第四十三話-鏡花水月

 目映い光がゆっくりと飛散していく。南天、鬼灯、鈴蘭が囲む陣の中央に立っていたのは、全身にフードの付いた黒いパーカーを纏う小柄な少年。その表情は目深に被ったフードで見えないが、緑色の瞳が目の前に立つ南天を見つけるなり、大きく震えた。


清白すずしろ……」


 自分の目の前に立つ仲間を前に、南天はゆっくりとその名前を呼ぶ。直後、フードを被った少年は地面を蹴って飛び出し、倒れ込むようにして南天に腕を伸ばした。


「南天!」


 飛び込むように抱き着いてきた清白を南天はしっかりと抱き留める。すると、清白は目一杯腕を伸ばして南天にしがみ付いた。

 細い腕に強く抱きしめられ南天は、ポンポンと清白の背中を撫でる。

 暫く南天にしがみ付いてから清白はゆっくりと顔を上げ、自分より少し目線の高い南天を見つめた。


「南天、僕やっとこれたよ」

「うん、待ってた」


 こくりと頷く南天に清白は頬を紅潮させてはにかんだ。


「さて、清白、南天。感動の再会はその辺でいいですか?」


 微笑ましい年下達のやり取りを見守っていた鬼灯が、ポンと手を叩いて二人の興味を現実へと引き戻した。


「無事に召喚も終わったので、詰め所に戻りましょう。清白を九頭竜隊長達に紹介しませんと」


 少年二人のそれぞれの肩に手を置き、鬼灯はこちらを静かに見守っている朝月達特夷隊の面々を示した。

 ギャラリーがいる事に気づいた清白は不安そうに眉を垂らし、南天の腕にしがみ付いた。


 突如光の中から現れた少年を、朝月達は興味深そうに見つめる。


「今、突然現れましたよね…」

「一体何処から出て来たんだ…」

「本当に人が来るなんて思わなかった…」


 身を寄せ合い、朝月、桜哉、海静は驚きを隠す事もなくひそひそと会話を交わす。

 その様子に鬼灯はやれやれと肩を竦めた。


「主様、我々の目的は終わったので、詰め所に戻りましょう」


 鬼灯に声を掛けられ朝月は、思わず背筋を伸ばす。


「おお、そうだな。その新しい仲間についても色々知りたいしな」


 南天の腕にしがみ付いて隠れるようにしている清白に、朝月は気さくに笑いかけた。朝月の視線が自分に向いている事に気づいた清白は、少しだけ身をせり出して、興味深げに朝月を見遣った。

 話が纏まった所で、南天達は特夷隊の詰め所へと戻った。



 巡回に出ていた真澄達が戻ってきた所で、鬼灯は真澄の下に清白を紹介する為に連れて行った。

 当の清白は南天にしがみ付いたままだったせいか、結果的に南天もその席に同席する事になった。

 執務机の前に立つ鬼灯達を見遣った後、真澄は南天の後ろに少し隠れ気味に立つ新たな顔を見遣った。


「その少年が、新しいお前達の仲間か?」

「ええ。名前は清白と言います。清白、ご挨拶してください。特夷隊の隊長である九頭竜真澄少佐です」


 鬼灯に肩を押され、清白は緊張した面持ちで鬼灯と南天を見遣ってから、ゆっくりと前に出た。


「初めまして、す、清白といいます…よろしく、お願いします」


 緊張で固くなった声を絞り出し、清白は精一杯の挨拶をした。


「俺はこの特夷隊で隊長をしている九頭竜真澄だ。よろしく頼む」


 肩を丸め、首を縮めて丸くなっている少年を前に、真澄はゆっくりと椅子から腰を上げ、手を差し出した。

 背格好は南天や大翔達と同じくらいだが、その少し怯えたような表情は軍人と呼ぶにはかけ離れた印象を受ける。

 米国ステイツの若者が着るようなフード付きのパーカー姿からは、彼がどんな分野に長けているのか想像しずらい。


(この子も南天達同様に聖剣を宿しているのか…)


 南天や鬼灯と同じ存在であるからには、五本ある聖剣のうち、どれかを宿しているのは明白だったが、目の前に立つ少年の雰囲気からそれを推測するのは難しかった。

 南天に出逢った時とは違う印象に、真澄は内心吐息を零した。


「清白、握手」


 緊張で固まっていた清白に南天は声を掛けた。自分に掛けられた声に、ハッと顔を上げた清白は目の前に差し出されている真澄の手に気づいて、慌ててその手を取った。


「よ、よろしくお願いしますっ」


 上擦った声音で必死に言い切る清白に、真澄は子供にかけるような穏やかな笑みを掛けた。


「鬼灯、この子大丈夫なのか?」


 清白の手を優しく握り返してから真澄は保護者然としている鬼灯に視線を移した。


「問題ありません。彼は少々コミュニケーションが不得手なだけで、技術者としての腕は保証します」


 ニコリと商人が自慢の商品を紹介するような笑みを浮かべて清白を推す鬼灯に、真澄は再び清白を見遣ってから相槌を打った。


「そうか…」


 再び南天にしがみ付いている清白の様子に、少しだけ不安を覚えながら真澄はいつも通り新規隊員が来た時と同じ対応を指示した。


「まずは清白の健康診断と、制服の採寸してもらってくれ。三好先生のとこだ。それが終ったら今夜はもう上がっていいぞ」

「ありがとうございます」


 一先ず真澄に受け入れてもらえた事にほっとした鬼灯と南天は、お互いに視線を合わせてから清白を真澄の指示通り、清白を三好がいる医務室に連れて行くため、その場を後にした。


「あの人が九頭竜真澄…」


 執務室を出て医務室に向かう中、ぽつりと呟いた清白の声に、南天と鬼灯は耳を傾けた。


「そうですよ。我々が護るべき対象者です」


 鬼灯の答えに清白は眉を寄せて南天に視線を向けた。


「南天と契約してくれない人…本当にいい人なの…?」


 不安げな清白の表情に、南天は困惑した。こちらでの状況は定期的に向こうへと伝わっている。南天と真澄の契約が進んでいないのも伝わっていて清白はその事を酷く心配しているとは聞いていた。

 だが、目の前の清白の表情からは心配をしているというより、真澄への不信感が滲み出ていた。


「清白、貴方が南天の事を心配しているのは分かりますが、九頭竜隊長はドクターにとって大切な人。我々の生存にも関わる人ですからね。しっかり護らないと」


「それは…ドクターからの任務は遂行するよ…僕も、軍人の端くれだし…だけど…」


 チラリと南天の顔を覗き込んだ清白は、更に不安を募らせた顔で唇を引き結んだ。


「南天…大丈夫…?」

「え…?」


 突然、自分を気に掛ける言葉を言われて南天は、思わず歩みを止めた。

 大きく目を見開き、清白を凝視する。その紅玉の双眸には驚愕と疑問が入り混じっていた。


「南天…無理してる?なんだか、心がざわざわしてる…さっき、九頭竜隊長の傍にいた時よりましだけど…」


 思わぬ指摘に南天は、僅かに唇を持ち上げて何かを言いかけてから、小さく首を横に振った。


「何でもないよ。マスターとの事は確かに今の課題だけど、ボクは任務を遂行するだけだから。清白もしっかりやらないとね」


 清白の気遣いを受け入れつつも南天は、清白の危惧を否定した。いつもと変わらない無表情に近い南天の頬が少しだけ強張ったのを、傍にいた清白だけでなく鬼灯も見逃さなかった。


(清白が来て話し相手になればと思っていましたが…これは、なかなか波乱の予感でしょうか…)


 年下二人の会話とその感情の機微に注視していた鬼灯は、清白の真澄への態度が思ったより不穏な事に内心溜息を吐いた。

 南天の不調を考え、親しい相手がいればと思っての召喚決行だったが、時期を見誤ったのではと少しだけ後悔した。

 清白が持つ能力に関して、鬼灯自身忘れていたからだ。


(清白は他者の感情に敏感ですからね…ふう、これは、もう少し早い方が良かったかもしれません…)


 自分の読みの甘さに珍しく頭痛を覚えた鬼灯は、清白と南天の今後を案じて額を抑えた。




 翌日の朝。真澄は清白を特夷隊の面々に紹介する場を設けた。

 鬼灯からの打診もあったが、清白の年齢が南天や大翔達と変わらない事を考慮し、少しでも隊に馴染んで欲しいという思いがあったからだ。

 昨夜は仮眠室で南天と一緒に寝ていたらしい清白は、今日も南天の腕にしがみ付いたまま姿を見せた。


「彼が新しい鬼灯君達の仲間だね」

「なんか、すげえ硬くなってんな…あれで軍人ってのは驚きだ」


 いつものように執務室の中央に椅子を並べて座った隼人と拓は、南天の傍にいる見慣れない少年を見て、会話を交わした。


「そうだね…南天君や桜哉ちゃんとかを見ているからつい錯覚しちゃうけど…彼等はまだ子供なんだよね」


 自分よりずっと年下の後輩達の事を思い、拓は目を眇めた。


「まあ、鬼灯達と同じなら、何かしら特技があるんだろうな。あんななりして、実は南天より強いかもよ」

「そうかな…僕はもっと違う分野に精通してそうかなって思ったけど…」


 苦笑を滲ませ、拓は南天の腕にしがみ付いたままの少年を見つめた。

 緑色の瞳に色素の薄い蒸し栗色の髪。何処か親近感を覚える雰囲気に拓は感心を寄せた。


「さて、この場を設けるのも三回目、という事で皆さんもそろそろ慣れているかと思いますが、昨日無事に我々の仲間がまた一人、こちらに着任しましたので、ご挨拶を兼ねて初回をさせて頂きたいと思います」


 真澄からすっかり進行役を請け負った鬼灯は、隊員が座る前で口上を述べると、横に控えていた少年に目配せをした。


清白すずしろ


 南天の腕にしがみ付いたまま、周りを注視していた清白は、南天に名前を呼ばれてハッと顔を上げた。

 キョロキョロと辺りを見渡し、鬼灯と視線がぶつかると、シュンと肩を丸めて再び南天を見遣った。


「大丈夫」


 優しく背中を撫でて清白を励ますと、南天は前に出るように清白を促した。


「……」


 南天と鬼灯を交互に見遣ってから、清白は覚悟を決めたように深呼吸をしてから、しがみ付いていた南天の腕から離れ、おぼつかない足取りで特夷隊の面々の前に立った。

 清白の斜め後ろに立ち、鬼灯は優しく肩を摩る。それに促される形で清白は震える唇を持ち上げた。


「…は、初めまして…す、清白と言います…元居た部隊での役割は…通信兵及び整備兵…戦闘は…得意じゃないけど…後方支援ならお役に立てると思います…え、と、よろしくお願いします…」


 胸の前で指を曲げたり回したりして弄りながら、視線を辺りに彷徨わせて清白は精一杯の自己紹介を披露した。


 大分緊張した様子の清白に、特夷隊の面々の反応は様々だった。心配する者や隊員としてやっていけるのかという事に疑問を抱く者。

 けして前向きとは言えない空気を払拭するように声を挙げたのは鬼灯だった。


「少々コミュニケーションが苦手ですが、機械整備や技術者としての腕は若いながらにピカイチです。銃器などの機械の整備から、通信機の開発など、色々お役に立てると思いますよ」


 清白のアピールポイントを前面に押しだしてから鬼灯は、特夷隊の面々を見渡して続けた。


「清白もまた、我々同様聖剣をその身に宿した存在。契約者を選ばなければなりません。どうぞ、選ばれた時は受け入れて頂ければと思います」


 鬼灯からの願いにまだ契約者になっていない隼人や拓、大翔達は視線を交わした。


「清白、今とは言いませんが、誰と契約をしたいのか、候補はいますか?」


 鬼灯に問われ清白は僅かに目線を鬼灯に向けてから、再び目の前に座る特夷隊の面々を見渡した。

 じっと、唇を引き結び、しばし視線を彷徨わせてから清白の緑の瞳は隼人と拓の前で止まった。


 その視線に気づき隼人と拓は互いに顔を見合わせた。

 互いに目だけで言葉を交わし、隼人と拓はゆっくりと椅子から腰を上げた。


「清白とか言ったか。俺と拓、どっちだ?」


 思わぬ二人の対応に、清白本人だけでなく鬼灯や南天、真澄は驚いて目を見張った。これまでの朝月と鬼灯の契約、桜哉と鈴蘭の契約は半ば流れに任せる形での契約だったが、今回の清白との契約に関してはどういう訳か特夷隊側から声を挙げた形になっている。


(隼人はあの志狼さんの息子…聖剣に深く関わりながら所有者ではなかった志狼さんの意を汲んでいるのか…拓に関しては、間接的に関りはあるが、聖剣とは直接的な縁はない…そんな二人が契約者に立候補するとは思わなかった…)


 清白の視線が止まったというだけで、自ら立ち上がった隼人と拓を見つめ、真澄は内心憶測を立てた。

 聖剣をその身に宿した鞘人がこれまで契約者に選んだのは、自分を含めて聖剣の所有者の血縁者だ。それが、今回の清白の契約者は、縁はあっても血縁者ではない二人。


(聖剣の生みの親である俺の爺様が五本を打った後、聖剣の所有者は最初の三本と雪那さんに関しては血の繋がりはなかった…それなら、別におかしな話ではないのか…)


 昨夜鬼灯から清白の紹介を受けた時、真澄は彼が誰を契約者に選ぶのか推測をしていた。これまでの経緯から勝手に鞘人との契約者は血縁者という仮説を立てていたせいで、意外な人選に驚きを隠せなかった。


 清白が隼人と拓をじっと見ているの光景を見つめ、真澄は行く末を見守りながら、チラリと南天を盗み見た。

 あれから契約の話を一切してこない南天。その心境の変化に真澄は疑問を抱いていた。


(もしかしたら、南天も俺以外との契約を視野に入れているのかもしれないな…)


 それならそれで構わないか、と何故か自分に言い聞かせるような言葉を呟き、真澄は現状に意識を戻した。


 唐突な隼人と拓からの立候補ともとれる行動に、清白は戸惑ったように視線を右往左往させた。


「清白」


 戸惑っていると、後ろから鬼灯に名前を呼ばれ清白はハッと肩を震わせて鬼灯を振り返った。

 紅梅色の双眸を優しく細めている鬼灯に清白は小さく頷くと、ゆっくりと前に踏み出した。

 左程離れた位置でないものの、しっかりと踏みしめるように隼人と拓の傍に歩み出た清白は、自分より背の高い二人をじっと見上げる。二、三度二人の間をうろうろした後、清白は真っ直ぐに一方を見上げた。


「あの……すぐ、契約じゃなくて。暫く一緒に過ごしてみたいんだけど…いい、ですか?」

「勿論。君がしたいようにしてくれて構わないよ」


 自分をしっかりと見上げて来る清白に、拓は優しく微笑んだ。

 その微笑みに清白は胸元をぐっと握り、唇を引き結んだ。

 清白が見せた不安げな表情に拓は我が子にするように、そっと清白の肩に手を置いた。


 拓が手を置いた瞬間は、びくりと身を震わせた清白だったが、何度か拓の手が行き来するうち、その心はゆっくりと落ち着いていった。


「大丈夫、君がきちんと決められるまで、待つから」

「あ、ありがとうございます…よろしくお願いします…」


 顔を隠すように頭を下げた清白の頭を拓は優しく撫でた。


「ちぇえ、今回も聖剣は俺を選ばないのか。親父以来縁がねえなあ」


 大仰に溜息を吐いた相方に、拓は呆れた様子で肩を竦めた。


「もう隼人」

「なあ鬼灯、鞘人は後何人残っているんだ?」


 唐突な隼人の問いに鬼灯は、キョトンと目を見張ってからくすりとほくそ笑んだ。


「おや、赤羽さんは鞘人との契約に興味がおありで?」


「まあな。先の欧羅巴戦線まで怪夷討伐に欠かせなかった聖剣。俺の親父も所有者ではなかったが関わっていたし、子供の頃は聖剣に憧れたもんだ。もしかしたらチャンスがあるかもだろ?」


 ニヤリと笑う隼人に鬼灯はふふっと喉を鳴らした。


「鞘人は後二人。まだこちらに呼んでいない仲間と南天だけ。赤羽さんが使い手に立候補してくださるなら、それはそれでいざという時の備えになりますね」


「予備候補くらいにしてもらえるなら、それも悪くないな」

「そうですね、いっそのこと、南天と契約してしまいますか?」


 思わぬ所で名前が出た事に、その場がどよめいた。一番驚いたのは、名指しされた南天と。


「ちょっと待て、それに関しては容認できない」


 それまで静かに様子を静観していが、南天の名前が出た途端思わず真澄は声を挙げていた。


「おやおや…」

「あ、そういうのは南天の意思を確認してからにしろ。南天だって困るだろ…」


 何故自分がしゃしゃり出てしまったのか困惑し、真澄は再び一歩引いて顔を逸らした。

 正面から顔を逸らして再び静観に徹し出した真澄を、鬼灯は着物の袖で顔を半分隠しながら盗み見て、口端を釣り上げた。


「それもそうですね。今は清白の件が先です。月代さん、清白の契約者になって頂けますか?」


「彼が本当に僕でいいならね。鬼灯君、彼、随分他者との関りが不得手のようだけど、何か色々抱えていたりする?」


「そうですね、わたくしを含め、鞘人は何かしら過去に抱えているモノがあります。そのうちお話しますよ」


「分かった。そうだな…一先ず、僕と一緒に生活してみる?」


 自分の顔をじっと見上げている清白に拓は、目線を合わせるように腰を折って提案した。


「…うん…」


 拓からの提案に清白は深く頷くと、拓の服の袖を小さく握り締めた。

 年齢の割に幼いその動作に目を細め、拓は受け入れるように清白の頭を撫でた。




 職務を終え、日勤帯勤務だった拓は、清白を連れて帰宅した。

 特夷隊内で唯一既婚者である拓は、東京の郊外の一軒家で妻子と共に暮らしている。


「さ、着いたよ」


 まだまだ普及間もない車から降りた拓は、後部座席に座っていた清白に下車を促した。

 拓に促されて車を降りた清白は、拓と共に家の玄関を潜った。


「ただいま」


 玄関先で拓が声を掛けると、甲高い返事がした後、一人の女性が二歳くらいの子供を抱えて出て来た。


「お帰りなさい」

「綾香、この子が今日から家で預かることになった清白君だよ」


 自分の後ろに隠れていた清白を拓は自身の妻に紹介した。


「九頭竜さんから連絡貰った子ね。初めまして、月代の妻の綾香です。この子は息子の純弥すみやよ」


 抱えていた幼子を清白に紹介し、綾香はニコニコと微笑んだ。

 思わぬ歓迎に清白は拓の陰から出ると、じっと綾香とその息子を見上げる。


「は、初めまして…清白といいます…」

「春の七草のお名前なのね。とっても素敵だわ。ほら、純弥、清白お兄ちゃんにご挨拶よ」


 母親に促され幼子がよちよちと歩いて近づく。

 自分の傍に来た幼子が伸ばしてきた小さな手が、清白の手を握る。


「あ…」


 自身に触れて来た小さく柔らかな手に驚きながら、清白はその手をそっと握り返した。

 妻と息子と交流をしている清白を見下ろしながら、拓はほっと息を吐く。


(この子も僕と同じく傷を抱えている…その心を少しでも癒せればいいけれど…)


 遠慮なく触れて来る自身の息子とは対照的に幼子に恐る恐る触れている清白を見つめ、拓は胸中で決意を固めた。





**********************************


弦月:さぁて、次回の『凍京怪夷事変』は!


刹那:月代との契約と南天のために自分なりに清白は動き出し…


弦月:第四十四話『君の為に出来ること』乞うご期待!




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