第五十二話ーすれ違う陰
潮風が吹き抜ける港町。
赤い煉瓦で造られた倉庫街は、五年前の震災で被害を受け、未だ半分が壊れたままだ。
再施工の噂が流れ始める中、この人の寄り付かくなった倉庫に陸軍の関係者が出入りを始めたのは、今年の始めの事。
港から直接搬入された機材や荷物が次々と運び込まれ、日を増すごとに人の出入りは激しくなっていった。
横浜は海に面し、横須賀も近い事から海軍の領域とされていたが、今や赤煉瓦倉庫の界隈は陸軍とその関係者の溜まり場と化していた。
日ノ本初の防火扉の備え付けられた先。薄暗い倉庫内には人の身長程もあるガラス製の筒上の容器が並び、緑色の液体が満たされている。
容器の中、緑色の液体の中でぷかぷかと浮かんでいるのは、黒い皮膚を持った生き物。
ソレと対峙した事がある者なら、一目でその正体が分かっただろう。
本来ソレは、人間が制御できるような代物ではない。
研究室の如き光景の中、黒い詰襟の異教の神を信仰する僧服に身を包んだ男は、ガラス容器の中で息づく生き物を愛おしげに見つめていた。
「もう直ぐ実験も最終段階。そろそろ実験をしてみようと思うのですが、いかがでしょう?」
後ろに控えている陸軍の軍服を纏う男に、ヘルメスは語りかけるように提案を持ちかけた。
「よろしいかと思います。我々の上司も一刻も早く次の段階へ進むのを望んでおります。特夷隊に嗅ぎつけられる前に」
ヘルメスに従っていた陸軍士官―鮫島少佐はヘルメスの提案に頷いた。部下からの報告で警視庁が囚人の失踪に付いて調査しているというのが上がっていた。先日市ヶ谷の陸軍省からも囚人が一人行方知れずになっている。
これ以上隠し通すには限界が近づいているのが、陸軍としての本音だった。
「では、三日後の新月の夜に行いましょう。月が隠れた夜は、相性がとても良いですから」
「承知致しました。直ぐに手配を」
ニコリと微笑むヘルメスへ敬礼をして、鮫島は準備の為にその場を去っていく。
協力者の背中を見送ったヘルメスは、実験室から更に奥にある自身達の居住区画へと歩を進めた。
防火扉を開け、二階へと続く階段を登る。その先は倉庫の中とは思えないこ空間が広がっていた。
絨毯が敷かれた床に、欧羅巴から運ばれた家具が備え付けらている。開けた空間には長方形のダイニングテーブルと椅子が七脚並んでいた。
その奥にはソファとソファの高さに合わせたテーブルがあり、リビングのような空間では、自身が大陸から伴ってきた仲間達が寛いでいた。
リビングとして使用している空間に設置されたソファには、手元の本に視線を落としている黒髪の青年とソファに寝転ぶシスター服を身に着けた金髪の女。二脚ある一人掛けのソファ席では大柄な大男と赤い髪の長身の男がトランプゲームをしている。
ダイニングテーブルには、ノートに何かを書きつけている釣り目がちの細い目の男がいた。
「皆さん、最初の実験の日が決まりました」
ヘルメスが部屋に入って来ると、寛いでいた仲間達は顔を上げ、背筋を正して彼の方へ視線を向けた。
「ついにですね。司祭様」
ソファに座り、読書をしていた黒髪に灰色の瞳をした青年が、嬉しそうに声を上げた。
「待ちくたびれたぜ。これからは久し振りに暴れられんだろ?」
「まだそこまでは。そうですね、今回の実験が上手くいけば、作戦の日取りも前倒しになるでしょう」
手にしていたトランプをテーブルに置き、赤毛の男が八重歯を剥き出しにして好戦的な笑みを浮かべる。
それにヘルメスは肩を竦めて応じた。
「なんにしても、事は慎重に運ぶべきだな…アレス、我々の行動次第で、陸軍の動きも変わる」
赤毛の男とトランプをしていた大柄な大男は、大地の底から響くような低い声音アレスと呼んだ赤毛の男を窘めた。
「ユピテルさんのおっしゃる通りですわ。作戦実行の前に勘付かれてはそもそも計画自体実行に移せませんもの。10年前の教訓を生かさないと」
「アプロディーテのいう通りですね」
ソファに寝転がっていた金髪のシスター―アプロディーテの意見に彼女の隣にいる黒髪の青年は頷いた。
「皆さんがやる気に満ちている事は良く分かりました。教授、三日後の新月に実験を行いますので、制御用の呪符の用意をお願いできますか?あれは、私では作れないので」
ダイニングテーブルの一角に座っていた線目の男にヘルメスは声を掛ける。
「ええ、承知しました」
教授と呼ばれた男はノートから視線を上げて不敵に嗤う。彼は、ヘルメスが小菅の監獄から連れ出した湯崎だった。
「ガイア、ソルは何処にいますか?三日後の実験には貴方とソルの2人を同行させます。その事で話をしたいのですが」
ガイアと呼ばれた黒髪の青年は肩を竦めて部屋の奥を指差した。その先にはテラスに出る為の窓がある。
「我らがリーダー様はここに入ってから暇があると外を眺めています」
「そうですか。では、会いに行きましょう」
ニコリと微笑みヘルメスはガイアに教えられた窓辺に爪先を向ける。
「私も行きます」
持っていた本をテーブルに置き、ガイアはヘルメスの後を追う。
ヘルメスより先に窓辺へ着いたガイアは、ヘルメスが通れるように自ら重い窓を開けた。
ガイアを労いヘルメスがテラスのようになっている通路に出ると、倉庫の突き当りに当たる場所に銀髪の少年を見つけた。
海から吹く潮風にバタバタと揺れる銀色の髪には、後頭部に紐が結ばれ、それが風に靡いていた。
「ソル」
名前を呼ばれ、海を眺めていた少年がゆっくりと背後を振り返る。
顔半分を覆う能や狂言の伝統芸能で舞われる演目、中国の北宋でその名を馳せた美貌の武将・蘭陵王の仮面をつけた少年は、自身の名を呼ぶ男を振り返ると、自然な流れで敬礼をした。
「なんでしょうか。司祭様」
「例の実験体を放す日取りが決まりました。三日後の夜、東京へ向かいます。貴方はガイアと共に私に同行してください」
「承知しました。要件はそれだけでしょうか」
淡々とした口調で応じると、ソルは興味を失くした様子で再び倉庫の外に広がる海へ視線を戻す。
「ソル、司祭様にその態度はなんですか」
他の仲間達と明らかに違うソルの態度をガイアは窘めた。だが、当のソルはそんな事はお構いなしに視線を海の方へ向けたまま動かない。
「ソルっ」
「ガイア、そのままにしておいてください。ソルにとっては、今回は久し振りの里帰り。郷愁に浸っているのでしょう」
「しかし…仮にもリーダーである者が、貴方にあのような態度では周りに示しがつきません」
小言の一つや二つ言ってやろうとしたところをこともあろうことかヘルメスに止められ、ガイアは唇を引き結んだ。
「ソルは良くやってくれています。あの子の統率力は必ず発揮されます。貴方達幹部は太陽を補佐するのも役目ですよ。多少の気紛れは大目に見てあげなさい」
優しく肩を叩かれガイアは複雑な思いで頷いた。自分達の長たるヘルメスに言われてはそれ以上強く出る事が出来なかった。
「それに、あの子にはあの子の役目がある。捜しているのです、見失った己の片割れを。それを見つけ出した時、ソルの真の力が発揮されるでしょう」
踵を返しながらヘルメスは肩越しにソルの華奢な背中を見つめた後、ゆっくりと歩き出す。
上官である男の意味深な言葉に首を傾げた後、ガイアはチラリとソルを振り返って見据えてから、ヘルメスの後を追って足早に歩き出した。
ヘルメスとガイアの会話を遠くに聞きながら、煌めく水面に視線を向けていたソルは、まるで吐き出すように呟いた。
「…必ず見つけて見せる…我が対…」
新月の近い夜の軍都・東京。
大きく揺れる八角形の羅針盤に似た器具の針が激しく揺れる。
針が指し示す先には、黒い革袋を被ったような影が蠢いていた。
赤く禍々しく光る二つの目を目掛け、白銀の閃光が閃いた。
直後、黒い革袋は音を立てる事もなく引き裂かれ、夜の闇に闇よりも濃い血飛沫を上げて次々に灰となって消えていく。
十数体群れていた怪夷があっという間に駆逐され、影が蠢いていた場所には灰と黒い石のような残骸と赤い破片が散らばっていた。
地面に転がる残骸を見下ろし、白銀のナイフを手にした人影は、こちらに近づいてくる足音に気づいてその場から素早く立ち去った。
「隊長、怪夷の反応が消失しました」
「今夜もか…」
八卦盤の反応を頼りに怪夷の発生現場へと急行した真澄達特夷隊は、既に地面に残骸となって転がる怪夷を見つめて眉を顰めた。
ここ数日、怪夷の反応がある場所へ駆けつけると、必ずと言っていい程怪夷の反応が途中で消失した。
念のため現場を訪れると、地面には今夜のように怪夷の残骸が転がっている。
地面に転がった怪夷の核の破片の前に膝をつき、真澄はそっとそれを拾い上げた。
「隊長、この数を一人で倒せるなんて何者でしょうか…」
今宵の巡回組である桜哉は地面に転がる怪夷の残骸を見渡して、首を傾げた。
「さあな。余程の手練れってのだけは分かる。けど、なんの為に…」
「鋭利な刃物で切り裂いている感じがします。ランクDとは言え、これだけの数を一人で倒したというのは…」
桜哉同様に巡回組に配属されていた海静は、眉を顰めて周囲を見渡した。
怪夷の討伐にはまず結界を張る役目を担う者が必ず一人必要であるのが、古くからの因習だった。
本来、刀や銃弾などの物理攻撃が通用しない異形に対し、結界を張る事でその攻撃が意味を成す形に変化させている。
怪夷の力を弱める以外にも結界を張っての討伐には重要な意味がある。だが、それをせずに十数体もの怪夷を討伐出来る手練れ。
「結界なしで怪夷を討伐出来たのは、それこそ英雄様達が持っていた聖剣くらいでしょう」
結界を張った形跡がないのを確認して大翔も首を傾げた。過去の時代ならまだしも、現代でそんな芸当が出来るのだろうか。
「…聖剣か…」
現場の様子を眺めて真澄はチラリと、桜哉と契約している鈴蘭を見る。
真澄に視線に気づいたのか、鈴蘭はそ知らぬふりでニコリと微笑んだ。
(…まさかな…いや、なら、どうして姿を見せない…?俺がいるからか…)
周囲を見渡し真澄は、不意に夜空を仰ぐ。月の力が弱くなった夜空には、輝きの強い星々が瞬いていた。
秋の空は強い光を放つ星々は少ないが、夜中ともなれば冬の星座が顔を出してくる。
東京は蒸気の煙に阻まれて星はあまり見えないが、冬の星座が形作るダイヤモンドは肉眼でもはっきりと見えた。
白く寒々と輝く星を見つめ、真澄は同じ空を見つめているであろう人物を想う。
「残骸を回収して一度詰め所へ帰還する。新月も近くなってきたから、今夜も警戒を怠るな」
「了解」
隊長の号令に頷き、特夷隊の隊員達はいつものように怪夷の残骸を拾い集め、一路詰め所へと戻って行った。
人気がなくなった頃、物陰から人影が現れる。
左側の一房を三つ編みで編んで垂らした銀色の髪に、左耳に蒼い房の耳飾りを付けた、狩衣に似た衣服を身に纏う小柄な少年。
紅玉の瞳に白磁の肌をした美貌の少年は、真澄達が去っていった方角を静かに見つめる。
大統領府内にある特夷隊の詰め所からいなくなって一週間。
「…マスター…」
暗闇の中にいなくなった気配の残り香に南天は小さく溜息を吐いた。
ゆっくりと昇り始めた朝日の中、筵に包まって眠いっていた南天は、僅かに身じろいで目を覚ました。
大統領府から離れた海岸沿い。木材の置き場が軒を連ねる一角、小さな神社の社の下を南天は借宿にしていた。
着の身着のままで飛び出してきてしまったせいで、手持ちの荷物は巡回で持って行っている備品と愛用の武器くらいだった。
それでも、元々暗殺部隊の暗殺者として訓練を受けている南天に取って、僅かな荷物で野営をするのはそれほど難しい事でも苦痛でもなかった。
山の中や過酷な環境ではなく、今彼がいるのは軍都・東京。仮にも街中である。
屋根のある場所は幾らでもあったし、食べ物もどうにかなっていたので、さほど苦労はしていなかった。
一人で考える時間を取れたのも、南天にとっては良い選択だったのである。
嵐の夜。真澄から言われた言葉を、南天は暫く理解できずにいた。理解できないのに、胸が痛み、苦しさに喘いだ後、浮かんできたのは、疑問だった。
何故、真澄はあんな事を言ったのか。
恐らく、真澄自身、例えそれを思っていたとは言え、本当なら口に出さないでしまっていた筈である。
真澄の真意を考えてみたが、どうにも答えは出ない。けれど、真澄達の下に戻る事もどうしてか出来ず、この神社の社を拠点にして過ごしていた。
清白が八卦盤を改良してくれたお陰で、真澄達特夷隊より早く怪夷討伐を遂行出来た。
本来なら、合流してしかるべきだが、今の南天も真澄が悩んだのと同じように、どうして戻りたいと思えないのだった。
感情の無いと自ら言っている通りに、南天は自分の中に湧き上がる思考に、名前が付けられないでいた。
それでも、先回りして怪夷を討伐し、駆けつけた特夷隊の姿を陰から見守る事を数日続けているのは、真澄の事が心配だったから。
(…そろそろ戻らないと鬼灯や鈴蘭に怒られそうだな…でも…)
社の床板を見上げ、膝を抱えて南天は自分を弟のように思ってくれる仲間の顔を思い浮かべた。
この東京にやって来た目的を果たせず、その役目すら放棄した状態の自分を、仲間達はどう思っているのか。
申し訳ないと思いながらも、南天はどうしても特夷隊の詰め所へ戻る気になれなかった。
弱弱しくも差し込む朝の陽ざしの中、暫く思考を巡らせた後、空腹を感じて南天は社の下から這い出すと、食料を調達に街へと繰り出した。
特夷隊としての怪夷討伐の職務をこなしながら、横浜への潜入作戦の情報集めを行っていた真澄の下に、一通の封筒が届いた。
機密文書を示す刻印の押されたそれを受け取り、中を覗くと、そこに入っていたのは待ち望んだものだった。
「六条大佐には感謝しないとな」
ニヤリと自身の義弟の顔を思い浮かべ真澄は執務室にいた隼人に声をかけて、届いたばかりの資料を手渡した。
「隼人、横浜港一帯の地図と、倉庫街の構造図だ」
「流石、海軍にパイプあるだけありますね…こんな精密な資料、どうやったら入手できるんですか」
真澄から渡された有力な情報に隼人は苦笑する。元陸軍の将校である真澄の情報網に隼人は舌を巻いて吃驚した。
「それについては企業秘密だ。それより、使えそうか?」
ニヤリと笑う真澄に促され、隼人は渡された地図や図面を見つめる。倉庫街が建設された当時の物だが、恐らく大きく構造は変わっていないだろう。そこには図面にしては細部に至る書き込みがされていた。
この資料を真澄に提供してくれた人物の細やかな性格を表しているような情報源に、隼人は大きく頷いた。
「十分過ぎます。ありがとうございます」
「他に積み荷や船舶の出入りの帳簿もある。そこから奴等の潜伏先を割り出してくれ」
「はい、任せてください」
背筋を伸ばし、力強く返事をする隼人に頼もしさを感じながら、真澄はホッと肩の力を抜いた。
「悪い、一度家に帰ってくる。南天が出て行ってから全然帰ってないからな。着替えを取って来たい。任せていいか?」
「はい。夕方まで少し休んできてください」
「ああ、頼んだ。今夜は新月だから俺も後で巡回に合流する。何かあったら連絡をくれ」
副隊長である隼人にその場を任せた真澄は、ここ数日帰っていなかった御徒町の自宅へと帰宅した。
家の管理は殆ど店の運営を任せている晴美に頼りっきりで、碌に自分では掃除も出来ていなかったが、家の中は清潔が保たれていた。
今日は仕入れの為に喫茶店は休業らしい。そんな予定も知らないまま、真澄は日々を過ごしていた。
『みい~』
玄関を上がり部屋に入ると、ふよふよと黒い塊が漂ってきた。
南天が世話をしている怪夷化した黒猫、くろたまだ。
球体の身体に猫の耳と尻尾を生やしたくろたまは、真澄の帰宅を出迎えるように足元に擦り寄った。
「なんだ、寂しかったのか?悪い、南天は一緒じゃないんだ…」
じゃれつくくろたまを抱き上げ、真澄は円らな瞳を見つめて表情を曇らせた。くろたまも本当は自分より南天の帰りを待っていた筈である。
真澄の言葉が伝わっているのか、くろたまは尻尾をゆらゆらと揺らし、真澄の頬に頬刷りをした。
「気にしてないってか…」
南天が戻ってこない事を寂しく思っているのだろが、何故か察しのいい所があるこの生き物は、真澄と南天が一緒にいない事を分かっているのか、真澄を慰めるような仕草をしてくる。
「ありがとうな」
くろたまをそっと解放し真澄は二階にある寝室へと向かう。その途中にある閉じられた一室は、南天の部屋にと宛がった部屋だ。
閉ざされた扉を暫く見つめ、胸の奥で疼いた痛みに唇を噛み締めて真澄は自身の寝室へ向かった。
東京の街を夕闇が包み込み、紺色のベールが空を覆った頃。
東海道の最初の宿場町であった品川へ貨物列車が進入する。
貨物のコンテナに記された文字には、陸軍の紋章が刻まれていた。
貨物列車が東京駅に辿り着き、貨物列車専用の路線の停車場に止まると、コンテナがゆっくりと開かれた。貨物列車が運んできた荷物は、人の背丈の倍はありそうな巨大な鉄の箱。
鉄の箱は三つあるそれらが、今度は待機していたトラックに憲兵達の手によって積み直されていく。
積み荷をトラックに移す作業だけで二時間は掛かった。
その間にも東京の夜は深くなり、やがて時刻は夜半を過ぎようとする頃へ差し掛かった。
トラックへ積まれた積み荷から、ガタガタと内側から何かが叩く音が響いてくる。
訓練された憲兵達も、その不気味な音にびくりと肩を震わせた。
「流石は新月ですね。人工物とはいえ、月齢の魔力に過敏になっている」
トラックに詰まれた鉄の箱を見上げ、貨物列車とは別の列車で東京へとやってきたヘルメスは、まるで我が子を愛おしむかのような双眸で見つめ、鉄の箱を優しく摩った。
「ヘルメス殿、どちらでこれらを放ちましょうか」
「そうですね、旧江戸城の近くは瘴気も濃くていざという時に制御が効かないでしょう。佃島当たりなら多少被害が出ても問題ないでしょう。恐らく、今宵も彼等が討伐にくるでしょうから」
不敵な笑みを浮かべてヘルメスは指示を仰いできた鮫島の部下に、行き先を伝えた。
「了解いたしました。お車を用意しましたので、こちらにお乗りください」
憲兵に促され、ヘルメスと彼に従って同行してきたソルとガイアは、三人揃って車に乗り込んだ。
月のない真っ暗な夜の闇の中、不気味な三つの鉄の箱が列を成して東京の街中へと運ばれて行く。
その一時間後。特夷隊の詰め所では、方位盤と八卦盤がけたたましい警報を同時に鳴らした。
**********************
三日月:次回の『凍京怪夷事変』は…
弦月:新月の軍都・東京に放たれる怪夷。真澄達が向かった先で待ち受けるものとは…!
三日月:第五十三話「隠された月」次回も、よろしくお願いします。
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