第三章

第二十一話―横須賀から来た女





 小鳥の囀りに目を覚ますと、カーテンの隙間からは既に昇りきった太陽の日差しが薄暗い室内を覗き込んでいた。

 寝苦しい日も増えて来た夏の日。朝の涼しさにほっと息をついて、六条桜哉は寝床から身を起こした。


「ん~」


 両腕を頭上に突き上げ、大きく伸びをして、欠伸をする。

 薄暗い室内を見渡し、もそりとベッドから降りた桜哉は入り口の横にある洗面所へと向かい、鏡を覗き込む。

 まだ寝ぼけている顔を鏡越しに覗き込み、水道の蛇口を捻って水を出すと、外気で温まったぬるい水に顔を浸けた。


 腰まである長い髪を櫛で梳かし、高く結い上げて紅い組み紐で結わえると、パチンと頬を叩いて気合を入れた。


「よし、今日も頑張るぞ」


 鏡に映る自分に言い聞かせるようにそう言った桜哉はくるりと身を翻し、壁に掛けた特夷隊の制服に手を伸ばした。




 任務の編成の関係から、真澄は久しぶりに自宅の寝室で目を覚ました。

 吉原の一件が終わってから、既に二週間。

 七海の護衛任務は継続しているが、例の夢遊病も毎日という訳ではなく、何処か変則的だった。


(唯一法則があるとすれば…真夜中の二時前後というところか…)


 台所に立ち、卵をフライパンに落としながら真澄はこれまでの任務の中で分かった事を精査した。


 七海の症状は毎日続く時もあれば、まったくない日もある。

 大翔が張った結界に怪夷が近くにいるという反応もなく、南天も近くに気配はないと言っていた。

 今回も巡回班と護衛班でローテーションを回している。


(巡回組が怪夷と遭遇している時間に必ず症状がでるという訳でもないしな…)


 先日の吉原の拓や桜哉達の証言から、怪夷の出現との因果関係も漁っているが、現状では判然としていない。

 唯一確かめていない事があるとすれば、吉原を騒がせていた猿の怪夷を襲撃した例の狼の怪夷だ。


(あれは…一年前、海静を連れ去ったあの怪夷に似ていた…それを調べる術があればいいんだがな…)


 かつての光景を思い出しながら、焼きあがった目玉焼きとベーコンに皿に盛りつける。


「南天、飯出来たぞ」


 廊下から二階の部屋に声を掛ける。すると、ぱたぱたと軽い足音が階段を下りてきた。


「おはようございます。マスター」

『ミイ』


 くろたまを肩に乗せて台所の前にやってきた南天はぺこりと頭を垂れる。

 浴衣を羽織っただけの姿で降りて来た南天に、真澄はやれやれと肩を竦めた。


「おはよ。お前な、暑かったのは分かったから、もう少しちゃんと着なさい。もうすぐ晴美ちゃんくるぞ」

 はだけて胸元や足が覗く姿を指摘され、南天は視線を下に向けて前を直し始めた。


「お湯沸いてるから紅茶入れてくれ。あと、戸棚からジャムだして」


 言われた通りに二人分のマグカップを取り出した南天は、ティーポットに紅茶の茶葉を入れ、やかんからお湯を注ぐ。

 紅茶を蒸らしている間に今度は戸棚から瓶に入ったジャムを取り出して台所の後ろにあるダイニングテーブルにの真ん中に置いた。


 欧羅巴生まれの真澄は、朝食はいつも洋食と決めていた。外では和食も食べるが、自宅ではパンを食べるのが習慣だった。

 テーブルには目玉焼きとベーコン、サラダにスープが並び、籠に三種類ほどのパンがセットされている。


「さて、朝飯にするぞ」


 蒸らした紅茶をカップに注ぎながら真澄は南天に座るように促した。

 くろたまを床に下ろし、真澄が用意してくれた器に牛乳を注いで南天はくろたまにそれを与えると、自身は椅子に腰を下ろした。


 カップが置かれると、南天はテーブルの中央に置かれた牛乳瓶から牛乳を注ぎ、角砂糖を二つカップに落としてミルクティーを作った。


「いただきます」


 向かい合わせに座り、真澄と南天は共に朝食を取る。二ヶ月前、店の前で南天を拾い、特夷隊でバディを組むようになってから、真澄は南天と朝食を共にするのが当たり前になっていた。


 初めは本気でカップ麺しか食べないのかと思ったが、思いのほか南天はなんでも食べるので作り甲斐もある。

 食パンに目玉焼きを載せて頬張っている南天を眺めつつ、真澄もジャムを塗ったパンに噛り付く。


「おはようございまーす」


 特に会話を交わすこともなく、黙々と朝食を取っていると、裏口から明るい声と共に勝手知ったる他人の家よろしく晴美が上がって来た。


「あらら、今日は珍しくお帰りだったんですね」

「おはよ、晴美ちゃん。朝飯食うか?」

「勿論食べます。店長のご飯久しぶりですから。南天君も元気そうね」

「おはようございます」


 椅子から立ち上がり、もう一人分の朝食を真澄は用意し始める。

 荷物を床に下ろし、晴美は南天の隣の席に腰を下ろした。


「最近店の方はどうだ?任せっきりですまないが」

「順調ですよ。最近は純喫茶ってのが流行り始めてるみたいで、うちも珈琲や紅茶目当ての紳士淑女なお客様が来てくれるようになりましたし」

「そうか」

「店長、そろそろ従業員もう一人雇ってくださいよ。私一人じゃそろそろ大変なんで」


 紅茶の入れられたカップを受け取りながら晴美は経営者である真澄に要望を告げた。


「そうだな…誰か知り合いとかいないのか?面接とかしてる暇がないから、晴美ちゃんの友達とか知り合いとかだと助かるんだけど」

「そうですねえ…といっても私友達とか知り合いとか東京には少ないし。あ、南天君貸してくださいよ。容姿端麗で話題になる事間違いなし」

 思わぬ所で名前が出た事に真澄はおろか、南天も晴美を凝視した。


「却下だ。南天は特夷隊の一員なんだから出来る訳ないだろ」

「ええ~絶対メイド服とか似合うと思ったのに」

「晴美ちゃん?南天に女装させるつもりだったのか?」


 頬を膨らませて心底残念そうにしている晴美に真澄は困惑した。


「そりゃ、カフェエプロンとかジャケットも似合いそうですけど…この美貌は絶対メイド服の方が似合いますって」

「あのね、南天は男の子なんだから。そういうのは」

「偏見ですよお~男の子がスカート穿いちゃいけいない法律はないじゃないですか」

「法律を差し引いても南天を従業員にはできません。休みの日に手伝いさせるなら兎も角…」


 やれやれと肩を竦め真澄は出来上がった目玉焼きとベーコンの皿を晴美の前に出した。


「従業員増やす話は検討するから、君も少し人材探してきなさい」

「はーい」

 渋々といった様子で返事をして晴美は紅茶を飲み干した。


「それじゃ、ここ任せたぞ。俺達はもう出勤するから」

「はーい、行ってらっしゃい。あ、大翔の事よろしくお願いします」


 弟の事を真澄に頼み、晴美はひらひらと手を振る。

 食器を流しに置いて真澄は深く頷くと、南天を連れて台所を後にした。



「店長、忘れてました」


 制服に着替え、玄関で軍靴を履いていると給仕用のエプロンを身に着けた晴美が駆け寄ってきた。


「これ、郵便受けに入ってました。昨日の夕方届いた奴かも」

 そう言って晴美が差し出してきたのは一通の手紙だった。


「珍しいな…この家に手紙なんて」


 手紙を受け取りながら真澄は眉を顰めて訝しむ。普段、真澄宛ての手紙は職場である大統領府の詰め所に届く。自宅であるこの場所の住所を知っているのは限られ親しい人間だけだ。


 手紙の裏面に記された差出人を何気なく確認した真澄は、そこに記された人物の名に更に訝しんだ。


「…なんでいきなりアイツから…」

 出勤の時間を気にしながら、真澄は手紙の封を切る。


「マスター?」


 先に外で待っていた南天は、真澄が出てこない事が気になり、玄関を覗き込んだ。

 玄関先で渋い顔をしながら便箋の文面に目を通す真澄の顔が、徐々に硬直する。


「南天、急ぐぞ」


 手紙を懐に仕舞うなり、勢いよく立ち上がった真澄は、そのまま早足で大統領府のある方角に向かって駆け出した。

「マスター?」

 突然駆け出した真澄に驚き、南天は慌ててその後ろを追いかける。


「なんでアイツはもっと早く言わないんだっ」

 人通りの少ない道を駆けながら真澄は手紙の差出人に対しての愚痴を零した。




 大統領府の特夷隊の詰め所では、巡回組だった隼人、朝月、鬼灯が執務室で報告書の作成を行っていた。

 彼等と共に巡回組であった桜哉は彼等の計らいで仮眠室での休息を進められ、まだ寝ている。


 残りの拓と大翔は大統領邸で七海嬢の護衛班に回っていてまだ帰っていなかった。

 昨夜は怪夷の出現もなく、七海の夢遊病症状も出なかったため、仮眠もとれるほどに静かな夜だった。


「おはようございます」


 仮眠室のある二階から降りて来た桜哉は、執務室で机に向かっている隼人、朝月と給油室でお茶を入れている鬼灯に挨拶をした。


「おはよ。よく眠れたか?」

「すみません赤羽さん。私だけ休ませてもらって…」


 コーヒーカップを手に報告書を書いていた隼人は、執務室に入って来た桜哉に笑いかけた。


「気にすんな、年頃の女の子は睡眠も大事だからな。こういうのは野郎だけで十分だ」

「でも…私も特夷隊の一員ですし…」

「怪夷が出現した時はしっかり任務についてもらう。副隊長の俺が許可してるから、六条がそこまで気にする必要はないからな」

「はい、ありがとうございます」

 隼人の気遣いに桜哉は深く頭を下げる。


「六条、さっそくで悪いけど、俺と朝月が書いた報告書に不備がないか確認してくれねえか?どうも目が疲れてな」

「隼人さんが親父臭い」

「うっせえ」

 横から入った朝月の呟きに抗議して隼人は二人分の報告書を桜哉に手渡した。


「分かりました。九頭竜隊長が来る前に確認しますね」

 報告書の束を受け取り、桜哉は自身の執務机に腰を下ろす。


「お疲れ様です」

 報告書の確認をしていると、七海の護衛班で出ていた拓と大翔が帰って来た。


「お帰りなさい」

「ただいま戻りました」

 執務室に入って来た二人を桜哉達は出迎える。


「お疲れさん、そっちはどうだった?」

「静かな夜だったよ。明け方の通信通り何事もなく」

 歩み寄って来た隼人に拓は状況を報告した。


「こっちも殆ど詰め所待機だったからな…」

「静かな方が有難いけど、その分怪夷の成熟もするから、本当なら小さいうちに退治したいね」


 拓の意見に隼人は頷くと、戻って来た二人に珈琲を入れるべく給湯室へ入っていく。


「おはよう、お疲れ様」

「桜哉ちゃんもお疲れ様。そっちも何事もなくて良かった」

 自分の執務机に座った大翔は、隣の席である桜哉に笑い掛ける。


「昨日は最初の巡回で小さいの討伐するだけで終わっちゃったから、なんだか物足りないです」

「ふふ、相変わらず血気盛んだね。流石は英雄のお孫さんだ」

「そ、そんな事ないよ。確かに子供の頃におばあ様に色々教えてもらったけど。それなら朝月さんや隊長だって」


 大翔の指摘に照れ臭そうに顔を逸らした桜哉は、ふと入り口付近が騒がしいのに気づいて窓の外を眺めた。

 それには隼人や拓、朝月と鬼灯も気付いたようで、同様に視線を入り口や窓の外に向けている。


「なんだ…?」

 聴こえて来たのは、真澄と女性の声だった。



「お前な、来るなら来るってもっと早く言いなさい」

「なによ。ちゃんと前日に届くように手紙送ったでしょ?受け取らないそっちが悪いんじゃない」

「なんでわざわざ自宅に送った?大統領府なら確実だっただろ?」

「私からの手紙がこっち届いたら隼人君とか拓君達が何事かと思うでしょ?」

「いきなり来る方が驚くっての」


 大統領府の正門から、二人の男女が言い合いながら特夷隊の詰め所に歩いてくる。一人は特夷隊の隊長である九頭竜真澄。もう一人は、黒髪を後頭部の中央でシニヨンにした三十代半ばの女性。白いシャツに青いスカートに薄手のカーディガンを羽織り、白いフリルの付いた日傘をさしている。


 真澄とよく似た顔立ちの、気の強そうな切れ長の目と翠の瞳。

 見る人がみれば、この二人が兄妹だという事は一目瞭然だった。


 特夷隊の詰め所に我が物顔で入った女性は、隊員が窓から様子を伺っているのを知ってか知らずか、勝手知ったる様子で執務室の扉を開いた。


「おはようございます。みんな元気にしてた?」

「お母様!」


 内側に開く扉が開いた瞬間、その場にいた誰もの視線が入ってきた人物に釘付けになる。

 一番最初に声を上げたのは桜哉だった。


「桜哉~元気そうやね」


 にこりと、駆け寄って来た桜哉を女性は優しく抱き寄せると、化粧が落ちるのも厭わずに頬擦りを寄せた。


「こら菫、お前勝手に入るな」


 遅れて入って来た真澄は桜哉と熱い抱擁を交わしている女性に注意をする。

 それを不服とばかりに、菫と呼ばれた女性はぎろりと鋭い視線で兄たる男を見据えた。


「娘がいて、実兄がいる職場なんだから私は関係者ですー。変なとこは堅いのよね、この兄貴は」

 桜哉を解放し、ふうと息を整えてから六条菫ろくじょうすみれは執務室の中を見渡した。


「おはようございます、皆様、いつも兄と娘がお世話になってます。あ、これ、つまらない物ですけど。昼食にでも」


 胸元に手を添え、入ってきた時とは打って変る上品な出で立ちで、菫は手に提げていた紙袋を差し出した。


「菫さん、ご無沙汰だね」

「拓君も元気そうやね~奥さんとは仲良くしてる?」

「お陰様で」

 菫から隊を代表して紙袋を受け取る。中には横浜名物のシウマイが入っていた。


「隼人君は元気?兄さんにこき使われて大変でしょ?」

 菫が入ってきた途端、当直明けで乱れていた制服を意識的に直した隼人は、不意に声を掛けられて咳払いをした。


「いや、真澄兄さんにはいつも世話になってるよ。菫こそ…元気そうでよかった」

「ふふふ、私はいつでも元気百倍なのだよ」

 いつもの隼人とは違う、何処か控えめな様子に鬼灯と朝月が顔を見合わせる。


「赤羽副隊長、なにやら様子が変ですね」

「ああ…いつもの事だよ。隼人の旦那の初恋の相手が菫姉さんだからさ」

 小声での朝月の説明に鬼灯はキョトンと目を見張る。


「さっき、六条さんが彼女をお母様と」

「菫姉さんは桜哉の母君で真澄の旦那の妹。今は海軍の六条大佐に嫁いでるから六条姓だけど、欧羅巴戦線では、旦那同様に怪夷討伐に尽力した英雄の姫だよ。あの聖剣使いで英雄の九頭竜莉桜の血を恐らく一番濃く引いてる人」

「ほうほう」


東雲うちの家同様に、九頭竜と隼人兄さんの生家の赤羽は逢坂時代からの盟友同士で、元警視総監の赤羽志狼も欧羅巴戦線には協力してたから付き合いが長いんだ」

 朝月の説明に鬼灯は興味深そうに頷く。


「…ここからは、親父から聞いた話。隼人兄さんの父君は真澄の旦那の母君に片思いしてたらしい。その血のせいなのか何なのか、赤羽の男は九頭竜の女に惚れるってのが通例になってるっぽい」

「なるほど。それはまた面白い話ですね」


「聖剣使いでなかったから英雄とは呼ばれてないけど、江戸解放戦線や逢坂炎上事件も赤羽は功績を残してる。その縁で隼人兄さんは特夷隊に真っ先に声がかかったわけ」


「ああ、それで副隊長なんですね」

「まあそれは海静がいなくなったのも大きいけど…ただ、間違いなく隼人兄さんは副隊長に相応しいよ」

 朝月の説明を鬼灯は深く頷きながら聞いた後、何故か楽しげに微笑んだ。


「なるほど、納得しました。だから、彼独身貫いてたんですね」

「そうそう…て、はい?」


「ああ、いえ、こちらの話です。それにしても隊長の妹君ですか…そうなると、怪夷討伐は彼女の方が適任だったのでは?」


 素朴な疑問と言いたげな鬼灯の問いに、朝月は溜息を吐く。微妙に振って欲しくなかった話題に迷いながらも口を開いた。


「菫姉さんは…欧羅巴戦線時から自由奔放で、親父達が爆笑するくらいの破天荒な人で、16歳で当時海軍に中尉に昇進したばかりの六条大佐に押しかけ同然で嫁いだ猛者で、怪夷討伐の将来を宿望されていたのにあっさり蹴り飛ばしたお転婆娘だってのは、身内では有名な話だ」


 遠い目で隼人や拓と会話をしている菫を見遣り、朝月は自身も目にした当時のひと悶着を思い出す。


「親父や莉桜さん、雪那さんはすげえ爆笑してたけど、二人の夫の悠生さんと猛さんの慌てようは子供ながらに大変な事が起きてんだなあって思ったよ」


「確かに、彼女の様子を見ていたらなんとなく想像は付きました」


 うんうんと相槌を打った鬼灯は朝月に礼を言った。

 朝月が説明を終えたタイミングで、話題に上っていた菫が近づいて来た。


「朝月、久しぶり。頑張っとる?」

「菫姉さん、ご無沙汰してます!」


 まるで訓練されて犬のように敬礼をする朝月に、菫は満足げな笑みを浮かべる。と、朝月の隣に立つ鬼灯に目を向けた。


「あら、貴方は初めましてね」

「お初にお目にかかります。先日特夷隊に入隊しました、鬼灯と申します」

 胸元に手を添え、恭しく一礼しながら鬼灯は菫に会釈する。


「ふうん」

 じっと、菫は自分より背の高い鬼灯の瞳をじっと覗き込む。


「わたくしの顔に何か?」

 訝しみながらじっと鬼灯を観察した菫は、何かを考えこむように目を細める。


「…狸臭い…」


 ぼそっと呟いた菫の一言に、朝月と鬼灯は一瞬どきりとする。だが、菫は「まさかね…」と自分を納得させるように呟くと、にこりと微笑んだ。


「いえ、ちょっと知ってる気配を感じただけだから。お気になさらないで。気分を悪くされたならごめんなさい。六条菫と申します。いつも兄と娘がお世話になってます」


「こちらこそ、九頭竜隊長と桜哉嬢にはよくして頂いてます」

 いつもの華やかな表情で鬼灯は菫に笑い掛けた。


「ところで菫、お前一体何しに来たんだよ」


 挨拶が一通り終わるのを待っていたのか、真澄はようやく口を開いて彼女がここへ来た理由を尋ねた。


「ああ、実はね。桜哉にお見合いの話が来てるのよ」

 ハンドバックの中から一枚の写真を取り出し、菫はにこりと微笑んだ。


「え?」

「は?」

「お、お見合いー!!!?」


 唐突に切り出された話題に、特夷隊の詰め所の中に絶叫が迸った。







*********************



朔月:次回の『凍京怪夷奇譚』は…


三日月:特夷隊の詰め所に突如やってきた妹にたじたじの真澄と柏木。だが、菫が持ってきたのは桜哉のお見合いの話だけではないようで…


朔月:第二十二話『英雄の姫は己が道を独歩する』ご期待ください。

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