腰掛ていた大柄な体躯を持ったユピテルは、思わず顔を見合わせ、肩を竦めた。
リビングを出て行こうと階段に差し掛かった所で、ガイアは階下から上がってくるヘルメスと、彼に従っていた湯崎と遭遇した。
「おやガイア、どうしました」
「ヘルメス様…いえ、少し外の風に当たろうかと」
不機嫌な顔のままでいた事を気に留められ、ガイアは恥ずかしさのあまりヘルメスから視線を逸らした。
「少し待ってください。全員集まっていますか?少し話があります」
階段を降りようとしていたガイアを押し戻し、ヘルメスは二階へ上がると、居住空間で寛いでいた部下達を見渡した。
「皆さんにお知らせです。近いうちに、ここを出ていよいよ東京に拠点を作ります。それまでもう少しこの横浜での生活を楽しみましょう」
ニコリと、モノクルの奥で笑みを湛えながらヘルメスはその身に纏う僧服の地位に相応しい優しい声音で告げた。
ヘルメスの傍で彼の話を聞いていたガイアは、チラリと台所にいるソルを見遣ってから、再び視線を落し、唇を引き結んだ。
苦戦を強いられながら真澄達は、思わぬ助太刀を得ながら旧ランクA相当の怪夷討伐に成功した。
残骸を回収し、一先ず詰め所へと帰ってきても尚、巡回に出ていた面々はしばらく口を閉ざし、各々詰め所内で休憩を取っていた。
「……」
帰って来るなり、異様に空気の思い六人を見渡し、大翔は困惑した。
何があったのか聞こうにも、皆一様に押し黙っていて、気軽に声を掛けられる空気ではなかった。
(一体何が…)
状況の把握をしようと視線を右往左往させていると、ふと朝月と目が合った。
真澄や桜哉、鈴蘭より比較的いつもと変わらない様子の朝月の元に大翔は意を決して近づいた。
「朝月さん、あの…」
唐突に話しかけられ、朝月は大翔の方へ視線を向ける。
「よう、通信班お疲れさん」
「あの、何があったんですか?なんか空気が重いような」
言いにくそうに訊ねて来た大翔に、朝月はちらりと周りの共に巡回に出ていた面々を見渡してから、彼等に背を向けて大翔に耳打ちした。
「え、じゃあその謎の仮面の人物に南天君が攫われたと」
「そう、旦那は追いかけられずに悔しがってて、桜哉と鈴蘭さんも自分達を庇ったせいだって悔やんでて、海静に至っては、自分の指揮が云々」
「なるほど…」
あらましを聞き大翔は現状を理解した。結界を張る事に専念していた朝月は、怪夷がいた以上手出しも出来なかった。鬼灯は、今は三好の所にいてどう思っているか分からないという。
「でも、僕が通信で伝えた通り、今回の怪夷は突然現れました。前兆である空気の澱みや、小さな怪夷の出現もなく、突然…」
「だよな。まるで、この間の市ヶ谷で保護した囚人みたいに突然だったよな」
数日前の事を思い出し、朝月はどうしたものかと思案する。
真澄に至っては、ようやく立ち直ったのにまた思い悩まないか少々不安だった。
大翔と朝月が仲間達の心配をしていると、執務室に医務室から鬼灯が戻ってきた。
「九頭竜隊長、少しよろしいですか」
自身の執務卓の椅子に腰掛けていた真澄に鬼灯は声を掛ける。それまで先刻の事で悩んでいた真澄が、ゆっくりと顔を上げて鬼灯を見据えた。
「どうした?」
「先程南天を連れ去った少年の所属が分かりました」
鬼灯が南天の名前を出した途端、真澄は跳びあがるように椅子から立ち上がる。驚愕と焦りを浮かべて鬼灯を見据え、真澄は唇を震わせた。
「一体、あれは何者なんだ?どうして南天が」
「落ち着いてください。彼等は、オルデンと自らを称する錬金術を用いた秘密組織です。ドイツやルーマニアなどの東欧羅巴に拠点を置く秘匿された集団です」
「オルデン?」
耳慣れない組織の名に真澄は、眉を顰めてその名を反芻する。
それに頷き鬼灯は更に続けた。
「もう少し後で話そうと思っていたのですが、彼等はわたくし達が追っている組織なのです。彼等は恐らく今回の囚人を使った怪夷化実験の技術提供者、ドイツ軍と精通し、陸軍とも繋がりを持っていると思われます。正直彼等が日ノ本に上陸しているとは思いませんでした」
最後の方は僅かに言葉を濁して鬼灯は真澄に説明する。
「しかし、どうして南天を連れ去ったのかまでは分かりません。ただ、彼等の手に南天を渡しておくのはいささか危険です。出来る限り早く救出が望ましいかと」
鬼灯の説明を聞いて真澄は再び俯くと、強く拳を握り締めた。
「責任は俺にある。だが、今は横浜への潜入作戦が優先だ。南天が何処にいるのか、それを探りつつ、今やるべき事をやるぞ」
「そうですね。例の実験と彼等は間違いなく関りがあります。もしかしたら横浜の潜入時に何か手がかりが掴めるかもしれません」
鬼灯は真澄が思いのほか自分を見失っていない事に驚いた。先日、南天がいなくなった後の落ち込みようは、とても一部隊を率いる男とは思えなかったが、今目の前にいる彼はまさしく戦場を駆け抜けて来た頼もしい指揮官である。
何を優先し、何を後回しにするか、感情ではなく理性できちんと判断する真澄に鬼灯は頼もしさを感じた。
「南天の件、出来る限りわたくしも探ってみます。大事な弟分ですからね」
「すまない。陸軍の案件の目途がついたら必ず」
「ええ、早急に片づけましょう」
すっと、自然な仕草で鬼灯は真澄に手を差し出す。差し出された手を真澄は迷うことなく握り返した。
(課題はまだ多くとも、この人ならきっと大丈夫だろう)
真澄の心の変化に鬼灯はこれまで真澄に抱いていた不安を払拭した。
真澄と鬼灯の間で交わされた会話に、様子を伺っていた特夷隊の面々は強く頷くと、自分達に出来る事をしようと心に誓った。
**********************
朔月:次回の『凍京怪夷事変』は…
三日月:謎の組織オルデンに囚われた南天。その身を案じながらも真澄達は横浜の赤煉瓦倉庫への潜入作戦を決行し…
朔月:第四十五話「潜入作戦」次回もよろしく頼むよ
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