第三十五話ー黒銀の守護者
隼人と拓と共に大統領府にとんぼ返りした柏木は、特夷隊の詰め所の応接用のソファに腰を下ろしていた。
膝に肘をつき、組んだ指の上に額を載せて俯いたまま、彼は無言で真澄からの連絡を待つ。
共にここへ戻ってきた隼人は、別件で残っていた朝月、鬼灯と共に、真澄達と合流する為に詰め所を出て行った。
護衛として残った拓が、捜索に向かった真澄達の連絡を待ちながら、紅茶を淹れてくれた。
応接用のテーブルの上で湯気を登らせる紅茶のカップを見つめる柏木の脳裏には、かつての光景が浮かんでいた。
それは、五年前の日の丁度今頃の季節。
特夷隊の発足が決まり、隊員の選抜をしていた頃の事。
あの時は震災の直後で慌ただしく、被害状況の情報収集や被災者への支援など、様々な事案が立て込む中、特夷隊の発足準備は密かに進められていた。
自身の息子を特夷隊の隊員に押したのは、他でもない柏木だった。
『海静、私の新設部隊に入らないか?』
その日は丁度、震災の件で家を空けていた柏木が久し振りに自宅へ戻る事が出来た日だった。
陸軍士官学校の卒業を控えていた海静へ、柏木は自身の書斎で彼にそう打診した。
『お前ももう17歳だ。私がお前の歳の頃には、お前の母と所帯を持っていた。政治家を目指しお爺様の付き人として政治を学んでいたしな。お前に覚悟があるなら、私が新設部隊の副隊長に推薦してやる。欧羅巴戦線の功労者である九頭竜少佐の指導を直に受けるチャンスでもあるぞ』
父や祖父の薦めでエリート軍人の道を邁進していた海静に取って、自分のその打診は思っても見ない事だっただろう。
ましてや、大地震の後で軍都の民が疲弊していた頃である。そんな話が持ち上がっていた事をその時初めて聞かされた海静の気持ちは、一体どんなものだったのか。
『俺が…父上の部隊に…」
戸惑いともとれる息子の言葉の響きを、柏木は今も覚えていた。
自分とは違い、両親となんの確執もなく17の歳まで育った海静にとっては、初めての厳しい選択だった。
『どうする?』
その時の自分は、既に父親ではなく、国を背負う大統領という公人としての視線を息子たる少年に向けていた。
断るかと思ったが、海静は高揚気味に返事をした。
『是非とも父上の部隊へ俺を推薦してください。真澄さんの下で学べる願ってもない好機を逃したくありません』
今思えば、親子の縁を切る勢いでの海静への選択だった。
あの時、彼の答えが変わっていたら、もう少し父子の関係性も違っていたかもしれない。
父と息子から、上司と部下に関係性が変わる。
その時はもう少し彼が大人になってからでも良かったのでは、とたまに思った。
あの雨の日。彼の冷たくなった腕を見てからはより一層その思いが強くなった。
碌に父親らしいこともしてやれず、男で長男だからと茨の道を進ませた末路が、息子を早死にさせるとは、思いもよらなかった。
娘の七海とは違い、息子である海静にはかなり厳しい父親だったのは自覚していた。
だが、それでも最初の子である海静を柏木は、表には出さなかったが愛していた。
息子の遺骸と対面したあの日から、己の心に柏木は更なる鋼の鎧を重ねた。
初めての命日を迎え、己の弱い部分を隠すように強く振る舞っていたつもりだったのだが。
(…こんな時、海静がいたらな…)
伏せた顔の下で、柏木は不敵に嗤う。
既に故人である息子に縋っている自分に、柏木は心底自嘲した。
妹思いの優しく真面目な兄であった息子。
その妹への愛情が少々度が過ぎていると危機感を覚えていたが、今はその存在がない事を悔やんだ。
寺院の境内に逃げ込んで、既に二時間が経過していた。
辺りはすっかり暗くなり、繁みの中から虫達の合唱が聴こえてくる。
「……」
秋の涼風は、まだ半袖の七海の身体を少なかれ冷やしていた。
(もう、いないよね…)
深く息を吐き、隠れたお堂の裏から出ようとした時、それは唐突に聞こえてきた。
グルルルル…
「ひっ」
それは、闇の底から響く獣の鳴き声。
ひたひたと、異様な気配が近づいてくるのを、七海はひしひしと肌で感じた。
息を殺し、そっとお堂の表側を覗き込む。
すると、そこにいたのは三メートルはあろうかという黒い獣だった。
虎のような胴体に蛇の尻尾、顔はお面のような猿の様相で、ぎろりとした赤く禍々し双眸が、獲物を探している。
それは、あの日真夜中の道で七海が遭遇した怪夷だった。
(どうして…!?)
晴美から聞いていた、怪夷は聖域には入ってこないという常識が覆っている事に、七海は驚愕する。
幾つもの動物がくっついたその怪夷の様相は、遥か昔、この国の首都を騒がせたと伝わる妖怪・鵺に酷似している。
漆黒の体躯の鵺は、地面に鼻先を寄せ、周囲の臭いを嗅いでいる。
(私を捜してる…!?)
猿面の顔が、辺りを用心深く探っているのに気づいた七海の心臓が、恐怖に早鐘を打ち始めた。
次第に呼吸が浅くなり、胸に鞄を抱き締めながら七海は肩で息をし始める。
恐怖に震える肩を必死に抱き締め、ぎゅっと目をつぶった七海の横で、生暖かい空気が流れた。
恐る恐る目を開き、横を見る。
すると、こちらを覗き込むように真っ赤な猿の顔が迫っていた。
「ッ!?」
声にならない悲鳴を上げ、七海は転がるようにして繁みの中から這い出した。
その細い背中を追いかけるように、狸のような毛に覆われた四肢を駆って、鵺の怪夷は七海の横をすり抜けた。
「きゃあッ」
左側を漆黒の刃の如き風が駆け抜けた直後、七海の腕に激痛が走った。数日前に怪夷が擦り抜けた時とは比べ物にならない痛みと衝撃に、七海の身体は地面に倒れて転がった。
「うう…痛い…」
激痛に苛まれる左腕に視線を向けると、肘から先が食いちぎられ、鮮血が流れだしていた。
「あ、ああ…」
ハッとして顔を上げると、七海の様子を伺うように鵺の怪夷が彼女を見つめていた。その口には食いちぎった左腕が咥えられ、まるで見せつけるかのように、怪夷はその腕を頭上に放り上げると、牙の生えた口を大きく開けて飲み込んだ。
バリバリと、骨を噛み砕く音が人気の失せた寺院の境内に木霊する。
痛みと恐怖に、血の流れる左腕を右手で押さえた七海は、這うようにしてその場から離れようともがく。
だが、身軽に宙を飛んで鵺の怪夷は七海の行く手を阻んだ。
唾液を滴らせ、禍禍しい赤い双眸で脅える乙女を凝視すると、ゆっくりと七海に向かって歩き出す。
(食べられる…!)
逃げられないと悟った七海はぎゅっと目を閉じてその身を硬くする。
大地を蹴る地響きが向かってくるのを全身で感じながら衝撃に備えた刹那、七海の目の前に黒銀の影が立ち塞がった。
ゴオオオオオオオオ!
風に紛れて咆哮を挙げたのは、黒銀の毛並みを持った狼だった。
(七海!)
月夜に紛れ、寺院の境内に降り立った黒銀の狼は地面に蹲り血を流している七海の姿を見つけるなり、鵺の怪夷を睨み付けた。
牙を剥きだし、激高した黒銀の狼は鵺の怪夷に体当たりすると、七海の目の前から弾き飛ばした。
(七海っ七海っ)
『うわ、こりゃマジで喰うつもりだったな…』
七海の方を振り返った黒銀の狼は、グルグルと喉を鳴らして何かを訴える。
七海にはそれが何を言っているのか聞こえなかったが、まるで自分の名前を呼んでいるように思えて、安堵した。
「お…兄ちゃん…」
ずっと探していた黒銀の狼が目前に現れた事に、七海は何故かほっとした。緊張の糸が切れた事と出血の影響で、七海はそのまま意識を手放した。
血だまりの中に、乙女の身体が倒れ込む。
意識を失ったのに気付いた黒銀の狼は、怒りに喉を鳴らした。
(許さない…よくも七海を傷つけたな…!)
咆哮を迸らせた黒銀の狼は、地面に横たわった身体を起こしている鵺の怪夷を睨み付けた後、地面を蹴って駆け出した。
『おい、海静何する気だ!』
内側から聞こえる制止の声を振り切り、黒銀の狼は砂鉄のような靄と化すと、倒れた七海の千切られた左腕に巻き付いた。
靄が千切れた場所を覆い、血を止めたかと思うと、漆黒の肌をした左腕が形成される。
ゆっくりと身を起こした七海の双眸は怪夷の特徴である真紅に染まっていた。
『あ~あ、お前…後でどんな影響が出ても知らねえからな…』
「煩い、血を止めるにはこれしか方法がないだろう」
内側から響いた呆れを含む声に、黒銀の狼は七海の声で答えた。
「貴様だけは、絶対に許さない」
漆黒に染まった左腕を地面に向けた直後、手の中に漆黒の刃を持った軍刀が現れる。
それを握って構えた七海は、今にも飛び掛かってきそうな鵺の怪夷に向かって一気に踏み込んだ。
鵺の太い前脚が向かってきた七海を振り払おうと横薙ぎに動く。それを七海は軍刀で防いで弾き返す。
振り下ろされる前脚を横に跳んで躱し、七海は鵺の後ろ側に回り際、胴体を斬りつけた。
ギイイイイイイイ
漆黒の鮮血が迸り、痛みに鵺の怪夷は咆哮を挙げた。
七海を傷つけられた事への怒りに支配された黒銀の狼は、七海の身体を乗っ取ったまま、鵺の怪夷に斬りかかる。
そんな時、寺院の入り口から複数の足音と共に、懐かしい呼び声が鼓膜を震わせた。
「七海ちゃん!」
寺院の境内に駆け込むなり、鵺の怪夷と対峙している七海を見つけ、真澄は咄嗟に声を張り上げた。
ちらりと、七海の視線が真澄達の方へ向けられる。その真紅に染まった双眸は驚いたように一瞬瞠目したが、直ぐに対峙している鵺の怪夷に戻された。
地面を蹴って跳んでは跳ねて剣捌きを繰り出す七海の姿に、真澄は思わず息を飲んだ。
「七海ちゃんが怪夷と戦ってる?どうして」
「理由は分からないですが、加勢しましょう」
真澄の後ろから駆け付けた桜哉と大翔は互いに視線の交わすと、桜哉は軍刀を引き抜き、大翔は結界を張るために袖の中から呪符を取り出した。
「鈴蘭さん、いきますよ」
「了解ですわ」
桜哉に続いて鈴蘭は大剣を振りかざし鵺の怪夷目掛けて駆けていく。
「よし、南天、隼人、俺達は後ろから」
先陣を切る桜哉と鈴蘭に続けと真澄が南天に指示を出した直後、左腕に痛みが走り真澄はその場に蹲った。
「マスター?」
「九頭竜隊長⁉」
地面に膝をついた真澄の傍に、南天と天童が駆け寄る。
「くそ…こんな時に…」
「すみません、失礼します」
真澄の傍に膝をついた天童は何かを察して、真澄の軍服の袖を捲り上げると、左腕に巻かれた包帯を解いた。
しゅるりと解かれた真澄の腕は、怪夷の身体の如く漆黒に染まっている。
それは、数か月前に南天が助けたくろたまという猫の怪夷が噛み付いた事によって患った病の証。
黒結病の特徴である変色した皮膚を天童はくまなく観察する。
よく見れば、腕を這うよう蔓のような血管が浮かびがり、ドクン、ドクンと強く脈打っていた。
「…これは…」
真澄の腕に現れた症状に天童は眉を顰めた。目の前の腕の様子は、まるでそれだけが別の生き物のような、活発な鼓動を刻んでいた。
難しい顔をしている天童を横目に、真澄は顔を上げる。そこには、自分の事を心配しているのか、その場に留まる南天達に気付いて声を掛けた。
「隼人、指揮はお前に任せる。朝月と鬼灯と一緒に怪夷退治に専念しろ」
「了解です」
「南天、お前も隼人達と一緒に怪夷退治に行け、俺は大丈夫だから」
「マスター…」
「心配すんな、天童先生がついてる。悪い…七海ちゃんは任せる」
迷子の子供のような表情の南天を真澄は手招きで呼び寄せる。
それに素直に従って近寄ってきた南天の頭を、真澄は勢いよく撫でた。
「分かったら行け、命令だ」
「…承知しました」
命令と指示を出され南天は後ろ髪を引かれる思いながら、自らの気持ちを切り替えるように敬礼をすると、ナイフと鉤爪を構えて獲物目掛けて駆けだした。
天童がショルダーバックの中から注射器を取り出し、真澄の漆黒の腕にそれを打ち込む。
「血清を打っておきました。恐らく、怪夷の瘴気に宛てられたせいだと思われますが、詳しくは検査をしないと。痛みますか?」
「少しな…」
「これまで怪夷と遭遇してこんな症状出ませんでしたよね?一体…今回の怪夷は何が違うのか…」
桜哉と鈴蘭を筆頭に、特夷隊の面々と軍刀を手にした七海が相手にする怪夷を、真澄と天童は注視する。
天童はこれまで本物の怪夷を見た事はなかったが、流石は怪夷がもたらす病、黒結病の専門医だけあって、理知的な視点から目前の怪夷を観察する。
一方の真澄は、部下達が相手にする怪夷というよりは、軍刀を手に怪夷と対峙する七海を見ていた。
七海が柏木や兄の海静の影響で剣道を習得しているのは、以前から知っていた。
だが、軍人でもなく、ましてやこれまでの人生で怪夷と渡り歩くことなどなかった一般の少女にしては、彼女の剣捌きは熟練の腕といっていいほどだ。
(あの剣捌き…何処かで)
三メートルはあろうかという怪夷に恐れず向かっていく七海の姿に真澄は、かつての部下の姿を重ねた。
後ろに下がる瞬間、刃を右に逸らす癖。それは、自身の親友である柏木とよく似た剣の構え方。
(まさか…)
不意に真澄の中で、幼い頃に母親から聞いた英雄譚の一部が思い出される。
怪夷の中には、怪夷を取り込んだ人間が怪夷と化す存在があった事。
それに合わせるようにして、先日の隼人と拓による憶測が重なる。
黒銀の狼の怪夷が海静を連れ去った怪夷と同一だという事と、昔聞いたヒト型の怪夷の特徴。
そこから導き出される解答に行きついて真澄は息を飲んだ。
鵺の怪夷と一人渡り歩いていた七海は、背後から加勢に入ってきた揃いの制服に身を包む一団に気付き、僅かに視線をそちらへ向けた。
「七海ちゃん!」
七海の傍に駆け寄った桜哉が彼女の名を呼ぶ。
だが、それに応じることなく七海は握った軍刀を構えて鵺の怪夷に向かって地を蹴った。
「あの子、この間のお嬢さんですわよね?様子が変ですわ…それに、かすかに怪夷の臭いがします」
「まさか、七海ちゃんが怪夷?」
「どうでしょう?少なくとも、まずはあの怪夷を何とかしましょうか」
加勢に入ってきた鬼灯は、珍しく愛用の武器である鞭を手にしていた。
鬼灯と共に来た朝月は大翔と共に結界を張るのに尽力している。
「六条、鈴蘭、俺と鬼灯で援護する。お前達は七海ちゃんに加勢しろ」
隼人の指示に、三人はそれぞれの持ち場に着くと、桜哉と鈴蘭はそれぞれ軍刀と大剣を手に鵺の怪夷に向かっていく。
後衛に陣取った隼人は、二丁の拳銃を遠方から射撃して鵺の怪夷の動きを鈍らせる。
同じく後衛に立った鬼灯はしなやかに鞭をしならせて鵺の怪夷の蛇の頭をした尻尾に巻き付けた。
グイっと鞭を引いて鵺の動きを僅かにだが鈍らせる。
『へえ、やるじゃねえか』
七海の中で、内なる人格が感嘆の声を漏らした。
『よかったじゃねえか、昔のお仲間に加勢してもらえてよ』
せせら笑う声に七海の身体を借りて怪夷と戦う彼は、その声にちらりと背後を見遣った。
そこには、知らない顔もいるがかつて自分がいた部隊の者達がいる。恐らく、七海の為に駆け付けてくれたのだろう。
有難いと思う反面、彼はこの怪夷だけは己の力で抹殺したいと思っていた。
(今の俺には必要ない…)
既に亡き者となっている自分が、今更かつての仲間の力を借りるなど、厚かましいと彼は内心唇を引き結ぶ。
だが、内なる声はそれに小さく首を振った。
『意地張んなよ。それに、アイツらと協力した方が俺としては都合がいいからな』
どういうことかと、疑問を抱いた時、七海の頭上に影が落ちる。気付かぬうちに鵺の怪夷の足元に入っていたようだ。
「ちッ」
鵺の怪夷の前脚が、七海の頭上に振り降ろされる。
咄嗟に軍刀を振り上げてそれを受け止めようとした刹那、七海の身体は横から抱きかかえられてその場から抜け出した。
鵺の前脚が空しく地面を抉って土煙を挙げる。
それを茫然と見ながら七海が横に視線を向けると、銀髪の美しい横顔が傍にあった。
「大丈夫ですか?」
「君は…」
横抱きにした七海を南天は地面に下ろす。
「マスターから七海嬢を護れと言われたので。怪我はないですか?」
七海より少し背の高い南天は、七海を爪先からてっぺんまでくまなく見つめ、左腕が漆黒に変色しているのに気付いて眉を寄せた。
「その腕…」
目の前の美少年が何を言おうとしているのかに気付いた七海は、自身の左腕を押さえて首を横に振った。
「問題ない。それより、今はあの怪夷を倒さないと」
桜哉や鈴蘭、隼人達が応戦している怪夷を肩越しに振り返り、南天はこくりと頷く。
「俺に、あの怪夷の止めを刺させてほしい。妹を傷つけた奴をこの手で仕留めたい。力を貸してほしい」
「妹…?」
七海が口にした言葉に南天はきょとんと目を丸くするが、直ぐに内側に浮かんだ疑問を押し込めて、再び得物を構えた。
互いに視線を交わし、南天は先に地面を蹴って跳びあがる。
それに続いて七海も大地を蹴って駆け出した。
「鈴蘭、桜哉さんと一緒に援護してください」
背後から跳びあがった南天の声に、鈴蘭はニヤリと笑う。
「あら、珍しくやる気ですのね?了解しましたわ。桜哉ちゃん」
やる気を出している南天の様子に喜び、鈴蘭は深く頷くと鵺の背後へと桜哉と共に回る。
鵺の頭上に跳びあがった南天は、虎の毛並みの背中に飛び乗った。
ゴオオオオオオオオ!
背中に乗った南天を振り下ろそうともがく鵺の怪夷の尻尾が、鬼灯によって引っ張られ、桜哉と鈴蘭が同時に鵺の左右の後ろ脚に斬りかかる。
更に、隼人の二丁拳銃から放たれた銃弾と、大翔と朝月が張った結界の効力が鵺の怪夷の動きを鈍らせた。
鵺の首筋に南天は逆さに持ったナイフと鉤爪を深々と突き刺した。
悲鳴のような咆哮を迸らせ、鵺の怪夷が身を捩る。
ナイフを横に裂くように引き抜いた南天は、鉤爪でしがみつきながら何度も鵺の怪夷の首に刃を突き立てた。
「今です!」
珍しく声を張り上げた南天の合図を待っていた七海は、鵺の怪夷の真正面に駆け付けると、地面を蹴って跳びあがる。
軍刀の刃を逆さにして、鵺の額目掛けて突き刺した。
グオオオオオオオオオオ
断末魔の悲鳴を上げ、バリンとガラスの割れる音と共に鵺の怪夷の巨体が崩れ落ちていく。
鵺の背中から跳びあがり様、南天は鵺の首を深く切り裂き、その猿面の頭を切り落とした。
土煙を挙げて、化物の巨体が地面に崩れ落ち、漆黒の体液をまき散らしながら、漆黒の塊へとその姿を変えていく。
完全に沈黙していく怪夷の残骸を、七海と特夷隊の面々は静かに見つめた。
*******************
三日月:次回の『凍京怪夷事変』は…
弦月:かつて怪夷によって連れ去られた筈の部下と再会する真澄。事情がある海静達に真澄が下す決断とは…!
三日月:第三十六話『小夜時雨の邂逅』よろしくお願いします。
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